◇Octover Drama(後編)
satsukiさま作
「っで、しょうがなく学校に来たわけ・・。ばかねぇー!でも、乱馬ことだからどっちにしたって学校来ないかなぁ〜って
思ってたけど・・・まっ、来ただけ、偉い、エライ。」
「お前なぁ・・(怒)なんなんだよ!その‘どっちにしたって’って!っんとに、かわいくねぇ!」
「なによー!どうせ、一言も覚えてきてないんでしょ!」
「う”・・うるせーな!!」
乱馬とあかねの言い合いの響く教室。今はちょうど昼休み。乱馬にとっては、学校の中で最も好きな時間だ。
予定ではもっと早く着くはずだったが途中でシャンプーに捕まってしまい、この時間の登校となったのだった。
・・しかし乱馬にとっては、思わぬ良い展開となった・・
なぜなら4時間目のチャイムがまだ鳴る少し前だったので、購買で一番前を先取りの上、自分の好きなコロッケパンに焼きそばパン
etc...を戦闘無しに購入出来たからだ。
(昼飯前に来るのもたまにはいいかもしんねーな・・)
そんな不真面目なことを思いながら、乱馬は余裕で1−Fの教室に入り、隣に座るあかねに簡単に理由を話し、現在に至る。
「だいたいねぇ、台本もらってから何日経ってると思ってるの!?不真面目極まりないわね!」
「しょーがねーだろ!ほんとはやりたくねーのに・・勢いでこーなっちまったんだからよ・・ったく。でーじょーぶだよ。どーにっかなっから。」
はははっと気楽な笑いを飛ばす乱馬を不満そうに見つめるあかね。
(勢いねぇ・・ああ、またどうしようもない演劇になりそう・・・。美咲に悪いなぁ・・・)
と影でため息をふっとついた時、美咲が(今は食べる事で夢中の)乱馬に駆け寄って来た。
「ゴメンね。2人とも。話聞いてたの。はい、乱馬君。」
こそっと小さく謝りながら、美咲は乱馬の所持していた物体を手渡した。
「「・・んっ、これって・・」」
自分の手を、そしてそれを覗き込みながら、乱馬とあかねの声は重なった。そう、それは・・・
「うんっ♪台本!乱馬君、こんなのいっっっくらでもあるから、気を落とさないでね!そうそう、あかねも気を落とさないでよ!今日の台本合わせ、初めてだから台本持ったままやるの・・乱馬君、多少覚えてなくても平気平気!!じゃー、またあとでね!」
と言いたい事だけ言って、風のように去っていく友人をポカ〜ンと見送った。
(美咲・・強い!!でも乱馬、多少・・じゃないのよね・・・)
(言い返せねぇ・・つ〜か、隙がねぇ・・あかねとはおー違いだな。俺の苦手なタイプか・・?あいつは・・。)
それぞれの思惑を抱きながら・・・。
そして2時間が平凡に過ぎ、初合わせの7時間目。LHがやってきた。
「じゃあ、机寄せて、イスだけ持って前に出て下さい。うん、場所は適当でいいわ。はい、座って。」
クラスの委員長と、実行長の美咲が先頭にたって次々の質問の答えていくことで、練習は始まった。
「最初の15分間は台本を読んで下さい。自分の台詞の確認などを行って下さい。」
なかなか静まらない教室中に響く声を張り上げ、やがて1分・・2分と少しずつ静寂が支配し始めた。
たまにかたっとイスが揺れる音がする以外はし〜んと保たれた静けさ中、当の乱馬は台本を見る振りをして、周りを見回していた。
(たくっ、やってらんねーぜ・・。大体、俺には大道具係りのほーが向いてるっつ〜のに・・・)
ほぼ全員を見回し、最終的に目に止まったのは横に座る見慣れた許婚・・あかねの姿だ。
あかねは流石に真面目・・いや生真面目に台本と睨めっこをしている。
(ホントに張り切ってんなー・・こいつ・・まっ、道具係りに行って不器用発揮させてセットから大怪我人が出るよりは・・こっち
のほーが確かにこいつには適してっよな。うん・・)
じ〜〜っと気づかれないように覗き見しながら乱馬はこの間食べさせられた怪しげな匂いと色を漂わせる本人曰く‘超自信作’の
オムレツを思い出し、その超人的不器用さに1人苦笑した。
10分・・13分・・この時点で乱馬は一言も頭に入れていないことを付け足しておこう!
