髪を切る 


春休み、平日の昼下がり。
縁側で日向ぼっこしながら、マンガを読む乱馬に、居間でTVを見るあたし。

(何だか、穏やかだぁ…。)

のんびりと過ごしてる、貴重な一日。
迷惑な来訪もないし、いつもからかう家族もいない。
春らしい暖かい風を感じながら、幸せな気分になる。
何をする訳ではないけど、傍には乱馬がいるから。

"いつも一緒にいたい。"
そんな思いは虚しく、騒ぎに巻き込まれる乱馬は、いつの間にかあたしの傍から消える。
折角二人になれる、学校の帰り道だって、シャンプーや右京や小太刀に邪魔される。
"あたしと一緒にいてよ。"
そんな言葉を飲み込む毎日。
だってあたしにそんな事言う権利ない。
"親が決めた"許婚。それ以上じゃない、それだけから。
だから、こんな時間が嬉しい。


ふと乱馬に目を向ける。
あたしの気なんか知らない乱馬は、マンガに向かってくくくっと笑っている。
マンガにすっかり夢中の乱馬に呆れながらも、あたしはTVからすっかり乱馬の背中に目が向いてしまった。
日々逞しくなる乱馬の背中に目が離せない。
(ねぇ…あたしがいつも見ている事気付いてる?)
じっと見つめ続ける背中。しかし虚しくも背中はうんとも答えず、笑いで震えている。
(ばかっ鈍感!!)
勝手だって判ってるけど、あたしの気持ちを掻き消す背中にむっとする。
本当は後姿を眺めるんじゃなくて、隣に並んで一緒に日向ぼっこがしたい。

一人で乱馬の背中に向かって百面相をしていたその時、
(あれ……?)
ふと背中を向けてる姿に、違和感を感じた。
(うーんなんでだろ……。)


(あ……。)
風になびいたおさげ髪を見て気が付いた。

「乱馬、髪伸びたんじゃない?」
あたしは声を掛けるのをきっかけに、乱馬の傍に移動して、腰を下ろすとそう言った。
「へ?……そうか?」
乱馬はマンガから目を離すと、おさげ髪の先を持ちながら、しげしげと見ていた。
「そういやー…そうかな。」
「そうかな、ってちょっとは髪の事も気にしたら?」
「格闘の邪魔になるなら気にする。」
「あんたねー…少しはオシャレくらい気にしなさいよ。」
「これ以上、かっこ良くなってどうするんだよ。」
「ばっかじゃないの!!」

俺って格好良いし…とかバカみたいなこと言う割りに……イヤそのせいか身だしなみに余り力入れない乱馬。

「ま、オシャレはともかく、髪はうっとうしくなる前に切りに行ったら?」
「いーよまだ。金ねーし。」
「お金ないのはいつもの事でしょ?」
「いつもで悪かったな!!別にこのままでいいっ。」

ふと思う。お金ないなら…

「ねぇ、あたしが切ってあげようか?」
「い…いいっ!!」

我ながら名案だと思ってそう言うと、心底嫌そうな顔をする乱馬がいる。

「な、何よその顔はっ!」
「おめー…失敗してから後悔しても、元に戻せねぇ事わかってんのか?」
「信用無いわね〜…どーせ不器用よ!」
「なんだ、わかってんじゃねーか。」
「悪かったわねっ!」

ばしっ!!

そう言うと同時に、近くにあったファッション雑誌を手にすると乱馬に向かって投げつけていた。自分で言っておきながら、同意する乱馬に腹が立って思わず……至近距離で見事命中。

「ってー何すんだ!」
「自業自得よ!」

顔を抑える乱馬を無視し、そう言った。
折角隣に並んだというのに、いつものパターン。
あたしの行為にむっとした様子の乱馬は、ぶつぶつ不平を言いながら、再びマンガに目を落とした。
あっという間に、マンガに夢中になる乱馬。
そんな姿に、またもや面白くないあたしだけど、"ツマンナイ…"なんて言えない。
でも、この位置から移動したくないから、投げつけた雑誌でも拾って並んで読もうと思った。

雑誌に手を伸ばすと、落ちて開いてたページには、偶然にも髪型特集。
そして隣には美容院特集。

そうだ!!

