素 敵 な か っ ぷ る


「ふわぁ〜ねみぃ…」
眠りから覚め、乱馬が目をこすりながら居間へ来ると、あかねが一人TVを見ていた。
「よぉ…」
「…おはよう。全くいつまで寝てるのよ!もうお昼よ?折角今日皆いないのに、どこか出かけたかったわ。」
「仕方ねぇだろ…修行帰りで疲れているんだから、まだ夏休みいっぱいあるじゃねぇか。ふわぁ…」
「んもう!今日、皆いない、絶好のチャンスだって言ったでしょ?皆いたら一緒に出掛ける事感づかれない様にしなくちゃいけないの大変じゃない!!」

高校生活最後の夏休み。
夏休みが始まってすぐ、乱馬は2週間もの修行へ出掛けた。
晴れて恋人同志になっていた為、昔の様に意地を張らず、あかねは素直に寂しさを訴える事が出来る。
しかし自分を磨こうと修行へ出掛ける乱馬を止める事等出来ない。
また、自分が付いていく程の力もない。
皆の手前もあり、仕方なくいつも通り憎まれ口を叩く様に送り出したのだった。

この2年間で関係は随分変わった。
2人だけの時は恋人同志になる事が出来る位まで成長した。
尤もからかわれるのは解かっているから、友人や家族には内緒にしている。
たまになびきがドキッとする様な発言をしてくれる以外は上手く誤魔化して来た。

「ふわぁ〜…」
久しぶりだというのにいつもの調子。更に眠気いっぱい、まだまだ寝たりなさそうな姿にあかねはため息ひとつ。
「……腹減った…」
「…あんたって人は…、はぁ…待ってて今用意するから。」
そう言ってエプロンをかけながらあかねは台所へ向かった。
「え゛まさか…。」
それを見て慌てふためく。あれからあかねの料理の腕前はマシにはなったとは言えども、疲れた体、更に寝起きには少々キツイ…。
一人不安になって逃げる準備でもしようかと考えていると、台所からの言葉に安堵する。
「お昼、おねえちゃん置いてってくれたから楽チンなのよねぇvv」
「あかねお手製かと思った……助かったぜ!……ひっ!!」
「何がどう助かったの?」
小声で呟いたはずが、しっかり聞こえたようで、包丁を光らせ持ったあかねの姿は、にこやかながら、恐ろしいオーラを放っていた。

無事(?)お昼も済ませ、ゆっくりと過ごす二人。
「今日は平和だな〜。」
「本当ね…。」
「わりぃけど、今日まではゆっくりさせてくれよな。出掛けるなら、明日な。」
「うん。出かける気が有るのと…」
そう言い、手をつきながら四つんばいで近づくと、乱馬の足の間にちょこんと座った。
「…ソファーになってくれる気があるなら許す。」
ぽてんと乱馬の胸に頭をあてる。乱馬を背もたれにあかねは嬉しそうにTVを見る。
「な、何だよ……。」
「ソファー役いや?」
上目遣いに寂しそうに言う姿と、かわいらしい行動に思わず動揺する乱馬。
「そ、そうじゃねぇよ。…ん、ごほん。」
咳払いをして落ち着く。
「じゃー期待に添えるよう、しっかりソファーの役割を果たしてやる。」
と、後ろから抱きしめる。
「……変態。」
「おまえな〜自分からくっついておいて…。」
「ウソ…嬉しい…」
ちらっと乱馬の顔を見てにっこり笑うと、また乱馬の胸を背もたれにして、くつろぐ。
(うっ…かわいい…でも…)
普段そんなに素直に甘えてこないのに、おかしいと思い、つい、
「ど、どうしたんだ?何か変なもんでも食ったのか?今日のおめえ……やけに素直じゃねえか?」
素直に甘えて来ているあかねを受け止めずに、ムードも無い言葉へ変わってしまった。
「変なもん…って失礼ね!素直じゃいけないわけ?」
「そ、そうじゃねぇって。珍しいと思っただけで…」
「だって…」
下を向き、モジモジしながら黙るあかね。
しばらく黙ってあかねの様子を見て、ピンと来た乱馬は噴き出した。
「ぶっ…おまえまさか2週間構ってやれなかったから寂しかったのか?」
そう言うと頭をくしゃくしゃに撫でる。
「な、なによ!違うもん!!」
そう言うが言葉とは裏腹に後ろから見えるあかねの耳は真っ赤である。
「わはは、無理すんなって。」
「ふんだ!」
後ろからでも、ぷくっとふくらました顔をしているあかねに想像がついた乱馬は、更にあかねをかわいらしく感じる。
「拗ねんなよ………俺もだから。」
さっきのムードを壊したのを挽回する様に優しく言う。
「…乱馬…。」
その言葉にあかねが乱馬の方へ、顔を上げた。
と目が合う。それが合図の様に目を閉じると…

『♪ばばば〜ん!!!』

突然の大音量に二人ともびっくりして止まってしまった。
「な、なんだぁ!?」
「…っTVだわ…びっくりしたぁ…」

『素敵なかっぷるの時間です!!!…♪ばばば〜ん!!』

「何なんだ…素敵なかっぷるって…ったく…」
「この番組、音量異常なんじゃない?」
折角の雰囲気を見事にぶち壊してくれた番組への怒りが起こる。
といいつつもそのまま番組へ目が行っている二人。

