イラスト/甘栗ケンさま
■着ぐるみ戦隊・お正月特別編〜ワンワン戦隊ただいま参上!■

 ここは日本の中心、「練馬区」。
 日本の中心とはかなり誇大広告、語弊があるかもしれないが、構成員たちがそう思っているのだから、中心は中心地。何て言ったって中心地…。
 それはさておき…。
 そこに、世界征服を企む「悪の総合商社・キャロットカンパニー」の魔の手をかわすため、作られた秘密組織「天道道場」がある。
 一見、何の変哲も無い、町屋の古い道場であるが、いやはや、何のその。それは、世を忍ぶ仮の姿。板張りのガタビシ床板の下には、最新鋭の秘密基地があった。
 道場主、いや、総合司令は「天道早雲」。
 構成員は天道早雲以下、六名。
 まかない方の天道かすみ、勘定方の天道なびき、平隊員もとい戦闘員の通称着ぐるみレッド・早乙女乱馬、着ぐるみホワイト・天道あかね、着ぐるみブラック響良牙。そして、太鼓持ち着ぐるみパンダの早乙女玄馬だ。
 合言葉は「あいらーぶ・てでぃべあ!」。
 合言葉が一度、発せられると、九能財閥の豊富な資金力によって特殊開発された「着ぐるみ装置」が瞬時に働き、着ぐるみ、戦闘員の早乙女乱馬たち以下三名は、レッド、ホワイト、ブラックという「質実剛健な着ぐるみボディー」へと変身を遂げる。
 着ぐるみレッドはクマ仕様。襟元の真っ赤なマフラーがワンポイント。
 着ぐるみホワイトはウサギ仕様。眩い純白なボディーが魅惑的。
 着ぐるみブラックは黒豚仕様。愛くるしさがチャームポイント。
 彼ら三名は日夜、「悪の総合商社・キャロットカンパニー」と闘うべく、精進を続ける。良い子たちの秘密組織なのである。
 なお、如何なる日本政府機構からも「非公認」な団体だ。

 長い前置きは良いから、とっとと「本編へ行け!」とな?
 あいわかった。本編へ行こう。


☆☆☆

 時は20☆☆年。戌年。正月。
 さすがに、正月は休業なので、キャロットカンパニーの連中も松の内は攻めては来ない。
 束の間の「平和」を日本中が楽しんでいた。
 新たな戦闘の嵐の前の静けさ。
 ここ、天道道場秘密基地も、久々の休養に、天道司令以下、隊員たちが羽を伸ばしていた。

「正月は良いねえ…早乙女君。去年もいっぱい頑張った。今年もよろしく。」
 のん気に屠蘇をすすめる天道司令。
「パフォー、パフォフォ!(謹賀新年!天道君。)」
 看板を翳しながら、パンダのまま、おどけてみせる、陽気な太鼓持ち、早乙女玄馬。

「たく、親父!正月くらい、その暑苦しい着ぐるみを脱げ!」
 脇で息子の乱馬が苦虫を潰したような顔を手向ける。
『いや、いつ敵が攻めてくるかわからぬ。』
『真の戦闘員たる者、いつ、いかなるときも、帯を締め、警戒を怠らないものだよ〜ん!』
 彼の得意の早業看板文字で、受け答えしてみせる、愉快なパンダ。
「あのなあ!誰が真の戦闘員でい!おめえ、一度でも、その着ぐるみで闘ったことがあったか?
 全部、俺らに任せっきりで、てめえはブクブク太りやがってえ!」
 ぐっと、拳を作り、パンダを首基から締め上げる動作を取った。

「まあまあまあ、乱馬君。今日は目出度い正月だよ。乱暴はいかん!乱暴は。」
 穏やかに、天道司令が止めに入った。
「そうよ、正月くらい、皆、仲よしでね。」
 と、脇でおせち料理をすすめながら、かすみがニコニコ笑っていた。

「乱馬、このくらいにしときなさいよ。かすみお姉ちゃんを怒らせたら、どうなるかわかったもんじゃないわよ。」
 あかねが、乱馬の脇腹をトントンと叩いた。
「ちぇっ!」
 皆に言い含められて、乱馬はパンダを放した。

「さて、旧年中、皆の働きのおかげで、練馬区の平和も守られた。」
 早雲が、新年の口上を始める。

「練馬区限定のお気軽、平和維持軍だもんな…。俺たちは。」
 乱馬はボソッと毒付く。
「こら、黙って!」
 あかねがぎゅっと乱馬の足をつねった。
「地域近隣の平和を守るのが、世界平和の基本だぜ、乱馬。」
 隣から、生真面目な良牙が乱馬を制した。
「そうよ、地域の皆様に愛されないと、真の平和主義組織とは言えないわよ。」
 あかねも同調している。
「練馬区民だけに愛されてもなあ…。」