「ねぇ乱馬、美容院行こう?」
「あ?何だよ急に。何で俺が美容院に行かなくちゃなんねーんだ?」

雑誌をぶつけられて、少々不機嫌。でも頑張る。
だって、今まで全然思いつきもしなかったけど、乱馬と一緒に美容院に行くのは、人と変わった、デ…デートみたいでいいし…。
美容院でのんびり過ごすのもいいな…
そう思うと、どうしても行きたくなった。
それに乱馬が美容院に行ってくれたら、カット後も一緒に過ごす事が出来るかもしれないし。

「ねぇ行こうよ!」
「いーよ、このままで!」
「あたしも丁度髪が切りたかったの!ね?行こうよ。」
「面倒だっ。おめー一人で行けよ。」
「あんたっ、そのまま伸ばしっぱなしにするの?」
「だーかーら、邪魔になったら切るって!!うるせーな。」

このお願いに、乱馬はスゴク面倒臭そうなのが、読み取れるけど、周囲にはあたしの誘いをからかう人は誰もいない。だから今日は引かない。

「ねぇ、一緒に行こう?あっ…そうだ!あたしがあんたを紹介するって事にすればカットがタダになるからお金大丈夫だし!」
「何で男が美容院に…」
「何言ってるのよ!今時男の子の美容院なんて、全然珍しくないわよっ!」
「美容院なんて女の行く所だっ!」
「それは偏見よ。あたしの行く所は男の子だっていっぱい来るのよ!」
「えっ……!?」

そう言うと乱馬はぴくっ…と反応し、顎に手を当てて考える様な格好をした。
しばらくするとあたしの必死なお願いが通じたのか、男の子が来るなら行ってもいいと思ったのか「行ってやる。」と承諾してくれた。

こうして、あたしと乱馬は初めて一緒に美容院に行く事となった。




「で、何で髪切るのに、着替えなくちゃならねーんだ?」
「チャイナ服だと目立つわよ。」
「ったく面倒くせーな…。」
美容院に行くと決まって、あたしは乱馬を着替えさせた。
チャイナが悪い訳じゃないけど、美容院では絶対浮くと思ったから、TシャツにVネックトレーナーの重ね着、そしてジーンズといったラフな姿の格好にした。
おば様は一緒に住む様になってから、乱馬にチャイナ以外の服も着れる様にと、色々な服を買ってあげていた。
その中からあたしがチョイスする。
自分でコーディネートしておきながら、いつもと違った乱馬は、あたしをドキドキさせた。







乱馬と来たのは顔なじみの美容院。
さすがにかすみお姉ちゃんに、ずっと切ってもらう訳にもいかず、髪が短くなってから通っている店だった。
ここのお店は、美容師さんが気さくだし、アットホームな雰囲気が良い。

ドアを開けると、いつもカットしてくれる担当の美容師さんがたまたま出迎えてくれた。

「いらっしゃいませ…あ、あかねちゃーん!」
「こんにちはー。予約…してないですけどいいですか?」
「うんいいよ、いいよ。今空きあるし。」

そう言ながら予約シートを確認すると、美容師さんは乱馬に目を向けた。

「と、そちらの方も?」
「はぁ。」

乱馬は気の無い返事をしながら、店内を見回している。
無理矢理来させたとはいえ、もう少ししゃきっとして欲しい。

「もう!ちゃんと返事しなさいよ!あの…二人ともカットだけなんですけど。」
「はいはい!任せておいて!」
「…お客様2名入りまーす。」
「「「いらっしゃいませーー!!」」」

元気良く店中で出迎えられると、準備出来るまでソファーで待っているようにと促された。
ソファーに座ると乱馬はすぐに口を開いた。

「どこに男いるんだよ…女ばっかじゃねーか!」
「たまたまよ。良いじゃない別に。」
「何か落ち着かねーよ!」

男の子も珍しくない、と言いながらも、確かに見回せば女の子だらけだった。
それがやっぱり気になっていたのか、そう言ながら乱馬はそわそわしている。
そんなやり取りをしていると、あたしの担当の美容師さんと、きっと乱馬を担当するであろう、美容師さんが近付いて来た。

