◇遠い約束、今の約束
  【4】新たな生活

陽樹(宇宙)さま作


「はあ…はあ…はあ…」
俺は、天道家を出て行ってから一週間で中国へと渡った。
俺は、疲れのあまりに倒れこんだ。
すると、声がした。少女の。
『大丈夫ですか?』
中国語だった。
「あ…」
いきなり現れてビックリした俺が言葉を詰まらせると、少女は言った。
たどたどしい日本語で。
「だいじょぶですか?あたしのいえ、きますか?」
「あ、ああ…」
俺は、しばらくこの少女の家で世話になることになった。
少女の名は、雪梅(シェイメイ)。俺より一つ年下。
実は俺、こっそり中国語の勉強してたからある程度なら話せる…通じるかわかんねーけど。
とりあえず、雪梅の家族にも自己紹介する。
『早乙女乱馬です。日本人です。中国には修行をしに来ました。お世話になります』
すると雪梅の親父が目を輝かせた。
『きみが、乱馬君か!?呪泉郷を救ってくれた!』
『へ?!』
よく話を聞くと、俺よサフランの戦いの事はこの辺じゃかなり有名ならしい。
『いや…ぜひうちの娘の婿になってほしいんだが…』
むっ、婿?!
『え、いや俺…許婚いるし…』
『許婚?』
俺はハッとした。俺とあかねはとりあえず許婚だ…でも、俺はあかねの許婚と名乗る資格はあるのだろうか?
しかし、もう遅い。
『あ、はい…』
『そうか…残念だな』
まあ、いいか。断れたし。
『じゃあ乱馬君は雪梅の隣の部屋を使うといい』
『ありがとうございます』
『乱馬、案内する』
雪梅が立ち上がった。


『乱馬、武道強いんですって?』
俺は雪梅と話していた。
『ま、まあな』
『そしたら是非手合わせしてほしい相手がいるのよ。いいかしら?』
『ああ。かまわねえけど?』


相手は雪梅の兄、竜瀞だった。
『手加減するよ』
竜瀞は言った。
少しムッときた俺はニヤッと笑った。
『そんなの、必要ねーぜ』
そして―
『よーい、はじめ!』
雪梅が合図すると同時に竜瀞は攻撃を何連発もしてきた。
『哈ッ(はっ)哈ッ哈ッ哈ッ』
しかし俺にはちょろいもん。
全てよけると、火中天津甘栗拳を入れた。
『うわぁっ!!』
流星は吹っ飛んだ。
『わお!』
雪梅は驚いた。そして、興奮していた。
流星に俺はとどめをさした。
『直接蹴打 流星脚!!!!』
『かはっっ…』
竜瀞は動かなかった。
『勝負あった!乱馬の勝ち!!!おめでとう!!』
雪梅は、横に置いといたコップに入った水を持って駆けてきた。
すると雪梅いきなりこけてしまった。
水は見事に俺にかかった。
おれはみるみるうちに女の姿に。情けねえよなあ…
『ごめんなさい!乱馬、大丈…』
雪梅は言葉を無くした。
『乱馬…?』
『悪り。こういうことなんだ。俺さ、前に呪泉郷の娘溺泉落ちたんだ』
『……』
『雪梅、お湯かけてくれねーか?』
雪梅は口をぽかんと開けた。そして、俺にお湯をかける。
すると俺は男に戻る。
雪梅の一言はこれだった。
『おもしろい!』


日本 東京 天道道場 あかねの部屋
乱馬がいなくなって1ヵ月…
天道家には乱馬がいなくなると、後もう一つ変わったことがあった。
それは、おじさまとおばさまが天道家を出て行ったこと。
実は、うちの隣に新しい家ができていた。
そこにおじさまとおばさまは引っ越した。
おじ様たちの家とうちの境界線となっている塀は取り壊されて、庭は繋がっている状態の為
生活はほとんど変わらない。
あいかわらずお父さんとおじさまは将棋をやってるもの。
でも、やっぱり乱馬のいない家は穴があいたように変わってしまった。

