着ぐるみ戦隊〜バレンタイン編


着ぐるみ戦隊とは、RNRの同人誌「HONEY SWEET」にて、甘栗ケンさんといなばRANAさんが突っ走った作品です。
その、キャラソースだけを分捕って、呪泉洞内で一之瀬が勝手に転用して、展開させていただいております。
◆「着ぐるみ戦隊」しりーず作品◆
「お正月特別編〜 ワンワン戦隊ただいま参上
「クリスマス特別編」
   前編     後編

実は、「大江戸捕物帳」や「大江戸城下物」、「戦国忍法帳」、「RPGゲーム物」など、RNRで生まれたコアなパラレル乱あプロットが脳内に存在しています…追々、それを書き下ろしていこうと密かに思っております…。
◇着ぐるみ戦隊☆バレンタイン編



 ここは(この作品の進行の都合によって設定された)日本の中心「練馬区」。
 ここには、人知れず、日本の中心地・練馬区の平和を守るべく作られた秘密組織「天道道場」がある。
 一見、何の変哲も無い、古い道場であるが、それは、世を忍ぶ仮の姿。板張りのガタピシ床板の下には、練馬区の平和を守ることを目的に活動する私設秘密組織「着ぐるみ戦隊」の基地があった。
 道場主、いや、総合司令官は「天道早雲」。
 構成員は天道早雲以下、六名。
 まかない方の天道かすみ、勘定方の天道なびき、平隊員もとい戦闘員の通称「着ぐるみレッド@早乙女乱馬」、「着ぐるみホワイト@天道あかね」、「着ぐるみブラック@響良牙」の三名。そして、非戦闘員太鼓持ち「おちゃめなパンダ@早乙女玄馬」だ。
 変身の合言葉は「あいらーぶ・てでぃべあ!」。
 合言葉が一度、発せられると、九能財閥の豊富な資金力によって特殊開発された「着ぐるみ装置」が瞬時に働き、着ぐるみ戦闘員の三名は、レッド、ホワイト、ブラックという「質実剛健な着ぐるみボディー」へと華麗に変身を遂げる。
 着ぐるみレッドはクマ仕様。襟元の真っ赤なマフラーがワンポイント。
 着ぐるみホワイトはウサギ仕様。眩い純白なボディーが魅惑的。
 着ぐるみブラックは黒豚仕様。愛くるしさがチャームポイント。

 着ぐるみ戦隊が「悪の総合商社・キャロットカンパニー@練馬支社」から、日夜、練馬区の平和を守り続けていることを、誰も知らない。




一、

 時は西暦二〇☆★年、二月。

 本日の練馬区の空模様は、生憎の雪。冬将軍がやって来て、どんよりと空は灰色だ。白い雪がチラチラと舞い、凍えんばかりに寒い。積もるのも時間の問題だろう。

「で?何でこんなクソ寒い雪の日に、パトロールなんてしねーといけねーんだ?」
 ブスッと不機嫌な顔を返しながら、乱馬は天道なびきを睨み返した。

「あら、あんた、今日が何の日か知らないの?」
 なびきがポツンと言葉を投げた。

「ああ、知らねえなー!」
 と言葉を投げた。道場の柱にかけられた日めくりカレンダーは、「14日」と、黒文字で、大きく書かれている。
「今日は二月十四日か…。何か重要な行事があったような…。」
 良牙が首をひねった。

「乱馬も良牙君も、今日が何の日か知らないの?」
 あかねがボソッと問いかける。

「知らん!」
 乱馬はぶっきら棒に言葉を投げる。その横で、しきりに良牙がうーんと考え込みながら唸り続ける。

「呆れた…。この日本に、二月十四日が何の日か知らない人が居るんだ…。」
 となびきが苦笑いを浮かべる。

『今日はバレンタインデーだよーん!』
 おちゃめなパンダ@玄馬が。木製の看板を持ちながらおどけて見せた。

「そーか!二月十四日はバレンタインデーだ!」
 ポーンと良牙が両手を打った。

「バレンタインっつーと、毎年、あかねがまっずーい手作りチョコを作っては、皆に配りまくる、あの迷惑行事か?」
 乱馬が吐き出すと、すかさず脇からあかねの肘鉄が入った。
「何、憎まれ口叩いてんのよっ!失礼なっ!」
 バレンタインを迷惑デー呼ばわりされて、少し怒り顔だ。
「いてーなこの野郎…。だって、頼まれもしねえのに、腹下しチョコを渡されるこっちの身の上になってみろっつーの…。」
 乱馬があかねを睨みかえす。

「ええ?乱馬、貴様、毎年、あかねさんから手作りチョコを貰ってるのか?」
 良牙が羨ましげに乱馬へと声をかけた。
「ああ…。去年なんか、どーすんだこれって感じの、超ゲロ級のを大量に貰って大迷惑したぜ…。どーやったらあんなまずい物作れるんだ?」

「いいなあ…。義理でも良いから、あかねさんに手作りチョコを貰ってみたいなあ…。」
 ボソボソッと良牙が言葉を吐きだした。

「じゃあ、はい…良牙君。」
 と言って、あかねはすかさず、赤い紙袋を良牙へと差し出した。
「え?…こ…これは?」
 良牙が少し驚いた顔を差し向けた。
「おい…。おめーまさか…。これ…良牙のために作ったのか?」
 隣で乱馬が、思い切りしかめっ面を投げかける。『俺のは無いのか?』と言わんばかりの、男のヤキモチが入った眼差しを差し向けていた。

