Presents by princee
chapter3


「ったく、おめーらのせいで恥かいたじゃねーか。」
店長が去ると、乱馬は溜息交じりでそう言った。
しかしさゆりもゆかもそんな言葉にこたえていないので、店長を登場させておきながらも、余り乱馬に対しては悪びれる様子も無い。
「さぁ乱馬くん、しっかりあたしたちをもてなすのよ。オーダーは通したから早く持ってきてよ。」
「お、おまえらというヤツは…くっ。これだから…。」
不貞腐れた面持ちだが、今は店員とお客様の関係。ぐっと我慢すると、仕方なしにさゆりの言う通り、奥の方へ引っ込んだ。



「「美味しそう〜〜!!」」
乱馬が即座にケーキセットを持ってやって来て並べると、さゆりとゆかの目の輝きが変わった。
「美味しそう!…じゃなくて美味いんだよ。食ってみろよ。」
そう言いながら、乱馬は空いているあかねの隣の椅子に腰掛けた。

「美味しい〜!!」
「とろける〜!!」
「「最高!!!!」」
二人はきゃあきゃあ言いながらあっという間に食べてしまっているが、それに比べあかねは少々元気がなく、ケーキにも手をつけていない。そんな様子に乱馬は顔を覗き込む。
「そういえば、何だよあかね。さっきから黙りこくって。」
悪友相手に苦戦していたが、あかねが黙っているのに気付いてない乱馬ではない。いつもと様子がおかしいのに、乱馬は声をかけた。
「え!?べ、別にっ」
急に話し掛けられ、あかねはどきりとした。

長身で誰よりも目立っている様に見える乱馬。
他のウェイターが来る時よりも、女の子達の視線は熱くなっており、自分自身もそんな女の子達の様に乱馬の姿に先程まで見惚れていた。

しかしそんな事がバレたらからかわれるのは必至。あかねは見惚れてた事と心配していた事を悟られまいと、平然を装うつもりで答えた。

が、残念な事に、悪友にはお見通し。
「ははーん。あかね…乱馬くんの姿に見惚れてたんでしょ。」
さゆりは面白そうに、そう言うとあかねを肘でつついた。
「なっ!んなわけないでしょ!」
戸惑っていたが、からかいが入ったのであかねはいつもの調子を取り戻すと、大きく反論した。
「素直じゃないわねーあかね。」
「だ、だから違うって!」
「不覚にも私達も格好いいと思ったんだから、あかねはそれ以上でしょ。」
不覚にも…と言う言葉に不満一杯の乱馬だったが、静かに三人のやり取りを眺めている。

「誰がこんなヤツにっ!!」
「チャイナもいいけど、ギャルソン姿も格好良い〜…て感じ?」
そういうとさゆりもゆかも笑った。
「だーかーらー…」
ちょっとだけならまだしも、からかい出したら止まらない悪友達。
『いいかげんにしてよねっ。』
あかねがそう叫ぼうと口を開いた時、
「い……むぐっ!」
突然口の中に甘さが広がった。

さゆりやゆかに向かって反論しようとしていた所の出来事に、あかねは一瞬何が起こったのか判らなかった。
が、次第に甘さはケーキの味である事が理解出来た。
突然口の中に舞い込んだケーキ。
(えっ何で!?)
そう思いながら、呆然と口を動かしていると、
「ごちゃごちゃ言ってねぇでまずは食えよ!」
そう言ってフォーク片手にこっちを見ている乱馬がいた。
「グルメデフォアグラだぜ。」
「なっ…!!乱馬あんたねぇっ……」
グルメデフォアグラなんて言って笑う乱馬に、急に口に入れた事を怒ろうとした。

しかし、今度は見える様にフォークを差し出すと、すっと口の中にケーキをおさめられた。
(なっ!!)
「ったく見惚れたのは判ったから、とりあえず食えって。ほらっ。」
フォークをあかねに返しながら、ニヤリと笑いながらからかう乱馬。
すると、あかねはフォークを受け取ったまま俯いてしまった。
「…ん?おい、あかねどうしたんだよ。」
ばかじゃないの!と返って来るものと思いきや、いつもの反応と違い、無反応なあかねに乱馬は首をかしげた。

「乱馬くーん…あかねにいつもそうやってあげてる訳?」
「想像以上の甘さね。」
テーブルを挟んで、そんなやり取りを見ていたさゆりとゆかは、面白そうに笑うと口を開いた。
「んあ?何が?」
あかねの行動だけでなく、さゆり達の言ってる事まで、訳が判らないと首をかしげていると、さゆりもゆかも興奮状態で言った。
「ちょっちょっと!!今の無意識なわけ?さすが許婚よねーっ!!」
「は?」
「"は?"じゃないわよ!」
「はー信じられないっ!…"ほらあかね食えよ"」
「"ありがとう乱馬っ。"」
さゆりはゆかにあーんとさせると、ケーキを食べさせてあげる行動を真似た。
「いやーん!あかねにそうやって食べさせてあげてるのねっ!?」
「ラブラブねあんた達!」
「これは大介やひろしにも報告しなくっちゃ!」
「……へ…?な…なっ…ちっちがっ……!!」

ようやく乱馬は二人の悪友の言葉で恥ずかしい行為をしたのに気が付いた。が、遅かった。
「んなこといつもしてねーぞ!こ、こらっ!」
必死で否定するのも虚しく、さゆりとゆかは顔を見合わせ頷くと立ち上がった。

「はぁ…ケーキだけじゃなくて、あんた達の姿にもおなか一杯だわ!」
「「ごちそうさまっ。」」
「お、おいっ!!」
「じゃねー。」
「お幸せに〜!」
さゆりとゆかは言うだけ言うと、先に帰ってしまった。真っ赤になったままの乱馬とあかねを置いて。






かくして、ウェイターとお客が、気まずそうに並んでぽつんとテーブルに残される。
あかねは俯いたまま黙々とフォークを動かしていた。

「えっと……う、美味いだろ?」
「え?う、うんっ!!美味しい!!」
「そ、そうだろ?美味いだろ?は…ははっ…」
気まずい雰囲気を打破しようと乱馬は口を開いたが、会話での気持ちの回復は出来てなかった。
照れやな二人にとっては無理な話で、拭いきれないこの雰囲気。

乱馬はあかねが完食するのを静かに見届けると、
「う、裏口で待ってろよ。」
そう言って逃げる様に立ち上がって奥へ消えた。






 スイマセン「君が言ってた子」この店長の台詞は次回こそわかりますので(汗
 その3では、乱馬があかねにする"グルメデフォアグラ"を書きたかっただけ(笑
 話の伏線として全くいらない小ネタばかりを入れるから、
 無意味に長くなってしまうー。

 次回作読んでいただければ幸いです。
2003.4.28


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