「コホン!」
 早雲は、黙れと言わんばかりに、一つ、咳払いをした。
「さて、旧年中の活躍を顧みて、ここは一つ、お年玉を君たちにあげよう。」
 と言い放った。

「お年玉!」
 その言葉を聞いて、各々、色めき立つ。当然だろう。
 貰える物は進んで貰う。そんな、褒賞精神が、ここ、天道司令室にも隅々行き渡っているからだ。
「で?お年玉って、幾ら貰えるんだ?まさか、五百円玉一枚で「お年玉」なんて落ちじゃあ、ねーだろうな?」
 散々、辛辣な目に合わされていた、乱馬は、ちらっと司令の顔を見上げた。
「余計な口を挟むな!乱馬!貰えるだけでもありがたいと思えよ!」
 生真面目な良牙が再び制する。
「そうよ、この際、五百円だって厭わないわ。ないよりはましじゃない。」
 あかねも同調する。
「てめえら…。ガキの小遣いじゃあるめえし…。」

「コホン!静かに。お年玉の詳細については、勘定方のなびきから説明だ。」
 と、傍に座っているなびきを促した。

「ええっと…。皆も知ってのとおり、天道基地は、日々の着ぐるみ戦闘隊を維持するだけで、目いっぱい、精一杯です。
 ですが、今年一年の士気を高めるために、精一杯、お年玉を支給します。
 早乙女乱馬、天道あかね、響良牙。三名に本日一日、休養を与えます、以上。」
 淡々と書類を読み上げた。

「あん?休養だあ?こら!それのどこがお年玉でいっ!」
 乱馬ががなった。冗談じゃねえと言わんばかりの口ぶりだ。

「あら、休養はお金に勝るわよ。今日一日は非戦闘態勢で居られるんだから、ありがたいと思いなさい。それに、有給休暇よ、有給休暇!」

「それの、どこが、ありがたいんでいっ!」
 半ば諦め気味で、乱暴に言い放つ。

「ありがたいじゃねえか!有給休暇だぜ、乱馬。」
 隣で良牙が目をうるませている。
「そうねえ…。有給でお休みがいただけるなら、お得よね。」
 あかねも納得している。

「おめえら…。無欲すぎねえか?」
 ふるふると乱馬が身体を震わせていた。

「ま、ともかく、世間は正月だ。たまには外に出て、リフレッシュしてきなさい。初詣も良いぞ!」
 と天道司令が笑った。


☆☆☆

「結局、有給休暇一日と小遣い五百円玉一枚ってことで、誤魔化されちまったじゃねえか…。」
 ブツクサと乱馬があかねに吐きつけた。
 横にはそれなりに、お洒落したあかねが立っている。あかねは正月らしく、白と赤を基調としたコーディネイトの洋服に、真っ白い上着を羽織っていた。なかなか目だって可愛らしい。
「もう、良いじゃないの。せっかく、取れた休暇じゃない。」
 あかねはニコニコと笑っていた。
 何より、町へ出るのは久しぶりだった。
 ここのところ、年末の大奉仕と言わんばかりに、仕掛けられてきたキャロットカンパニーとの小競り合いに、身も心も疲れ切っていたのだ。キャロットカンパニーが休業中の正月くらい、ゆっくり羽を伸ばしたいと思うのは人情だろう。
「戦士に休日はねえだろうに…。」
 ふううっと溜息を吐き出す。
「ま、いいか。たまには、三人…パアッと町に繰り出して、気分転換するのも…。」
「そうね…まずは氏神様に初詣ね。」
「そうだな…。いいよな?良牙。」
 乱馬は後ろの良牙に声をかけた。だが、返事はなかった。
「あれ?良牙は?」
 乱馬は辺りを見回した。だが、そこにあるはずの良牙の姿が忽然と消えていた。
「さっきまで、そこに居たんだけど…。」
 あかねも一緒になって、キョロキョロと辺りを見回した。
 いつも三人一組で活動しているので、今日も三人揃って、天道家を出て来たはずだ。だが、良牙の姿は忽然と消えていた。
「あいつめ、まーた、迷子になりやがったな…。」
 ボソッと乱馬が吐き出した。
 腕も立つ良牙だが、玉にキズは、毎度の如く「迷子」になってしまうことだ。戦闘中にさえ迷子になってしまうという、迷走ぶりだ。

