愛 


「すげーナイスバディだなぁ。」
「ひょーーっ!こんな子めったにいないぜ!?うぉっ胸でけー!」

こんなこと言って俺の隣で興奮しているのは、大介にひろし。
この二人、ひなちゃん先生の授業が自習になってから、アイドルの水着特集が載っている雑誌を広げて同じ言葉を繰り返している。


「やっぱ胸は大事だよな!胸はっ!!」
「まったく男のロマンだぜ!!」
…何がロマンだ…。
このノリに馬鹿馬鹿しいと思いつつ、俺も横目で見てはいる。
俺だって男。
興味はあるからな。
しかし興味はあるが……俺はこんなノリではない…たぶん。

そんな風に思っていると、今まで自分たちの方に向けられていた雑誌が俺に向いた。
「なぁ乱馬。お前どう思う?」
「あん?何がだよ。」

ぜってー俺に矛先が来ると思ってた。

「何が、はないだろ。何がは。」
「聞いてたんだろ?俺たちのハ・ナ・シ!」
「知るか。」
俺が呆れたように言うと、大介とひろしはずいっと近づいてきた。
「バカかお前はっ!」
「だっ誰がバカだっ!」
「バカだな!見ろ!このナイスバディーさ!」
「お前は何も感じんのか!!!」
「「くー!たまらん〜!!」」
大介もひろしも自分の体に手を回して、くねくね動きながら、このアイドル達の姿を喜ぶ。
俺も一緒に喜……べるハズがない。
こんな所あかねに見られたら何を言われるかわからねー。
俺はこの雑誌を遠ざけるために、興味のない素振りをする。

「何がロマンだ…ったく、くだらねー。」
俺がそう言うと二人は更にずいっと近づき言う。
「乱馬!お前はそれでも男かっ!」
「あ?」
「確かにあかねという愛する許婚がいる。」
「なっ誰が愛…」
否定をしようとするが、盛り上がっている二人に言葉を遮られる。
「あかねの胸以外に興味がないのは判るが…」
「こっこら何を……!」
「しかーし!他の女についても勉強が必要だっ!」
「そうだっ。よく見ろ!!ほらほらっ!!」

俺の顔に雑誌を押し付けるひろし。

「くーーーっ!!うっとうしいわ!見ればいいんだろ見れば!」

俺はうっとうしいという大義名分で、じっと雑誌を見てみる。

興味があったが……
いざ見ると大して魅力を感じなかった。
…なんだ、スタイルがいいだけじゃねーか。言うほどじゃねーな…。
そう思っていると、背中がぞくりとした。



「へーーーっ。あんたってこんな本好きだったんだ〜。」



その声に急いで振り向く。
「あ、あかね…」
「やだー乱馬くんあかねがいながら、そんな本見てるなんてー。」
「何してるのかと思えば、大介もひろしもサイテー!」
あかねに続いてそう言うのは、さゆりにゆか。
三人は仁王立ちして俺たちを見下ろす。


「やっぱり乱馬ってスケベだったのね!!」
一番見られたくなかったあかねがジト目で俺を見ている。
「だ…誰がスケベだっ!!」
「そうだ!健全な男子なら興味を持ってもおかしくない!」
「否定するなど心が狭いぞ!」
俺の言葉に続いて大介とひろしが開き直るもんだから、俺が筆頭になっているように聞こえる。
「おいっ俺は無実だぞ。俺は無理やり……」
「ふーん。」
あかねの冷たい視線。
俺が否定しようとするが、聞く耳持たず。
「だらしなーい顔して見てるんだから!乱馬のスケベ!変態!」
…へ、変態!?
な…確かに興味があったけど……たかだか雑誌見てたくらいで変態はねーだろ!?
俺はあかねのその一言にムッと来た。

「誰が変態だっ!ったく…色気がねーからって本にあたるなよな。」
ちょっと意地悪くなり、俺がそう言うとあかねが思いっきりムッとするのが判った。
「だっ、誰が色気がないのよ!ったく胸が大きい女の子がいっぱいだからって鼻を伸ばして!変態丸出しよ!!」
「鼻なんか伸ばしてねぇっ!おめー胸が小さいからってアイドルに妬くなよ!」
「なんですってーーーー!!」
別に胸の大きい女が好きなわけじゃないが、ド変態扱いされ言葉が止まらない。
「女の俺にも勝てねー位胸が小さいもんなーー!」
「小さくて悪かったわね!!だったら胸の大きい許婚捜せばっ!?」
「はぁ本当だよな〜。」



「捜さなくても、お前が協力してやればいいだろ〜?」

俺たちが喧嘩していると、そう大介から横槍が入った。
大介のヤツ判ってねーな!
「俺が協力してもこの程度だからなー!あかねっ!」
「あんたって人は〜!!あたし別に頼んでないわよっ!!」






しーーーーーーーーーーーーん







「「……ん?」」
今までザワついていた教室が急に静まりかえったことに気がついた。
ふと見ると困惑した友人の姿が目に入った。
「そ、そっか…協力してんだ。」
「…すまん。余計な心配だったな。」
「あかねを大切にしろよ。乱馬。」
「乱馬くん、あかねを宜しくね。」
互いの友人はそう言うと、静かに肩を叩き席に戻った。

「「へ?」」

妙な雰囲気に自分たちの言った言葉を思い返す。






「「…あ……っ」」
そして俺たちは顔を見合わせ、言葉を失ってしまった。
今、大介の野次に対して、思わず大変な発言をしてしまったのだ。




きーんこーん
教室に響くチャイムの音。
この後、気まずい雰囲気の中、授業を受け続けることになる。
いつものようにからかわれた方が救われる……。
否定をしようにも出来ない状況に俺もあかねも困り果てていた。






あとで思った……
ストレッチに協力してるって言えばよかった〜!!!
くそーーーーーっ!


  愛で胸が…
  何も言うまい(汗
  ストレッチもどうかと思うよ乱馬くん。
2003.11.10