「あかねちゃん、本日は彼氏と一緒にご来店有難うございます!」
「「なっ!!」」

乱馬の担当を紹介するのかと思えば、思いがけない美容師さんの挨拶に、思わずあたしも乱馬も固まった。

「いやー可愛いカップルだねぇっ!」
「か、カップルじゃねーっ!い、いきなり何なんだっ!」
「そ、そーですよ!失礼じゃないですか!」
「えー?あかねちゃん失礼だなんて今更そんな仲じゃないでしょ?いつも親しく恋の相談に乗ってあげてたのに……」
「えぇっ!!」
身に覚えもないその相談と言う言葉に、あたしは思わず真っ赤になる。
乱馬とカップルだって決め付けて、恋の相談だなんて言われたら、まるであたしが乱馬についての恋の相談をしたみたいじゃない!!
「じょ、冗談は……」
そう思って必死で否定しようとしたけど、
「なっ!?だ、誰の相談に来るんだよ!第一おめーそんな事しに美容院に来てたのか!?」
「んな訳ないでしょ!?冗談よ。何言ってるよっ!!」
鈍感な乱馬は、あたしの心配を余所に、そんな言い回しには気がつかなかった。
その乱馬の様子に、二人の美容師さんは笑い合うと、
「あははっ面白いね君!じゃ、こちらへどーぞ。」
そう言って真っ赤なあたしと、面白いと言われた意味が判らないのか首を傾げた乱馬を促した。




ちゃんと美容師さんの紹介がされると、大きな鏡の前にあたしと乱馬は隣同士で座らされた。そして早速髪型相談を始める。

「お下げ解きますね。」

隣にいる乱馬は美容師さんにそう言われると、しゅるしゅる紐を解かれていた。
ふわっと広がった髪は、何も無駄につけてないせいか、つやつやに輝いている。

どんな様子なのかな…と表情を見ようとちらりと鏡越しに乱馬を見ると、やっぱりちょっと落ち着かない様子。
(そりゃ、そうよね。こんな所行ったことないんだから。)
あたしがくすっと笑うと、それに気付いたのか、髪を下ろした乱馬と鏡越しに目が合った。
一瞬、高鳴る鼓動。
乱馬はなんだよって顔をしていたけど、あたしはべーっと舌を出すと目を反らした。
あたしは乱馬がまともに見られなかった。髪を下ろしたいつもと違った乱馬にときめいてしまったから。
そのお陰であたしまでも落ち着かなくなりそうになる。



高鳴る鼓動を抑えつつ、美容師さんとのやり取りに気持ちを傾ける。
あたしはいつもの通りだから、特に問題も無く終わり、シャンプー台へ促された。
乱馬も一応きちんと話をしていた。最初は落ち着かない感じだったけど、どうやら美容師さんの気さくな雰囲気が良かったのか、いつの間にか雰囲気に慣れている様だった。

髪型はこだわりがあるのか、トレードマークのおさげは残したいらしい。
あたしだっておさげの乱馬方がいいと思う。
だっておさげ以外の想像出来ないもん。
だから揃える程度で良いから簡単な話で終わって、すぐシャンプー台も隣へ来るかと思った。
けれど、あたしがシャンプーを済ませても、まだ座ったまんまだった。


「…何してるの?」
あたしは席に戻って来て思わず乱馬に聞いた。
すると返事は乱馬からではなく、美容師さんから返って来た。

「あかねちゃんも言ってよー。カットモデルになって欲しいって!」
「えぇっ!?乱馬が!?」
「男性のカットモデルでいけそうなのって中々いないんだよ。ね?」
「いいじゃない〜やってあげれば。」
カットモデルだなんて、素敵な響きにあたしも同意する。
しかし乱馬は猛反論して来た。
「おめー、人事だと思って!俺はこんな髪型イヤだっ!」
乱馬はそう言うと雑誌をあたしに向けた。