「時間でーす!!」
再びざわざわとした空間が花開く。隣近所の人達と自分の役の口調をそれらしく、そして少し楽観的に話し始めた。
そんな中、あかねは乱馬にヒソヒソと聞き入れした。
≪ちょっと・・乱馬!あんたちゃんと読んでたの!?1言でも2言でも!なんか妙にキョロキョロしてたわよっ!≫
ぎくっと乱馬は体を一瞬強張らせたが‘真面目’そうに言い返した。
≪まっ・・まぁな(気づいていやがったのか・・)ふっ、俺に不可のーはねーんだぜ!(・・でもねーか)ときに、あかね・・
(話ずらさねーとな・・)≫
≪なぁに?(台詞のことかしら?)≫
強気の乱馬の言葉に半ばほっとしたような、恐ろしいような奇妙な中間心を左右させながらあかねは応えたが・・
その2つの心の内で勝ったのは・・
≪前から思ってたんだけどよー‘あかね’と‘バカ’くっつけっと‘ばかねっ’な〜んちって・・なかなかセン・・ふぐがっ!!≫
「いっぺん、死んでこーーーいっ!!!!」
どかぁぁ〜〜ん・・・
乱馬の奇声?と衝突事故のような大音響の中、見事にあかねのスクリューアッパーが決まった。
「はぁっ・・はぁっ・・たくっ、15分間も、なにやってたのよ!あいつは!」
対象をぶっ飛ばした後、大きく呼吸を整えながらつぶやくあかねに、美咲が近寄って、一言。
「だめよぉー、あかね。主人公ぶっ飛ばしちゃー・・」
いつでもマイ・ペースな美咲に何時もズッコケがちになるが、やがてにこっと微笑んで言葉を返した。
「だーいじょうぶっ!心配しなくても(真上に飛ばしたから)その内・・・」
ひゅるるるるるるっ・・・ずどぉ〜〜ん・・めしゃ・・
「帰って来たから、ほらっ。」
あかねの言葉と共に乱馬が天井の大穴から真っ直ぐ床板に顔をめり込ませた。
・・この絶妙なタイミングの良さといい・・この2人の息はピッタリあっている・・・?のだろうか・・。
この後は、再起不能になりがちの乱馬の顔を無理矢理整えて、練習続行。
台本を持ったままの合わせだったので、乱馬も劇お決まりの‘感情’(所謂、成り切る心)は入れずとも棒読みでの参加となった。
少し覗いてみよう・・・これは占めの場面・・探偵:乱馬の謎解きシーン練習中のちょっとしたハプニング・・?
