#7 夕焼けの観覧車〜フィナーレ  


 乱馬は麻衣子と歩きながら、うじうじと考えていた。
 彼にしてみれば、あかねのことが気になって仕方がない。自分の優柔不断さは棚に上げて、お人好しの彼女が押しきられる形で卓也に身を任せてしまいはしないかとそればかりが頭の中に浮かんでは消えた。
 …無理にでも、引きとめておくべきだったかな…
 あかねを信頼していない訳ではなかったが、何分、喧嘩中の身の上だ。後悔にも似た自戒の念が心を絞めつけてくる。
「乱馬さん…?」
 麻衣子はさっきからずっと黙ったままの乱馬に痺れを切らして覗き込んだ。
 その問い掛けに答えられないほど、乱馬はあかねのことばかり考えていた。
「乱馬さん…て。」
「あ・・ん?」
「何か心配事でもあるの?さっきからずっと黙ったままで…。」
「ねえ、乱馬さん…あかねさんのこと好きなんでしょ?」
 女の第六感というものはげに恐ろしきで、麻衣子は乱馬の様子を観察しているうちに、二人の関係に少しばかり気がついたようだ。乱馬は核心を突かれて、少しばかり動揺を挺した。
 返答をしあぐねていると、
「隠さなくてもわかります…。ごめんなさい。もしかして、私達のせいで気まずくなってしまったとか…。」
 まさに、麻衣子の言っているとおりなのだ。あかねと他愛のないことで、喧嘩状態を引き摺っているのも確かだった。しかし、要は己の気持ちの持ち方の問題でもある。
「何もおめえが謝ることじゃ、ねえ…さ。」
 乱馬はすっかり動揺しながら言葉を吐き出した。
 それっきり二人とも黙ってしまった。失恋は乙女心を傷付けるものだろう。が、心が動かないのに、関係を続けることも叶わない。あかねから乱馬を奪えるほど麻衣子は器用な少女ではなかったし、何より、乱馬の心があかねに傾斜していることをまざまざと感じさせられては、出る幕はないと見切りをつけたのである。
 傾いた太陽の光が赤々と二人を照らし出した。さわさわと風は二人の間を通り過ぎてゆく。
 意を決するように向き直った乱馬の視界に、あかねと卓也の姿が目に入った。遥か斜面の下の方、男達に囲まれる姿が目に映ったのだ。
 武道家の直感で、何か良からぬことが起っていることを感じ取った乱馬は
「ごめん…。話は後だ。何かあかねたちの身の上に起こったらしい。麻衣子ちゃん、悪いけど俺、あっちへ行ってみる。おめえはここに居ろっ!来るんじゃねえぞっ!!」
 乱馬は振りかぶると、猛烈な勢いで、斜面を下り始めた。