う…確かに乱馬の嫌がるのは判る。
見ると流行の髪型ばかり。
とてもじゃないけど、これらの髪型にする乱馬、想像できない。
「俺のおさげはこだわりなんだっ!」
「わ、わかったよ。じゃーおさげ出来る長さで止めるから、カットモデルだけでも…。」
「だから、面倒だからいらねー。」
おさげは絶対譲らないという乱馬の言葉に、美容師さんは髪型を選ぶのは諦める。
それでも頑なな乱馬の態度。
「結構名誉な事だと思うけど、君変わってるね〜。あかねちゃんも頼んであげてよ。」
その様子にあたしの担当の人もそう言ってきた。
最初は「やれば」ってあたしも言ったけど、あたしはそんなに無理には言えない。
乱馬の性格じゃ、見世物的なこの頼まれ事がイヤなのが判る。
あたしも一緒に断ってあげようかな……?そう思った時事態は一転した。
「金一封出るのにな〜。」
「えっ?」
今までぶすっとしていた乱馬だったけど、その美容師さんの言葉に、ちょっと身を乗り出した。
「だから金一封出すの。タダじゃないよ?だから……ね?」
乱馬はしばらく腕組みをして考えると、
「ちっ…そこまで言われたら仕方ねぇ。」
「えっ?じゃぁ……!?」
「カットモデルしてもいいぜ?」
あっさりOKしてしまった。
「おっありがとー。」
あたしは乱馬の余りの変貌振りに唖然としてしまった。
「乱馬…あんた…」
「んだよ。いいだろ別に!」
「いいよいいよ。どんな理由でも。プロ使う事考えれば、素人でいい写真取れれば安いもんさ。」
結局乱馬は金一封の言葉で承諾してしまった。
お金に弱いんだから、全く。
あたしは呆れながらも、ちょっと違った世界に踏み入れる乱馬がどうなるか楽しみだった。


あたしと乱馬は並んで、カットをして貰った。
からかわれながらだったけど、乱馬と並んでカットだなんて貴重な経験にあたしは楽しんでいた。
そしてあたしより先に、乱馬はカットが済むと、奥の部屋につれていかれた。













しばらくすると、髪をセットし、あたしがコーディネートした服に、少しアレンジが加えられた乱馬が出てきた。
その姿は……すごく素敵だった。
乱馬に店内の女の子の視線が集中した。
身体は鍛えられているから、すらっとしているし、背も高いし意外と足も長いし…顔もおば様似だから……って、そんなこと言ったら、おじ様に怒られちゃうかな。

カットするフロアーの隣には簡単なフォトスタジオがある。
そこで乱馬の撮影が始まった。
あたしもカットを済ませ、あとは乱馬を待つだけだったから、大丈夫かしら…とフォトスタジオに近付いた。
すると、それに便乗する様に遠目で見ていた女の子達が集まって来た。
最初は乱馬が選ばれた事が誇らしいと思っていたけど、その女の子達の様子に、途端、あたしは面白くなくなった。
プロに手を加えられたと言っても、これだけの女の子を引き付けるんだから。
ただでさえ、三人娘という、強敵が控えているのに、これ以上増えて欲しくない。
あたしは複雑な思いを抱えながら、乱馬を眺めていた。


しばらくするとあたしのカット担当の美容師さんのアシスタントの女の子が、手招きしてあたしを呼んだ。

「何ですか?」
「彼のコーディネートさせて貰ったし、あかねちゃんも一緒に撮らせて貰っていいかな?」
「えっ…でも…あたしなんか…。」
「良いでしょ?彼と一緒だし、ちょっと使うだけだから!!それに周りの子へ牽制できるわよ。」

そう言うとウィンクした。
あたしはちらりと乱馬を見る。
その周りには女の子の熱い視線。
むかっ!!

「あたしで…良いんですか?」
「ん。あかねちゃんが良いの。」
「やります!やらせて下さい!」
「そう来なくっちゃ!!」

アシスタントさんはそう言うと、あたしにメイクを始めた。





写真が苦手なせいか、最初は顔を引きつらせながら映されていたが、相変わらず器用なのか、顔を作るコツを覚えると、あっさり撮影を終わらせた乱馬。
あたしは撮影が終わるのを見図ると、乱馬の傍へ寄った。

「なっ!?……あかね?…な、何だよ?」
「あ、乱馬くん、最後にあかねちゃんとも一緒に撮らせて欲しいんだけど。」
「えっ?」
そう言うと乱馬はあたしをじっと見た。
な、何よ…その意味ありげな視線!!
もしかして……変かしら…。
あたしはアシスタントさんに、髪のアレンジと、ほんのりとメイクをして貰っていた。
「な、何よ…変?」
「変…つーか……変な感じ。」
「何それ?」
いつもと違う自分がいる様で、満足していたんだけど、乱馬の反応はイマイチ。
まぁ期待なんかしてないけど。
「ま、馬子にも…ってヤツだな?」
「ちょ…どーいう意味よ!!それに使い方ちょっと違うんじゃない?」
「じゃーあかねにも化粧ってヤツか?」
「な…なんですってー!そのまんまアンタに返すわよ!!変態にも衣装ってね!」
「んだとー!」
「何よっ!!」