乱:「うだうだした話はなしだ。あ〜、これ以上被害者を出すわけにはいかねーからな!・・俺の推理が正しければ、犯人は・・
え〜と、犯人は、大介、おめーだ。」
あ:「ちょ・・ちょっと乱馬・・いくらなんでも、それはないんじゃないの・・?」
大:「・・あかねの言う通りだぜ。それはお前の単なる推理だ。乱馬、俺には動機もねーし、アリバイもある。
・・証拠はあるんかよ・・」
乱:「証拠がねーなら、おめーを犯人扱いするわけねーだろ。人間なんざ、誰一人、んっ?あぁ、誰一人完璧な奴はいねぇからな。
おめーは知らねーうちに、え〜、俺の罠にまんまと填まってくれたってわけよ。」
大:「・・・罠・・?」
乱:「そうだ。大介、おめーはこいつを知ってるはずだ。絶対になっ。(何か、やな予感・・)」
あ:「っ!乱馬!そんなことしたら・・あっ・・(水・・無いわっ!あっ、あった。見事だわ・・美咲・・)」
大:「っ!!!!(うわっ!冷てーじゃねーか!)」
ばしゃーーん(←乱馬水かぶる・・いや横からかけられた)
ナ:「・・紹介しよう!彼、早乙女乱馬は女と男の間を自在に操れる・・・。」
「なんじゃあ、そりゃ!俺は、元々男だっ!なんなんだこの台本はっ!!」
(今は)らんまのアドリブ台詞にも、ナレーションの美咲は全く動じない。この配役設定は流石と言えよう・・。
ナ:「そう・・本人曰く‘男’の特異体質なのだっ!!」
「・・・・・怒ι(ちったー、人の話を聞けよっ!)」
ナ:「そしてその技術を用いて、ある時はっ!普通の女子校生!」
≪ほらっ、らんまっ、しっかりっ!≫ ≪わーってるよっ!やりゃ〜いいんだろっ!やりゃあ!≫
本人ほとんどヤケになる結果となった。しかしこの変わりようは何時見ても鮮やかなモノである・・
ら:「うふふっvいけなぁい、遅刻しちゃ〜う!」
ナ:「そしてある時はっ!華麗なスチュワーデスさん!」(←さっと着替えて登場・2)
ら:「ア・ア・アテンション、プリーズ!注目してくださぁい!!」
ナ:「またある時はっ!白衣の天使・看護婦さん!」(←着替え・3)
ら:「お注射一本いvかvがっ?」
ナ:「またまたある時はっ!色香漂うバニーちゃん!」(←着替え・4)
ら:「うっふ〜〜〜んvv・・・って、おいっ(怒)」
ここで練習が一時中断。わなわなと振るえながらスタスタ美咲に近づくらんま。
何せ最後までまともに台本を見ていなかったのだから当然といえば当然の反応だが・・
「ど〜でも・・よくねーけど、なんか、俺がバカみてーじゃねーか??」(効果音:ど〜〜〜んで背後に荒波付)
と逆上するのはらんまだけで、クラスの中では大受け、あかねですら小さく(多少は同情してるらしい)肩を震わせる始末。
そして張本人の作者・美咲の反応は・・・
「うんっ、乱馬君のバカッっぷりど〜やって出そうか迷ったけど、今日のなかなか良かったよvもっともっと頑張ってねvv」
後ろに花が咲きほこる程のボケッぷりを連打させる美咲は本気+女で乱馬(←男に戻った)は殴ろうにも殴れない。
(俺って・・そんなにバカなのか・・?)
と反対に落ち込む乱馬を、悪友ひろしと大介を始めとする男子生徒達が慰め(てるつもり)に入る。
「乱馬、気にするなよ。おめー、テストの点とか気にしねーんだろ?だったら‘バカ’でもいーじゃねーか。」
「そーだよな。‘バカ’でも平気だよなぁ」
「そーそー、武道家にも‘バカ’が一人くらいても・・はっ・・・!!」
(重い・・・場の空気がとてつもなく重いぞ・・・)
誰もが気付く大気・・重力の変化。それを引き起こしているのは紛れも無い乱馬だ。
「ら・・乱馬・・そんなに気にしなくても・・あんたは、あんたよ・・ねっ・・」
