◇君、思う故  
   〜Side.A  後編

りょうさま作


同窓会の日から、早一ヶ月が過ぎた。
同窓会の翌週、ちゃんと映画にも連れてってもらった。
乱馬とは…相変わらず。
ただ、最近気になること…。

「いってきまーす」
居間にいた私は、乱馬の声に急いで玄関へと向かった。
「どこ行くの?」
なんとなく、予想はついてるけど、いちお聞いてみる。
「ちょっと、シャンプーんとこ」
やっぱり…。最近いっつもそう。
別に、ラーメン食べに行くとかいうわけじゃないのに、乱馬よく、シャンプーのところに出かけてる。
「最近よく行くわね、シャンプーのこと。何で?」
「まぁ、いろいろとな。言っとくけど、話してるだけだからな。変な誤解すんなよ」
「わかってるわよ…」
誤解なんてしたくないけど、こういう状況にイヤでも何回もあってれば、誤解くらいしちゃうわよ。
「なに怒ってんだよ」
「別に、怒ってないわよ」
そう、怒ってるわけじゃない。怒ってるわけじゃないんだけど…。
うまく言えないけど、乱馬がシャンプーのところに行っちゃうのがいやなのよ。
あきらめたとか言って、あきらめてなかったら…そう考えただけで不安になる。

「あ、そうそう。今日、加藤が来るって言ってたから」
「え?遼一が?」
いきなりの話題の転換に、ついつい気が引かれる。
「ああ。6時ごろ。それまでには帰ってくるつもりでいるけど、もし間に合わなかったら道場で待っててもらってくれ」
「あ、うん。…って、そうじゃないでしょ!」
「あかね!」
乱馬の突然の大声に身体がビクっと反応する。
「な…何よ」
「お前だけじゃないんだからな」
「……?」
「じゃ、行ってくるわ」
「ちょっと乱馬!」

止めようとしたけど、私の言うことは全く聞かないで、乱馬は私から逃げるように飛び出していった。
一体何なのよ!私一人でバカみたいじゃない!
前は、シャンプーと会えば、必ずと言っていいほど逃げてたくせに…。
それに、どういう意味?
『お前だけじゃないんだからな』って…。
何が私だけじゃないって言うのよ。だけじゃないって、じゃあ、他の人は誰?
もう、乱馬の言ってること、わけわかんない。
自分一人で納得して、自分一人で先に行っちゃって、私にどうしろっていうのよ。
もー、何で、私ばっかりこんな思いしなくちゃいけないのよ!
私はそのままの勢いで二階に上がり、自分の部屋に入った。
ドアの近くに落ちていたクッションを壁に向かって投げつけ、そのままの勢いで、ベッドに倒れこむ。
腹立たしいやら、わけがわからないやらで、頭のなかがぐちゃぐちゃ。
やっぱり私、乱馬に置いていかれちゃってるのかな…。
前からかっこよかったけど、今はそれ以上になっちゃって、格闘だって、まだまだどんどん強くなってる。
それに比べて私は…。
何がいけないっていうんだろ。
私はただ、乱馬と一緒にいたいだけなのに…。

ん…。
窓から差し込んでくるのはやけに赤い太陽の光。
時計を見ると、5時45分。
寝ちゃってたんだ、私…。
あ、乱馬!
乱馬が帰ってきてるか確かめたくて、あわてて階段を駆け下りる。
でも、玄関には、まだ乱馬の靴は無かった…ってことは、乱馬はまだ帰ってきてないってこと。
出かけてったのが4時近くだったから、もう2時間弱経つっていうのに…。