『今日は夏休みに入ったであろうと言う事で、生放送です!そして…しばらくは学生さん特集です!記念すべき1組目は、渋谷で買い物中だった高校生同志のカップル!大介くん、さゆりちゃんです!!』
『『イエ〜イ!!』』

「「はいっ!?」」
その二人を見た瞬間、二人は更に固まった。
「大介…」
「さゆり…」「「なんでこの二人が…!?」」
呆気にとられる二人をおいて、番組は進む。

『二人の知り合ったきっかけは?』
『高校のクラスメートなんです。』
『最初からお互い気になってたのかな?』
『いえ、全然!』
『じゃ、なんで?』
『クラスメートの中に、お互い好きなくせに素直じゃない天邪鬼カップルがいて、その二人を何とかしようって、いつもこいつを含めた友達と集まっては作戦会議してたんですけど…』
『いつも一緒にいるうちに、何となく、えへへ♪』
『天邪鬼カップルより先にくっついちゃったわけだ』
『いや、それが…決定的瞬間を見て…ぐふふ…。』
『ちょっと大介…何かヤラシイわよ。』
『おっと…つい…。えーっと、それを見て安心したら、次に俺達の番になった訳で。』
『へぇ!じゃ、皆上手く行って幸せなんだ!ところでその天邪鬼カップルは君達の事知ってるの?』
『知らないんで、今日のTV見る様にさっきメールしたんですけどアイツ見てるかな?うぉ〜い、乱馬、あかねと、見てるか〜!?』
『隠し事するから、こっちも隠してたんですけど、この場を借りて発表します!!私達付き合ってま〜す!!』
TVの中は拍手喝采。

二人とも目をぱちくりさせ見合っている。
「そう言えば何か見ろって、さっきメール貰った気はするけど、この番組のことだったのか!?寝ててすっかり忘れてた…。」
「私、こんな事、何も聞いてない…。」

いつも二人をからかい楽しんでいた悪友達の中からカップルが出ている等とは露知らず、ムードをぶち壊された番組で知ることとなった。
「ちょっと!!それより折角、周りに付き合ってる事隠していたのに、こんな公衆の面前で…ばれるじゃない〜!!」
「げっ!!…アイツら…覚えとけよ……。っていうより決定的瞬間ってなんだ……そっちの方が……」
「本当…怖い……」
背筋が凍る思いの二人…。一体何を見られたのか。
問うて薮蛇にもなりたくないが、気にはなる。

そんな不安とばらされた怒りをかかえつつ、取りあえずそのまま見続ける二人。
しかし余りの二人の馬鹿っぷりさに、不安や怒りもあっという間に消え夢中にTVを見ている。
「わはは、ばっかでぇ〜。」
「あはは、本当全然駄目じゃない、この二人!!」
番組内ではどれだけお互いの事を知っているかや、ゲーム等をして
商品稼ぎをしながら、信頼度を図っていた。
付き合いが浅い為か、まだまだ深くお互いを知り得てない様子はかなり面白かった。そして元々明るく面白い二人は、番組を盛り上げていた。

番組終盤…『それでは最後に愛の証に、キスで締めて頂きましょう〜♪』
……ちゅ。
『イエ〜イ!素敵なかっぷる大介さんとさゆりさんでした〜!!』
『『ありがとうございました〜!!!』』
商品を貰い、ご機嫌な二人はキスも恥じる事なくしていた。
そんな姿に二人は唖然としてしまった。

「TVでよくやるぜ…」
「…本当よね…キスなんて人前では出来ない…」
「ま、クイズやゲームなら自信はあるけどな!」
「え〜あんた体力ゲームならいいけど、カードや頭使うものじゃ…ねぇ…」
「にゃにおう……!!」
そう言うと乱馬はあかねの腕を掴み、不意打ちにキスをする。
「人前じゃ出来ねーけどな…俺達の方が素敵なかっぷるだな!」
「…ばか…」
乱馬はいたずらっぽく笑うと再びくちびるを重ねる。
2週間ぶりの甘いキス。お互いしか見えなくなり始めるが、再びTVのコメントに邪魔される。

『それではこの仲良しカップルに次のお勧めカップルを紹介してもらいましょうか!!』
『『そりゃもちろん!天邪鬼カップル乱馬、あーんど、あかね!』』

「「な、なにーーー!!!!!?」」

『アイツらどーせ、俺達の方が素敵だとか言ってるだろうし!』

『という訳で、次回は天邪鬼カップル乱馬君、あかねちゃんです!!生放送で、発表しちゃったので、逃げられませんよ!!2人とも観念してね〜!!ではまた次回!!お楽しみに〜』

コメントに固まる2人。
次回の放送をどうすれば乗り切れるか…!?
等と考える余裕もないだろう。


 "線香花火"同様、期間限定、暑中お見舞いサイト用に作ったものです。
 こちらもひなたぼっこの清華様が貰って下さいましたvv
 ローカル番組、素敵なダー○ン(解らない人スイマセン)を見ていて思いついたものです。
 自分で書いておきながら、ソファな乱馬、気に入ってます(笑
 あ、そうそう…続きます(汗

 次回作、また読んで頂ければ幸いです。
2002.8.18


「ひなたぼっこ」は閉鎖となりました。
復活されるときは一之瀬までご一報ください。




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