「Magical Dreams」


序章  東京ディズニーランドへ行こう!!


一、

「ねえ、ディズニーランドの招待券が手に入ったんだけど、今度の創立記念日の日に行かない?」
 昼下がりの教室で、ゆかがあかねとさゆりに声を掛けてきた。
「えーっ?いいじゃん。それ。タダ券なの?」
 さゆりが目を輝かせながら言った。
「貰ったんだ。お父さんの仕事のコネクションでね。よかったら今度の水曜の創立記念日に行かない?平日だから、土日に行くより少しは空いているんじゃあないかな…。」
「行こ行こっ。ねえ、あかねは予定ある?。」
 さゆりはすぐに色よい返事をした。
「私、まだディズニーランドには行ったことがないのよね…。」
とあかね。
「うっそーっ。もう開園してだいぶん経つのに…乱馬くんとも行ったことないの?」
 信じられないというようにゆかが叫んだ。

 確かに、この歳になるまで、ディズニーランドへ行った事がない首都圏在住の娘はそういないだろう。家族と、恋人と、友人と…一度くらいは皆、足を運んだことがあるものだ。
 しかし、あかねは、今までディズニーランドとは縁がなかった。天道家は居候を抱えた大家族だ。一家で行くとなるとそれ相応の経費が掛かるというものだ。
 一家で行かずとも、恋人と…それも、まだ叶わぬ夢であった。
 あかねには恋人以上の存在が一人いる。そう、親同士が勝手に決めた許婚だ。
 おまけに、彼の一家は彼女の家に居候している。
 彼女の許婚の乱馬はデートとかいったことにはさっぱり無頓着で、遊園地一つ、自分から誘ってくれたことはない。ちょっと寂しい気もしたが、同じ屋根の下で始終一緒に居られるから、あらたまってデートというのも考えたことがない…と言うのが正解だろうか。
 友人と共にも行ったことがなかった。この十六年間、ほぼ、ディズニーランドとは無縁だったのである。



「ある訳ないじゃない、乱馬と一緒にディズニーデート…だなんて。」
 あかねはあっさりと答えた。
「意外だな…。てっきり、ディズニーデートくらいしたことがあると思ってたのになあ…。」
とさゆりも言う。
「ねえ、じゃあ、思いきって乱馬くんも誘いなよ。実はね、チケット6枚も貰ったんだ。大介とひろしも誘ってさあ、6人で行こうよ♪」
 言い出しっぺのゆかが言った。
「6枚も…すごい、ゆか。行こう行こうっ!ねえ、あかね。乱馬くんも誘ってさあ。」
 さゆりも乗り気だった。

 あかねと乱馬は親同士が決めた許婚だった。ことあるごとに喧嘩ばかりしているが、心の奥では固い絆が結ばれていると言ってよい。ただ、当人同志は素直になりきれず、未だに煮え切らない関係を続けていた。
 乱馬とあかねの関係に触発された訳ではないが、大介とゆか、ひろしとさゆりもそれぞれいい雰囲気になりつつあった。
 グループ交際とでも表現したら良いのだろうか。高二になってその傾向が一層強くなってきている。
 多分、はじめから6人で行くつもりでゆかは声をかけてきたのだろう。

「でも…。」
 あかねはちょっと不安げに答える。
 だってそうだ。
 誘ってみたところで、あの乱馬が唯々諾々とついて来るかどうか、怪しいところだ。
 もごもごしていると、しょうがないなあというような顔をした。そして、後ろでトランプ遊びをしていた乱馬と大介とひろしに折り合いを付けに行った。

