Presents by princee
chapter1


高校2年生の春休み、乱馬は1人修行の旅に出掛けた。折角の休みだっていうのに、
「あたしとは過ごしてくれないわけ!?」
なんて、素直に言えるわけもなく、少々…いや思ったよりもあかねは寂しい気持ちで過ごしていた。
挌闘に関して、自分を絶対に甘やかさない乱馬。
そんな所も格好良いかも…今まではそんな風に思えなかったが、最近ココロの中では素直になる事が出来る。
素直な方が気持ちも楽な事に気付き、そして何よりそんな成長した自分が嬉しい。
もちろん、素直なのはあくまで、"ココロの中"の話で、口には出せないが。
呪泉洞での出来事以来、他人からは見えない程の小さな変化が、起き始めている。
そんな中のあかねのココロの改革…自分の気持ちにはウソをつかない。
誤魔化してきた気持ちと正面で向き合うのは、出来そうで出来ない事である。


「1週間で帰るなんて言いながら、もう2週間も過ぎてるわよ…」
部屋でファッション雑誌を開いて眺めてはいるが、考えるのは乱馬の事ばかり。
乱馬がいればいつもドタバタとし、一日はあっという間に過ぎて行くのだが、たった1人がいないだけで、こんなにも時間の流れがゆっくりなのか、と改めて思ってしまう。
よりによって乱馬が迷子!?それともまさか怪我でも!?
毎日こんなに心配し、不安になっているというのに本人はどうしているのか…。


RRRRRR…RRRRRRR…
(電話だ……もしかして……まさかね………)
考えとは裏腹に表情は期待で一杯のあかね。

「あかねちゃーん!」
下からかすみの声がする。
(…まさか!?)
「あかねちゃーん!!」
(でも…)
高鳴る鼓動を落ち着かせながら階段を降り、かすみから受話器を受け取ろうとする。
「あかねちゃん。さゆりちゃんからよ」
(…そ、そうよね。んなわけないよね。)
乱馬からではなかった…そんながっかりした様子が解ったのか、かすみはクスッと笑って去って行った。


「もしもし。」
『あかねぇ?…暗いわねぇ…あたしの電話では不服なのかしらぁ?』
普通に出たつもりが、相変わらず鋭いさゆりにはがっかりした感じが読み取られていた。
「そんな事ないわよ。どうしたの?」
『さては誰かさんの電話でも待ってたのかしら?まだ修行から帰ってないの?』
努めて明るくし、話題を逸らそうとするが、"どうしたの?"は、かき消され、興味は誰かさんへ向いてしまった。
「べ、べつにそんなんじゃないわよ!」
親友の前でもついムキになって否定してしまうのは毎度の事、冷やかされれば冷やかされるほど、素直になれるはずもない。
『ふーん。そうなんだ。寂しいのね…でも大丈夫よ、すぐに愛しい妻の元に帰ってく・る・か・ら』
「もう、そんなんじゃないって!!…だから、どうしたのよ?」
『えっ!?あ、そうそう!!ちょっと遠いんだけど、オシャレな雰囲気で、超美味しいケーキ屋さんが出来たの。明日そこにゆかと3人で行かない?』
「…え…」
オシャレな雰囲気に、超美味しいケーキ、そして暇していた所の嬉しいお誘い。
しかし乱馬が気になるあかねは即答出来ずにいた。
『も〜心配なのは解るけど…。乱馬君に限って大丈夫よ!修行だっていつもの事でしょ?愛しい妻を残して消えたりしないわよっ。だから、行こ?』
「べ、別に乱馬の事なんかっ!か、関係ないわよっ!」
完全に見透かされたさゆりの発言であったが、否定はしない訳には行かないあかね。
「行く!行くわよ。」
"乱馬の事は無関係"と言うが為に、ケーキ屋へ行くのは決定となった。
『はい!決まりね!ケーキ屋さん、かなり良いらしいわよ〜!楽しみよね〜。まぁ相手があたし達じゃ役不足かもしれないけど我慢してね!』
「もうっ!だから関係ないってば!!」
『強がらなくてもいいのよぉ?』
さゆりはあかねの反応が楽しく、からかいを止めない。
そんなやり取りを続け、2人は明日の約束をすると電話をきった。

(さゆりの言う通りよね。乱馬に限って…。心配ばっかりしてないで、あたしもちょっとは楽しもう…。ケーキ屋さんかぁ…オシャレでしかも超美味しい!気分転換にいいわ。あぁ楽しみ!!)
親友の一言で、乱馬の心配事ばかりだったが、下がり気味だったテンションは自然に上がった。




「うわぁ…すごい人…!」
ケーキ屋を目の前にして驚く3人。
「わざわざお昼選んだのに〜」
さゆりの言う通り、3時、4時に行けば混む事は必至。
お昼すぎならイケル!と考えていたのだ。にもかかわらず、結構な人が並んでいた。
最後尾に並んだら、すぐ後ろに人が並ぶ。
「さすが、超美味しいだけあるわね〜。並び甲斐があるってものよね!」
「これだけの人が並んでいれば期待は出来るよね!」
「それにしてもオシャレなお店…」
高台にあり、お城風な外観に、窓越しに見える中の様子は、また一層あかねの目を引いた。ピンク系でまとまった色合いに、レースをふんだんに使用した映画に見る、お姫様の部屋の様な内観。
「あかねこういう雰囲気好きよね。今度王子も連れてきたら?」
とさゆり。
「王子?」
「お城にあかね姫…とくりゃ乱馬王子のエスコートなけりゃね〜。」
そう言って、ゆかとさゆりは笑う。
「もう何でいちいち乱馬と来なくちゃいけないのよ!!」
表向きはムキに反論する。が、
(いくら甘いもの好きだって、こんな女の子ばっかりのこんな雰囲気の所、一緒には来てくれないだろうなぁ)
としっかり一緒に来る事を考えていた。