「ええ、そうよ。良牙君のよ。これは。」
 えっへんと、したり顔であかねが答えた。

「お…俺の…俺のために…。」
 その返答に、良牙が真っ赤になって固まった。ジーンと感動で涙腺が潤み始める。

「そう、乱馬に作った分の余りチョコで作った、良牙君用の義理チョコよ!」 
 感動していた良牙に、容赦無くトドメを刺すあかね。
「ぼ…僕のために作った…義理チョコ…。本命ではないんですね…やっぱり…。」
 あかねの発した言葉に、がっくりと頭を垂れ、しくしくと泣き出す良牙。瞬殺の淡い夢であった…。
 その横で、ホッとした表情をする乱馬の脇から、なびきがヒョイっと顔を出して口を挟んだ。
「っていうか…そんな力いっぱい「義理チョコ」って言いながら差し出さなくても良いんじゃないの?あかね…。」
 苦笑いを浮かべながらなびきが言った。
「じゃあ、何て言ってさし出すのよ、なびきお姉ちゃん。」
 あかねがムスッとしながらなびきを見返した。
「あたしが手本を見せるわ。良牙君、乱馬君、はい、コレ…。あたしからのバレンタインチョコよ。…うふっ、ホワイトデー、期待してるからねー、忘れたらおしおきよっ!」
 そう言いながら、なびきは至って何処にでもある製菓会社の定番板チョコを、乱馬と良牙に向かって、あからさまに差し出す。

「な…何だこれはーっ!レジ裏に置いてあるような、至ってフツーの板チョコじゃねーかっ!しかも、包んでねーしっ!」
 乱馬が思わず叫んでいた。

「あら、板チョコなら、義理チョコってあからさまにわかるじゃない。これなら気も張らないでしょ?」
「てめーも、義理チョコを力いっぱいカミングアウトしてるじゃねーか!」
「だったら…本命チョコって言ったら、どーするの?あたしと付き合う気なんてあるの?」
「ねぇーっ!本命に安普請の板チョコを贈ってくるおめーとは、頼まれても付きあわねぇ―っ!」
 ふるふると板チョコを持つ手が震えている。

「そう…。良かったわ。」
 からかいながら、なびきは更にたたみかけた。
「そうそう…これはかすみお姉ちゃんから預かって来た義理チョコよ。」
 と言いながら、乱馬と良牙にさし出したかすみのチョコレート。バレンタイン用のラッピングがほどこされているだけ、まだ、なびきのものよりはまともな義理チョコだった。

「良かったわね…良牙君。今年はなびきお姉ちゃんやかすみお姉ちゃんからも義理チョコを貰えて。いきなり三倍増しよ。」
 あかねがにこにこと微笑み返す。憎らしいくらい、光り輝く微笑みを、良牙へと手向ける。
「ははは…今年は三つの義理チョコかー。新記録かも…。」
 良牙は実に複雑な表情を浮かべながら、貰ったチョコレートを見詰めている。全て「義理」というのが何とも情けなかった。

「ってか…ゼロから三つって三倍増しか?…ゼロにいくつかけてもゼロのままじゃねーのか…。」
 ぼそぼそっと乱馬がウンチクめいたことを語る。


「ま、無事にバレンタイン義理チョコも渡せたし。前振りはこれくらいにして…。パトロールの話に戻るわ。」
 なびきが、乱馬たちへと向き直った。

「そうだったな…。これから雪の中を巡回パトロールへ行けっていう、天道指令からの命令だったよな…。」
 ブスッと乱馬がなびきへと声を返した。

「ええ…。このチョコレートを見てわかると思うけど…。今日はバレンタインでしょ?だから、きっと…。」

「愛のパワーを負へと変換するために、キャロットカンパニーの連中が動き出す…って言いたいんだろ?」
 乱馬が吐き捨てた。

「良く分かってるじゃないのー。乱馬君。さすがねっ!」
 なびきはビシッと指を乱馬へと差し向けた。

「何か…てめーに言われると、からかわれてるよーにしか聞こえねーな…。」
 ぼそぼそっと文句を吐き出す乱馬。

「恋人たちの愛のパワーを散々に蹴散らすため、絶対に、キャロットカンパニーの連中が襲って来るというのが天道司令の大予想よ。」

「大予想ねえ…。普通に考えたらわかる程度の予想だと思うけど…。」
 乱馬が吐き出した。

「先手を打って、街に繰り出して、キャロットカンパニーの急襲を防ぐのが、今回のパトロールの目的よ。わかる?」

「予想をたてられるものは、何も急襲じゃねーと思うが…。敵(あいて)も予想して動いてんじゃねーのか?」

「細かいことは気にしないで、司令の命令に従いなさい!」
 バンッとなびきが手を叩いた。

「ってか…。何で天道司令じきじき命令を伝達しに来ねーんだ?」
「そーいえば、おとーさんの姿が朝から見えないけど…。」
 乱馬とあかねが怪訝な顔をなびきへと差し向けた。