「別に用事がないからいいぜ、なあ、俺たちは。」
 大介もひろしも快諾したが、乱馬だけは、きょとんとしている。
「乱馬くんはどうなのよ。一緒に行かない?あかねだって一緒に楽しみいたいんじゃあないかな?」
「その、デズニーランドって何だ?」
 乱馬は不思議そうに尋ねた。
「デズニーじゃなくってディズニーだ。」
 大介が横からくすくす笑う。
「あっきれたー。ひょっとして乱馬くん、東京ディズニーランド、知らないの?ウッソォー!!」
 ゆかもさゆりも信じられないと言う風に問い掛けてくる。
「知らねえよ!」
 乱馬は悪ぶれるでなく、いともあっさりと答える。

 一同は絶句した。
 あかねはそれを聴いて、一人苦笑していた。
 生活の全てが無差別格闘流格闘技優先の乱馬のことだ。ウォルト・ディズニーや彼の生み出した世界的なキャラクター、ミッキーマウスやドナルドダックを知らなくても頷ける。
 そんな彼と、少女の憧れとも言える「ディズニーデート」だなんて…体現するのは不可能に近い…。
 あかねは苦笑しながらも、少し寂しげな気分になった。

 誘ってみても、来るかどうか…。

「何だよ、みんな。黙っちまって…」
 乱馬は呆れ果てて、二の句を継げない皆を見まわしながら言った。
「おまえ、ホントにディズニーを知らねえのか?乱馬。」
「ミッキーマウスやドナルドダックも知らないの?」
 大介もゆかも半ばバカにしたような口ぶりで乱馬に問い掛けた。
「わりいか!知らないもんはしょうがねえだろ。」
 乱馬はちょっと不機嫌に答えた。
「あかねが気の毒だわ…。」
 とさゆりが口を挟んだ。
「なんで、そういうふうになるんだよ。あかねが気の毒だって…。」
 乱馬はちらりとあかねを見やる。
 あかねは黙って苦笑していた。乱馬は彼女の中に少し寂しげな表情があるのを見逃さなかった。

「ま、いいわ。百聞は一見に如かずって言うからね。こうなったら力ずくでも連れて行ってあげるわ。早乙女くん。いいわね。」
 とゆか。
「そうね、気の毒なあかねの為にも、ここは付いて行ってもらうしか…。」
 さゆりも続ける。
「なんだよ、さっきから…。第一、俺は、あかねとなんか…。」
 といつものように否定的な言い草をしようと乱馬が口を開き掛けると、
「あかねはかわいいから、おまえが付いて行かないと、ナンパされるかもしれねえぞ!」
 とひろしがそれを遮った。
「そうね、場所が場所だもの…。ディズニーランドへナンパしに来る男の子も居るでしょうね。」
 とさゆりが続けた。
「素直に付いて来た方がいいぞ、乱馬…なんなら、俺がエスコートしようか、あかねちゃん。」
 ひろしの申し出に乱馬は不快の表情を浮かべた。それに、さっき差し込んだあかねの寂しげな表情も気になった。
 コホッっと一つ咳払いをして、
「こんな色気のねえ女をナンパするような野郎なんていたらお目に掛かってみたいもんだぜ。ホントに居るかどうか確かめてみるものいいかもな。どうせ暇だし付き合ってやらあ。」
 と言ってのけた。
「なによ、それ。」
 あかねはむくれて見せたが、内心は嬉しかった。

 一度でいいから、乱馬と東京ディズニーランドに行ってみたいと思っていた。
 東京ディズニーランド…夢と魔法の国…女の子なら誰でも、彼氏と訪れてみたいデートスポット。
 あかねは、ゆかの申し入れに感謝した。
 グループ行動とは言え、乱馬とディスニーランドで休日を過ごせるなんて…こんなチャンスはそう何度も巡ってこないだろう。
 考えただけでもワクワクとしてしまう。

