VOICE
Side R
俺は修行を終え、山を降りると、まず携帯を手にした。
実は最初、携帯は余り好きではなく、自ら持つ気は全く無かった。
常に居場所を干渉される様な気がしたから。
しかしある日、お袋にあかねとお揃いで持たされた。
"あなたはすぐにどこかいなくなるのですから、あかねちゃんとの連絡用に持ちなさい。"
半ば強引であったが、楽しそうなあかねを見ていて嫌だとは言えなかった。
携帯に次第に慣れると、案外悪くないかもと思う様になったが、しかし普段だけではなく、修行の時にも常時持たされるのは困った。
修行中でも、これ1つで誰にも邪魔されない、あかねとの時間が持とうと思えば不可能でなくなったから。
修行中に電話だのメールだのダイレクトにやり取りをして、擬似でも傍にいる感覚を得ると、絶対に会いたくなるのは判っている。
かけたくなる気持ちを抑えるのと………万一かかってくるかもしれない。
修行の時だけは連絡を断ち切りたい俺は、電波の届く所で修行なんざしないようにしていた。
−声が聞きたい。
しかしこんな物を持つと余計に募る思い。
そんな時はアイツが打ってくれたメールを開き、笑顔のあかねを思い浮かべていた。
"修行頑張ってね乱馬! あかねより。"
帰る時位は連絡しようと、山の麓で携帯を持つと早速電話しようとした。
ずっと我慢してきた分、急く(せく)気持ち。
"そんなに声聞きたかった?"
俺の様子に気持ちを見透かされては…そう思うと一度気持ちを抑える様に深呼吸をした。
そして最初に登録されている短縮ダイヤルを押す。
すると呼び出し音が鳴らない内にぷっ…と繋がった。
「あっあかね?」
すぐに出たので驚いてどもってしまった。
もしや今かと携帯の前で待っていてくれたのでは…そんな風に思ったから。
しかしその思いはすぐに裏切られる。
『只今電話に出る事が出来ません。ピーッと鳴ったらお名前と電話番号をお願いします。』
がくーーーっ!!
俺はかなり嬉しい気持ちになっていただけに、落ち込みも激しかった。
…留守電かよ…
がっかりしながらも、気を取り直すと、取り合えず留守電にメッセージを残した。
「あー…あかね、俺。えーっと…今から2時間後位に帰るから。それだけ。じゃな。」
留守電は苦手な俺は、この言葉を残すのが精一杯だった。
ちぇっ、あかねに会えるまではメールの文字で我慢しておくか。
−早く声を聞かせてくれ…
Side A
机の上に乗せては今か、今かと待つ電話。
乱馬と色違いのお揃いで持たせてもらった携帯。
乱馬はおばさまに半ば強引に持たされた物だったけど、あたしは嬉しかった。
どこでも乱馬と繋がっていられる気がしたから。
乱馬にとっては束縛されているみたいで、窮屈そうだったけど、一緒にメールの練習をして行くうちに気持ちは変化したみたいだった。
"案外おもしろいかも。 乱馬"
そのメールが来た時は、修行とかでいなくなっても、電話かメールのやり取りが楽しく出来ると思っていた。
でもあたしの期待とは裏腹に、乱馬は肝心の修行の時には電波の届かない所にいた。
あたしの気持ちなんか判らないアイツは電波の無い山奥で武者修行。
いつも沢山の理由を考え抜いて、かけてみるけど、未だかつて修行中に繋がった事が無かった。
今回もどーせ電波の届かない所にいるだろうな…。
そう思いながらもかけてみる携帯。
−声が聞きたい。
しかし………繋がらない。
やっぱりと思っても、沈む気持ち。
何よ!乱馬のバカッ!
寂しくてつい電話に向かって呟く言葉。
たまには繋がる所にいてくれたって……。
電波だけでなく、あたしのそんな気持ちも届かない。
そんな理由で修行場所を選ばない事は知っている。
他から電話が入ったら気が散るってゆーのも知っている。
だから判ってるワガママだって。
でもたった一言で満足するのに…
しばらく携帯を睨みつけるけど、あたしは溜息をついて取り上げると、短縮ダイヤルを押した。
『あー…あかね、俺。えーっと…今から2時間後位に帰るから。それだけ。じゃな。』
以前留守録に残してくれたメッセージ。
あの時以来、寂しくなったら、保存したこれを聞いて乱馬の帰りを待っていた。
−早く声を聞かせて…
な、なんのこっちゃ、どないやねん(汗)書きたい事がイマイチ表現不足……。
あ、ムー○ー写メールとかあるから、それの保存の方がいいやん!
ってゆーツッコミは勘弁して下さい(笑
……えっと因みに乱馬とあかねの呟きって時間差があるんです。…はい。
普通は同じ時間を並べるんでしょうが、敢えて…。
2003.5.6