◇春山奇譚
いなばRANAさま作


「乱馬ぁーーーーーっ!!お前というやつわーーーっ!ずぅえーーーったいに許さんぞーーーーっ!!!」
「落ち着け、良牙!こんなとこで大声出すんじゃねえっ」

 この単純バカ、人の言うことなんかちっとも聞きやしねえ。春浅い雪山の斜面で大声なんか出してみろ、いったいどーなるか・・

「うるさーーーいっっっ!!よくもよくもよくも・・・」

 巨大な闘気が噴き上がる。くぉら、状況わかってんのかっ!俺は良牙の猛烈なラッシュをかわしながら、周囲に神経を尖らす。

「よくもあかねさんにキスしたなぁぁぁぁーーーーっっっっっ!!!!!!」

どぐぁわぁぁーーーん
 俺の右手の岩に爆砕点穴が決まる。大馬鹿野郎〜〜〜〜!!

どぐぉぉぉーーん
どぐぉん
どぐぉん



どどどどどどど

 周囲に巨大な雪煙が立ち上る。当然の報い・・・大雪崩の発生だ。真っ白になる視界。俺は懸命に逃げ場を探す。
 何でこんなことになっちまったんだ!
 目の前が、そして意識が、白い雪に飲み込まれていく・・・



 春休みに入ってすぐ、俺は一人この山にこもった。逃げ出してきたといってもいい。何からって、それは・・・
 大きな澄んだ瞳。そうだ、俺、あいつの瞳から逃げ出してきたんだ。

 あいつ・・・天道あかね。俺の許婚。それは親が勝手に決めたことだけど、今の俺にはかけがえのない存在になっている。
 とてもそんなこと口には出して言えないけど・・・いや、一度言いかけたことがある。
 俺もマジに死にかけたような戦いで、あかねが死んでしまったと思い込んだ時。
 しっかりそれはあかねに聞かれていて、あの後しばらく旗色が悪かったのなんの・・・
 おかげで俺はいっそう意地を張る羽目になった。当然あかねも意地を張り返す。
 かくして喧嘩の花盛り・・・それで一年が過ぎ、じき俺たちは高校3年生になろうとしている。
 
 あかねは俺のことをどう思っているんだろう・・・
 これほど聞きたくて、聞くことの出来ない質問は無い。
 勝手に押し付けられた許婚だ。好きになる方が不思議・・・なんだけど
 気がつけば俺の側にいてくれる。
 たまには心からの笑顔も見せてくれる。・・・怒った顔の方が圧倒的に多いけど。
 だから、俺はあかねにとって特別な存在なんだ、って思っていた。

 そういう思い込みにあぐらをかいていた俺は、この冬、思いっきり痛いしっぺ返しを食らった。
 つまらない喧嘩であかねを傷つけておきながら、放っておいたのだ。
 そして気がついた時には、手遅れ寸前。
 おふくろとなびきがいなければ、真面目に破局を迎えていたかもしれない。

 おふくろとあかねはとても仲が良い。実の親娘のよう。
 もっともおふくろは人当たりが良くて、誰とでもうまくやっている。
 何しろ、うっちゃんやシャンプー達が押しかけ同然に遊びに来ても、いやな顔一つしないのだ。
 かすみさんとは別な意味で菩薩と言えるかもしれない。俺が男らしくしてる限りは。
 ともかく、おふくろは不器用が服を着て歩いているようなあかねに、いろいろと根気良く教えている。
 料理や裁縫、お茶にお花、女の子らしいことは何でも。
 花嫁修業というより、あかねが可愛くて仕方が無い、という感じだ。
 あかねもおふくろの前ではぶりっこなどしないし、とても素直だ。そこが可愛く思えるのかも。
 二人で仲良く楽しそうに話していることもよくある。
 たまたま「武道家の妻の心得」なんて話しているところに行き合わせて、逃げ出したこともあるけど。