 あかねの表情が寂しげなものから楽しげなものに変わるのを見て乱馬は少し安堵した。
…たまにはいいか…そういうのも…。こいつが嬉しそうな顔をするのなら…。

「じゃあ、約束よ。」
 言い出しっぺのゆかが機嫌良く笑っていた。


 ところで、彼らの楽しげな会話を背後で盗み聞きしていた影が二つあった事を、皆さんにはお伝えしておこう。

 一つは乱馬のもう一人の許婚、久遠寺右京。
 今はあかねに大きく水をあけられてしまってはいるが、彼女もまた、乱馬のことを完全に諦め切った訳ではなかった。機会があれば、乱馬をこちらに手なずけたいと切望している。このまま、簡単に見過ごす手はない。
「あかねの好きにはさせへんで…絶対、二人の邪魔したるさかいな。見とりやー。」
 右京は、ゴゴゴゴゴ…と一人、激情の炎を燃やしていた。

 そして、もう一つは、五寸釘光。
 彼はあかねに報われぬ恋心を持っていた。当然、許婚の乱馬は目の上のタンコブだ。思い込みも激しい彼は乱馬さえ目の前から消えてなくなれば、あかねは自分のものになるかもしれないと、常々考えていた。
「ちくしょー、早乙女の奴…。まんまとあかねさんとディズニーランドでデートだって?あかねさん。きっと君を奴の魔の手か救って差し上げますよ。ククククク。」
 教室の片隅で、暗く歪んだ空気を背負いながら、五寸釘はお下げ髪の藁人形を手に不気味な笑みを浮かべていた。


 こうして乱馬達の東京ディズニーランド行きは決まったのだった。



二、

「ねえ、あかねちゃんに、何かいいことあったのかしら?」
 夕ご飯の後、かすみが乱馬に問い掛けてきた。
「学校から帰ってきてから、ずっとニコニコしてたわね。」
 乱馬の母、のどかもそれに同調する。
「乱馬くん、心当たりあるんじゃあないの?」
 なびきがニヤニヤしながら覗き込む。
「知らねえよっ!!」
 乱馬はぶっきらぼうに返答した。
「だって、あの機嫌の良さは、乱馬くんがらみに決まってるじゃん。ねえ…。」
 なびきはくくっと笑って見せる。
『白状しろっ!この色男』
 玄馬はパンダの形で看板を乱馬に突き出す。断わっておくが着ぐるみを被っているわけではない。
 中国で修行中にふとしたことから、呪いの泉に落ち、以来水を被るとパンダに変身してしまうというふざけた体質を引き摺っていた。なので、パンダになっているときは、手書き看板で会話に加わろうとする。
「知らねえっつーってんだよっ。ったく。」
 乱馬は玄馬パンダの看板をつき返す。
「ますます怪しい。そんなにムキになっちゃってさあ…。」
 なびきは更に突付いてくる。
「あのな、あかねが機嫌がいいのと俺とは、無関係だからなっ。バカバカしいっ。」
 そう言い残すと、乱馬は逃げるように茶の間から引き上げた。

 これ以上、その場にいると、天道家の住人たちのいい餌食にされてしまうと踏んだのだった。余計な詮索もされたくなかった。連中に知れたら、付いて来そうな気も多いにしたからだ。
 平和裏に、ディズニーランドを楽しみたい。
 この場はとっとと退散するに限る。
 そう判断してのことだった。

 天道家一同が感じていたように、昼間、東京ディズニーランド行きを約束してから、確かにあかねは上機嫌だった。
 あかねは機嫌の善し悪しが、顔に出やすい。
 帰宅後、ずっと上機嫌だったし、さっきも夕食を済ませると、鼻歌を歌いながら二階へ上がって行った。乱馬は知らなかったが、あかねの鼻歌はイッツアスモールワールドのテーマ曲「小さな世界」だった。

…そんなに行きてーのか…その、ディズニーランドって遊園地に。…

 ずっと浮き足立っているあかねを見て、乱馬は少し複雑になった。
…デートなんてしてやったこともなかったしなあ。たまにはちゃんとしてやんなきゃ、やっぱり、あかねに悪いのかな…