折角牽制を……ってキレイにしてもらったのに、牽制どころかあたしと乱馬は睨み合っていた。

とその時、
「「「あははははははは!!!」」」
と美容師さん達から、大爆笑が起こった。
「「へ?」」
急に起こった出来事に、あたしと乱馬は顔を見合わせた。
「噂通りなんだねー君達って本当に!」
あたしの担当の美容師さんがそう言ってきた。
「な、何がですか?」
「まさか、実物が見られるとはねー。」
あたしの担当の人はそう言いながら、あたし達を見た。
「う、噂!?まさか、おめー妙な事吹き込んだんじゃ…」
そんな美容師さんの様子に、乱馬はあたしにすごんできた。
「し、知らないわよ!あたし乱馬の噂なんて口にした事ないのに!」
「じゃ、じゃー……」
「君達…自分の噂まだ回って来てないんだ?近所なんだから、君達のことは有名なんだよ!毎日夫婦喧嘩しながら学校から帰ってるって。」
「「…は!?」」
「だから夫婦喧嘩の噂だよ。それにしても二人共、素直に素敵だって言えばいいのに〜!」
「本当に意地っ張りなんだね!」
「「「あはははは!」」」
「「なっ!」」
「本当に可愛いカップルで羨ましいよ。」
そう言うと、周りのスタッフも大笑いした。
その雰囲気に、すっかりあたし……あたし達は真っ赤になってしまった。



からかわれてすごく恥ずかしかったけど、そのお陰なのか妙な緊張感に襲われる事はなかった。
撮影はただ寄り添って写真を撮るだけなんだけど、あたし達には大変な接近。
緊張はしなかったものの、その接近に照れながら、でも、カメラマンのトークに和まされて、何とかやり遂げた気がした。
そして意外だったのは、恥ずかしがらずに乱馬が積極的にあたしに寄り添ってくれた。
撮影の為…きっと早く終わらせたくて、そうしているんだろうけど……今だけって判ってるけど、嬉しくなってしまう。思わずあたしは乱馬に甘えた。
そのお陰か、最初、感じていた幾つもの痛い視線は余り感じる事は無くなった。何気に牽制になったのかな…。

「じゃー最後にもう一枚!!いい顔宜しく〜!」

ぱしゃ!

「はい、お疲れ〜!」
「「「お疲れ様でーす!」」」
「どもっ」
「ありがとうございました!」
あたし達もスタッフに一礼するとレジに向かった。



レジにはあたしの担当と、乱馬の担当二人が並んで立っていた。
「ほいっ金一封!ありがとうね!」
「おっラッキー!」
「あかねちゃんと仲良く使ってね!」
「「はは……どーも。」」
散々からかわれたから、妙な免疫が出来てしまったあたし達は乾いた笑いで誤魔化した。
「きっとラブラブな写真が出来上がるから、楽しみにね!」
「仲良く学校行けよ?」
「「また二人で来てねーー!!」」
という美容師さんの言葉を背にしながら、あたし達は美容院を後にした。
結局、最後の最後まですっかりからかわれてしまった。




「ったく…ろくな目に合わなかったぜ…。」
「そうね…。」
写真を撮って貰ったのは嬉しかったけど、終始からかわれて、まるで家や学校にいるみたいで、イメージしていた穏やかな時間は全く無かった。
それに乱馬に向ける女の子の視線もイヤだったし…
とにかくあたしも乱馬もすっかり今日の出来事に疲れてしまっていた。
折角の穏やかな一日をパーにしてしまった気分。