 ひょっとしたら、あかねから何か聞いていたのかもしれない。
 あかねと決定的な喧嘩をした翌々日、俺は庭先で悲しげにしているおふくろに会った。

「どーしたんだ、おふくろ。」
「・・・実はね、この植木鉢を中に入れるのを忘れて、霜に打たれてしまったの。」

 おふくろの手には凍りかけた桜草の鉢植え。

「もう駄目なのか、それ。」
「わからないけど、残念だわ。花が咲きかけていたのに。」
「そりゃ、残念だな。」
「手入れするのをちょっと怠ると・・・駄目ね。綺麗なお花を見たかったら、きちんとしないと。・・・ねえ、乱馬」
「ん?」
「この凍ってしまったお花・・・今のあかねちゃんみたいね。」
「!」

 そう言うと、おふくろは鉢植えを持って、奥へ入ってしまった。
 俺はやっとその時気が付いた。手遅れになるかもしれないと。
 だけど、面と向かってはとても詫びなどいれられない。
 そんな時、なびきがチャンスをくれた。楽な話ではなかったが。
 俺はそのチャンスに賭け、何とかものにすることが出来た。あかねとの仲直りを果たせたのだ。

 だけどそれは、俺とあかねを否応無く、新しいステージへ追いやることになった。
 早い話が、少しばかり、はっきりさせ過ぎてしまったのだ。自分の気持ちってやつを。
 もう、以前のように意地を張り合って、自分の気持ちを偽って見せることなど、出来ないだろう。
 そのくらい、決定的だった。あの日・・・

 静かに雪が降りしきる中、気が付くと俺はあかねの桜色の唇に、自分の唇を重ねていた。

 どうしてそうなったのか、未だにわからない、けど
 その時のことを思い出そうものなら、頭はぐるぐる
 あかねと目なんか会った日には心臓が一旦停止後、急発進
 これはあかねの方も似たようなもの、かもしれないが・・・
 的外れの心配をして俺のことを責めたてる親父達にうんざりし、
 そしてあかねの今まで見たことの無いような不思議な光を宿した瞳にたじたじとなり、
 俺は修行と銘打って天道家を飛び出し、この山にやって来たのだ。
 少しは頭が冷えて気持ちの整理もつくだろうと。
 とはいったものの・・・

 来た早々、吹雪に2日ばかり閉じ込められ、考えることはあいつのことばかり
 あいつの作ったドテラなんか持って来ちまったもんだから・・・
 ますます気持ちが煮詰まってしまった。
 やっと天気が回復した日、俺は気分直しとばかりにその辺の岩を割りまくり、尾根線を5つばかり縦走し・・・
 修行になっているのかどーだか
 気が付いたら良牙の爆砕点穴を会得していた。これ、気分転換にはいいかもしれない。
 ところが、俺の悪い癖でつい調子に乗っちまって、あちこち砕きまくっていたら・・・
 普通だったらこんなバカな真似は絶対にしない。
 雪解け間近の山は、ただでさえ一触即発だ。緩んでいる春の雪。いらぬちょっかいをかけようものなら・・・
 だが、やっちまった。谷あいの大岩に爆砕点穴。崩れたのは岩だけではなかった。

どっかーーーん
どどどどどど・・・

 今まで見たこともないような大雪崩。あわてて反対側の斜面に逃げるが、そこもどかっと崩れた。
 そこで俺の意識は・・・ホワイトアウト




「・・・いっ、・・・おいっ」

 誰かが乱暴に揺さぶっている。やめてくれ、まだ頭がくわんくわん鳴っていて・・・

「くぉら、乱馬、目ぇ覚ませっ!!」
びびびびびびびっっっ

 猛烈な平手打ちの連打に、俺は反射的に拳を繰り出す。

「おっと・・・何だ、大丈夫そーじゃないか」

 あっさりと俺の拳はブロックされる。この声・・・どこかで聞いたような・・・俺は辛うじて目を開く。

「・・・・・・おめー、良牙じゃねーか・・・」
「らしくねーな、雪崩なんぞに巻き込まれやがって。」
「う、うるせーや・・・いてて」

 どうやらかなり頭を打ったらしい。顔がズキズキするのは良牙のせいだろう。思いっきり引っ叩きやがって。

「随分とまた派手な修行をしてるじゃないか・・・その様子じゃ今日はあがりだろーがな。」
「おめーも修行か?」
「まあ、な・・・どこでキャンプ張ってる?今のうちにテント組み立てておきたいからな。案内しろよ。」