 あかね以上に自分の気持ちの表現は不器用で下手だったから、敢えて今まで自分からデートに誘ったことはない。
 いつも、傍いるから、デートの必要性についても考えたことがなかった。
 当然、女の子の気持ちなんて、てんでわからない…彼も父親同様に水を被ると女の子に変身するという馬鹿げた体質を引き摺ってはいたのだが、そちらの方面は奥手だった。
 そんな風だったから、どうやって彼女を楽しませてやろうかと思案に暮れるのだった。


「何かありそうだな…。乱馬くんとあかねには。」
 夕刊紙をたたみながら早雲が口を開いた。
『うーむ、気になる』
 玄馬パンダは看板を上げながら茶をすする。
 なびきは傍でクスクス笑った。
「何か知ってるの?なびきちゃん。」
 かすみが不思議そうに尋ねてきた。
「あら、私はちゃんと知っているわ。当然でしょ?」
 となびき。
「話しなさい、なびき。」
 早雲は身を乗り出してきた。
 なびきは、どうしようかな…という表情になった。
「はい、これ。少ないけど、大事に使いなさい。」
 かすみが500円玉をそっとなびきに握らせる。
 なびきに情報を入れてもらうとき、現金は必須アイテムだろう。
 ちゃっかりしたもので、なびきはそれを懐に仕舞いながら話し始めた。

「今度の水曜日、風林館高校って創立記念日じゃない。それで学校もお休みになるでしょ?」
 なびきはトウトウと話してゆく。
「あの二人、クラスメイトに誘われて、東京ディズニーランドに行くことになったのよ。」
 何処から仕入れて来るのか、さすがになびきは耳聡い。ちゃんと乱馬とあかねの情報は掴んできている。乱馬がこの場に居たら、きっと腰を抜かしていたに違いない。
「まあ、それであかねちゃんは機嫌が良かったのね。」
 とかすみが頷く。
「うんうん、何にせよ、二人が仲良く出掛けるのはいいことだ。」
 腕組しながら早雲は深く頷く。
「私達も行きたいわね。」
 ニコニコとしながらのどかが言い出した。
「ワシも一度行ってみたい。」
 早雲が同調すると
『ワシも』
 と玄馬パンダもパフォパフォ看板を差し上げる。
 なびきは暫らく考え込んで、
「じゃあ、私に任せて!タダで行ける算段をつけるわ。」
 そう言って、携帯電話を取り出した。
 そして、プッシュホンを押し始める。
「あ、九能ちゃん?ちょっと話しがあるんだけど…。うん、そう、そうなのよ。あんたも知ってるんでしょ?あの二人デートしちゃうのよね。ン、ン、そうね。それでね、頼みがあるんだけどな…ウチの一家、東京ディズニーランドへ招待してくれない?」
 受話器の向こうで九能の怒鳴り声が響く。

『なんで天道なびきだけではなく、天道家御一行様をディスニーランドへ連れて行かにゃあ、ならんのだ!?』

「いいじゃない…っていうか、いいの?うん、そうよ。監視しなきゃ、あの二人どうなっちゃうかわからないわよ。…パークは広いし、人手があったほうがいいじゃない。…わかった?七枚ね。じゃあ約束よ。そうだ、お礼に例の物格安で売ったげるから。あ・り・が・と。九能ちゃん!。」

 プツッ。

 なびきは携帯を切ると、天道家の面々の前で、ビッとピースをした。
 なびきは上手く九能を丸め込んで、天道家全員のタダで東京ディズニーランド行きを決めてしまったのだ。
「あれ?でもウチの家族ってあと六人じゃあなかったかしら?」
 とかすみが言うと、
「父さん、早乙女のオジさま、オバさま、なびきちゃん、八宝斎のおじいさん、私…。一枚多いわよ。」
 かすみが指を折ると、
「折角だから、東風先生も誘っちゃおうよ…ねえ?」
 なびきは、かすみを見ながら笑っていた。
「そうね、いつもお世話になっているから、東風先生も呼んじゃいましょうか。」
 とかすみが微笑む…人のご招待で余分に誘いをかけるなんて…その辺りが天道家らしい。案外長女のかすみも良識をわきまえているようで、そうでもないのかもしれない。
「あ、そうそう、このことはあかねたちにはナイショよ。こっそりついて行った方が楽しめるんじゃない?」
 というなびきの提案に、一同、ウンウンと互いに頷きあった。

