ナ イ ト メ ア
chapter1 〜出会い〜 


−プロローグ−

意識が薄らぐ。


世界がぐるぐる回る。


俺・・・どうしたんだ?


「乱馬っ!?乱馬っっっ!!!!」


遠くで俺を呼んでいる声がする。
でも顔がぼやけていて、誰か判…ら……な………い…………





「乱馬ーーーーーーーーっ!」









1.出会い


「あれ、ここどこだ!?」

ふっと目を覚ますと、見慣れない天井が目に入り、一瞬どこにいるのか判らず慌てた。
しかしすぐにその思いは払拭された。

(そうだ俺は帰って来たんだ……俺の家に。)

見慣れない……いやまだ見慣れる事が出来ない天井をぼんやり見つめる。
自分の家でありながら、何故見慣れていないのか……それは幼い頃からつい先日までココを離れていたからだった。
しかし帰って来てかれこれ一ヶ月近くにもなるのに、毎朝同じ気持ちを味わう。

(自分の家…そういう実感がまだまだ持てねーからかもな……)

そんなことをぼんやり考えると、溜息の様なあくびがひとつ出た。
寝足りない…そう思って俺は時計を見た。
まだ5時。

「…仕方ねー……もう一眠りするしかねーよな……。でも……」

俺はそう言い終わらないうちに意識が遠のいた。






「やっぱり……また…この夢か?」
そして次に気がついた時は夢の中だった。
夢の中で、夢と認識している。
俺はこの夢を繰り返し見続けていた。
それにしても、夢は変な現状をも現実と思わせるはずなのに、いつからか自然と夢だと思うようになったのだから不思議だ。

夢の中は無機質な空間。
独特で、何の息吹をも感じない。
何もないだだっ広い空間にただ一人。
そして聞こえてくる女の声。
『…早く……早く…見つ……』
見回しても誰一人いない。何を言っているのか判らないが、その声は、悲しげでいつも空から降ってくるのだった。

「ったく…一体毎日何なんだっ!!おめーは一体誰なんだよっ!!」
声がする度俺はそう叫ぶ。しかしその後の反応はない。
そして………







俺は夢から覚めた。
俺がその夢でそう叫ぶと、決まってだ。

秋になり、寝苦しい夜とは別れたハズなのに、明け方に必ず一度目が覚め、再び眠りにつくと夢を見る。
俺は家に帰って来てから、この妙な夢を見続けていた。

「ったく…何なんだ?あの夢は…。」

時計を見ると7時。
あれから2時間……。
俺は気だるさを抱えながら、布団から起き上がり、ふと窓に目を向け、更に気だるさが増した。
そこにはハンガーにかけられた、おふくろが張り切って用意してくれた新しい学ランがある。

「ちぇ……面倒くせーな。今更学校だなんて。」

今更……
俺は格闘家だ。
無差別格闘早乙女流の2代目で、物心ついた時には既に、俺は親父と二人で各地を回って、無差別格闘早乙女流を極める為に修行三昧の日々を送っていた。
そのお陰で、俺の生活の中に学校という項目はなく、勉強のべの字さえも出さなかった修行時代。
更にマトモに中学校も行ってないのに、この家に戻った途端、高校に通えと言われた俺の心境は複雑であった。

学校に行くように強く進めたのはおふくろだった。
『今までの分、学生生活を味わうのも良いわよ。』とまるで違和感のなく、日本刀を片手に持ちながら言われ、ほぼ脅された状態になり、頷くしか出来なかった。
俺のおふくろは、日本刀を持つのが癖になっているらしい。
俺が男の中の男でない事が判明した暁には切腹と言うためらしいが……その問題はないハズなのにいつまで持っているのか……。
しかしそれが理由でおふくろに歯向かえない訳ではない。
実は俺とおふくろとは10数年ぶりの再会なのだ。
そもそもおふくろが存在している事さえ知らなく、おふくろの存在を改めて考える事は余りなかった。
幼心に「何故、俺には…」そう思った事もあったが、そんな弱さを見せるのがイヤで、強さを求める事に夢中になる事で、いらないと感じる感情を沢山捨ててきた。