ピンポーン。
あきらめて、また自分の部屋に戻りかけたとき、玄関の呼び鈴がなった。
乱馬だ!
私はそう思って、急いで玄関に飛びついた。
「もう、なにやってたの。ずいぶん遅…」
「よっ!」
私があけた玄関の前に立っていたのは、乱馬じゃなくて、遼一だった。
「あ、遼一、いらっしゃい」
「遠慮なく来させてもらったぜ。早乙女いるか?」
「ゴメン。今、乱馬ちょっと出かけてて…。6時までには帰ってくるって言ってたんだけど…」
「そっか。まぁ、しょうがねぇか。オレも頼んだの昨日だし。早乙女帰ってくるまで待ってていいかな」
「あ、いいよ。じゃあ、私の部屋に行こ。あがって」
「おじゃましまーす」
私に続いて、遼一も家に上がった。
「あら、あかねちゃんのお客様?」
呼び鈴を聴いてきたのか、かすみお姉ちゃんも玄関まで来た。
「中学の時の友達の、加藤遼一くん。乱馬が帰ってきたら、私の部屋にいるからって伝えておいてくれない?」
「わかったわ。ゆっくりしていってね」
「はい。おじゃまします」
私はかすみお姉ちゃんにそれだけ言うと、階段を上り始めた。
遼一も私の後についてくる。
「汚い部屋だけど、どうぞ」
私はドアをあけ、先に遼一を部屋に通した。
「これのどこが汚いっていうんだよ。オレの部屋なんか、足の踏み場もないって感じだぜ」
「アハハ。適当に座ってて。今、なんか持ってくるから」
「あ、オレ別にいいよ。そんな気ぃ使うなって」
「そう?じゃあ、ホントになんにも出ないよ」
「いいっていいって。ほら、あかねもすわれよ」
「あ、うん」
すでに座ってる遼一に促されて私も遼一と向かい合わせになるように座った。
ここ、私の部屋なんだけどな(笑)
「なぁ、あかね」
「ん?何?」
少し真剣味を帯びた遼一の声。
「変なこと聞くけど、間違ってたらゴメンな」
どうしたんだろ。急に改まっちゃって…。
「何か、悩みとかあんのか?」
遼一の言葉に、一瞬耳を疑った。ううん…。一瞬どころか、まだ信じられない。
「なんか、無理とかしてねぇか?今日のお前、元気なんだけど、逆に空元気っていうか…」
遼一が少し遠慮がちに言った。
何で?どうしてわかっちゃったんだろ…。
「なぁ、あかね。何かあったのか?別に、話したくなきゃ、話さなくたっていいけど、もし悩みとかあるんだったら、人に話しただけで楽になることだって、結構あると思う
 ぜ」
どうしよう…。遼一には、話してみようか、乱馬のこと。
遼一なら、真剣に話聞いてくれそうだし、私と乱馬のことちゃんと知ってるから、話しやすいかもしれない。でも…。
「早乙女…か?」
ビクン!
遼一の言葉に過剰なまでに反応する私の身体。
そして、知らず知らずのうちに流れた涙に、知らず知らずのうちにこぼれた言葉…。
「私、乱馬の気持ちがわからない」


それから私は遼一に、いろんなことを話した。
お互い反発しあって素直になれずにいた頃のことも、ちょっぴり背伸びして付き合い始めた今のことも。
遼一はただ黙って、私のくだらない話に耳を傾けてくれた。
涙で声が震え、自分でも言ってることがわからないような話を。
遼一がそうやっていてくれたからこそ余計、いろんなこと話して、涙も流せたんだと思う。
「ごめ…んね。こん…な、くだらない話…、聞かせちゃって…」
「……」
むせ返りながら謝っても、遼一は無言のまま。
やっぱり、怒ってるよね。
遼一は、乱馬と手合わせをしに来たんであって、私のグチを聞きにきたわけじゃない。
私は涙をふいて、遼一に笑ってみせた。
「聞いてくれてありがと。遼一が言ったとおりだね。遼一に聞いてもらったら、だいぶ楽になった。あとは、自分たちでなんとかするわ」
少しだけ、楽になったのはホント。
でもまだ、解決の糸口が見えたわけじゃない。本当は、どうしたらいいのかなんて、全然わかんない。