 こいつの方向音痴ぶりじゃ適当な場所を探すのも一苦労だろう。一応助けられたことだし、連れてってやるか。
 さすがにこれ以上修行を続けるには、ちとダメージが大きい。
 俺と良牙は連れ立って、キャンプを設置している場所に向かった。


「ようし、テントはOKだ。明るいうちに晩飯の準備だけはしとかねーと。おい、火おこしとけよ、乱馬。」
「勝手に人、使うんじゃねーよ、ったく。」
「文句言うな!薪は俺が集めてきてやるっていうんだ。有難く思えよ。」
「へーへー・・・おい、ここから見えるところで集めろよ。」

 良牙は見かけによらずマメだから、こーゆー時にはちょうどいいかも。稽古相手にもなるしな。
 少しは修行らしい修行が出来るし、何より気が紛れる。
 俺はそう気楽に考えていた。

 山の夕暮れは早い。日が傾いたと思ったら、あっという間に辺りは暗くなる。釣瓶落としとはよく言ったものだ。
 ぱちぱちと音を立てて火が燃える。早目に準備した甲斐があって、晩飯も順調に出来上がる。

「いーか、きっちり半分ずつだかんな、乱馬。」
「わーってるって。」

 持ってきた食料を出し合って出来た雑炊が目の前でぐつぐつ煮えている。だが・・・
 何か食欲が湧かない。いや、見た目はうまそうだし、食いたいという気持ちは無くもない。
 これは・・・打ち所が悪かったかも。

「おい、ぼーっとしてると、全部食っちまうぞ。」
「あ、ああ」

 俺は雑炊の椀に口をつけるが、匂いといい、味といい、何だか妙に希薄な感じがして、進まない。
 そんな俺の様子を良牙は怪訝そうに見ていたが、やおら立ち上がった。

「乱馬、さっきからど−も様子がおかしいと思っていたら・・・」
「あん?」
「いや、怪我のせいにするな。死にかけたって飯だけは食うお前のその様子・・・」
「あのなあ」
「ずばり、あかねさんのことを考えているなっっ」
「でえっ」

 俺は思いっきりこけた。お椀だけはしっかりと持って。

「図星だなっ」
「おーはずれだっっ!いきなり訳わかんねーこと言うなっ」
「ふっ・・・誤魔化す気か。お前とあかねさんがおーげんかしていたことはよーっく知ってるんだぞ。」
「お〜そーかい。ならこっちも言いたいことはたくさんあるぜ。」

 そうだ。このことについては良牙の野郎にきっちり落とし前をつけてやらんと。

「いーか、そもそもの喧嘩の原因はだな、おめーがあかりちゃんにつれなくしたからなんだぞ!」
「なにおう・・・あかりちゃんに何の関係がある。いー加減なことぬかすと・・・」
「いー加減なのはおめーの方だ!こっちはあかりちゃんに泣きつかれたんだぞ。おめーに避けられてるって!」

 二月の始めに良牙を探して天道家に来たあかりちゃん。俺とあかねで相談に乗っていたのだが・・・
 話がPちゃんにも及んできたので、俺は口実を設けてあかねをその場から外した。
 いまだに良牙がPちゃんであることをあかねには内緒にしていたからだ。
 だがそれはとんでもない誤解を生んでしまった。
 こともあろうに、あかねは俺とあかりちゃんの仲を疑ってしまったのだ。