ところが急に何を思ったのか、つい先日行っていた修行先、中国で、親父は「おふくろの待っている家に帰るぞ。」と言い出した。
そのお陰で、突然目の前に現れた、おふくろという存在。
いまいちどう接していいものか悩む。
適当に生きる俺の親父のせいで、俺は悩みっぱなしだ。
子の心、親父知らずって言葉があってもいいと思うのは俺だけだろうか。

そんな訳で俺は修行に帰ってきてから、強さへ求めるよりも、おふくろ…夢…そして学校といった、格闘以外の悩みが増え、更に環境の変化についていけない俺は色々戸惑うことが多かった。


そんなことを思い、ぶちぶちと文句を言いながら、その学ランとブラウスを取ると、袖に手を通した。
鏡の前で見る自分の姿。

「に…似合わねぇ…格闘家の姿じゃねぇな。」

俺は苦笑いしながら学校に行く用意を始めた。







今更高校へ行くのは何だかこそばゆい事もあって、余り気乗りのしない初登校。
朝ごはんを済ませ、俺が玄関に行くと、おふくろは俺を送り出そうと、奥から出てきた。
「乱馬、学校に行けば、同じ年代の色んな人と出会えるのだからそんな顔しないで?」
おふくろは穏やかに笑って俺にそう言う。
しかしやはり、どうにもしっくりこない。
「だってよー、今更学校なんて面倒くせーよ。」
「文武両道!無差別格闘を極めるのなら、学業も必要よ。」
「ひっ……」
おふくろの出した日本刀に思わず後ずさる。
「わ、判ったから日本刀はしまってくれ!!」
「うふ…あらやだ、つい…。さ、いってらっしゃい。」
穏やかな表情と似合わない日本刀を片手に俺を送り出すおふくろ。
「い、行ってきまーす。」
朝からいきなり疲れてしまった。




制服を身を纏って歩く通学路。
俺は中国に行ってから、胴着かチャイナで過ごしていた。
人より個性的な姿ではあるが、逆に制服よりも俺という人間を表現するのにしっくり来る。
更に俺が昔からトレードマークとしていたおさげが映える…と思っている。
通学路を見渡せば同じ制服に、同じかばん。

何かが違う…俺は妙な違和感を感じながらぼんやり歩いていた。




頭を抱えながら歩いていたせいか、気がつけば、情けない事に俺はすっかり道に迷っていた。
「しまったー!遅刻じゃねーか…うっかり道間違えちまった!!」
きょろきょろと見渡すが学生の姿が見当たらない。
「仕方ねー…。」
俺はひょいと、一軒家の屋根に登った。
周囲を見渡す。
すると家ばかりが立ち並ぶ中に、ちょっと空間を置いて独特の建物が見えた。
「おっあれか!!」
俺はその建物…学校目掛けて、屋根伝いに進んで行った。
屋根の上じゃ、障害物が無い。
そのまま学校に向かって一心不乱に走って行った。




今日から通う風林館高校の門が見えた。
「しめたっ!!まだ間に合う。」
先生らしき人が門を締め様としていたので、俺は門をひょいと飛び越えた。


きーんこーん。

「よっしゃ!セーフ!!」

無差別格闘流を極めようという俺には、これ位のジャンプ朝飯前だった。
勢いよく、門を飛び越え

「交際し………」

ぐしゃっ!
着地点を見てなかった俺は、人の上に着地した。

「げっ…!!」
足元を見ると、バラの花束を左手、竹刀を右手に持った剣道着を纏った男が俺の下敷きになっていた。
異様な姿ではあったが、それ所ではない。
慌ててその男を揺さ振った。

「お、おいっ大丈夫か!?」
びくともしない。まずった…そう思った時、横から声を掛けられた。
「ほっといて良いわよ。久能先輩だし。」
その声の方に振り向くと、髪の短い女が俺を見下ろすように立っていた。