 事実、あかねと卓也はピンチに見舞われていた。
「あかねさん、ごめん。ここは俺がなんとかするから、君だけでも逃げてくれっ!」
 卓也はすまなさそうにあかねに言った。
「ううん…私も武道を志す者。天道道場の娘よ。ここで、逃げるわけにはいかないわ。大丈夫。これでも、男の子に負けないくらいの腕っ節は持っているのよ。」
 あかねも中段に構えながら奮い立つ。かつて交際を迫る男ども相手に毎朝、孤立無援で戦い抜いた身の上。何にも増して、その勝気な性分もあり、その場を立ち去ることなど出きる娘ではなかった。
 やがて、四方八方逃げ道は塞がれて、突き進むしかない状況へと追いやられてゆく。そんな極限の中でも、あかねは我を見失わない。
「来なさいっ!あたしも一緒にお相手するわっ!」
 あかねも気概を吐く。
「身のほど知らずの姉ちゃんだな・・・気に入ったぜ。俺のスケにならねえか?」
 男たちの中から、とりわけ大きいのが出てきてあかねに微笑みかけた。巨体の彼は、他の男たちとは違った感じがある。
 …できるっ!!
 あかねは直感した。他の男たちなら、何人来ようと薙ぎ倒せる自信があったが、この男はどうだろう。無理かもしれない。
 が、そこで引き下がれるほど器用な女の子ではない。
「嫌よっ!」
 思いきり大きな声で叫んでいた。
「威勢が良いなあ…ますます気に入った。力ずくでも俺の女にしたい…いや、してやろう。」
 大男は、くくっと笑ってあかねに近寄ってくる。
「あかねさんには手を出すなっ!」
 卓也が溜まらずに突っ込んだ。彼も一通り、武道の嗜みがあることは、わかっていたが、所詮、この大男の相手にはなり得なかった。というのも、卓也の腕っ節はあくまで、道場の板の上でこそ、存分に発揮できる型どおりの武道だ。何度も修羅場を潜り抜けてきたと見られる不良の長とは筋も気概も場慣れも違いすぎていた。
 案の定、大男の右手一つで、軽くいなされてしまった。そして、後ろに吹っ飛んだ。
「へへっ!口さがにもねえ…。」
 大男はニヤリと笑って、あかねを見た。
「どうだ?こんな男と付合うより、腕っ節の強い俺の方が魅力的だろ?こいつを飢えた俺の子分達にずたずたにされたくなかったら、大人しく俺の言う事をききなっ!」
 大男はにやにや笑いながらあかねににじり寄ってきた。
 あかねは、身構えながら後ろにたじろいだ。
「嫌よ…。力で女の子を思いどおりにできるなんて思う奴に、ロクなのいないわ…。あたしは、絶対お断りよっ!」
 あかねは強がりながら答える。
「威勢が良いなあ…。いつまで、耐えられるかな?」
 男は舌なめずりすると、あかねに手を掛けようとした。
 その時。

 石礫が男の頬に当たった。
「誰だっ!!」
 男は怒声を浴びせ掛けながら石の飛んできた方に振り返る。
「へへっ!やめときなって。そんなあばずれ、寸胴女なんか、手を出したってロクなことはネエぜ…。」
 太陽を背に受けながら乱馬がすっくと立っていた。
「なんですってっ!!」 
 あかねはムキになって言葉を返した。
「言っとくがなあ…そいつは不器用極まりなくって、料理はまともに食えたもんじゃねえし、何やらせても、まともにできやしねえ…。乱暴で粗忽でどうしようもねえ女なんだ。俺なんかいつも苦労してるんだぜ…。」
 乱馬は腕を組みながら好き放題言いはじめた。
「おいっ。」
 男が合図すると、二、三人の子分が乱馬に襲いかかった。
 乱馬は難なくそれらをかわしながら、まだ悪態を吐き続ける。
「たく…。人の忠告をまともに訊けって。そんな寸胴女の何処が良いって言うんだよ。どいつもこいつも…。」
 …くっ!できるっ!…
 焦ったリーダーは乱馬の隙を見て、あかねに取りついた。
 急に男に鷲掴みにされ、あかねは逃げる間もなく、男に抑えつけられた。
「あばずれかどうか、俺さまが確かめてやるさ…。へへ。顔は可愛いから、それでじゅうぶんだぜ。」
 男はポケットから取り出したナイフをちらつかせてあかねを羽交い締めにする。その合図とともに、取巻いていた手下達も一斉に、ポケットからナイフを取り出し手にした。
「やれやれ、人が親身になって忠告してやってるのに…。」
 乱馬は、組んでいた腕組を離すと、臨戦体制に入るべく、ほっと息を吐き出した。そして、きっと正面の男を見据えた。
「ら、乱馬くん…。ダメだ。無理したらあかねちゃんが巻き添えになる…。」
 地面から卓也が這い上がってきた。
 乱馬はそれには答えないで、黙って男に取り押さえられているあかねの方を見詰めた。
 じっとあかねを見据える二つの瞳。
 あかねは乱馬の目を見ながら、彼が云わんとしていることが自分に伝わって来るような気がした。
 ごくんと唾を飲み込むと、身体を締め付けている男に悟られないように、あかねはゆっくりと首を縦に動かした。
 それを見た乱馬は、息を吐き切り、ゆっくりと吸い込みながら、気を身体中に充満させはじめた。背負い立つ気炎は、周りを取り囲む男たちの発する気をことごとく呑み込んで、闘気の渦を形成し始める。
 …飛竜昇天破…
 乱馬はあかねを助け出す為に、一発勝負に出る腹を決めていた。間違えればあかねをも巻き込んでしまうかもしれない。危険な選択だったが、何故か失敗するという恐怖感は全くなかった。あかねだったら…。そう、あかねだったら、上手く切りぬけられる筈だ。
 そう思った彼は、あかねに無言の問い掛けをしたのである。
 周りを取り囲む男たちは、一向に乱馬が動く気配がないので、イライラとした空気を漂わせ始めていた。イライラはまた、熱気となって、乱馬の背後に吸い寄せられてゆく。乱馬の周りの熱い闘気は揺らめくようにあかねにも迫ってきた。決して見ることのできない気の乱れだったが、あかねにはありありと良くわかった。
 長い沈黙が一同の上に注がれた後、乱馬は目をカッと見開いた。
 …来るっ!!…
 あかねは乱馬が動くのと同時に、後ろに抱き付いていた男のみぞおち目掛けて思いきり肘鉄を食らわせてやった。
「いてっ!何しやがるっ!」
 あかねの強襲に男の力が少しばかり揺るんだ隙に、あかねはするりと身をかわし、目の前の地面へとつんのめった。
 あかねが地面へ身体ごと伏せるように着地したのと同時に、乱馬は右手を振り上げ、冷気の拳を一気に突き上げた。

