A hotel with many orders
chapter7


緊張をほぐすかのように始まったいつもの喧嘩。
この二人、すっかりこの習慣が染み付いてしまっているようで、いつもの様に変態だの、寸胴だの先ほどの内容をすでに脱線してしまっていた。
こうして罵り合いのドツボにはまっていき、喧嘩最高潮になったまさにその時だった。

きぃっ・・・

「ん?」
「え?」

互いに一歩も引かずに、にらみ合って言い合う近くで音がした。
乱馬とあかねは揃ってその方向を見た。
すると一番近くのドアが開いていた。


二人はドアが開いているのを見ると、先ほどと同じように言い合いを始めた。
声のトーンだけを下げて。

「ちょっ…あんたのせいで怒られるんじゃない!?」
「なっ、おめーがそもそも妙なこと言うからだろっ?」
「妙なことって、あんたが変なこと考えるから・・・」

止める者もなく、ホテルだという事を忘れ廊下で大声で喧嘩していたもんだから、お客の邪魔になったのでは・・・怒られる・・・そう思った二人。
身構えて扉の向こうから来る人を待った。



「・・・・・・。」

しかし数分待っても出てこない。

「なんだ・・・?誰も出てこねーじゃねーか。」
「本当・・・何なのかしら?」

乱馬とあかねは顔を見合わせると頷きあい、ドアの方に近づいた。
失礼だとは思いながら、ドアの後ろに隠れてちらりと部屋の中を覗いた。
すると部屋は静まりかえっており、真っ暗だった。

「へ?どういうことだ?真っ暗だし、人の気配感じねーぞ。」
「ウソッ…だってドアが開いたのに・・・。」

乱馬の後ろからドアの向こうを伺うあかね。
あかね自身も乱馬と同じように、気配を感じることはなかった。

「思ったより広そうだな。ちっと、入ってみっかーーー。」
「ちょっ……!!イヤよ気持ち悪いっ!だって人の気配感じないんでしょ?なのにドアが…」
「だからそれを調べるんだろ?」
「そ、そうだけど・・・。」
「怖いんならおめーそこで待ってろ。」

躊躇いがちなあかねを見て、乱馬はそう言って中に入ろうとした。

「ま、待って!!あ、あたしも行く!」
「あ?待ってろよ。怖えーんだろ?」
「い、いい。廊下にいても一緒だもん!」

あかねはフロントで感じた気持ちを蘇らせていた。
廊下だけでも一人で待たされるのは嫌なあかね。
そこには不安いっぱいな表情を浮かべていた。

「しょ、しょーがねーな・・・。」

乱馬ががりがり頭をかきながら、ふと視線を動かすと、目に部屋番号が入ってきた。

「えっ!?おいっあかねここ……」
「何?」

あかねは乱馬の視線の方向を見た。


201号室


そこには201号室と書かれていた。

「え?あれ……ここって……」

二人は手に持っていたカードキーに視線を落とした。

「間違いねー・・・。」
「ここは・・・。」

自分たちの泊まる部屋だった。
何もしていないのに何故か開いたドア。
ドアが開く音を耳にしたのも間違いない。
あかねは背中がゾクリとするのを感じた。

「や、やっぱり、ここ変なホテルじゃない……?」
「自動で開いたのかもしれねーぞ。気をきかせてくれたんだぜ、きっと。」
「んな訳ないでしょ!そんな仕組み聞いたことないわよ!自分で鍵を開けるのよ!」
「そ、そうか?…じゃぁ」

二人は勝手に開いたドアの前で暗い部屋の中をじっと見つめていた。



しばらくドアの前で部屋を伺っていたが何も起こらない。
乱馬はどうするか考え込んでいたが、決意すると部屋の中に向けていた視線をあかねに向けた。

「な、何?」

真剣な表情をする乱馬に思わず動揺するあかね。

「入るか。」
「え!?」
「え…も何も折角取ったんだから入るしかねーだろ?それともおめーそこにいるか?」
「な…でも…何だかその部屋……」

そう言ってあかねはまた部屋に目を向けた。
しかし乱馬はあかねの言葉を聞かずに入ろうとする。

「ちょっ……ちょっと待って!!」

乱馬の服を引っ張って引きとめようとしたが、逆に乱馬に腕をつかまれて中に入ってしまった。

「ら、乱馬っ!」

あかねの声が廊下に響いた後、ドアが静かにパタンと閉まった。


2003.10.4
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