「・・・おかげであかねには殴られるし、あかりちゃんだって喧嘩の巻き添えになりかけたんだぞ。」
「俺は別にあかりちゃんを避けていたわけじゃない。手紙だってちゃんと書いている。」
「逃げ口上にしか聞こえんぞ、良牙。」
「俺が逃げてるだとお〜」
「じゃあ、はっきり言ってやる。お前、もう二股は止せ。あかねかあかりちゃんか、きっぱり決めろ!」
「うぐっ」

 夜目にも良牙の顔色が変わったのがわかる。音を立ててお椀を下に置く。やる気か・・・

「ふっ、乱馬よ、二股どころか、四股がけのお前が何を言うか。」
「誰が四股だ、誰がっ」
「確かに俺のことが喧嘩の引き金になったかもしれん、それは認めよう。だが、傷口を広げたのはお前だ!」
「ぬわぁにぃ〜」
「俺が知らないとでも思っているのか・・・あかねさんがどれだけ傷つき、苦しみ、悲しんでいたか・・・誤解が解けた後もお前に放っとかれ、仲直りの努力も台無しにされ・・・その間にお前ときたら、相っ変わらずシャンプー達といちゃついてるときた。」
「いちゃついてなんかね〜っ!あれはあいつらが勝手に・・・」
「たいして変わらん、あかねさんが傷つくのは同じだ。」
「うぐっ」

 これは思わぬカウンター。俺もお椀を下に置く。これはどうあっても一戦は避けられそうにない。

「良牙よ、話をうまくそらそうったってそーはいかねーぞ。」
「ほお、開き直る気か」
「もうあかねとの喧嘩は収まったんだ。だがな、またあかりちゃんに泣きつかれたら、二の舞になる。おめーの二股に振り回されるのはもうゴメンだ。今日こそはっきりしてもらおーか。」
「なるほど、あかねさんから俺を引き離そうとする魂胆か。傷つけても、独占だけはしたいか・・・呆れ果てたぜ。」
「呆れてるのはこっちだ。あかりちゃんのどこが不満だ。あんないい娘、おめーには勿体ねーくらいだ。」
「あかねさんにあんな仕打ちをしたお前になんぞ、言われたくないわっ!お前にはあかねさんの名を口にする資格すら無いっっ」
「よくゆーぜ。お前だってあかりちゃんを泣かせているだろーがっ!お前こそあかりちゃんの名前を言う資格なんぞねーっっ」

 焚き火をはさんで、俺達はにらみ合う。こうなったら一歩も引けない。

「ふん、ならばお前はもうあかねさんの名を口にするな。」
「面白れえ。お前もあかりちゃんの名を呼ぶなよ。」
「良かろう、もし言ったら一発食らわすぞ。」
「それはこっちのセリフだ。」

 何だか妙な展開だ。
 ともかく、俺達はそこで言い合いを止め、黙って晩飯を食った。
 あまり食った気はしなかったが。

 飯を食い終わった後、俺達はだんまりのまま、後片付けをしていた。
 俺は何となく水が飲みたくなり、水筒を手にしたが、蓋がきつく閉まっていて回らない。

「あれっ、開かねえ・・・」

ごきゅっ
 目の前に火花が散る。良牙のやつの肘が俺の脳天を直撃したのだ。

「何すんだ!」
「お前、今、あかね、って言ったな。だから一発食らわしてやったのさ。」
「俺は名前を呼んだわけじゃねーーーっっ!!」
「そーか、だがそう聞こえたもんでな。」

 むかっっ
 良牙の野郎、わかっててやったな〜〜〜

「おい、ランプを出せ、良牙。薪がもう無いぞ。今のうちに拾っとかねーと。」
「ふっ乱馬よ、いくら単純な俺でもその手には乗らねーぞ。」
「そーか、勝手にしろ。暗がりで困るのはおめーだ。」
「ま、待て、今ランプの明かりを・・・」