慌ててあかねがこの雰囲気を取り払おうとするが時、すでに遅しとはきっとこのような場面で使われるのだろう。
「ど・う・せ、俺は・・・」
んん〜〜〜っと気をためる乱馬。回りに充満する重い気が一気に乱馬によって引き寄せられていくのが格闘をやっていない者でも
分かるほどの勢いだ。
「わっ!待て!乱馬!速まるな!なっ、なっ、話せば分かる!とにかく、落ち着け!!」
そう言った次の瞬間。
「俺はどうせバカで〜〜い!!」「みんなっ!伏せて!」
乱馬とあかねの声が重なる中、皆が従ったのはあかねの方。
ざっと伏せた頭上を乱馬の放った獅子咆哮弾が壁をぶち抜け飛んでいく。っが・・
「ふぃ〜・・危なかっ・・い"っ!!」
ほっとしたのもつかぬ間、気弾が再び1−F目掛けて戻ってくるではないか。
ざっと全員がなんとか避けるが、たった一人、しくしくと泣きべそをかいている乱馬を直撃。そして・・
「どちくしょーーーーっ」
となぜか捨て台詞を残し、自らが餌食になって飛ばされていった。
呆然として見送るクラスメート。当然だろう。
「あかね・・今のどういうことなの・・?なんで、乱馬君が作ったのに乱馬君を狙うの?」
やっと口を開いたさゆりの言葉にあかねは、ふ〜とため息をついてから答えた。
「・・あれは、たぶん‘気の迷い’ね・・。言葉では断定してたけど、心のどこかじゃ認めたくなかったんじゃないかしら?」
「乱馬君、傷ついてたわね・・。」
「あぁ、早く立ち直ればいいが・・。」
・・結局、乱馬の放棄により、初合わせはこれで解散となった。
実際、台本の中で犯人役:大介が見たらんまの姿はなんだったのか、それはナゾのまま・・
・・本番、2週間前・・
乱馬達1−Fはボチボチと舞台装置や衣装等を設計・創作し始め、完成物も見られるようになった。
そのため放課後の教室中はそれこそダンボールの切れ端や紙くずで小さな塚が出来るのは当たり前となった。
乱馬もツッコミと気迫の効かないマイ・ペース美咲の多大な期待と何気に逆らえないあかねのやる気100%の姿に圧倒され、
2言3言と文句を言いながら自らの台詞を覚え始め、つっかえながらもなんとか一通りはマスターとまでのレベルになった。
今日も何時ものごとく台詞合わせが行われようとしていた。
1−F、演劇、しかも‘乱馬’と‘らんま’(主役?)と‘あかね’(ヒロイン)
想像しても、しなくても・・したくなくてもこのキーワード(特に後半)で必ず出てくるであろうある人物らが居る事を
忘れてはいなかったが、今まで都合よく出てこなかったため記憶の底から抹消していた・・つもりだった・・
現実は甘いモノではないと言おうか、来るべきモノが来たというところだろうか、本番直前の雲行きはどしゃぶり悪天候・・・
乱:「さぁ、大介!もう言い逃れは出来ねーんだ、自首しろよっ!何時ものおめーらしくキッパリと、物事決めてみろよっ!」
大:「うるせぇ!乱馬、お前に何が分かる!お前に俺のことなんか分かるもんかっ!・・それにな、俺はもうお前が思ってるような
奴じゃねーんだ、よっ!」
あ:「きゃっ・・!」(←大介、あかねの首先にナイフを押し付ける)
乱:「な"っ!あかねっ!大介!てめえ、何を!!」
大:「俺はもう人の死なんて怖くねーんだよ!まだ俺の復習は終わっちゃいねぇんだ!それに首をつっこまちゃ困るんでな・・。
今お前の動きを止めるには、あかねは格好の獲物ってわけさ。お前の大切な許婚だもんな・・」
乱:「ほー、それでおめー、俺が動いたらどーするつもりだ?あかねを殺すのか?」
大:「随分な余裕だな?この状態でお前が攻撃出来ねーことは、調べるまでもねー事実じゃねーか。」
乱:「そうか?こいつは可愛くもねぇ、色気もねぇ、不器用・寸胴・怪力女(←力説)だがなぁ・・武道のセンスはあるんでな。」