「たーく!しょうのねえ野郎だぜ。どうする?」
「そうねえ…。二人で初詣に行っちゃいましょうか。」
「だな…。あいつを待ってたら、せっかくの休日の日が暮れちまわあ!」
 と吐き出した乱馬。だが、口とは裏腹に、ちょっと嬉しかった。邪魔者良牙が迷子になってくれたということは、ここから先はあかねと二人だ。浮き足立たぬ筈がない。
 恋人とは言わないまでも、この二人、わりと仲良しこよしさんだった。

 神社の鳥居をくぐり、拝殿に上がって、並んで拍手を打つ。
 日本古来の初詣の姿が、まだ、ここいらには残されていた。
 神社までの参道には、露店が並び、初詣客を見込んで商売熱心だった。

「喧嘩だ、喧嘩だ!」
 賑わう参道のどこからか、声が響いてきた。
 乱馬とあかねは顔を見合わせると、声のした方向へと足を進めた。
 見ると、何やら妖しい人影が、タムロしていた。

「ただの喧嘩じゃねえな。」
 乱馬の顔色が変わった。
 かなりの手練の彼には、遠巻きに見ていても、何となく、喧騒の中央に異様な雰囲気を感じた。
「乱馬!あれ!」
 すかさず、あかねが指を指した。
「あれはっ!」

 喧嘩だという声に集ってきた人並み。わああっと、喧嘩している男たち二人の回りに人垣ができたところで「異変」が起こった。
「ふっふっふ、ひっかかったな、市井の諸君よ。」
 喧嘩していた男が二人とも、身を翻した。
 バッと着ていたハッピを脱ぎ去り、下から現れたのは「キャロットカンパニー」のいけ好かない制服、いや、戦闘服だった。

「やっぱり、奴ら、キャロットカンパニーの連中だ!」
 乱馬が叫んだ。

 乱馬が言うまでも無く、キャロットカンパニーの男たちは、両手を広げて、集って来た人々に対して、攻撃を加え始めた。

「あちょおお!集ってきた野次馬の人間どもの気を、根こそぎ、ごっそりといただくのよ!」
 背後で女性が叫んだ。

「キャロット・ママ@厚化粧まで居るわ!」
 あかねが声を荒げた。
 キャロット・ママ@厚化粧とはキャロットカンパニーのそこそこ部下を持っている、中堅ママさん管理職だ。日々の激務に肌は荒れ、その上におしろいを塗りたくっているので、厚化粧が壁と化し、醜い面を晒している。

「チェッ!ここは、変身しねえと…。」
 乱馬がバッと変身ツールのペンライトを空に掲げようとした。
「ダメよ、かすみお姉ちゃんに言われた事、忘れたの?」
 あかねが乱馬を止めに入った。
「あ…。そうか。戦闘スーツは「クリーニング」に出してるんだっけ。」
 乱馬が思い出して言った。
「そうよ!去年つけた闘いのシミを取るために、正月はクリーニングに出すって言ってたわ。」
「じゃあ、俺たちは変身できねえ…。っつうことは、素顔を晒したまま、闘えねえーっつうことか。」

 着ぐるみ戦隊、絶体絶命。


☆☆☆

「大丈夫よ。こういうときのためにって、なびきお姉ちゃんから預かってきてるの。えっと、確か、ブラジャーの胸パットフォルダーに挟んでたわねえ…。」
 そう言いながら、あかねが、胸元をごそごそっとやった。
「おい!こんな公道で、おめえ…何を。」
 傍で乱馬が焦った。
 あかねは首元鎖骨付近から、己の胸元向けて手を突っ込んで、ごそごそとやりだしたからだ。見ようによっては、自分の胸を触っているようにも見える。
「相変わらず、純真ねえ…乱馬は。」
 そう言いながら、あかねは、胸元から「ブツ」を出した。
「これよ!」
 あかねは小さく折り畳まれたそれを、乱馬の前に出した。
「それは…。」
「こうやって、親指でパッチンとやれば、ほら。」
 あかねが目の前で出したのは「ペンライト」ならぬ「筆ペン」だった。
「これは、携帯用の筆ペンよ。」
「んなこたあ、見たらわかる!これでどうやって、闘うんだって訊いてんだ!」
 乱馬が怒鳴った。案外、短気な男である。
「これも、着ぐるみ装着装置なんだって。」
「着ぐるみ装着装置?あの、合言葉でパッと着ぐるみ戦闘員に変身できる、便利道具と同じものなのか?」
 乱馬が目を丸くした。
「そうよ。もしものときはこれを使いなさいってなびきお姉ちゃんが。」
「ありがてえ!早速、行くぜっ!合言葉は「あいらーぶ、てでぃべあー!」
 乱馬は筆ペンを翳して仁王立ちした。
 