「あのさ…」
しばらく続いた重い、静かな空気を打ち破ったのは遼一だった。
「オレの企業秘密、教えてやるよ」
「え?」
遼一から出た意外な一言に、私はしばらくその意味を考えた。企業秘密…?
「お前、この前聞いただろ。オレに彼女はいないのかって」
「あ、うん…」
「オレ、答えたよな。彼女はいないけど、好きなヤツはいるって。そいつは企業秘密だって」
確かに、同窓会の時、そういう会話はした。だからって何で今それが…、遼一の好きな人が出てくるんだろ?
「オレの好きなヤツは…お前だ」
「えっっ?」
まっすぐに私を見る、遼一の真剣な目。
あの時と同じだ。私が遼一の好きなコ聞いたとき、遼一、一瞬だけ、心ここにあらずって感じで私のほう見てた。
それって、こういうことだったの…?
「中学ん時からずっと、あかねのことが好きだった」
ちょっと待ってよ…。イマイチ頭、ついていかない。
だって、信じられないよ。遼一が私のこと好きだなんて…。
「でも、私には乱馬が…」
「わかってる。お前が早乙女と付き合ってることくらい、百も承知で言ってんだ」
「だったらどうして…」
「どうしてじゃねぇよ。お前、泣いてんじゃねぇか早乙女のことで。オレ、そんなの絶対許せねぇんだよ。自分の好きな女平気で泣かしてるようなヤツ見ると、虫唾か走る。
 自分を重ねるとなおさらな…」
重ねる?遼一と乱馬を?それってどういう…。
ちょっと待って…!遼一、私のこと、中学のころから好きだったって…。
でも、中学のとき、遼一は…。
「真実は?付き合ってたよね?中学のころ、遼一と真実」
「ああ。3ヶ月…くらいだけどな」
「それなのに、なんで…?言ってること、矛盾してるわ」
「何にも矛盾なんかしちゃいねぇよ。あいつに告られて付き合い始めた。でも、オレはあかねが好きだった」
「そんな…。じゃあ、真実は…」
「あいつのことは好きだけど、友達としてだ。恋愛感情は一切持ったことがねぇ」
そんなことってある?
遼一と付き合ってたころの、幸せそうな真実を知ってる。
それと同時に、遼一と別れた後の、ひどく落ち込んだ真実も…。
「このこと真実は…」
「知ってる。別れる時、ちゃんと話した」
知ってて、あれだけの笑顔、私に向けてくれてたの?
それで何で、遼一と何にもなかったかのように話せるの?
「それ、いくらなんでもひどいよ!真実がどれくらいつらい思いしたかわかってる?自分が何したか分かってるの?」
それでも、私に笑いかけてくれた真実…。きっと、私も知らないうちに、真実のこと、傷つけてた。
「あいつには、悪いことしたと思ってるし、それと同時にありがたいとも思ってる。でも、早乙女のしてることと、どう違うって言うんだ?」
「……!」
「人を傷つけて、自分だけ好きなことやっててさ。その結果がこれだ。めったに泣かないお前がこんなになってる」
不意に遼一の手が伸びてきて、抱きしめられた。
「オレだったら、絶対あかねを泣かせたりしない。見たくねぇんだ。お前がつらそうのしてるとこなんて」
遼一の腕に力が加わる。
どうして?抵抗できない。口が思うように動かない。身体もいうことをきいてくれない。
「遼…一…」
「早乙女なんかやめて、オレと付き会わねぇか?」
…どうしちゃったんだろ、私。
いつもなら、この手の話、すぐに断ってるじゃない。
私には乱馬がいる、そうなんじゃないの?
遼一の気持ちには応えられないって…。何でいつもみたいに言えないの?
言葉って…、強い。
乱馬は決して言ってくれないような言葉を、本当は乱馬から聴きたい言葉を、遼一はまっすぐ私にぶつけてきた。
嬉しくないって言ったらウソになる…。