大:「っう"!!!」(←同時に大介、あかねに隙を突かれボディに1発入る。もちろん軽くだ。)
あ:「誰が可愛くなくて、色気がなくて、不器用で寸胴で怪力なのよ!(毎度毎度力説しちゃって!乱馬のばかーー!!)」
ドカバキ、ごきゅ・・(乱馬、あかねに本気で殴られる・・)
「全く、その通りあるな。あかね。」
「えっ?」
殴られた後の余韻を少し残すための静寂をいきなり外部の者・・シャンプーに壊されたことから練習はたまたずれていった。
「シャンプー!!」
「乱馬ぁv私、あかねなんかよりずっとずっと上手く演技するね。私とペア組むよろし。そして2人の愛を深めるよろし!」
と言ってシャンプーは乱馬の腕にからみつく。
「おっ、おいっ・・離れろシャンプー!」
乱馬はと言えば何時もの優柔不断さをあらわにしている。それを見てあかねが切れるのも何時ものこと。
「ちょっと、いきなり出てきてなんなのよっ!だいたいシャンプーは生徒じゃないでしょ!」
「何言ってるか?劇に生徒も何も関係ない。ヒロインは美しいのが当たり前ね。それに乱馬愛する気持ち、誰にも負けない。
あかねには無理ね。素直に引き下がるよろし!」
自身満々に返答するシャンプーにあかねが言い換えそうとした時、花びらがパラパラと優雅を通り越して、大量に降って来た。
(やな予感・・:乱)(黒バラ・・あぁ、来たわ・・:あ)(あぁっ・・教室掃除しなくっちゃ・・:全)
「お〜ほっほっほっほっほっ、その役、私にこそ相応しい!他には誰も釣り合いませんわ!」
「黒バラの小太刀!」
「たくっ、どんどんややこしくなるような奴が出てきやがる・・。」
と乱馬とあかねが同時にため息をついている間も、2人の言い合い(取り合い)は続く。
「乱馬は私の婿殿!誰にも渡さないね!」
「きぃぃ!何をおっしゃいますか!乱馬さまは私の物ですわっ!盗人、猛々しい!!」
「やるあるかっ!」
「望む所ですわっ!」
「いでででででぇっ!!」
結局、決着がつかないため、シャンプーは右、小太刀は左の乱馬の腕を引っ張り始めた。
迷惑のかかるのは乱馬だけでは無い。練習の進まないクラス中にとっても大問題だ。
それを見かねて右京が仲裁に入った。
「2人ともいい加減止めてんかっ。うちらの練習が進まないやんけ。喧嘩は外でやり!」
その言葉本来にではなく、それを発した右京に対してシャンプーが先に力の矛先を変えた。
「何あるかっ!右京。そうか!お前、乱馬のこと諦めたあるかっ?だから平気にあかねに役、譲ったあるね。」
「それはいい事を聞きましたわ!何せ、ライバルが一人減ったのですから!ほ〜ほっほっほっ!勝利は目前ですわ!」
流石にこれには右京もカチンと来たらしい。
「何、言うてんねん!うちかて最初は嫌やったさかい!でも、美咲がそう決めたクラスの出し物や。うちはそれに従う義務がある。
・・・それにな、あんたらが期待しているようなものはないで・・・ラヴ・シーンとかなっ!」
勝ち誇ったように言った、右京の最後の決め手は大きかった。
クラス中に2人の叫び声が響き渡る。
「なんと言うことっ!これは予想外でしたわ!」
「そうある、美咲ってどこね!劇にラヴ・シーンはつき物あるっ!私と乱馬のためにあるものね!台本を変えるよろし!」
「あのなぁ・・シャンプー。今から台本、変えられる訳が・・・」
右京のごく当たり前な言葉は途中でかき消された。それも以外な人物によって・・
「確かに、面白い発想だわ!」
「美咲っ!?」
これには流石に右京達3人だけではなく、乱馬にあかね、そしてクラス中が驚いた。
「ちょ・・ちょっと美咲・・あなた、まさか本気・・じゃ、ないでしょーね・・ι」
あかねもそう言うのが精一杯だった。・・が、返事はあっけらかんと終わった。