「お父さんなら、インフルエンザで寝込んでるわよ。」
 なびきが言った。

「インフルエンザだあ?」
「やだー。寝込んでるの?」

「ええ…。調子が悪かったところに、あかねのお手製チョコを間違って食べたらしくって…。ノックアウトしちゃってさー。かすみお姉ちゃんが看病してるわ。」

「インフルエンザにあかねの手作りチョコか…。こりゃ、死線をさまよってるな…。」
 ぼそぼそぼそっと乱馬が吐き出す。
「ってか…何であかねのチョコなんか食ったんだ?味だけじゃなくて、形もいびつだから、間違って口にすることなんて有り得ねーんじゃねーのか?指令(おじさん)が見抜けねえ筈ねーと思うけど…。」
 不思議そうに乱馬は問いかけた。
「熱で良く見えてなかったみたいよ…。芋の煮っころがしと間違えたらしいわ。」
「間違うか?んなの…臭いだってするだろーが…。あかねのチョコが放つ異様な臭いをかぎ分けられなかったって…有り得ねえんじゃねーか?」
「鼻が効かなくなってたんじゃない?鼻水で…。」
「ああ…なるほど。視覚だけじゃなく、嗅覚も熱でやられてたのか…。ついでに味覚もやられてたら、良かったのにな…。」

 どすこーいっ!

 あかねの肘鉄が頭上から乱馬目掛けて振り下ろされた。

 ずごっ!

 と音がして、乱馬が道場の板の上に沈みこむ。真横で良牙が目を点にして、あかねを振り返る。

「たく…。黙って聞いてれば、好き放題言ってくれちゃって…。」
 プンスカと御機嫌斜めだ。



「うふふ…。とにかく、天道指令に変わってあたしが指揮を執るから…。三人とも、準備ができ次第、町内巡回パトロールに出動してちょうだいね。」
 なびきがウインクしながら言い放った。




二、

「たくー…面倒臭えー…。」

 ダウンジャケットのポケットに手を突っ込みながら、口を尖らせて乱馬は歩き出した。
 外に出てみると、うっすらと雪が積もり始めているのが見えた。

「こういう時は、寂しい口に甘い物をくわえると、少しは気分が晴れやかになるわよー。」
 そう言いながらあかねが紙袋をガサガサといわしている。

「甘い物って何ですか?」
 良牙がすかさず問いかけた。

「さっきあげたチョコレートがあるでしょ?」
 そう言いながら、指差した、先ほどの義理チョコ。
 良牙が紙袋をごそごそと、さし出して来た銀紙…もとい、アルミホイルにくるまれたいびつな丸い塊。

「あはは…あかねさん…これって…やっぱり手作りですよね?」
 良牙が恐る恐る指差しながら問いかける。心なしか指先が震えている。

「そうよ、一晩かけてじっくり作ったあかね特製の手作りトリュフよ。是非、食べてみてっ!」
 とにこやかに笑いかける。天使の微笑み…否、悪魔の微笑みであった。


「おまーなあ…。今朝、天道指令(おじさん)を悶絶させたチョコレートだろ?そいつは…。天道司令に飽き足らず、俺たちまで天国へ導くつもりかあ?」
 唾を飛ばしながら乱馬が叫んだ。
「それなら大丈夫よ!お父さんが今朝食べたのはブラックチョコレートのトリュフ。これはホワイトチョコレートのトリュフ。着ぐるみホワイトの白色のトリュフよ。だから、大丈夫!」
 とあかねが笑いながら言った。

「だからー、そういう問題じゃなくってだなー…ってこら、良牙っ!」
 言っている傍から、良牙が銀紙を開いている。

「本当だ。これはホワイトチョコだ。ブラックなチョコじゃないぞ。これなら大丈夫そうですね、あかねさん。」
 そう言いながら、口の中へと放り込む。
「わーっ!良牙、く、食うなーっ!」
 乱馬は慌てて良牙を止めようとしたが、一足出遅れた。
 
 一瞬だった。あかねお手製のホワイトトリュフチョコレートを頬張った良牙の瞳から光が消えた。

「うん…想像を絶っするほど、ワイルドだぜー!」
 そう一言投げると、パタンキュー。仰向けに卒倒した。

「何がワイルドだ!白目をむいて悶絶しやがって…。」
 だははと脱力しながら乱馬が叫ぶ。

「おかしーなあ…。自信作だったんだけど…。」
 首を傾げながらあかねが考え込む。

「自信作の所業がこれかあ?」
 倒れ込んだ良牙を指差しながら、乱馬が怒鳴った。

「…ってか…どーすんだよ…。こんな往来のど真ん中で…。」
 チリンチリンとその脇を、呼び鈴を鳴らしながら自転車が通り抜けて行く。邪魔だと言わんばかりにだ。

「こうしておけば、大丈夫よ…。」
 あかねはそう言葉を投げると、徐に良牙を後ろから抱え込んだ。そして、よいしょよいしょと引きずりながら、良牙を道路の脇の電柱の下へと運びこむ。
 良牙はというと、あかねに引きずられても、全く目を開く気配も無い。完全に白目をむいていた。

「で…?パトロールはどーするんだ?」
 ボソボソッと乱馬が問いかけて来た。
「一応、司令もあるから、行かない訳にもいかないでしょ?」
 かなりの雪が舞い落ち初めていた。傍らで目を回してのびている良牙の上にもしんしんと降り注ぐ。
「良牙君をこのままにしたら、確実凍え死にするかもな…。でも、パトロールに行かない訳にはいかないし…。」
 恨めしそうに空を見上げながら、乱馬が白い息を吐きだした。
 降りしきる雪。


