扉を開けると、ロビーは外観から想像するより、広く感じた。天井を見上げれば、銀製のシャンデリアが光り輝き、床は大理石。壁には細かい刺繍がされた絨毯の様なものを飾っている。外観からは想像の出来ないような、思ったよりも豪華な作り。
「お、おいっ…ここ、高そうじゃねーか?」
「ほ、本当…お金足りるかしら…」
森には似つかわしくない様なホテルの価値を感じる。内観に圧倒されつつ、2人はフロントへ向かった。
「なんだぁ…!?誰もいねぇじゃねーか。」
気を張ってフロントに来たが、誰もいない。そして出て来る気配も無い。内観の気高さと裏腹に、お客をほったらかしにしている様な、この状況に乱馬は気が抜けた。ふと見るとフロントの奥に扉がある。
「すいませーん!」
その向こうに、誰か待機しているかもしれないと、声を掛けてみた。が、まるで反応は無い。ホテルは2人以外いないかの様に静まり返っている。森と同じ様に、2人の声や行動で生まれる音しかない。
「ね、ねぇココ気持ち悪くない?」
その様子に、急に不安になり出したあかね。
「大丈夫だろ?錆びれてる訳じゃねーし、きれいなのは人が手入れしてるからじゃねーか。ほら花だって。」
あかねは、乱馬に言われて花に目をやった。イキイキと花開く様子は、確かに手入れされている証拠。とは言えども不安が残らない訳はない。とにかく誰かいないかと、再びあかねが声をかけようとした時、
「おい、これ見てみろよ」
乱馬がそう言ってフロントの右端を指差した。そこにはプレートがある。
−お泊の方は右の赤いスイッチを押して下さい。−
「何、これ…?」
「呼び鈴じゃねーの?とにかく押してみようぜ。」
"ぽちっ"
乱馬がボタンを押すと同時に、フロント内に"ウィーン"とスクリーンが降りて来た。そこには
-当館はセルフサービスでございます。どなたも決してご遠慮はありません。本日はもう、2階201号室のみの空きとなっておりますので、そちらでお願い致します。-
そう画面に映し出されていた。
あかねはそれを見て安心した。誰かが画面の部屋情報の表示については操作しているであろうと感じ、そして自分達以外にも誰かがいる事を示していたのだから。
「人…いるんじゃない。」
「だな、少なくとも部屋管理しているヤツはな。」
「部屋もあたし達で満室だし、お客さんもいっぱいなのね…。やっぱり皆、迷ってココにいるのかしら?」
「その割には静か過ぎて、俺達しかいねぇみてー…」
「「……!!」」
その言葉に言った本人もあかねもはっとし、顔を見合わせた。休む事ばかりが頭を巡っていたが、考えてみれば2人きり。人がいる事に安心し、森で迷っていた事を忘れる様に、急に心がざわめき始めた。
|
|