みしっ
 俺の右が良牙の顔面を捉える。本っ当に単純なやつ。

「や、やったな〜〜」
「これであいこだ。」
「もお、勘弁ならん、叩きのめしてくれるっ!!」
「やれるもんならやってみろっっ!!」

 俺は散開し、構える。キャンプには被害を出したくない。そのまま林の方へじりじりと動く。
 良牙のやつも同じ考えとみえて、俺に合わせてキャンプから離れる。

「でええええぃっっ」
「はああああっっ」

 互いに何発か繰り出す。俺の方がスピードは上だが、良牙のガードを崩すには至らない。
 足場を探りながらの打ち合いだ。こうなると、駆け引きのウエイトが増す。

「良牙、おめー、確かあかねに『友達』だって言われてたな〜〜」

びしっ
 良牙のやつが石化する。すかさず俺は足払いをかける。見事に決まって良牙は近くの雪溜りに突っ込む。

「ら〜ん〜ま〜よ〜く〜もぉぉぉぉ」

 雪男のような雪まみれの姿で良牙は起き上がり、沸沸と闘気をたぎらせる。

「すぅおれわ言わねー約束だああああっっっ」
「誰も約束はしてねーって」
「うるすわぁ〜〜いっっ!!お前なんか〜〜あかねさんにはふさわしくないっっ!」
「勝手に決めるなっっ」
「くぉの不埒者ぐわぁぁぁ〜〜あかねさんの風呂は覗くわ、ごーいんにキスするわっっ」
「え゛」

 思わず俺は固まる。その・・・キス、という言葉につい・・・

どかっっ
 強烈な良牙のショルダーアタック
 たまらず俺は深雪に投げ出される。
 体を起こそうとした俺の襟首を、ぐいと良牙は掴み上げる。

「どーした、乱馬。あのてーどの揺さぶりで・・・まさか、とは思ったがな。」
「な、何だよ」

 いきなり良牙は俺の耳をちぎれそうな勢いで引っ張った。

「これは何だっっっ」
「い、痛てててててっっ」

 しまった!! 確か俺・・・

「やっぱりあかねさんの言ってたことは本当〜だったんだなっっ!!」

 山に来てから、ずっと着けてたんだっけ・・・ピアス
 と、ゆーことは、あかね、まさかあの日のこと、全部Pちゃん、いや良牙に・・!!

「こんなものでよっくもあかねさんをろーらくしやがってぇぇ〜〜」
「おめーには関係無いだろーがっ、離せっっ」
「お前のような女ったらしに、あかねさんはずえったいに渡さんっっ!!」
「だーれが女ったらしだ、だーれが!」
「右京やシャンプーや小太刀と、あかねさんを両天秤にかけやがって〜〜!!」
「違うっ、俺はそんなことしてねえっっ、あかねは、あかねだけは違うんだ!!」
「ほーお、どー違うというんだ?」
「・・・あかねは、あかねは俺の・・・」
「ぼそぼそと、男らしくねーなぁ」

「あかねは俺の本命だーーーーーーーっっっっっっ!!!」

 え゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛゛

 俺、今、何て

 い、いっち、まった・・・



「・・・よくぞ言った、乱馬よ。・・・・・・ぬけぬけとぉっっ!!!」

 良牙の目に憤怒の炎が噴き上がる。
 マジギレしてるぞ、こいつ・・・

「よ、止せ、良牙、こんなところで・・・」
「どやかむぅわしぃっっっ!!!」

 怒りに任せて、良牙のやつは闇雲に俺に殴りかかり、そして・・・

「爆砕点穴っっ!!!」

どどどどどどどどどど

 俺たちに襲いかかる大雪崩
 逃げ切れなかった俺は、大量の雪に巻き込まれ・・・

 ホワイトアウト





どさっ

 ち、ちめて・・・
 顔に・・・雪が・・・
 う、うう・・・体中が痛え・・・
 ・・・・・・
 ・・・はっ、りょ、良牙・・・あいつは・・・

「く、くそ・・・体がガタガタ・・・」

 俺は何とか起き上がる。どのくらい気を失っていたか皆目分からないが、ともかく良牙のやつを探さねーと・・・
 このくらいでくたばるやつじゃねーが。
 時間はわからないが、すっかり夜になっていることには違いない。
 月明かりだけで、探せるだろうか。