 フォンフォンフォンフォン、パープーパープー…。


 と、折しも、あかねのスマートフォン型通信機が警報音を上げ始めた。


 フォンフォンフォンフォン、パープーパープー…。

 かなりの音量で響き渡る。
 雪の中を道行く人たちが、何事かと二人へと視線を投げかけて来る。


「は…早く、止めろッ!そのこっ恥ずかしい警報音っ!」
 あかねは無我夢中で止めに入る。と、スマートフォンの画面が開けて、なびきの映像が映し出された。
『大変よっ!VUK連が現れたわっ!』
 と、語りかけて来る。

「…何だ?その訳の分かんねーネーミングの団体は…。」
 乱馬がきびすを返すと、なびきが続ける。

レンタインザいえろ連合、略して、VUK連よっ!』
「説明はいいっ!その連中の目的は何だ?」
『「バレンタインっ!ウザいっ!消えろーぅって叫びながら、恋人たちからバレンタインチョコレートをかっさらって行く、不埒(ふらち)な連中よっ!』

「それは大変だわっ!すぐに出動しなきゃっ!どこに出現したの?」

『わからないわっ!』

「じゃあ、どーすんだよっ!」
 乱馬がこけながら怒鳴った。

『ふふふ…おびき出せばよいのよっ!』

「おびき出す…どーやって?」
 あかねが問いかけた。

『簡単なことよ。あんたたち二人が恋人のふりをすればよいのよ。』

「はあ?」
 意味が呑み込めず、思い切り疑問の感嘆符を投げかける乱馬。

『もー、わかんない人ねえ…。あかねとバレンタインのやり取りをする恋人を演じなさいって言ってるのっ!あかねからバレンタインチョコを受け取るやり取りを思わせぶりにやったら、奴らが姿を現すわ!』

「なるほど…。バレンタインのやり取りをする恋人の真似をすれば、おびき出せるって算段ねっ!」
 乱馬の横でポンとあかねが手を打った。

『そーゆーことっ!そこの角を曲がったところに良い具合に公園があるから、そこで演じなさいっ!任せたわよっ!練馬区民の安穏なバレンタインデーはあんたたちの演技にかかっているんだからっ、しっかりねっ!!じゃ、健闘を祈るわっ!』

「って祈るだけかぁ?てめーはっ!」
 思わず横から通信機をあかねから取りあげ、画面に向かって怒鳴り返す乱馬。

『あら…作戦を伝授してあげたし…ちゃんと九能ちゃんに頼んで、バレンタイン特別仕様のバトルスーツをコーディネートして貰ったわっ。』

「バレンタイン特別仕様のバトルスーツだあ?」

『あかねには詳細を説明してあるから…。あとは現場にて…。臨機応変よっ!じゃね…。あたし、夕方のドラマの再放送見るのに忙しいから…。』

「おい…。モニターとかでチェックしてやろーとかいう、殊勝(しゅしょう)な気持ちはねーのかっ!」
「もう…切れてるわよ…通信…。」
 あかねが横からボソッと吐き出した。
 切れて真黒になった通信機が乱馬の右手に虚しく握られていた。

「ちくしょー…。一回、ぎったんぎったんにのしあげてやりてーぜ…。なびきの奴っ!」
「その怒りを、VUK連合せん滅に向けるのよっ!乱馬っ!」
 ビシッとあかねが乱馬へと告げた。
「おうおう…何にでもぶつけてやるぜっ!」
 怒りに震える乱馬。

「その前に…。一応、恋人を演じるのよ。」
 とあかねが乱馬を振り返る。

「……。」
 少し乱馬の顔がほてり始めた。純情な青年である。
 恋人を演じろと言われても、どうすれば良いか、急に頭は回転しない。
 この場合、女子の方が肝も据わるものというもの。あかねは、ガッと乱馬の手を引いた。

「お…おいっ!」
 急に手を握られて、ドキマギするのは、乱馬の方であった。
「いいこと!この瞬間から、あんたとあたしは恋人よっ!」
 と小声で囁きかけて来る。
「あ…ああ…。」
「だから…もうちょっと、積極的にスキンシップしなさいよっ!」
 ボソボソッとあかねが囁きかける。
「急にそんなこと言われてもだなあ…。」
 そう言いながら、角を曲がり、小さな公園へと乱馬を誘う。積極的なあかねの行動にすっかりあてられて、乱馬の方が焦ってしまっている。
「演じないと、VUK連合に目をつけられないわっ!良いこと?あたしがチョコレートを渡すふりをするから…。嬉しそうに受け取ってね…。」
「チョコレートって…もしかして…。良牙を瞬殺したアレか?」
 恐る恐る、問いかける。
「そーだけど…何か?」
 あかねが手を繋いだまま、返答を投げる。

「あれしか持ってねーのか?」
 と尋ねかけた。

「持ってないこともないけど…。」
 少し顔を赤らめながら、あかねが言った。

「他にも持ってるのか?」
 少し期待を膨らませて、乱馬はあかねへと問いかけた。
「え…ええ…。これはあんたに後であげるつもりだった、本命チョコを…。」
 ポッとあかねの顔が紅潮した。