コンコン。
静まりかえった部屋には、普段なら何気ないノックの音がやけに大きく響いた。
私はハッとして遼一から離れ、頬をつたっていた涙をふいた。
「どうぞ」
閉められていたドアがゆっくりと開く。
本当は、今は開けたくない。だって、ドアの向こうにいるのはきっと…。
「あかね、ただいま」
「お、おかえりなさい」
今は、とてもじゃないけど、乱馬の顔まともに見れない。
「加藤、悪かったな。30分以上も遅刻だ」
「いや、オレは別に構わねぇよ。誰だ?その子」
「ああ、こいつは、友達…かな。シャンプー。中国の子なんだ」
「ニーハオ」
シャンプーの声に思わず顔をあげる。
なんで…?なんでシャンプーが一緒にいるの?
「!!」
乱馬と目があっちゃって、思わず目をそらす。
でも、こんなことしたってもう遅い。
きっと、乱馬はしっかり見ちゃってる。…私の、泣きはらした顔を…。
「あかね、これは一体どういうことね!」
声をあげたのは乱馬じゃなく、シャンプーだった。
ここの部屋にいたのは私と遼一の二人だけ。
そのうえ、私の顔がこんなんじゃ、何かあったと思うのは当然だろう。
「シャンプー…」
乱馬の後ろから歩みでようとしたシャンプーを、乱馬が腕を出すことによってやめさせる。
「でも、乱馬!」
「いいから…」
乱馬の静止に腑に落ちないような顔をしながらも、シャンプーは大人しくなった。
「なんか、お取り込み中だったみたいで、悪かったな。なんなら手合わせはまた日を改めてでも…」
「イヤ。オレは構わない。早乙女がそれでいいなら」
「わかった。じゃあ、先に道場に行ってるから」
歩き出そうとした乱馬が、不意に動きを止めた。
「あかね。お前も降りてこいよ。シャンプー、お前に話しに来たんだから」
乱馬はそれだけ言うとドアを閉めた、
閉められたドアの向こう側から二人ぶんの、階段を下りる足音が聞こえる。
私は乱馬の顔を見ずに聞いた。でも、乱馬の表情はなんとなく予想はつく。
悲しそうに、笑った顔…。
「なんなんだ、あいつ。彼女んとこに、平気で他の女連れてきて…」
「いいの。シャンプーは私に話があって来てくれたみたいだし」
なんだろう、シャンプーの話って。まさか、乱馬と別れろとかいうんじゃ…。
「あかね、行くんだろ?」
「うん。でも、先行ってて。私、顔洗ってから行くから」
「わかった。あかね…」
「ん?何?」
「オレ、絶対早乙女に勝つから、そしたらオレと付き合ってくれ」
「え?」
「じゃあ、先行ってるからな。早く来いよ」
「ちょ、ちょっと遼一!!」
呼び止めたけど、遼一は振り返ることもせず部屋を出て行った。
なんで、こうなっちゃうの?どんどん話が悪い方へ進んでいく。
私はただ、乱馬と一緒にいたいだけなのに…。