 ヒュウウーッ…。

 カサカサと木枯らしが枯葉を舞わせながら、吹き抜ける。

「おい。全然、変身しねえぞ…。それより、ほら…。」
 彼の翳している筆先からは、墨汁が滴り落ちている。
「俺って、まるでアホじゃねえか…。」
 わなわなと、筆ペンを持つ、手も身体も震えている。

「だからあ、合言葉が違うんだって。いつもの装置じゃないんだから。」
「それを早く言えーッ!」
 乱馬が顔を真っ赤にして叫んだ。
「合言葉は何だ?」
「えっと、確か、合言葉は…「あいらーぶ、ほっとどーっぐ!」」
 あかねが叫んだ。だが、再び、木枯らしが吹き抜けていくだけだった。
「おい…。それって、何の脈絡もねえんじゃねえか?」
 乱馬が穿って、意見しようとしたその時だ。

 一瞬、遅れて、あかねの手元が光った。
 眩いばかりの光。その中から、可愛らしい、着ぐるみが現れた。

「い、犬の着ぐるみ…。」
 乱馬が呆気に取られていると、あかねが叫んだ。
「ほら、乱馬も早く!あんたの合言葉は、「あいらーぶ、かませ犬よ!」
「な、何だよ、その「あいらーぶ、かませ犬」っつうのは!」
 顔を真っ赤にして、乱馬が反論すると、再び、目も眩まんばかりの光が筆ペンから発せられて、乱馬を包み込む。

 ボンッ!

「ワンワン着ぐるみ戦隊!着ぐるみホットドッグ・アンド・かませ犬の登場よ!」
「おい、だから、その「かませ犬」っつうのは、何なんだよ!」
 乱馬が叫ぶ。
「あんたの変身コードネームよ。決まってるでしょ?」
「決まってねえ!」
「乱馬、ネーミングにもめてる場合じゃないわ。ほら。敵よ。」
 あかねに促されて、我に返る。
 そうだ、己はキャロットカンパニーの悪の戦闘員と戦うために、変身したのだ。

「ぬぬぬぬぬ、これは見慣れぬ着ぐるみ戦闘員。ここで出会ったがうぬらの運の尽き!愚かな人間どもともども、精気を吸い取っておやり!」
 中堅管理職のキャロット・ママ@厚化粧が叫んだ。
「グエエエ。」
「ギエエエ。」
 悪の下っ端怪人たちは、キャロット・ママ@厚化粧の命令に従い、奇声を上げながら、乱馬とあかねに襲い掛かってくる。

「何の!負けないわっ!」
 あかねが気焔を上げて、怪人たちを跳ね除けようとする。

「おい、無理するな!こいつら、気を吸いやがるぜ。」
 乱馬が叫んだが、時遅し。

「きゃあああ…。」
 案の定、あかねの気を吸おうと、怪人たちが掌をバッと開き、手繰り寄せる。
「いやん!あたしの色気があっ!…。」
 着ぐるみホットドック、いきなり大ピンチだ。
 色気を吸い上げられて、力が抜けていく。

「こらあっ!これ以上、あかねの色気を吸い上げるなあっ!」
 怒った乱馬が怒気を張り上げた。

「ふふふ、馬鹿な奴よ。わざわざ、餌食となる、格好の気を与えてくれるとは。」
 キャロット・ママ@厚化粧がほくそえむ。
「へっ!てめえら、できるもんなら、思いっきり、気を食らってみろーっ!」
 乱馬は高揚した気を、一気に、怪人たちへと叩きつけた。

「ギャアアアアッ!」
「グエエエエエッ!」
 ボンと音がして、怪人たちが、前につんのめって斃れこんだ。

「な、何っ?我が手下どもが、斃れた?」
 キャロット・ママ@厚化粧が叫ぶ。

「ああ、俺の闘気を吸いきれなかったんだろ。こーんな下っ端じゃあな。」
 乱馬がにっと笑う。

「そうか…。既に、愚かな人間どもと、この小娘の色気とで、飽和状態になってしまっていたのかああっ!」
 キャロット・ママ@厚化粧が、大口をあんぐりと開き、頭をかかえこんだ。
 斃れ込んだ、下っ端怪人から、吸い込まれた野次馬の気やあかねの色気が、発散し、元へと返っていく。