「本命チョコレート…。」
 何と言う甘い言葉だろう。ドキドキと乱馬の胸がときめき始めた。

「そう、本命の特製手作りチョコレートよ。一晩かけて、作ったんだから…。」
 にっこりとほほ笑むあかね…。まさに、天使の微笑み…いや、乱馬には悪魔の微笑みに見えた。はっきりと言葉に「手作り」という単語を含んでいたからだ。
「パトロールが終わってからあげようと思ってたんだけど…。」
 そう言いながら、ジャケットの下、胸のあたりをもそもそとまさぐり始めた。どうやら、ジャケットの中に隠し持っていたようだ。

「って…。どこにチョコレートを隠してやがんだ?おい…。」
 思わず、凝視するあかねの指先。

「胸の谷間よ。そこに挟んであるの。」
 とあかねは答えた。

「胸の谷間?…おめーそんなに育ってたっけ…。」
 ボソボソと声をかける。

「失礼しちゃうわねーっ!あたしにだって、チョコレートを挟むだけの谷間はあるわよっ!」
「嘘…。」
「嘘じゃないわっ!ブラジャーと胸の間に…。」
「それって、胸の谷間じゃねーだろっ!ブラジャーと板胸の間だろーっ!」
「誰が板胸よっ!」

 恋人のやりとりが、だんだんと怪しい方向へと流れ出す。もっとも、これがこの二人のいつもの光景であった…。

 
 と、後ろ側でガサゴソと音がした。
 誰かが背後に立ったようだ。
 ハッとして振り返る。と、茶色の紙袋を頭からすっぽりと被った、怪しい人影が十人ほど、ずらっと間合いを取りながら乱馬とあかねを囲んでいた。


「へいへい…。坊ちゃん、嬢ちゃん…。」
「我々の前でイチャイチャと…。」
「ええ、根性しとるのー…。」
 ポケットに手を突っ込んだ学ラン姿の男たちだった。

「おめーら…何だ?」
 乱馬は真顔に戻って、問いかけた。

「ふふふ…我々は無く子も黙る、バレンタインを憎む持てない男子の集合体っ!」
「バレンタインウザい消えろ連合…略してVUK連っ!」


「そーかっ!おめーらが、この辺りを荒らしまっくってる、VUK連かっ!」
 乱馬が息を整えながら、睨みつける。

「ふっふっふ…怪我をしたくなければ…おとなしく、お嬢さんの胸の谷間から覗いているそのチョコレートを渡すのだ。」

「嫌だって言ったら?」
 あかねはキビッと総大将的緑の学ランの大男を睨みかえす。

「力ずくで行くまでだよ…。」
 襲いかかって来たそいつを、サッと避け、あかねの蹴りがその男のガタイへと入った。
 ドサッと音がして、投げ出される学ラン男。
 続いて、乱馬の蹴りもその男へと綺麗に入った。

「ぐえ…。」
 蛙が潰れたような声を張り上げて、学ラン男が沈みこむ。

「何、エッチなこと言ってるのよーっ!この変態っ!」
 あかねは鼻息荒く息まいている。
「おめーら、あかねに手を出したら、ただじゃすまねーぞっ!」
 隣で乱馬も気焔を吐きだした。


「ホホホホ、なかなか、勇敢なカップルだこと…。」
 今度は背後で女の声がした。

「その声は…。」
 はっしと睨む乱馬。

 振り返ると、キャロット・ママ@厚化粧が笑っていた。


三、


「おめーは…。キャロット・ママ@厚化粧!
 ふっ!やっぱり、この訳のわかんねえ集団は、キャロットカンパニーの息がかかってたってわけかっ!」

 そう吐き捨てた乱馬を見詰めながら、キャロット・ママ@厚化粧が答えた。

「私の正体を知っているとは…。貴様ら、ただのバレンタインカップル…略してバカップルではないわね…。」
 とふてぶてしく答える。

「何、適当に略してやがるーっ!」
 思わず乱馬が怒鳴り返した。

「もっと簡単に略すと、バレンタインカップルはバカになるのよ、ほっほっほー!バカって言われたいのかしら?坊ちゃん!」
 キャロット・ママ@厚化粧が嘲り笑った。

「俺たちは、バカでもバカップルでもねーっ!」
「その通りよっ!あたしたちは、正義のカップルよっ!覚悟なさいっ!キャロット・ママ@厚化粧っ!乱馬、変身行くわよッ!」
 あかねがサッと変身ステッキをスカートのポケットから取り出した。
 市販の変身オモチャを改造したのが丸わかりな、胡散臭(うさんくさ)い変身ステッキだった。それをクルクルと回すあかねの手。決して美しく回らず、おっとっとと前に落ちた。
 不器用なあかねの所作の結果だ。

「おい…。変身ツールが落ちたぜ…。」
「あーん…練習したのに…。」
 情けない声を出すあかね。
「練習してそのザマか?」
 思わず、苦笑いが零れる乱馬。
「不器用な奴だぜ…相変わらず…。」
「うるさいわねっ!わかってるから練習したのよ…。ちょっと失敗しただけでしょう?」
 それをサッと拾い上げながら、ムスッと口を尖らせるあかねだった。が、無惨にも、ポッキリとハートのステッキの先が、バックリと真っ二つに折れていた。
「おい…壊れたぞ…。」
 白んだ空気が二人を包む。
「平気よっ!ここは変身には関係ないポイントだから。」
 あかねは壊れたステッキを握りしめながら言った。
「本当に大丈夫なのか?」
 半信半疑な瞳を手向ける乱馬だったが、あかねはお構いなしに続ける。
「大丈夫!大切なのは合い言葉よっ!愛の言葉、合い言葉…。」
「洒落か?」
「良いわねっ!あたしの後から合わせて叫ぶのよっ。」
「っつーか、変身の合い言葉は、「あいらーぶ・てでぃべあ!」じゃねーのか?」
 乱馬が問い返す。
「違うわよ!」
「違うだあ?…また、変わったのかよ…。」
「ええ…。だって、今日はバレンタインだから、特別仕様だってなびきお姉ちゃんが言ってたでしょ?忘れたの?」
「そーいや、そんなことを言ってたような…。」

