宿題 


今日は宿題がねぇ。
普通のヤツにとっちゃー嬉しいことだろ。
しかし俺には困る。



あかねの部屋に行く口実がねーじゃねーかぁぁっ!!



宿題がねぇなんて、死活問題だ。
安らげる場所での、二人きりの貴重な時間が取れない。
何せ、ここ毎日、宿題のお陰で通わせて貰っていたから。
宿題の時間…唯一この時間だけは、二人きりになっても、家族は聞き耳たてたりしないというのに。

以前宿題の最中、皆があかねを死ぬほど怒らせた。
その日、下着集めをして帰って来た八宝斉のじじいは、あかねの部屋の扉にコップをつけて中を探っていた家族の姿を見て、
"俺とあかねが二人きりで宿題をしている"
と認識し、その様子が面白くないと、部屋に乱入してきた。

邪魔しただけならまだマシだったが、その騒ぎのせいで、その時の宿題であったレポートが、無残にも提出できる代物でなくなったからだ。
数枚のレベルではない。数十枚の力作だった。
あの時のあかねのオーラは今でも忘れない…じじいでも出す事ができないかもしれねぇ…。


それ以来、宿題の時間だけは邪魔する者はいなくなった。
まぁ、"俺たちは二人きりになったって、何も起こらねぇし、いたって健全である"、
そうやってずっとアピールしてきたその成果も実り始めていたのだが。

だから、家族はこの時ばかりは、何もないと踏んだのだろう。
見せかけだというのに、まだまだ甘いな。ふっ……。

ってそんな事はどうでもいい。何か考えろ。

俺は一人ツッコミをしながら、うーん、うーん自分の部屋で唸っていた。




しかしいくら考えても、俺にはいい口実など、何も思いつかなかった。
考えれば考える程、言い訳がましい理由となる。
残念ながら、俺はまだまだ宿題に頼らないと、あかねの部屋に行けねぇ。
俺は諦めると、歯でも磨きに行こうかと立ち上がった。

と、その時「入るよ、乱馬。」と声がしたかと思うと、ふすまが開いた。

「うわっ!!…な、何だ?」

さっきまで、あかねの事ばかり考えていた俺は、急に目の前にあかねが現われて、声が上ずってしまった。

「何慌ててるのよ?あーっスケベな事でも考えてたんでしょ。」

そんな俺の様子を怪しんだあかねは、そう言うと笑った。

「ち、違わい!!」

あかねの事考えてたなんて言える訳もなく、俺は真っ赤になりながら、そう否定した。
あかねの言う事、あながちウソではないが……。

「ご、ごほん。それよりどうしたんだよ。」

俺が気を取り直してそう言うと、思い出した様にあかねは、二冊程単行本を差し出してきた。

「この間、借りてたマンガ返しに来たの。」
「へ?」
「乱馬、これ借り物でしょ?早く返した方がいいと思って。」
「おう。でも別にこんなもん、明日学校行く時で良かったのに。」

何だ、今頃?そう思いながらも受け取ると、俺は通学かばんの中に放り込んだ。

「あんた早起き出来ないから、ギリギリになったら忘れるだろうし……」
「そりゃそーだ。」

俺は納得してそう笑うが、あかねは俯いたまま黙った。
何か様子が変だ。
どうした…?そう言いかけて、俺は自分の耳を疑った。


「それに……なかったし……その……ね。」

その言葉に驚いて、あかねの顔を覗き込むと、照れ笑いをしていた。

「そ、それって…」

俺がそう言うと、あかねはこくんと頷いた。
……俺に会いに来てくれたって事だよ…な!?
マンガの口実つけて……っ
か、可愛い事言うじゃねーかぁ!!!
俺は心の中で幸せの鐘が鳴り響き、抱きしめたい衝動に駆られた。

「あかねっ…あの……っ」


そう言いかけて、あかね自身に遮ぎられた。そして、

"宿題なくたって、『宿題』って来てくれても良いのに。"

そう耳元で囁いたあかねは、真っ赤になりながら、走って行った。

マジ…かよ…。
俺はニヤけながら、しばしその場で固まっていた。







しかし本当に宿題が無いと、きっとあかねの部屋に上手く入れないであろう俺は、翌日宿題が出た時に、思わずガッツポーズをしてしまった。

「早乙女、そんなに宿題嬉しいのか?授業中は寝ているくせに。」

それを見られた先生にそう言われ、周囲に笑われ、あかねは俯いて真っ赤になっていた。
しかし、周囲の笑いなど、俺には気にならない。



昨日の事は、誰もいない俺の部屋での、ほんの一瞬の出来事。
たまにはいいなぁ…なんて思うが、俺の部屋は危険地帯。
おそらく二度とないだろう。

俺はちらりと時計を見る。
さて、そろそろあかねの部屋にお邪魔するぜ!
今から行くから、待ってろよーあかねーー!


以上乱馬の心の叫びでした。
  家なのに会いに来たって…というツッコミは止めて下さい(笑
  4行目の叫びが書きたかったので、最初4行で終わらそうとしたけど…さすがに。
  ありがちな宿題口実ネタでゴメンなさい(汗
  100題でも、こんな感じの話が続くと思います。
2003.4.28