「うん、なかなかいいんじゃないかな?ちょっとなら、付け足しても覚えられるだろうし・・無理ではないわよ。ダメッ?」
「だめだっ!」「だめっ!」
当然、乱馬とあかねの声が重なる。
「キスだけでも?許婚でしょ?」
「「人前で出来るかっ(わけないでしょ)!!!」」
し〜〜〜〜ん・・・
「「あ”・・(しまった)」」
「やっぱり乱馬君、あかねが好きなのね・・・」
「ほぼ断言したようなもんだよな・・」
「乱馬ぁ!私を差し置いて、ひどいあるねっ(怒)」
「天道あかねっ!乱馬さまを誘惑しましたわね!きぃぃ!なんて憎憎憎しいのかしらっ!」
「乱ちゃん!うちも許婚やで〜〜〜忘れんてんかぁ!(怒)」
「わぁぁ!違うっ!ちがーーうっ!」「おっ、落ち着いてよ!みんな!」
一斉に大音響に包まれた中、再び落ち着きを取り戻したのはやはり美咲の一言だった。
「って、乱馬君とあかねが絶対言うと思ったからやめたのよ。」
「そう・・だったの・・(・・でも、助かったわ・・)」
あかねのほっとしたような、残念なような言葉に、少し美咲がわくわくした調子で言い返した。
「でも、入れたいなら入れるけどっ!」
「・・遠慮しときます・・・」
今度は丁重にお断りした、あかねであった。
「これで一つ安心致しましたわ。天道あかね、せいぜいつまらない乱馬さまの相手を務めるとよろしくてよ。ほ〜ほっほっほっ。
それでは、私、ミドリガメ君のエサの時間ですので、おさらばーー」
と三味線のテーマソングとお馴染み:黒バラを残して、小太刀は去っていった。
続いてシャンプーも・・
「ラヴ・シーン無しでは、ただの劇ね。つまらないある。私、帰る。乱馬ぁvお別れのキス、するよろしvv」
「でぇ!!」
擦り寄ってくる前にあかねが乱馬に水を女化させたので(勿論、嫉妬心から)シャンプーは「邪魔が入ったね。今度にするよろし。
再見!」と小太刀同様去っていた。
それからはとにかくいろいろな事がありすぎて、てんてこまいだった。
まず・・
「天道あかねぇぇ〜〜!おさげの女ぁぁ〜〜!!」
どこから嗅いでやって来たのか、また騒々しいこと極まりない者の登場となったが・・これは名も呼ばれる前に
らんまとあかねによってお空の彼方にぶっとばされた。
そして・・
「ここはぁ、どこだぁぁぁ〜〜!!」
「学校ですわ、良牙さま。」
どんがらがっしゃん!とやかましい物音の影に見慣れたバンダナ姿と大きな影、そしてその上のちょこんと乗る小さな陰。
どっからやって来たのか・・良牙とその彼女、雲竜あかりと十四代目横綱・カツ錦だ。
「良牙・・!!」
「それにあかりちゃんまで・・・」
「あらっ、あかねさんに早乙女乱馬さま・・では、ここは・・」
「風林館高校よ・・。でも、どうしてここに?」
「デート中だったんです・・久しぶりで嬉しくて・・」
ぽっと顔を赤らめるのが可愛らしいが、その前に心中は全員一致。
(一体、どういうデートをしているんだ・・・)
疑問は止まらない。
さらに・・
「おらのシャンプーを毎度毎度誘惑しおって!」とムースが来たり「らんまちゃ〜ん!これつけて、見せちくれぇ〜」
と八宝斎がくるわでやんややんやの大騒ぎ。
それが全て乱馬に関わっているから困ったものである。
流石にもう、このクラスメンバー達も慣れてしまっているが・・
慣れとは時に、恐ろしい物である・・
そしてしばらくが経ち・・
教室中がクラスメンバーのみとなり、やっと本来の落ち着きが戻ってきたと同時に、
後始末にウンザリさせられるのもまた事実である。
「たくっ・・今日はひでー目にあったぜ・・。あいつら、一気に来やがって。おまけに良牙まで・・。散々な一日だったぜ・・」
帰り道、2人にとってはやっとほっと出来る時間だ。