「シャンプー…」
顔を洗って道場に向かうと、通路にシャンプーが立っていた。
「何?話って」
本当は聞くのがすごく怖い。
でも、どっちにしろシャンプーの話はきちんと聞かなきゃいけない。
「あの男と何があった?」
「別に、何にもないわよ…」
シャンプーの低い声。明らかに怒ってる。
なんで遼一が出てくるわけ?遼一と会ったの、今日がはじめてなんだから、そんな話しにきたんじゃないでしょ?
「あかね。ウソをつく、これよくないね」
「告白されただけよ。付き合ってくれって言われたわ…」
「本当にそれだけか?」
「…乱馬のこと、相談にのってもらってただけよ!なんであんたにそんなこと言われなきゃ…」
パシン!
遮られた言葉のかわりに、左頬に、激痛が走る。
「乱馬は何よりも、あかねのこと一番に考えてるのだぞ!!」
「そんなのシャンプーに関係ないじゃない!毎日のように乱馬つかまえて…。疑いたくもなるわよ!本当は、シャンプーだってまだ、乱馬のこと好きなんでしょ?!」
「確かに、私は乱馬のことが好きだった。でも、もうあきらめたね。本当はずっと前からわかってたこと。乱馬は、あかねしか見ていなかった」
「シャンプー…」
急に落ち着いたシャンプーに、逆にどうしたらいいのかわからなくなる。
「私、ムースと付き合うことにしたね」
「え?」
思いもよらなかったシャンプーの言葉。シャンプーがムースと?
「本当は今日、それを言いに来た。乱馬は私の相談にのっててもらっただけ。乱馬はあかねの前ではかっこよくいたかっただけね」
「シャンプー」
シャンプーのさらに後ろ、道場の入り口から声がかかる。
「話、終わったか?」
「あかね、最大的鈍感女ね。乱馬の気持ち、全然わかってない」
「ハハ。そうだろうな。ま、オレもそれだけ回りくどいことしてんだけど」
何言ってるの?この二人、話の意図がちっともつかめない。
ちょっと待って、乱馬がここにいるってことは…。
「あの、遼一は?」
「ああ、加藤なら…」
そういって乱馬はあご先で道場の中を指す。
私は急いで乱馬の横まで行き、道場の中を見る。
そこには壁によりかかって、息を切らしている遼一がいた。
横にいる乱馬は、息ひとつ、乱していないというのに。
不意に、乱馬が遼一の前まで歩いていく。
「悪いな加藤。いくら手合わせだって、負けるわけにはいかねぇんだ。お前があかねにいったこと考えると尚更な」
遼一をにらみつけるような乱馬と、その視線に対してさえも、反応することができない遼一。
「あかねはオレの許婚だ。誰にも渡さねぇ」
乱馬の口から発せられた思いがけない言葉に、一瞬耳を疑った。
ウソみたい…。乱馬の口からそんな言葉を聞くなんて。
でも、その言葉は同時に今まで私の中にあったなにかもやもやしたものも吹き飛ばした。
私は遼一の前、乱馬の横に立つ。
「ごめんなさい。私やっぱり遼一とは付き合えない。私、乱馬が好きなの。大事な許婚なの」
やっと言えた、私の素直な気持ち。
今まで意地を張ってたのがバカみたい。
私たち二人の言葉を聴いて、遼一がフッと笑って立ち上がった。
「悪かったな、二人の仲引き裂くような真似して。オレに入る隙間がねぇってことは、よくわかったから。ただし!」
遼一がピシッと乱馬に指差す。
「今度あかねを泣かせるようなことがあったら、そん時は有無を言わせずあかねと別れてもらうからな」
遼一の言葉に一瞬固まった乱馬が、遼一の手を払って言った。
「もう二度とそんな事しねぇよ。それに、こんなじゃじゃ馬、お前じゃ役不足だ」
私の頭に手をのせ、くしゃくしゃやる乱馬。
「ちょっと、じゃじゃ馬ってどういう意味よ!」
「そのまんまだろ。お前、じゃじゃ馬の意味知らねぇのか?」
「知ってるわよ、そのくらい。そういう意味じゃないでしょ!」
「おいおい。仲直りしたとたんに見せ付けるなよな」
遼一はそれだけ言うと、私たちの間をぬって、出口へと向かう。
「加藤!」
そんな遼一を、乱馬が呼びとめた。
「また、手合わせしようぜ。今度はちゃんと、手加減してやっからよ!」
「オレだってまた稽古積んでくるよ。じゃあな」
そのまま、遼一の姿が見えなくなる。
そして、遼一といれかわりに、シャンプーの姿が現れた。
「話、まとまったみたいだな」
「ああ。何か、悪かったな。結局、オレたちの話に巻き込んじまって」
「ホント、世話のかかるカップルね」
「マジで助かったよ。ありがとな」
「では、私は店に戻らなければならないね」
「シャンプー!!」
道場を出て行こうとしたシャンプーを、今度は私が呼び止める。
「さっきは、ひどいこと言ってごめんなさい。それと、ありがとう」
さっきとは打って変わって、優しく笑うと、シャンプーは道場から出て行った。
道場には、私と乱馬の二人っきりになる。
どうしよう…。話たいこといっぱいあったはずなのに、いざ二人きりになると、何話したらいいのか分からない…。