「おい、ほっとくってこんな所にか?いいのかそんなんで。冷てーヤツだな。」
「冷てーって……あのね、親切で言ってるのよ。」
「どこが親切なんだよ。んな事言われても、俺のせいだしほっとくなんて出来ねーよ。」
俺がそう言うと女は目を見開いた。
「あんた…もしかして久能先輩の事知らないの?」
「俺は今日からここの生徒…つまり転校生だ。」
「そうなの!?それで……成る程ね。じゃ、尚更よ。この人変態で有名だから、近付かない方が良いわよ。」
「そうは言っても…。」
目を回して倒れているこの男が気づく気配はない。
俺がしげしげと男を見続けていると女は言葉を続けた。
「その人剣道部の主将で、結構強いし、頑丈だから大丈夫よ。」
「そうか?」
更にじっとそいつを見るが、どう見ても強そうには見えない。

「おいっ!お前ら、遊んでないで教室に急げよ!」
その時、門を閉めていた先生達が俺たちに声をかけた。
先生達はこの姿を見ても、男を放置して校舎に戻って行こうとする。
……こいつ…先生にもこんな扱いされて……。
ほっとけと言うが、俺のせいだし、いくらなんでも……。
余りにもこいつが哀れに感じた俺は、ひょいとそいつを肩に担いだ。

「ちょっ…どうするつもり!?」
「決まってらー、病人は保健室ってとこだろ?案内してくれよ。」
「えっ!?何であたしがっ!!」
「仕方ねーだろ?俺場所判らねーし。…おいっ、おめー早くしろよ!」
唖然としていた女に俺がそう言うと、女は急にきっと俺を睨みつけた。
「おめーって…何よ偉そうに!何様なのよっ!」
さっきから聞いていれば、何だかイチイチ喧嘩腰に聞こえるこの女の言葉。
よく見れば気の強そうな顔をしている……。
「……ったく…気の強い女だな。」
俺は思わず声にしていた。
「何か言った!?」
「い、いや別に。」
俺はこの女と、保健室に向かった。




保健室に行くと、誰もいなかった。
「ちぇっ、先生いねーのか…。どーすっかなー。」
俺はそう言いながら、抱えていた男をとりあえず、ベッドに寝かした。
「適当でいいんじゃない?」
「女のくせに本当に冷てーヤツだな。」
手当てもろくにせず、この言い草に、俺がそう言う。
すると女は明らかにムッとした表情になった。
「女の…くせに?あたし、女だ男だって区別される事が一番嫌いなのよ!」
そう言うと鼻息荒く、俺に近付いて来た。

な、何だこの女は!?

俺がたじろいているのを余所に、そいつは言葉を続けた。
「言っておきますけど、この学校であたしに勝てる人はいないの。あんたも例外じゃないでしょうから、二度とそんな事言わないで頂戴!!」
勝てる…その言葉に思わず俺は反応した。
「……って何の話だ?」
「あたしが格闘してるのをきいて、毎朝、変な男達が勝負を挑んでくるのよ。毎朝色んなヤツらを叩きのめしてるんだから!」
「格闘!?」
「そうよっ」
格闘という言葉に更に俺は身を乗り出した。
それにしても、女ってか弱く演じるものじゃねーのか?……数少ない女との接触でそう感じていたが、この女は180度違っていた。
相変わらず鼻息荒く言うその姿は、何故か俺を敵視しているように感じる。
「ほー…格闘をね。それにしても叩きのめす……って色気のねー女だな。本当におめーに勝てるヤツいねーのか?ヤワなヤツばっかなんだな?」
女の姿に、思わず俺も皮肉っぽくなる。
「なっ…なんですって!!誰が色気がないのよっ!!それにあんたならあたしに勝てるっていうの!?」
「ったりめーだろ。俺だって格闘家の端くれだぜ?その辺のヤツらと一緒にするんじゃねー。」
俺は腕組をしながらふふんと言ってやると女の顔がますますむっとするのが伺えた。
「格闘家!?」
「そうだ。俺は厳しい修行をして来たんだ。おめーみてーなぬるま湯に使ってそうな格闘家なんて相手にならねー。」
すぐにムキになるこの女の姿が面白く、ついつい意地悪く言う俺。
「……い、言わせておけば……いいわ!じゃーあたしと勝負しなさいよ!」
「は?しょ、じょーだんだろ?女相手に何で勝負なんか……」
「ふーん。あたしに負けるの怖いんだ。転校早々そんな汚点をつけたくないものね。人のこと散々言っておいて負けてちゃ世話ないわよね。」
ちょっとからかうつもりが、何だか面倒なことになりそうな展開。
だけど、逃げるなんて納得いかないという女の気を強く感じる俺は、無視して後々面倒なことになるよりも、軽く相手をしてやって俺の強さを認めさせる方が良いと思う。
「ちぇっけがしてもしらねーぞ。」
「あんたこそ…その余裕……後悔しても知らないからね!!」
「するわけねーだろ!!」