乱馬は頭を両手に乗せ、フェンスの上でブチブチ文句を言い、あかねはそれを見上げる感じでゆっくり歩く。
「な〜に言ってんのよ。ホントはシャンプー達とラヴ・シーンしたかったんじゃないの?」
「ばっ、ばか!何、言ってやんでぇ!また、くだらないヤキモチ焼きやがって!」
「(むっ!)誰が焼くかぁ!」
飛んでくるそこそこに大きな石をひょいと避ける乱馬を見てあかねが言った。
「そんなこと言ってると、美咲に頼んで、乱馬以外の人と本当にラヴ・シーン入れてもらってもらっちゃおっかな?」
ふ〜んだと後に言葉を残しながら少し足を速めるあかねを暫く見送ってから、やっと乱馬が声を張り上げた。
「な"・・なんだとぉ〜〜!!(怒)この浮気もんがっ!」
「ヤキモチ焼いてるんだ!乱馬!」
数メートル先を行っていたあかねが、その言葉を聞いてくるりと笑って振り返る。
さわっと吹いてきた風が、あかねの髪と制服を緩やかに揺らし、その暗い街灯の下で乱馬は自分が知っている許婚の何時もの‘可愛さ’とはまた違う‘美しさ’に瞬間ドキっとした。
『誰にも渡したくない』と思うのもまた、この時である。
・・それでも出てくるのは・・
「どぅわ〜れが、ヤキモチでぃ!!」
意地っ張りな言葉と共に駆け出した地。
「へへ〜ん。ここまでおいで〜だ!」
追いかける影も距離も次第に近くなる。
気がつけば、怒っているはずなのに乱馬の表情は柔らかい。
いつの間にか、分からなくなってしまっていること。
当たり前すぎて、分からなくなってしまったこと。
乱馬は『あかね』の、あかねは『乱馬』の隣が自分の居場所だと思う気持ち。
安心する場所。一緒にいたい場所、そして誰よりも時間を共有したい人・・・
たとえ、劇の中でキス・シーンがあったとしても、それは練習。
本番は、もうちょっと先。
近いようで、遠い、それでも必ず来るだろう未来の扉・・・
沢山の物が見頃の10月の半ば。
そして秋と冬の両方の力を、それぞれ中途半端に備えた季節の分かれ目。
目に見える進みは無いが、決して後退のない2人の‘思い’は確かにここにある。
少し遅めに行われた文化祭・・October・・神無月の小さなDrama。
2人の距離がちょっと縮まった。
・・追伸:本番当日:一回目第一幕・・
「乱馬君!あかね!出番出番!頑張って!!」
初めの挨拶が終わり、美咲の声が響く。
「おうっ!」「任せといて!」
息ぴったしに出て行く姿、ステージでの見事なまでの武術コンビネーション。
もちろん乱馬とあかねだけではなく、クラスの全員が出来る力の全てを尽くして仕上げた演劇は、結果として学校中で
大評判となったそうな。
完
作者さまより
遅いうえに、長い小説になってしまい、申し訳ありませんι
しかも、季節がずれています・・。
思い返せば、今年もいろいろなことがありました。
もうすぐ、新年!
来年、とうとう私も受験生・・。気が重いです。
それでも自分のためのハードルを飛び越えて行きたいと思います。
皆様も、また一年、新しい事にチャレンジしてみてはいかがでしょうか?
『思い立ったら吉日』です!
こんな私ですが、今年の残り並びに、来年もよろしくお願い申し上げます!
私もずっと止めたままの作品があって(以下略
お互いの居場所・・・それがお互いの心にちゃんと息づいている素晴らしさ。「空気のような存在」になればそれは本物の恋だと良く申しますがその通りだと私は思います。
悪戯に時を重ねているのではなくて、ちゃんと前に向いていて・・・。
それを表現するのも文章の楽しみのひとつでもあります。勿論、読ませていただくのも大好きです。
(一之瀬けいこ)
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