スクリーンの指示通り、受付にある色々なボタンを操作していると、カードキーを手にする事が出来た。
「…い、行くか。」
手に入れたカードキーを片手に、しばらく躊躇っていたが、乱馬が口を開いた。
乱馬の声にぴくっと反応し、何もない様な素振りで答える努力をするあかね。
「そ、そうね…こんな所にいても、仕方ないし…。」
「「あ、あははは…。」」
何故か起こる笑い。笑う事で、お互いの心に抱えている思いを誤魔化そうとしていた。
極限まで追い込まれた事が、2人をいつも以上に鈍感にさせてしまっていた。
が、気付いてしまった。
2人きりで泊まるホテル……。
気まずい雰囲気のまま、乱馬とあかねはホテルの案内に従って、部屋へ向かった。
201号室は2階。
2階だが、エレベーターで上がる様に指示されていた。
ロビーを抜けてすぐエレベーターホールがあり、2人を待っていたかのように、開かれているエレベーターのドアへ滑り込む。
ドアが閉まると、一層気まずさが増した。狭い密室なのだから余計に意識してしまい、視線のやり場に困る。
そうなると、エレベーターの中の自然現象が起きる。
2人は上を見上げ、いつエレベータが着くのか…とぼんやり階数が表示されている電子掲示板を眺めていた。
気まずい雰囲気のせいか、エレベーターの進む速度を遅く感じさせられているようだった。
長い時間…その雰囲気に耐え切れなくなったあかねは、静けさを破る様に、口を開いた。
「……部屋はどんな風なんだろうね。」
いつも通りに何とかしようと、平静を装って努めて明るく言ってみた。
複雑な想いは色々あるが、折角だからステキな部屋が良いな…あかねはそう思っていた。
「………ま、こんな所にあるようなホテルだから……」
そう言いかけて、慌てて発言を止める。
今まさに乱馬もその事を考えており、考えていたまま口に出しそうになり、乱馬は一瞬焦った。
乱馬はとういうと、こんな山奥に隠れるようにあるホテルを、普通のものでは無いのではないかと考えていた。
しかしそれはそれで良いとも思っている。寧ろその方が安く済むかもしれないから。行った事は無いが、友人達の話から相場は聞いていた。
が、いかにも…であったら……と部屋に行く前から色々と余計な心配をしていたのだ。
「……乱馬?」
何か考え込んでいるのを見て、あかねは声を掛けた。
じっとコチラを伺うあかねを見て、こんな時に不謹慎な事を考えていたと思われては…と乱馬は口をつぐんだ。
「だから……何?」
乱馬の考え等わかるはずもないあかねは、乱馬の言葉の続きを待った。
「い、いや…何もねぇ…気にするな!」
「何よっ?」
「べ、別に…」
「気になるじゃない!」
「き、気にするなっ!」
「言いなさいよっ!」
気にするなと言われれば、余計に気になる。あかねは乱馬の胸倉を掴むと、たてによこにと体を揺さ振った。
「言いなさいっ!」
「こ…こらっ…離…」
そう言いかけた時、これ以上聞かないでくれっ!という祈りが通じたのか、"ちーん"という音と共に、エレベーターが着き、ドアが開いた。
「お、おー着いた着いた!!」
助かった…とばかりにドアが開いた瞬間、乱馬は勢いよく外に出ようとした。
が、
「ら、乱馬っ!!」
あかねがそう言うと同時に、乱馬はべしっ!と何かにぶつかった。
「ってーーーっ!!な、何だ!?」
良く見ると、エレベーターのドアの前を遮る壁があった。
それはドア。何故かエレベーターのドアの前に立ちはだかっていた。
「何でこんな所にドアがあるんだ!?」
「本当に変ね。それに危ないわよね……ん?」
あかねはドアを見ると、そこに1枚の張り紙があるのに気が付いた。
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