「ええいっ!貴様らっ!何をごちゃごちゃやっているのだっ?」
 正面で、乱馬とあかねのやりとりに、痺れを切らしたキャロット・ママ@厚化粧が叫んだ。


「っと…。年増になると、短気になるのね…。こっちにも手順があるんだから、そんなにせかさないでっ!オバサンっ!」
 あかねが言い返す。

「誰がオバサンだっ!この私を愚弄してっ!」
 キイイイッとキャロット・ママ@厚化粧が金切声をあげた。が、全く動じないあかね。

「おい…さっきから雪も激しくなってきたし…ここは、さくっと変身した方が良いんじゃねーか?」
 乱馬がごそごそとあかねに囁いた。
「じゃ、変身行くわよっ!バレンタイン特別編合い言葉だからねっ!」
「わかったから、とっとと言えーっ!」
「短気は損気よ…。乱馬。あんたの変身言葉もあたしが言うわね!じゃ、行くわよ!二人の変身の合い言葉はっ!」
「合い言葉は…。」

「あいら―ぶ☆バレンタイン…あーんど…ゆーらーぶ☆ふ・ん・ど・し!」

「何じゃそりゃああーっ!」
 乱馬の怒声が掻き消されるほどの、凄まじい光の洪水が、壊れたステッキから発せられた。

 ビカビカビカーッ!

 それは、虹色の輝きだった。
 一瞬にして、七色の光に包まれ、二人、着ぐるみ戦士に変身を遂げる。

 おおおっと、VUK連の野郎どもから溜息が漏れる。

 あかねが白いレースぶりぶりのミニスカ衣装に変身したからだ。お約束の白いパンティーもチラチラと見え隠れする。頭には可愛らしい、ウサ耳。ワンポイントは胸元の可愛いピンクの蝶ネクタイのリボン。

「ふふふ…愛戦士☆着ぐるみホワイト@あかねと、哀戦士☆着ぐるみレッド@乱馬の登場よ!二人合わせて、最強の二月十四日戦士コンビの参上よっ!」
 と思い切りぶりっ子なポーズを差し向ける。

「誰が、哀戦士じゃあー!で、何じゃ、これはーっ!」
 その横で、着ぐるみレッド@乱馬が声を荒げた。
 人間仕様のままウサ耳で可愛く決めているあかねに対して、乱馬はというと、顔からごっそりかぶった茶色のいつものクマ着ぐるみ姿。いや、それだけならまだしも、赤いマフラーでは無く、赤いフンドシが股間で揺れていた。
 お世辞にも格好の良いスタイルではない。いや、格好良いというより、格好悪い。
 ゲラゲラとVUK連の学ラン男たちから、そこここで笑いが漏れる。指をさして、腹を抱えて笑っている奴まで居る始末だった。


「おやおや…変わった戦士さんの登場だね…。奇をてらったのかい?」
 キャロット・ママ@厚化粧もクスッと笑った。

「ふふふ、今日はセイントバレンタインデー。だから、特別仕様の着ぐるみ戦士に変身したのよっ!」
 あかねが得意満面、したり顔で腰に手を当てた。


「だから…バレンタインとフンドシに何の繋がりがあるってーんだよっ!全然、関係ねーだろがっ!」
 横から乱馬が茶々を入れた。

「あら、着ぐるみレッドは知らないの?」
「知らねえって、何をだよっ!」
「二月十四日はフンドシの日よ!」
「はああ?」
 思い切り疑問を投げ返してしまった。
「だって、二で「ふぅ」十で「とう」四で「し」…合わせて「フンドシ」でしょ?」
「何じゃ、そのこじつけたようなごろ合わせはーっ!」
 思わず円らな瞳のまま、怒声をあげた着ぐるみレッド@乱馬。
「日本フンドシ協会が二月十四日を「ふんどしの日」って定めてるんだからっ!」
「いつからだよっ!バレンタインとフンドシの日が一緒だなんて、聞いたことえーぞっ!」
「フンドシの日になったのは最近らしいわよっ!だから、レッドのマフラーは二月十四日はフンドシ仕様にしたんだって。可愛いでしょ?」
「何が可愛いもんかーっ!これじゃあ、俺だけただの「おまぬけフンドシ着ぐるみ」じゃねーかっ!」
 心なしか、着ぐるみレッド@乱馬が泣きそうな声になっている。当然である。神可愛いあかねと違い、確かに今の乱馬は、フンドシを履いたお間抜け着ぐるみにしか見えない。



「あんたら…闘う気…あるのかえ?」
 半ばあきれ顔でキャロット・ママ@厚化粧が二人へと声をかけた。

「もちろん、おおありよっ!」
 あかね一人が気焔を吐きだす。

「でも、そちらの坊やは、戦意を無くしてしまっているようだよ…。」
 キャロット・ママ@厚化粧に指摘されるまでも無く、横で、フンドシをひらひらさせながら、乱馬は呆然と立ちつくしていた。これでは勝ち目などあろうはずも無い。
「ふふふ…戦意があろうが無かろうが…。我々の目的はただ一つ。バカップルから負のエネルギーをいただくまでさっ!」
 
