A hotel with many orders
chapter2


しかし歩みを進めても、視界に入るものは、変わらない景色とお互いの姿のみ。父達の気配どころか、森の生気さえも感じない。
自分達声と、足跡のみが響く無音の森。
この状況下に、乱馬は段々疑念が生まれ始めていた。修行慣れ、いや自然慣れしているので、迷ったとしても、今までの経験では1人でもは何とかして来れた。更に言うなら、自分達の父がいるのだから、2人を辿る事で、迷い道から開放される事は容易いはずであった。

(…どうなってやがんだ…)

歩けば歩くほど、この森、乱馬自身をも不安にさせ始めた。
しかしそれをあかねに見せる事は出来ない。自分が一番しっかりしなければ、辿り付けない。乱馬はあかねをちらっと見た。あかねの息は上がっている。必死について行こうとする姿に、こんな時だからこそ意地張って、素直に言うハズが無いと思っていても、聞かずにはおれなかった。

「あかね、大丈夫か?ちょっと休むか?」
「えっ?」

下を向いて歩いていたあかねは、突然振り返った乱馬に驚いたが、顔を上げると同時に疲労を隠す様に、悪戯っぽく笑って言った。

「…あたしは大丈夫よ。乱馬こそ大丈夫?疲れたの?」

(やっぱりな…)

こんな時、"疲れた"等と嘆く様な性格ではない事は、乱馬自身が一番知っている。
慣れない道に、更に道に迷っているという事で、かなりの疲労と不安を抱えているはずだと乱馬は思っていた。無理矢理休むと言っても、きっと頑張ると言い張るであろうあかね。乱馬はあかねの気持ちに応える様、いつもの様に強気の姿勢で、言い放った。

「んだよ。俺を誰だと思ってんだよ。コレ位大丈夫だぜ?」

その様子にあかねはふっと笑うと、

「…あっそう!あたしだって大丈夫よ。さっ行きましょう!」

そう言い、下向いて歩くのを止め、前をしっかり見据えて歩き始めた。



(ありがとう、乱馬…。情けないけど、あたしは何も出来ない…。)

乱馬が一生懸命道を探しているのに、自分は役立つ事もない…足手まといにならない様にと、しっかり着いて行く事が、あかねに出来る最大の事だと思っていた。
あかね自身も何が起こるか判らない様な、不気味さを森から感じ取っている。それだけに、その気持ちも大きかった。

もういちいち喧嘩している場合ではない状況である事は一目瞭然ではあるが、軽い憎まれ口を叩く事でいつもの調子を取っていた。


(あかねの為にも何とかしねぇと…。)
(乱馬が一緒だから頑張れる…。)

互いの存在を励みにし、気持ちを支え合いながら、2人は歩き続けた。
2003.1.23
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