「ごめんね。無理矢理連れて来て。もう乱馬を美容院に連れてかないから、安心して。」
「あん?行く時あんなに連れて来させようとしてたくせに、急に何だよ?」
「だって……」
(乱馬へ向く女の子の視線イヤだし……。)
あたしがそう思っていると、
「なっ…ま、まさかおめー…」
「な、何よ……」
「恋の相談の為に……」
検討はずれな事を言ってきた。
(こ、コイツは……本当に!!)
「ばっ…バッカじゃないの!!だから冗談だって言ってたでしょ!?」
「じゃー何で、もう連れて行かないとか言うんだよ?」
「そ、それは……」
(ヤキモチだなんて言える訳ないじゃないっ!!)
あたしがモジモジしながら言葉を濁していると、乱馬は何かピンと来たのか先程とうってかわってニヤリと笑った。
「んだよ、もしかして妬いたのか?」
「だ、誰がっ!!」
(女の子が自分を見ていた事が判るなんて、相変わらず自信家なんだからっ!)
そう思いながらも、見事に見透かされて熱くなるあたしの顔。
そうなるとあたしは感情もコントロール出来ずに、憎まれ口を叩く事になる。
「鼻の下伸ばして、益々変態に見られるから、言ってあげてるのよ!」
「だ、誰が鼻の下伸ばすかっ!!おめーこそ男が集まって来て喜んでんじゃねーよ!」
「はぁ!?どこに男なんていたのよっ!女の子ばっかりでデレデレしてたくせに!」
そう言うと、乱馬はぽかんとした。
「おめーっ…気付いてなかったのか?」
「えっ?」
あたしは乱馬の言っている意味が判らず首を傾げる。
すると乱馬は溜息をつくと、先程の勢いを消して
「ま、まぁ……今後は俺を連れて行けねーなら、おめーも、もう行くな。」
そう言った。訳も判らずに言われるその言葉にあたしはむっとする。
「何よそれっ?元々あたしがお得意様なのに、何でそんな事言われなくちゃならないのよっ。」
「ったく、鈍感にも程があるぜ……。そもそも今日だっておめーが男ばっかいるっつーから心配して来てやったって言うのに。」
「え?」
あたしは一瞬耳を疑った。
「えっ…い、いや、なっ何でもねー!!」
そう言って真っ赤になってそっぽ向く乱馬だけど…あたしは乱馬の言葉をはっきり聞いた。
(もしかして…来る気になったのって…)
乱馬が真っ赤になる姿を見て、あたしはさっきの乱馬の台詞をマネしてみた。
「もしかして妬いたのかな?」
「るせー!そんなんじゃねーよっ!」
そう言うと乱馬は益々真っ赤になって反論した。
そうなんだ……あたしはそんな乱馬の姿に嬉しくて、「そーなんだ。」そう言いながらくすくす笑っていた。


「ちぇっ…勝手に笑ってろっ!」
しばらく笑っていると、そう言って拗ねた様にそっぽを向く乱馬がいた。
その姿があたしにはとても愛しく感じ、乱馬に急に触れたくなった。
さっきの撮影を思い出す。撮影の時みたいに寄り添いたい…。
そうは思っても実際に、あたしには行動を起こすのはムリ。
でもちょっと位なら……そう思うと手が伸びていた。
寄り添うのはムリだけど、ちょっとだけ乱馬の服を掴むのなら出来る。
服でもいいから、触れていたい衝動。
さっきのぬくもりを思い出したくて、密かにきゅっと掴む。
すると乱馬はあっさり気がつくと、こっちを向いた。
まだ真っ赤な顔のまま。
その顔にあたしは思わず笑ってしまうと、乱馬は「何がオカシイんだよっ」ていう様な顔をし、服を掴んでいた手をふいに握られた。
思いがけない行動に、あたしも思わず真っ赤になる。
すると、今度は逆に乱馬に笑われた。

こうして乱馬と手を繋ぎ、さっきのぬくもりを感じながら歩くいつもの道。

髪を切る。
些細な事から始まったけど、それがもたらしてくれたのは素敵な1日の始まりだった。


 にょーーーっ!!何もかも詰め込もうとして…何だか淡々としてるし意味不明〜(汗
  ってゆーかカットモデル、こんなに無理強いしないし。
  お礼がどうなってるのかは知りません〜(汗)友達は商品と後から載った雑誌貰ってたケド。
  フォトスタジオが横にある美容院はあります。
  とりあえず、作り話なので、クレームはやめて下さい(笑
  そして、もう夏だよ…というツッコミも。UPした本人一番判ってます。←UP忘れていた(笑

  やっぱ「らんま」で髪を切るって言ったら、あかねの髪が切られたシーンかな?と思う。
  だからこそ違った話を考え、敢えてこんなラブにしてしまいました。←ひねくれ者(笑
  それにしても、また微妙に乱馬持ち上げ週間してしまった(汗)そしてあかねドキドキ週間(笑
  乱馬視点がある予定。この後のお話で。


2003.6.29