〜 大掃除 〜  
  chapter1.写真のネガ(50題目) 


「やだっ…忘れてた。…これまだ残ってたんだ…。」

年末の大掃除をと、部屋の整理をしていたあかね。
クローゼットやたんす、色々な引き出しを開けて、整理整頓をしていたところに、虹色の輝きを持つ箱がこっそり隠れていた。
あかねはちょっと苦笑いしながら、それを手に取り箱をかぱっと開けた。
そこには1枚の写真とその1枚きりしかないネガが入っている。
写っているのはかつての想い人、整骨院の医師、東風。
そして髪の長かった頃の自分自身、あかね。
ちょうど今位…冬の季節に撮ったものだった。

「受験のお守り…だなんてお願いしたのよね…。」

あかねはぼんやりとその写真を眺めながら、当時のことを思い出していた。
好きな人の写真を手に入れたいという思い。
でもその思いをかなえるのは、あかねにはなかなか困難なことだった。
東風のような達人に向けて隠し撮りなんてことは出来ないし、誰かに東風の写真を撮ってもらうのを頼むのは無理。
だってこの恋は秘密だった。
だから一人で頑張るしかないと思って、考えたあげくが、
"頭のいい先生と一緒に写ってそれを受験のお守りにしたい"
だった。
今思えばなんてばかばかしいお願いの仕方だったと思うけど、その時は一生懸命だった。



東風への想いが恋だと気づいてから撮った写真。
悲しいときにはこの写真を眺め元気をもらう。
また
"先生が好きです。私じゃダメですか?"
誰にも言えない、打ち明けることの出来ない苦しい気持ちをこの写真に向けていた。
報われないと判りきった想いをどうすることも出来なくとも、この想いを止めることなど出来ない。
だから写真に何度も語りかける。
答えがなくとも…いや判りきっていても。
あかねにとって、この写真何にも変えられない宝物だった。


「でも…もう…」
あかねはそう呟くと、ふっと柔らかく微笑み、箱を閉めた。
しばらく考え込むと、その箱を抱えてドアのノブに手をのばした。

−こんこん

その時、部屋がノックされた。
一瞬どきりと心臓が高鳴った。

「はい。」
心を落ち着かせながらあかねがノックに答え、ドアを開けるとかすみが立っていた。
「お、おねえちゃん。」
さっきまで東風の写真を眺めていたあかねは、かすみの登場に少々驚く。
別に悪いことをしているわけではないのに、なんとなく気まずい思い。
「どうかした?あかねちゃん?」
そんな様子にかすみがそう声をかけると、あかねはあわてて微笑んだ。
「う、ううん。何もないよ。それよりなぁにおねえちゃん?」
「あのね、あかねちゃん、ちょっと悪いんだけどおつかいお願いできる?」
「うん。いいよ!」



あかねはかすみのおつかいを聞き、ドアを閉めると、箱をベッドの下にこっそりしまった。
「またあとでいっか…。」



コートをまとい外に出たが、なんとなくちらりと自分の部屋を眺める。
「大丈夫よね…」
そう言ってうなずくと、かすみに頼まれたおつかいをすべく、歩き始めた。


 大掃除というメインタイトル、100題をサブタイにしてのプチ連載です。
  年末大掃除って……(汗)あ、知ってます…年明けてるのは(笑
  早くUPしろよとツッコミながら、読んでやってください。

2004.1.4