まったく俺が女に負けるわけねーのに……。転校早々面倒なことに巻き込まれたもんだ。
俺はのんきにそんなことを考えながら、場所を変えると言った女の後をついていった。

ったく後悔するわけねーだろ……。
この後、後悔はしねーが、女の力を見抜くことが出来なかった自分に修行の足りなさを痛感する事となる。




俺たちは学校の裏山で対峙した。

「でやーーーーっ!!」
「はっ!!」

俺は自分の未熟さを感じ取った。
対峙前に女の力を読み取れず、相手して初めて女の繰り出す拳から、長年培って来たであろう、鍛錬の賜物を肌で感じる事が出来た。

口先だけじゃなかった!確かにヤワな男では相手にならねー!意外と出来る!!

本気にまでならなかったが、ちょっとでも気を抜いたら、そのスキをつこうとしている気が読める。


相手の技量を感じた俺は、一気に勝負をつけようと、女の背中に回ると両腕を後ろで掴んだ。

「これで決着だ!もう降参しろ!!腕封じ込められたら何も出来ねーだろ!」
「あっ……っつ!!」

少しだけ締め上げる俺から逃れようともがく。
が、やはり女。
俺が封じ込めた腕を開放する事が出来なく、悔しそうに俺の方に顔を向けて言う。

「くっ……あんた一体何者なの!?……只者じゃないわねっ!!」
こんな状況でも参ったと言わないこの根性。
「おめー中々根性あるじゃねーか。」
「そ、そんなこと聞いてない!何者よっ!!」
「俺は無差別格闘流、早乙女乱馬だ。」
そう言い放つと、それを聞いた女は目を見開いた。
「な、何だよ?」
「む…無差別格闘流!?」
「…あぁ…そうだが、それがどうかしたか?」
今までと違った表情を見せた女に俺は思わずそう聞く。
すると思いがけない言葉が返ってきた。
「あたし…あたしは無差別格闘天道流…天道あかねよ!」

俺は女の言葉に思わず手が緩んだ。
俺たちは互いの言葉にしばし呆然とする。
「お、おめーも無差別格闘流!?ば、ばかなっこの流派は早乙女流以外聞いたことねぇぞ!?」
俺がそう言うと、女も同じ反応した。
「あたしも、天道流しか……!」
俺と女は顔を見合わせた。


転校初日からひょんな事で出会った、同じ流派であるかもしれない女。
この出会いが俺の運命を大きく変えていくことになるなんて、この時の俺には気づくはずもなかった。


1話が長っ!そして話が見えませんねぇ(笑

 当初、投稿しようとたくらみつつ、書き進めながらも今の状況下だといつになるか判んないから断念(笑
 投稿しようとして、断念しているものが多すぎsea。
 とりあえず話も連載期間も長くなりそうなので、完結するまで、このサイトが生きていることを祈ってやってください(笑

 ナイトメアは悪魔とか夢魔って意味です。
 あ…因みにホラーではない……と思います(笑→自分で書いててわからない。
 気になる方は次回も読んでくれたら幸いですvv
2003.10.6




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