Presents by princee
chapter2


「ら、乱馬!?」「「乱馬君!?」」「「「何してんのよ!?」」」
「へ……?」
おマヌケな声と共に、恐る恐る振り返ったウェイターは乱馬だった。
まさか三人がここにいると知らず、普段とは別人の様な印象で現われていたウェイター乱馬。
ギャルソン姿が妙に板についており、いつもの印象をガラリと変えていたので、今まで店内をうろついていても三人は気が付かなかったのである。
また、乱馬も忙しかったのか、三人に気がついていなかった。

驚く三人の客に、思いがけない出会いに驚くウェイター一人は、しばらくその場で固まっていた。
しかしその沈黙は一瞬であった。

「お、おまえら!!な、なんでここに!?」
慌てた様子で言う乱馬。
「それはこっちの台詞よ〜!あたし達はここにお茶しに来ただけよ。それより…ちょっとー修行に行ってたんじゃないの!?」
乱馬の言葉にまず反応したのはさゆりであった。そしてさゆりが口火を切ると、それに乗ってゆかも口を開く。
「何!?バイトしてるの?隠れてやらなくてもいいじゃない〜!」
「こんな面白い事黙ってるなんて、ひどいわ!」
「にしても中々格好良いじゃない〜。」
「ほら、あかねも何かいいなさいよぉ!」
乱馬に口を挟む隙も与えず、さゆりとゆかはきゃぁきゃぁ詰め寄っている。
いつも以上に格好良く見える乱馬。制服が体のラインに沿ってきれいにフィットしており、まるで引き締まった体を主張している様であった。それがいつもと違ってセクシーにも見せていた。
そのせいか、乱馬とあかねの関係に興味はあっても、乱馬自身に興味のない悪友も自然にテンションは高くなっていたのだ。

しかし二人とは逆に、その横で一人じっとして黙っているのはあかね。
あかねは乱馬に見惚れていた事もあるが、こっちの心配をよそに修行と言いながら隠れてバイトをしている乱馬に怒りと、それに勝る悲しみを覚えていたので、複雑な思いにどう対応して良いか戸惑っていたのだ。
だから何も言わず、その様子を見ているだけであった。



「で、ちょっとどういう経緯なのよ?」
「ねぇもったいぶらずに教えてよ!」
そんなあかねの様子にも気が付かず、マシンガンの如く話し続ける悪友二人。まるで止まる事を知らない。
「ったくおめーらうるせーぞ!!迷惑だから、ちったー落ち着けよ!!」
乱馬はその勢いにゲンナリし始め、店内を騒がす二人に向かって注意を促す。
しかしこの二人、盛り上がったら止まるはずはない。
「こんな珍しいもの見たんだもの!落ち着いてられますか!」
「これは大介やひろしにも伝えなくちゃーね!」
「いやーん電話しよー!」
「ったく、これだから黙ってたんだよ。って、こ、こら携帯しまえっ!人をネタにすんなっ……!!」
完全にさゆりとゆかのペースに巻き込まれた乱馬は、いつの間にか騒ぎの中心になりつつあった。
騒がしいやり取りを繰り返す迷惑な客にウェイター。

「あ、もしもし大介〜。」
「こ、こらっ!よ、余計な事するなっ!」
そう言うと乱馬はさゆりから携帯を取り上げた。
「何でよー絶対面白いのに!」
むっとするさゆりを見て、乱馬は溜息をつくと思わず叫ぶ。

「あのなぁ、店での携帯使用は禁止なんだ!!他の客に迷惑になるから静かにしてろ!」

「もう充分迷惑なんだけどなぁ…。」
乱馬がさゆりとゆかに一喝したその時、背後から男の声が聞こえた。
乱馬達はその声の方を向くと、そこには言葉とは裏腹に面白そうに笑う、コックコートを纏った中年男が乱馬の肩にぽんと手を置きながら立っていた。
その姿を見て乱馬は引きつった。
「げ………店長。」
「「店長?」」
「調理中だったけど、向こうまで聞こえる騒ぎだったから何事かと思ってね。」
コックコート姿なだけに、パティシェであろうこの店長は、手を止めて騒ぎの様子を見に来たのであった。
店長の言葉に静かになる乱馬達。
ふと周囲を見渡すと、ほとんどの視線が自分達に向いている事に気が付いた。

「知り合いかい?」
店長は近くにいるあかね達三人に目をやるとそう言った。
「はぁ。」
乱馬はバツの悪そうな顔をしながらそう答えると、その言葉に続ける様に、
「すいません…お騒がせして。」
あかねは騒ぎの外にいたのだが、頭を下げた。
「いやいや。」
あかねのその姿に店長はにこりと笑うと、あかね達三人と、乱馬を見比べた。