 その方がきっと面白い物が見られるかもしれない…皆、そう思ったに違いない。



 さて、乱馬は散々考えた揚句、なびきにあることを賭けあってみることにした。
 あかねを少しでも楽しませてやるには、やはり軍資金が必要だと彼なりに結論を導いたからだ。
 当然、乱馬には先立つ物が少ない。最近はのどかがお小遣いをくれるようになったとはいえ、大概、胃袋へとお金は消えてゆく。育ち盛りの食べ盛りだった。
 アルバイトしようにも期間が短か過ぎる…かといって、のどかにねだるのも気が引けた…というより、気恥ずかしい。
 後は、なびき…。
 守銭奴のこのあかねのすぐ上の姉は、イザという時に頼みになる。法外な利子を要求してくるかもしれないが、背に腹は変えられない…そう思ったのだった。

「なあ、なびき。頼むよ。黙っていくらか貸してくれ。」
 そう言って乱馬はなびきに借金を申し入れた。
「いいわよ。」
 なびきは意外にもあっさりと乱馬の要求を受け入れた。
「困った時はお互いさま。いずれあんたは私の弟になるんだし。なんなら、返さなくってもいいわよ。」
 そう言ってなびきは大枚を3枚も差し出した。
「へっ?」
 乱馬があっけに取られると、
「このくらいいるでしょ?いいこと、ちゃんとあかねをエスコートしなさいよ。」
となびきはウインクする。
 乱馬はギョッとなった。

…やっぱり、こいつ…なびきはディズニーランド行きのこと知ってやがるな…

 顔色が変わった乱馬を楽しむようになびきは続けた。
「その代わり、ちょっと手伝ってよね。まあ、謝礼というか、その大枚はあんたの取り分とでも思っといて。」
 そう言ってなびきはカメラと水着と水差しを取り出した。
「おまえ…ひょっとして、それ。」
 乱馬は後ろに引き下がると、
「当たり前でしょ?返さなくっていいって言ってあげてるんだから、ビジネスの協力してもらわないと…。」
 なびきは女らんまの水着写真を撮る気でいるらしい。
 普段の乱馬なら、この辺りで、さんざんなびきをなじるところだが、今日はぐっと我慢した。
「しょうがねえか…。」
 情けないとは思ったが、諦めて、なびきの要求に従うことにした。
「ありがとうね〜、乱馬くん。」
 そう言いながらなびきは水差しの水を頭から乱馬に浴びせ掛ける。
「わかってるとは思うけどよー、このことは…」
「モチロン、あかねにもウチの人達にもナイショにしてあげるわよ…その代わり、後で通販の宛名書きも手伝ってね。」
 なびきは上機嫌で答えた。
 女に変身しながら、やっぱり、なびきの方が一枚上手(うわて)だなあ…と乱馬は苦笑せずにはいられなかった。