 ごぉぉぉぉぉ…・

 乱馬の差し出す拳に反応するように、周りを渦巻いていた熱気が突風となって上へと上昇し始めた。周りを取り囲んでいた男たちは、地面ごと砂煙と合間って、面白いように吸い上げられてゆく。悲鳴や怒号が辺りに響き、暫らくして、投げ出された男たちの肢体が無残にも地面へと投げ出されていた。
 
「だから、言ったんだ。あかねに関るとロクなことねえって…。」
 乱馬は吐き捨てるようにそう言い置くと、くるりと背を向けてあかねのほうを見やった。
「大丈夫か?」
 やはり、気になるらしく、真っ先にあかねの方を振りかえった。
 あかねは地面に突っ伏したまま、俯いていた。
「どうした?どっか、怪我でもしたか?」
 乱馬は神妙に問い掛ける。あかねの肩が少しだけ震えていた。
「おい…。あかね…。」
 乱馬はあかねを覗き込んではっとした。あかねが泣いていたからである。
「どっか、打ったのか?」
 差し出された手をあかねはなぎ払って、その場を駆け出した。
「ちょっと待てっ!あかねっ!こらっ!!」
 あまりにも予想外のあかねの行動に乱馬はドギマギして、後を追った。
 
 追って来る乱馬を振りきってあかねはひたすら前へと駆けた。闇雲に園内を走ってきて、何時の間にか、観覧車の前へと出てきた。
「あかねさん…。」
 息を切らせながら立ち止まったあかねの後ろで声がした。
 後ろを振り返ると麻衣子だった。彼女は微笑みながらあかねの方を真っ直ぐに見詰めていた。あかねは慌てて涙を拭うと、何も無かったかのように明るい作り笑いを浮かべた。
「あ、麻衣子さん。ここにいたの?乱馬の奴ったら、あなたをほったらかしにして…。」
「あかねさん…ごめんなさいね。私、気が付くのが遅くって。鈍感だったわ。」
「え?何のこと?」
 乱馬さんのこと…。」
 麻衣子は寂しそうに微笑みかけた。
「乱馬のことって…あたし、別に…。」
「隠さなくてもいいんです。さっきのあなた達を見ていて全てわかりましたから…。」
「……。」
「失恋って寂しいですよね。兄妹揃ってだなんて…。」
 麻衣子はそう言ってさばけたようにあかねに笑いかけた。
「でも、いいんんです。人を好きになるって素晴らしいことですものね。また、新しい人を見つけます。あなたの乱馬さんのように素敵な方をね…。」
 何も言い出せずにあかねは只立ち止まって麻衣子の方を見詰めるばかりだった。
 何時の間にか麻衣子の後ろに乱馬が立っていた。
「あかね…。何だよ、急に走り出して。…たく…ホントにおめえは…。」
「寸胴で、がさつで、お転婆で、可愛くなくって…って言いたいんでしょ?」
 あかねはきびすを返すように乱馬に向かって言葉を続けた。
「よっく、わかってんじゃん…。ホントにおまえは…向こう見ずなことばっかやりやがって…。」
 乱馬は不機嫌そうに答える。
「何よ…。別に助けてくれなんて、言って無いわよ…。あんな奴、いつだって素手でのしてやるわよ!」
「何言ってんだ。俺がいなかったら、やられてたんじゃあねえのか?」
「あんたなんかいなくったって…。」
「強がり、意地っ張り、…。可愛くねえっ!」
 いつものような口喧嘩の応酬がまた始まる。
「唐変木、変態、女男っ!」
「あんだとっ!」
「何よっ!」
 腕まくりしてお互い睨みを利かす。
 二人は気づいていないようだったが、もはや、そこに割り込む余地は誰にも何処にも残っていなかった。二人の世界。それは痴話喧嘩。
 麻衣子はそんな二人を見詰めて、ふっと溜息と微笑みを漏らした。そして、遅れてきた兄を振りかえると耳打ちした。兄は、麻衣子の言った事に頷いて、言葉が途切れた辺りに、二人の間に割って入った。