 そう言いながら、キャロット・ママ@厚化粧の瞳が怪しく光った。

「そっちの坊やの方から先に、闘気を負のエネルギーに変換して、根こそぎいただいてやるわ!行けっ!VUK連合の手先たちよっ!」
 キャロット・ママ@厚化粧が命ずると、学ランのさえない男どもがザザッと動いた。
 何と、四方八方に散り散りになった彼らは、どこに隠し持っていたのか、掃除機型吸引装置を乱馬目掛けて、差し向けた。
 そして、ポチっとスイッチを押すと、凄い勢いで、ゾウさんの鼻型をした吸引口から、乱馬の身体から発せられる闘気を吸い上げ始めた。

「乱馬ぁっ!」
 あかねが悲鳴に近い声をあげた。

「うわああああっ!」
 と、着ぐるみレッド@乱馬が悶え苦しみ始めた。みなぎっている闘気が、一瞬に黒い霧状の負に変換され、吸引口に吸い込まれていくのが見えた。
 あかねの眼と鼻の先で、乱馬が負のエネルギーを奪われ続けていた。
「ち…チクショウ…。身体から力が…力が抜けて行く…。」
 赤フンを揺らせながら、可哀想な事になり始めていた。


「ふふふ…。お嬢ちゃんの黙って見ているが良い…ほーっほほほほ。」
 キャロット・ママ@厚化粧が人差指をくねらせて、ほほほ笑いを始めた。


「このままじゃ、愛のパワーが根こそぎ奪われて、乱馬がやられちゃうわっ!くっ!どうすれば…。」
 あかねはギュッと拳を握りしめた。そして、頭脳をフル回転させて、対処策を模索する。
 と、くるくるくるとあかねのウサ耳が、あかねの頭の上で、内側に向かって回り始めた。ピンと立ったまま根元からゆっくりと動き出す。
 
 説明しよう。着ぐるみホワイト@あかねには、火事場のバカ力的能力が備わっている。それは、彼女のウサ耳が回転し始めることによって、普段は眠っている脳細胞が活性され、様々に考えを巡らせ、対処策などを絞り出すのだ。
 まさに、今が、その状態であった。
 最初はゆっくりと回っていたウサ耳が、だんだんにそのスピードを増し始める。
 
 ぎゅんぎゅんぎゅん…しゅるるるるる…るららららら…。

 まるでモーターが速度をあげる如く、耳が消えるほどに、勢い良く回った。

 そして、数秒後、ピタッとブレーキがかかり、耳がピンと上に立ったまま止まった。

「そうだわ…。なびきお姉ちゃんが言ってたわ。乱馬がピンチに陥った時は、マル秘アイテムを使って、愛のパワーをっ増幅させろって…。愛のパワーを最大限に増幅させるマル秘アイテム…それは…。」
 そう言いながら、必死で胸元をごそごそやった。
「そう…それは、愛情が一杯詰まった、本命バレンタインチョコレートの欠片よっ!本命手作りチョコに勝る武器は無いわっ!」
 そう言いながら、乱馬に作った、「ハート型手作り本命チョコレート@愛のメッセージ付き」を取り出すや、電光石火、素早く手に握りしめると、苦しみもがいている乱馬の口目掛けて、思い切り突っ込んだ。

「乱馬っ!愛情増幅アイテムよっ!これを食べて、愛と正義の力を取り戻すのよっ!」

 あかねはそう叫びながら、大口を開けていた乱馬へと、チョコレートを差し向けた。そして、思い切り、口へとねじ入れ、咥えさせた。

「うわああああ…うぐ…。」

 闘気を奪われている上に、追い打ちをかけるあかねの逆豪華手作りチョコレートだ。
 良牙と天道指令を悶絶させたのと、同じレシピをこねくり回した代物だ。
 当然、乱馬が力を取り戻すどころか、平穏無事で居られる筈がない…。

「ぐええええっ!」
 口いっぱいに広がる、べっちょりとした変な味。この世の物とは思えないグロテスクな味覚。
 吐き出そうともがくが、それすら覚束ない。
 やがて、乱馬はもっと悶絶し始めた。
 そればかりか…彼の闘気に、あかねのチョコレートから滲みだした究極の不可思議謎物体が混じり合い始めた。
 彼の美しいほどの真っ赤な闘気は、みるみるどす黒く汚れ始める。そいつはVUK連合各位が持っていた吸引機へと吸い込まれて消えて行く。

 ゴゴゴゴ…。
 ガガガガ…。

 吸引機は不快な音をたてて、きしみ始めた。いや、吸引機が悶絶し始めたのだ。

 ギュガゴゲビジュ…☆●φ√▽(−◇*)ONZ…◎★…

 意味不明な音をたてて、全ての吸引機がバラバラに崩壊した。それは、一瞬の出来事であった。



 再び説明しよう。あかねの作ったチョコレートの毒気が乱馬の闘気に混じり、大いなる化学変化を起こし、超極悪的劣化エネルギーへと変換されたのだ。そして、それを吸い込んだことにより、VUK連合が持ち出した吸引機が尽く破壊されたのである…。
 恐るべし、あかねの手作りチョコレート!あかねのチョコレートは、着ぐるみ戦隊のリーサルウエポン(最終兵器)であった。


 それはさておき…。

「何っ!?吸引機が壊れたっ!」
 焦ったのはキャロット・ママ@厚化粧だ。
 しかも、それだけでは終わらなかった。
 吸引機が空中分解した時、その破片がいみじくも、キャロット・ママ@厚化粧の顔面を強襲したのである。

 ピシッ!