 さて、あかねは、どうしていたのか。
 彼女はその頃、自分の部屋で、鏡の前に立って一人ファッションショーを繰り広げていた。 まだ、日にちがあるにも関わらず、彼女の心は、もう、ディズニーランドへ飛んでいたのだ。憧れの場所で乱馬と一緒に過ごせる…それだけで、心は上の空だった。
 どんな洋服を着ていこうかと、目を輝かせながら、るんるんしているのだった。
 あかねの傍らでは、そんな様子を不思議そうにPちゃんが見つめていた。
「ねえ、Pちゃん、この服どうかしら?ちょっと地味かなあ…それともこっち?少し派出すぎるかしら…。」
 あかねはPちゃんの方に向き直りながら服をとっかえひっかえしながら笑って見せる。
 Pちゃんはただただ、そんなあかねの行動を首を傾げて見上げているのだった。
 あかねはPちゃんを抱きしめると、ベットの上にドサッと倒れ込んだ。そして、言葉を続けた。
「Pちゃん。私ね、今度の水曜日、乱馬とディズニーランドへ行くんだ…今まで行った事なかったし、乱馬と行けるなんて、私、嬉しくって。どうしたんだろうね。私、物凄くはしゃいじゃってる。」
 あかねの言葉にPちゃんはショックを受けてしまった。彼の心に衝撃が稲妻のように走った。
 当然だ。もともとPちゃんは響良牙の仮の姿だ。彼もまた、あかねに惚れている一人の男だった。衝撃を受けぬはずがない。
 Pちゃんもとい良牙は、あかねの言葉を聞き終わるか終わらないかのうちにあかねの胸から抜け出していた。
「Pちゃん?」
 あかねの呼びかけにも耳を貸さず、Pちゃんは一目散に窓から外へと飛び出した。
「ちょっと、Pちゃん、ねえ。どうしたの?Pちゃん!!」
 あかねの呼び掛けも虚しく、彼は暗闇に消えてしまった。

「俺は…俺は…・許さんぞー。ディズニーランドで乱馬とあかねさんが二人っきりだなんてっ。絶対、見とめんっ!!」
 Pちゃんもとい良牙は、闇を駆けながら、決心していた。
「俺も、水曜には、絶対、ディズニーランドに着いてみせるぜ。そして、邪魔してやるぞーウォーーーっ!」
 極度の方向音痴の良牙にとって、この日の内に天道家を飛び出しておいたのは正解だったかもしれない…彼は、夜道を東京ディズニーランドへ向かってひたすらに駆け始めた。

…Pちゃん…
 あかねは駆け出したPちゃんの姿を追って、窓へと歩み寄った。
 夜の帳(とばり)の向こう側に、星空がチカチカとこちらを見下ろしていた。
…星に願いを…かあ…
 あかねは有名なディズニー映画の名曲を思い出しながら、ちょっとロマンティックな気持ちになっていた。
 最早、彼女の眼中には逃げ出したPちゃんはなく、乱馬との楽しい一日のことしか、思い浮かばなくなっていたのかもしれない。
 まだ、夢と魔法の国に足を踏み入れる前だというのに、既にディズニーマジックはあかねを虜にし始めていたのだろう。


 各人、各様の思いを秘めながら、東京ディズニーランドの休日が始まる。
 波瀾の予感を漂わせながら…



つづく




一之瀬的戯言

一之瀬家は関東圏在住時、ディズニーまにあでした。
パークにはよく通いました。3年間で約100回。年パスを買って、事あるごとに出かけていた関東在住時。毎週通った月もありましたっけ。
今もその名残がある我が家では、旦那の趣味でミッキーグッズが氾乱しています。…特にこだわっているのは黒目のクラッシックミッキー。家中に父の撮ったパークの写真や集めたグッズが転がっています。
玄関の下駄箱の上にはミッキーの人形やパークのグッズが立ち並び、はっきり言って初めてウチに来た人は玄関先で引きます…。

このディズニーデート編は私が一回描きたかったらんまワールドのひとつです。
同じ嗜好を持ってるnaoさまと共同企画でした。
かつてパークで遊びまくった経験の記憶とnaoさまのご協力でプロット組ませていただきました。
ただ、創作が2000年当時のものですので、現在のパークとはかなり違う部分が露呈しています。この作品を手掛けた当時はディズニーシーは存在していませんでしたし…。(その辺りが、呪泉洞サイトの歴史を感じさせる部分でもありますが…。)

 TDRは永遠に完成しない夢と魔法の王国なのです。



(c)Copyright 2000-2011 Ichinose Keiko All rights reserved.
全ての画像、文献の無断転出転載は禁止いたします。