「あかね、本当に大丈夫?顔色悪いわよ」
「うん。平気よ」
わたしは精一杯の笑顔で笑った。でも、周りからは無理に笑っているとしか見えない笑顔だった。
その時――
「ぷぎー…」
あたしは聞き覚えのある声を耳にしたので振り返った。
すると、そこにはキョロキョロとあたりを見回しているPちゃんがいた。
「Pちゃん」
あたしが呼びかけるとPちゃんは私も見た。駆け寄ってくる。
「ぷぎぷぎ〜」
Pちゃんは鳴くと、あたりを見回した。一人足りない…というように。
「あ、乱馬は…ちょっと…ね。」
Pちゃんは不思議そうに首を傾げた。


あかねさん…どうしたんだろうか
俺に向ける笑顔は可愛いが、どこか寂しげだ。
そういえば…乱馬がいない。
さっきのあかねさんとは一緒にいなかったから、先に帰っているのか後から帰ってくるのか。
俺の目の前にあかねさんは居ない。
かすみさん…って言ったかな?
まあ、その人にお使いを頼まれて行っている。
俺は、家をウロウロしている最中。
やはりどこにも乱馬の姿は見えない。
しかし、俺は聞いてしまった。
こんな会話を。

『早乙女君…乱馬君は中国のどこに行ってしまったんだね…』
『わしにわかるわけがないだろう?天道君』
『あなた、乱馬の行きそうな場所を当たってきなさいよ…』
『そんなこといったって、わからないんだもん』
『でも、お父さん…このままじゃあかねが可愛そうだわ』
『いきなり、乱馬君いなくなっちゃったもんね〜』
『うーん…どうしたものかねえ…』

――――乱馬がいなくなった?!――――
そういえば、あかねさんの机の上にあったはずの乱馬の写真が伏せてあった…
どうしたんだ…乱馬…?


あかねさんはいつもと変わらない生活を送っているが、やはり寂しそうだ。
そして、とうとう1人の部屋(いや、俺はいるが)で泣き出してしまった。
ベットに突っ伏して。
「っ…らっ…らん…乱馬ぁ……」
「ぷぎぃ…」
俺はあかねさんに呼びかけた。
いつもならここで泣き止んで俺を膝の上に呼んでくれるのだが、今日はピクリとも反応せず泣き続けた。
(やはり、俺は乱馬には勝てないんだな…)
俺が入る隙間などこれっぽちもない。
(そんなのわかってたさ…)
ただ、認めたくなかった。
あかねさんの心は乱馬だけなんてわかっていた。
乱馬には勝てないと思うと悔しくて認めたくなくて…
でも、もう認めなくてはいけないんだろうな…
もう、自分を欺く(あざむく)ことはできない。
認めよう。自分が負けた事を。そして、力になろう。かつて好きだった君のために。
俺はこっそり天道家を抜け出した。


『乱馬、一緒に出かけよう!!』
また来たよ…雪梅(こいつ)…
俺は修行で急がしいってんだよ…
俺は断る。
『悪り。修行があるから』
『乱馬、いつもいつも修行修行言ってる。たまには息抜きするのもいいね』
『そんな暇あったら、修行する』
俺は冷ややかに言って稽古場所へと向かった。
後ろから雪梅が叫んだ。
『乱馬―――――!!!今度は一緒に出かけるのよ―――――――――!!』
しつこい…

『乱馬、まだ雪梅に迫られてるのか?』
『ああ。いい加減やめろってんだ』
俺は師と稽古の最中。
今日はそろそろおしまいだ。
空を相手にしている。
師は強い。だからいい修行になる。
『珍しいねえ。君のような男は』
『は?』
『あの子に誘われて断る男はほとんどいないさ』
『はあ…』
師はニヤッとした。
俺は少々悪寒を覚えた。
『乱馬、好きなやつでもいるのか?』
あまりにも唐突な為、俺はのめって前にあった水溜りに頭を突っ込んでしまった。
『なっ…何言うんだよっ!!!』
『おっ、図星図星。らんまは単純だからな〜〜はい、今日は終わり。』
『〜〜〜〜〜〜〜///』
師は『純粋っていいなァ〜』とかいいながら帰っちまった。
俺は顔を真っ赤にして、さっき師から貰ったお湯を頭からかけた。
そうしながら刻々と月日は過ぎていった。
…あかね…何してるかな…



  to be continued・・・




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