 破片の一部が右顔面の頬辺りへと突き刺さる。

 ミシミシッ!

 一瞬にして、そこから顔全体にヒビが走った。

 ミシミシミシッ!
 みるみる、ヒビは顔面中に広がった。



「ぎゃあああっ!厚化粧にヒビが…。厚化粧が…剥がれ落ちる―っ!」
 キャロット・ママ@厚化粧は両手で顔を覆った。
「み…見るなーっ!わ…私の素顔を見るなーっ!」
 そう叫ぶと、キャロット・ママ@厚化粧は大慌てで走り出す。
「ううう…今日のところはここまでにしておいてあげるわっ!…でも、覚えておいで!着ぐるみ戦隊っ!ホワイトデーに倍返しよっ!せいぜい首を洗って待っているが良いわっ!」
 そんな言葉を叫びながら、立ち去って行く。勿論、さえないVUK連合の連中も、一斉に逃げ去った。



「勝ったわ!」
 あかねが決めポーズよろしく、うっしゃあーっとガッツポーズをして見せた。
「やったわ…乱馬…!愛の勝利よっ!見事、あたしの愛の手作りチョコで、キャロット・ママ@厚化粧を退散させたわっ!」
 と、白目をむいたまま、真っ白に燃え尽きた乱馬の背中をバシバシと叩いた。彼の口元から、ぽろっとチョコレートの塊が転げ落ちた。
 あかねは得意満面の「どや顔」を乱馬に差し向けながら、ピースサインをして見せる。

「な…何が愛の勝利でぇーっ!てめーのクソ不味いチョコレートの負の勝利だろがーっ!何て物、俺にくわせやがんでーっ!このずん胴不器用オンナ―ッ!」

「もう…素直じゃないんだから…。そんなに照れなくても良いわよ…乱馬。それに…そのチョコは地面に落ちちゃったけど…まだ持ってるからねー。」
 そう言いながら、再び胸の谷間からもっと大きなハート型手作りチョコレートを乱馬へとこれ見よがしにさし出した。
「こっちにも、漏れなく書いてあるわ…あたしの愛のメッセージっ!」

 とても器用とは言えないチョコペン文字で「I LOVE 乱馬」と書かれてあった。しかもピンクで…。
「このハートをあたしと思って食べるのよ…。うふふ…あたしが食べさせてあるわ…ほら、乱馬、あーん…。」
 にこっと微笑んだあかねの笑顔。笑顔だけは天使だった。

 その笑顔にハートを揺さぶられるも、乱馬はたじたじっと後ろへと下がり出す。

「…頼む…頼むから、…俺が好きなんだったら…バレンタインは手作りじゃなくて、ちゃんと店で買ってくれーっ!」
 赤フンドシをひらつかせながら、脇目もふらずに逃げ出した。

「あーんっ!待ってよーっ!そんなに照れなくても良いわよーっ!一口食べたらとろける愛のチョコレートよ!」

「やっぱり、バレンタインなんてただの嫌がらせの日じゃねーかっ!あかねの手作りチョコンなんて…欲しかねーっ!」

 乱馬とあかねの愛の追いかけっこが始まった。着ぐるみレッド@フンドシ付き乱馬と、着ぐるみホワイト@ウサ耳あかねの二人は、雪の積もった道を、もつれながら駆け抜けて行く。


 道端にぽつねんと、一人、取り残された良牙。全身が雪の下に埋もれてしまっていた。雪なのか人なのか道路なのか、判別すらつかない。
 ホワイト・バレンタイン。雪はいつまでも深々と降り続けていた。



 完…ホワイトデーにつづく…かも…。
    誰か良牙君に愛の手を…。





「お正月編」「クリスマス編」と来て…着ぐるみ戦隊第三弾は「バレンタイン編」…
奔放に突っ走った、暴走作品です。

二月十四日は「フンドシの日」です。
で、毎年この時節になると、日本フンドシ協会から「ベストフンドニスト」が発表されます。
実は、昨年2013年度のベストフンドニストに、我らが乱馬君の声・勝平さんが選ばれております。…なもので…実は去年から書きたくって、うずうずしていたネタだったのであります。
で、今年2014年には実写版らんまで早乙女玄馬役を演じられた古田新太さんが受賞されました。

フンドシ乱馬を書いたのは「呪いの緋布」(RNRへ掲載)以来かな…。赤フンドシの乱馬君…また作品を書く機会を密かに狙っていたりして…。



2014年バレンタイン…実際に、東京も大雪に見舞われました…この作品をしこしこ書いていた時は、そんな天候など一切、気に留めていなかったのでありますが…。
私の住んでいる奈良県も全域で「大雪警報」が発令されました…。…生駒であの量のドカ雪を見たのは初めてかも…。転ぶのが恐ろしくて外に出られませんでした。何せ、脳疾患後遺症のため、まだ右半身の踏ん張りが健常時に比べて極端に低い人なので…。



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