A hotel with many orders
chapter1


傍からはカップルにしか見えない、2人の若者が、大きなリュックを抱え、深い森を歩いていた。
しかし、カップルに見えるだけで、会話には甘い言葉は全く無い。聞こえるのは喧嘩している会話ばかりである。

「道あってるのか、さっぱりわからねぇな。」
「本当…お父さん達に、地図位貰っとけば良かったね…。」
「ったく、無責任親父のせいでこんな目に…」
「もうっ!グチグチ男らしくないわよ。大体乱馬があたしに喧嘩ふっかけなければこんな事にならなかったでしょ?」
「おめーがこんな所来てまで、可愛げのねぇヤキモチ妬いたのが原因だろっ?」
「なっ、何であたしのせいなのよっ。自惚れないでよねっ!!だーれがあんたみないな変態!!」
「んだとーーっ!あかねみたいな寸胴女に、変態だなんて言われたくねぇー!!」
「なぁんですってっ!!」
「何だよっ!!」
「「……ふんっ!!」」

森に響き渡る、2人の若者…乱馬にあかねの喧嘩。両思いでありながらも、周囲の冷やかしに邪魔され、中々恋人になれない、意地っ張り同士である。そういう関係を長く続けていたせいか、口を開く度、この通りなのだが、実は今、喧嘩している場合では無い。

2人は深い森を歩いていた……のではなく、完全に森の中で迷っていたのだ。



事の発端は、小さい連休を利用して、乱馬親子にあかね親子で修行に行こうという父達の提案だった。その修行場へ向かっていた際、ほんの些細な出来事で、乱馬とあかねは喧嘩になった。しかし父達は、"いつもの事。すぐに追いつくだろう"等と勝手に思って、先に行ってしまった為、そのお陰ではぐれてしまったのだ。
気が付けば、父達の姿がすっかり見えなくなっていた。しかし、地図は無くとも、父達の気を辿ればすぐに追いつく。何の問題も無いと思っていたのだが、乱馬は父達の気を全く感じる事が出来なく、一向に目的地に辿り着く事が出来なかった。
仕方ないので、感じ取れないながらも、どこかにあるかもしれないであろう気を探りながら、2人はとにかく歩みを進めるのであった。
2003.1.20
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