「良牙!おいっ、どこだっ」

 あまり大声は出せない。二次災害はゴメンだ。
 ふらつく体で出来る限り探し回ったが、良牙は見つからなかった。
 ひょっとして・・・先に気がついてそのまま迷子になってるとか・・・あり得る。
 ひとまずキャンプに戻るか・・・そこにいるかもしれない。


「あれ?良牙のテントが無い。」

 キャンプを張っている場所には、俺のテントしか無かった。というより・・・
 良牙のテントが張ってあった形跡も、火を焚いて飯作った跡も、何も無かった。
 と、いう、ことは・・・

 俺といた良牙は一体・・・???・・・!!!

 ぽっかりと浮かぶ十日夜のいびつな月が、からかうように俺を照らしている。


「ま、考えてもしょーがないか。腹も減ったしな。」

 急に覚える空腹感が、俺が今、紛れも無く現実の世界にいると教えてくれる。
 適当に飯を用意して食い、俺は人心地つく。

 俺はいったいここへ何しに来たんだか。

 山は人を内省的にさせると言う。
 それが自分の心の内へ内へと向かわせるという意味なら、俺の見た幻は、まさに俺の心の内にあったものだ。
 奇妙な現実感を伴った良牙とのやり取りを思い出すと、可笑しいやら、恥ずかしいやら・・・
 終いには大雪崩と来た。これが自分の心だと思うと、情けない気もする。でも・・・
 一度向き合ってしまえば、不思議とすっきりした気分になれた。

 結局、俺が逃げてきたのは、あかねからではなく、自分自身の気持ちからだったということ。
 それがわかっただけでも、良しとするか。

 そろそろ帰らなくちゃな。もう四月だし・・・そーいえば、俺、3年になるのか。
 ひなちゃん先生が真面目に進路、考えろって言ってたっけ。
 ま、俺はもう修行に出るって決めてるけど。いつまでも変身体質、引きずってる訳にもいかないしな。
 それはいいとして・・・
 あかねはどうするつもりだろう。ちゃんと聞いたことはない、と思う。
 あいつ、成績いいし、進学したいだろうな。
 帰ったら、話、聞いてみるか。

 月が明るい。雪に反射して、辺りは青白く輝く。
 ここいらに春が到来するのはまだ少し先だろう。
 東京はもう桜の季節のはずだ。散ってしまう前に、見ておきたいな。
 それに・・・今はあかねの顔が無性に見たい。
 あいつ、怒っているだろうな・・・とっとと一人で出てきちまったから。
 もしかしたら、悩んでいるかもしれない。さっきまでの俺のように。


 ともあれ、今日はもう休むか。何だかまた夢を見そうな気がするけど。
 せめて、夢の中では笑顔、見せてくれよな・・・あかね



  the end of the story ・・・ to the next??

  written by "いなばRANA"




作者さまより

拙筆者言訳(大汗)
 何、これ・・・と思われた方、ごめんなさい。大反則です。おまけに乱馬くん人称だし(自爆)
 でも、書いてて楽しかったです。二人のしょうもない喧嘩は。おかげで読むに耐えない駄文が大爆走(汗)
 少しは読まれる方のことを考えないと・・・

 シリーズ(大汗)つなげるにあたってどうしても避けて通れなかったのが、ホワイトデーのオチ(爆死)で、
 まさに手が滑ったという(斬首)・・・で、書き手ともども気持ちの整理をさせていただきました。
 その結果が大雪崩とは・・・乱馬くん、気持ちの整理のつけ方も豪快(違)自然破壊は駄目です(^^;
 ということは、あかねちゃんの気持ちの整理もあるわけで・・・とてもお勧めはできませんけど(以下略)


 いろんな展開パターンが楽しめる人称小説大好きです。(笑
 乱馬人称でやっていただくと、彼になり切って瞑想(妄想)世界へ入っていけるから特に・・・。

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