「今度はてめえだっ!飛竜昇天破あっ!」
 乱馬は怪人どもから返って来る「気」の合間を縫い、決め技、飛竜昇天破を一発、お見舞いした。

「ぐうそおおっ!厚化粧の仮面が剥がれるう…。我が力が抜けるう…。覚えておれ!貴様、いつか倒してやるうっ!」
 キャロット・ママ@厚化粧の仮面が、乱馬の気によって吹き飛び、そのまま、地面へと、藻屑のように消えていった。

「ふっ!俺にかかればざっと、こんなもんでい!」
「やったわね、着ぐるみレッド改め、着ぐるみかませ犬!」
 あかねが後ろから栄光を称えた。
「おおお、着ぐるみかませ犬!かませ犬!」
 取り巻いていた、野次馬たちが、あかねの言葉に一斉に、乱馬を誉めそやし始めた。やがて、その声は大合唱へとなる。

「だからあ、その名を呼ぶな、ボケッー!」

 乱馬の雄叫びが、神社の鎮守の森いっぱいに響き渡った。


☆☆☆

「で?キャロット・ママ@厚化粧を、守備よく倒したって訳だね?」
 天道司令は、帰宅した乱馬とあかねをねぎらいながら、声をかけた。

「たく…。正月早々、あいつらが攻めてくるとは思わなかったぜ。」
「そうよね…。今まで少なくとも三が日は、全く動かなかったし、松の内まではやる気がなかったものねえ…。」
 あかねも同調した。
「そうね、キャロットカンパニーさんも、正月は本当は「かきいれどき」だって気付いたのね。ほら、最近は、元旦から営業している量販店だって増えてきてるもの。買いだめしなくて良いから、主婦にはとってもありがたいの…。」
 と、かすみがのっぺりと笑った。
「ってことは、恐怖の「年中無休時代突入」かよう…。勘弁して欲しいぜ。」
 乱馬がふううっと吐き出した。
「もっとも、悪の組織に「定休日」とか有り得ないから仕方がないんじゃないの?で、ハイ。」
 くすくすとなびきが笑いながら、二人の前に意味深に右手を差し出す。

「何だよ、その手は…。」
 乱馬が穿った顔をなびきに手向ける。

「何って、決まってるじゃない、リース代よ。」
 
「リース代だあ?」
 乱馬が声を張り上げた。
「一体、何のリース代なんだよ。」
「だからあ…。あんたたちの着ぐるみスーツはクリーニングに出してるでしょう?だから、代わりに着ぐるみスーツ、貸し出してあげたんでしょうが…。」
「貸し出したって…。あの「わんこスーツ」って有償だったのかあ?」
 素っ頓狂な声を張り上げながら、乱馬が言った。

「当たり前でしょう?わざわざ、九能財閥から借りてきてあげたんだから。…ってことで、有給は取り下げね。」

「ちょっと、待て!九能財閥がからんでるってことは…。おめえはロハで借りてきたんじゃねえのか?こら、なびき!」
 乱馬ががなった。
「ふっ!そんなこと。借りたのはあたしで、あんたたちじゃないの。あんたたちはあたしから借りたの。わかる?」
「そんなの、又貸しじゃねえかあっ!結局、おめえが得するんじゃ…。」
 納得がいかないという顔をしながらも、なびきには敵わない。負け犬の遠吠えだ。

「くそうっ!新年早々、や、やられたぜ…。」
「そ、そんなあ…。」
 乱馬もあかねも思い切り脱力した。
 新年早々、タダ働きだった。
「はああ…。今年も先が思いやられるぜ…。」
「本当は、なびきお姉ちゃんの方が、キャロットカンパニーの人たちよりも、凶悪だったりして…。」
 二人の溜息が重なった。


☆☆☆

 さて、こちらは、初詣に出たまま、「迷子」になった、響良牙。
「いったい、ここはどこなんだーっ?で、いったい、これは何なんだあ?」
 不良品だったのか、いきなりわんこスーツ。それも、白と黒の半分こ犬。
 新年早々、目出度く迷っていた。

 完

2006年1月6日
あとがき(一之瀬けいこ)
「着ぐるみ戦隊」は私が主催しているRNRの同人誌が生み出した「不朽の名作」です。
原案はいなばRANAさん、それをコミック化したのが、甘栗ケンさんなのであります。
本作はそのシリーズの中の第二誌「HONEY SWEET」(完売)に掲載された作品を
ベースに敷いて、創作させていただきました。
なお、当然の事、ちょっとした『改変、改作』も勝手にしております。
例えば「総司令」は同人誌では謎のパンダだったとか…(汗
実は、今年新年、第一発目に書き上げた短編作品であります。
ちょっと悪乗りしすぎた気もしますが…書いていてとっても楽しかったです。。
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