話しに夢中になって1時間、ようやく順番が回ってきた。
「結構広いのねぇ」
「窓際の席がいいなぁ」
そんな風に話していると、案内していたウェイターがその言葉に反応した。
「丁度、窓際のお席が空きましたので、そちらへご案内致します。」
「「「やったーーー!」」」
ここ高台にあるお城の窓際からは、桜の花が咲き乱れているのが見える。遠くには海。
ピンクとブルーが何とも言えず調和していた。
ここでは、景色を眺めながらのお茶が一番の贅沢であった。

並んでいる間にさんざん考えていたので、食べるものは決まっており、すんなりオーダーを通すと、あかねは再び窓際の方へ視線を移した。
外は風に吹かれる度に桜の花びらが舞い散り、景色を演出している。
「奇麗な景色!!」
あかねは雰囲気を充分楽しんでいたが、さゆりは
「本当ねぇ…ところで、ウェイター結構格好いい人多いよねぇ!」
と座れたのに満足し、興味はウェイターへ向いていた。
「全く花より何とか…ねぇ。でも案外目当てで来ている人いたりしてね」
とゆか。
「まさか…」
さゆりとゆかの言葉に、あかねは景色から目を離すとそう言って笑った。


それにしてもこの店は、ウェイトレスが1人もいない。
ウェイター達にしても、蝶ネクタイに、黒のベスト、黒のパンツといったギャルソン姿で、清潔感溢れる姿で佇んでおり、さゆりの言う通り心なしか顔が良い人が多い。
更にこれでもかというくらい丁寧に対応しているので、目の保養と手厚いサービスを受けたお客さんは気持ちよく帰っていく。
良い店は味だけでなくサービスも行き渡っている。この店もしかり。いや必要以上にかもしれない。
味だけではなくそんな心遣いも、この店の人気を支えているのであった。


そんな話題を繰り広げていると、
「今日はあの人、いないのかなぁ…」
「見当たらないわね。お休みなのかしら」
タイムリーな事に後ろの席の人達が"お目当ての人"を捜していた。
「やっぱり!いるじゃない!目当てで来ている人!」
とさゆり。
「そんなにいい男なのかな?乱馬君とどっちが上かしら?ね、あかね。」
「し、知らないわよ。…あんなやつ全然格好良くないわよ!」
突然出た乱馬の話題に、慌てて否定的な発言をする。
昔ならあかねにとっての乱馬は…という意味でしかなかったが、この1年で乱馬の評判は上がっており、お騒がせ3人娘だけではなく、他の女の子の目を引く様になっていた。
相変わらず性格に落ち着きはないが、1年の頃に比べると顔つきや体つきが、益々男らしくなり、スポーツしている時や……黙っていればランクは高い方に入るのは間違いなかった。
今や誰もが乱馬を格好良いと認めているのに、あかねだけは相変わらず素直ではない。
「「はいはい。」」
ゆかとさゆりはそう言うと笑った。この二人もあかねの反応が解っていても、言わずにはられない点は、あかねと共に相変わらずであった。
「ま、乱馬くんはともかく…ちょっと見てみたくない?」
体を屈ませて小声で話す3人とは反対に後ろの席は盛り上がって来た。


「今日こそ名前を聞こうと思っていたのに〜!」
「じゃーウェイターに聞いてみようよ!」
「あぁなんかドキドキするぅ!!!」
「すいませ〜ん。」
そうと決まれば早くもウェイターを呼ぶ、後ろの2人。
「はいっ。……あ、いつも有り難うごさいます。」
声を聞き、颯爽と現れるウェイター。言葉から彼女達はかなりの常連かと思われる。
「あのぉ、あの人は…」
「はい、いますよ。」
笑いながら答えるウェイター。
「そのぉ…」
「畏まりました!少々お待ち下さい!」
ウェイターは彼女の言いたい事を察し、そう言って去っていた。

「ちょっと!!"その人"見られるみたいね!」
「にしても、あの人…で解るなんて、通いすぎなんじゃない?余程熱心なファンね〜。でも見られるのね!やったー!!」
ゆかとさゆりは元々がミーハーなだけだが、あかねもこれだけ盛り上がる後ろの様子から見てみたい気持ちに駆られていた。
どんな男性(ひと)かと、小さく盛り上がる3人。

「いらっしゃいませ。」
そこへすっと横を通り抜けウェイターがやって来た。
「きゃー。こんにちは」
2人とも嬉しそうに見ている。格好良かったのか周りもざわめき始めた。
「今日も来てたんですね。」



「「「………ん?」」」
小さく盛り上がっていた3人は、急に会話が止まった。
話に夢中になって、いつのまにか通り過ぎたウェイターを、見るのを忘れたのだが、後ろの会話の様子を聞いて3人は慌てて確認し、そのウェイターの姿に3人は固まった。




 何つーネーミングセンス…。ネタバレ必至!
 お分かりですね(汗
 こんなもんも切らなくて良いんだけど…長くて…。

 続き読んでいただければ幸いです。
2003.3.15


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