「…ほーーーーっ…成る程…。」
しばしの沈黙の後、店長はそう言うと、乱馬を見てニヤリと笑った。
「な、何ですか。」
その顔に怪訝な顔をすると、"何がじゃないだろ?"とばかりに店長は乱馬の肘をつついた。
「早乙女くん、絶対秘密にしたいっていうから会えないと思っていたけど…ねぇ…」
「て、店長!!」
何か意味ありげな言葉に、乱馬は余計な事を言うなとばかりに、軽く睨むとその続きを阻止した。
「「「え?」」」
「あ、いやいや。早乙女くんもこんな元気で可愛いガールフレンド達を隠しておくなんて隅に置けないねぇ。」
あかね達三人がそう聞き返すと、店長は慌ててそう言ってわははと笑った。
毎度ながらさゆりとゆかのペースに巻き込まれ、迷惑を蒙った乱馬は、バイトが終るまでは一生隠しておきたかった…そう思う。

「ったく…こいつらのどこが可愛いんだよ…。」
溜息をつきながらそう言う乱馬。
その乱馬の言葉を聞き逃さなかったさゆりとゆかは、きっと乱馬を睨むと、互いに顔を見合わせた。
「早乙女くん、女の子に向かってそんな事言っちゃダメだよ。」
乱馬の言葉に店長がそう言った時、さゆりとゆかは、店長の前にあかねを差し出した。

「店長さん、いいんです。だって乱馬くんにとって、可愛いのはこの子だけですからね!」
「なんせこのショートカットの子は将来の妻で、ラブラブですから。」
さゆりとゆかはそう言うと笑った。
「「なっ!!」」
さゆりとゆかの言葉に乱馬とあかねは真っ赤になりながらも猛反論をしようとすると、
「本当かい?やっぱりね!」
店長が思いがけない事を言った。それに食いつくのは、さゆりとゆか。
「やっぱりって…」
「判ったんですか?」
「まぁ、早乙女くんと彼女がラブラブだという空気はかなり伝わって来たからなぁ。」
「「きゃーさすが店長さん!!」」
店長が気さくな感じで対応するので、さゆりもゆかもすっかり店長と打ちとけ、乱馬とあかねを見て笑っている。
「そうかな。いやわかりやすいからな〜。」
「て、店長!」「て、店長さん!」
「おー息もピッタリだな!」
はもる乱馬とあかねの言葉に、店長まで一緒になってからかい始めた。



と、その時あかね達の席の後ろからガタン!!と音がした。

音のする方を一斉に見ると、二人の少女が立ち上がって呆然と乱馬達の方を向いていた。
「あ…」
すっかり忘れていたが、元々この二人、乱馬をご指名していた。
しかしあかね達の登場で、すっかり蚊帳の外にされたままほうって置かれていた。
乱馬は挨拶しかしていない事を思い出すと、申し訳なさそうな顔をして近付いた。
「あーえっと……す、すいません!今オーダー聞きますね。」
乱馬がテーブルの傍に来てオーダーを取ろうとすると、
「いいえ…もういいんです。」
「判りました。諦めます。」
少女達は乱馬達のやり取りで、念願であった名前を知る事は出来たものの、その代償にあかねという存在を知ることになったので、余程ショックだったのだろう、その言葉を残すと少女達は走り去った。

呆然と佇む乱馬。
「………は?何?オーダーを諦めるのか?」
自分を目的に来ていた等という理由を知る訳もない乱馬は、二人の行動に、訳が判らないと言った顔をしていた。
もちろんこの二人だけではなく、乱馬に視線を送っていた女の子達も、このやりとりでがっかりしていた。
(何だやっぱり彼女持ちか。)
店のあちこちからため息が聞こえていたのだが、当の本人は気付いていない。

「乱馬くんも罪ね。」
「本当に。あかねがいながら…ねぇ。」
さゆりとゆかはそう言いながら、溜息をついていた。
「ったく…何なんだよ。」
先程の状況が全く理解出来ない乱馬は面白くなさそうな顔をしている。
「わははっ!早乙女くんはウチの看板ウェイターだからね!ささっそろそろ仕事に戻ろう!にこやかに頼むよ早乙女くん!」
「は、はい…。」
店長は乱馬の返事に頷き、去ろうとしていたが、何か思い出した様に立ち止まった。
「…あそうそう、早乙女くん、この子達におもてなししたら、君上がっていいから。」
「へ?」
「遠慮はいらないよ。ね。」
そう言うと乱馬の肩をぽんぽんと叩いた。
「え、でも…」
迷惑をかけたので、悪いと思った乱馬は遠慮がちにそう言うと、"君が言っていた子、会った時一目でわかったのは本当だよ。君も中々やるね!折角だから一緒に帰りな!"そう店長はこっそり乱馬に耳打ちした。
「なっ!!」
真っ赤になっている乱馬に店長はまた"わはは"と笑うと、あかねに意味ありげな笑いを浮かべた。
あかねは今の笑みの意味が判らなかったが、にっこりと微笑み返す。
「…じゃー皆さんごゆっくり。」
そう言うと店長は去っていった。


店内は元通りの雰囲気に戻り始めていた。


すっかりUP忘れていたこの作品。
 ただ乱馬にギャルソン姿させたかっただけで、1回で終るはずが、UP前に手直したら、
 無意味にどんどん長くなってしまった!連載にするほどでもないネタなのに(汗

 「君が言ってた子」この店長の台詞の意味は次回わかりますので。
 それにしても仕事しろよ…そして店長怒れよとツッコミながら書く私。

 あと2回で終ります!…多分。

 次回作読んでいただければ幸いです。
2003.4.24


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