「あのさ、あかね…」
そんな中、先に口を開いたのは乱馬だった。
「悪かったな、その…いろいろと…」
「ううん、私の方こそごめんなさい」
「寂し…かったんだろ?」
乱馬のその一言で、いままで張り詰めていた何かがぷっつりと切れた。
一気に目頭が熱くなり、涙があふれだしてくる。
やっぱり、乱馬にはかなわない。
「寂しかった。付き合ってても、付き合ってなくても、結局乱馬にはそんなことどうでもいいのかな、とか、乱馬、本当は私のことなんて好きじゃないのかな、とか…。乱馬
 はいっつも、私の事一番に考えててくれたのに…」
「ほんっと、おめぇはバカだよなぁ」
不意に腕が引っ張られる。バランスを崩した私は、そのまま乱馬の腕の中に包まれた。
「オレがあかね以外のやつのこと好きになるわけねぇだろ」
「しょ…しょうがないじゃない。あんな態度とられれば、誰だって不安になるわよ」
「オレだって、辛かったんだぜ」
乱馬の私を抱きしめる腕に力が入るのがわかる。
「本当は、同窓会だって、行かせたくなかった。映画のこともあったし…。絶対変な奴らがお前んとこに近寄ってくると思ったから。でも、それはオレのわがままで、お前の
 気持ちじゃねぇ。出来ればずっと側にいて、離したくないけど、お前を束縛したくなかった」
「乱馬…」
乱馬の言葉を聞いて、私も乱馬の背中に腕を回す。
『乱馬の何を、相談にのってもらう必要があるね!』
ホント、そうだよね。乱馬はこんなにも私の事、大事に考えてくれていたのに…。
『乱馬はあかねの前ではかっこよくいたかっただけね』
その意味も、やっとわかった。

乱馬の腕の力がなくなり、身体がゆっくりと離され、私の頬に、乱馬の手が当てられる。
きっと今、同じこと考えてるよね、私たち。
私がそっと目をつぶると、唇に、暖かい感触…乱馬の唇。
初めてだよね。こうやってちゃんとキスするの。
唇が離されて、ゆっくり目を開けると、視界に入ってきたのは、乱馬の後ろ姿。
「あー、腹減った。飯食いにいっか、飯」
とてもキスした後とは思えないせりふ。
乱馬らしい…。照れてるんだよね。
「うん!」
乱馬の腕にしがみつく。

もう、大丈夫。不安になったりしない。
お互い不器用かもしれないけど、お互いのこと、ちゃんと大切に思ってる。
自分の気持ち隠してるなんて、私たちには似合わない。
いっぱい抱きしめて、いっぱいキスして、いっぱいヤキモチ妬こう。
それが私たちの、『好き』のかたちだから。







作者さまより

遅くなって、申し訳ありません。
私事情により、なかなかパソコンに向かう時間がなく、結果、こんなに長い間かかってしまいました。
それで…というのも申し訳ないのですが、しばらく執筆活動を休止したいと思います。
Side.Rも必ず書かせていただきます。
できるだけ早く、オンラインに戻ってこれるようにがんばります。

個人的なわがままで、本当に申し訳ありません。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。      

らんま編もゆっくりとお待ちします。乱馬人称で彼の気持ち、読みたいです。個人的にすっごく!

さてりょうさまは受験生だそうです。
お時間がないところありがとうございました。頑張って春を迎えてくださいますように・・・わがままを書き置いたまま、お待ちしております。
(また受験生を抱えている母より)

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