「もうそろそろ、帰らなくちゃいけないかな…。楽しい時間は、あっという間だね…。最後にさあ…観覧車に乗ろうよ…みんなでさ。」
 卓也はそう言って、観覧車に向かって歩き始めた。
「ほらほら…。ね、みんなで一緒に綺麗な夕日を見ましょうよ。」
 麻衣子も嬉しそうに同調する。
 喧嘩の水を差されて、乱馬もあかねも言われるままに、引っ張って行かれた。
「ここの観覧車は、勇壮な景色が見られるって評判なんだよ。」
 卓也が笑いながら言った。
 目の前には大きな観覧車が聳え立っている。
「あかねさんは高いところ平気?」
 卓也が微笑み掛けると
「ええ…。大丈夫です。」 
 と答えた。
「へん…煙と何とかは高い所に登りたがるって言うもんな…。」
 相変わらず乱馬が茶々を入れる。言わずと知れた憎まれ口だ。
「何よっ!それっ!」
 あかねが口を尖らせると、
「ほらほら、乗りそびれるよっ!」
 卓也が先導して、あかねと乱馬を押し込むように先に乗せた。
 二人が乗り込むのを確認すると、卓也と麻衣子が、ふっと飛び降りた。
「え…?」
 乱馬とあかねが返す間も無く、係員が二人のゴンドラに外からドアを閉めた。
 そう、乱馬とあかねは二人でゴンドラに取り残されてしまったのだった。
「ありがとう…あかねさん、乱馬くん…。喧嘩もほどほどにね…。」
「さよなら…。」
 卓也と麻衣子が悪戯っぽく微笑みながら、上がって行くゴンドラの二人に声を張り上げた。
 卓也と麻衣子はみるみる上に上がってゆく二人を見送りながら言葉を交わした。
「ねえ…お兄ちゃん。これで良かったのよね?」
「ああ。あの二人の間には誰も割り込めないみたいだからな…。」
「そうね。目で会話出きるくらいの人達ですもの…。」
「恋人以上の絆が、あの二人にはあるみたいだから…。」
「私達、兄妹揃って、失恋ね…。」
「仕方ないさ…。」
 卓也と麻衣子は、チラッと後ろの観覧車を振りかえる、そして、遠ざかるゴンドラに向かって手を一度大きく振ると、示しあわせたように、出口に向かって歩き始めた。今度は振り返らないで。

 狐に摘まれたような表情を残して、乱馬とあかねは卓也と麻衣子の後姿を見詰め続けていた。
 ようやく現状を理解した二人は、黙ったまま向かい合わせに座った。最早、言い争う言葉は何処かへ消え果ていた。ゆっくりと頂上を目指して上がってゆくゴンドラ。秋の風がさーっと吹いてきて、二人の傍を吹き抜けた。
「寒くねえか…?」
 乱馬が決まり悪そうにぼそっと声をかけた。
「ううん・・大丈夫…。わあ…見て。綺麗な夕焼け。」
 あかねは遥か西方に沈みゆく夕日を差して乱馬に言い放った。乱馬は自分の後方を振り返った。
「富士山が見える…。」
 都会の濁った空気の中では珍しい、富士の高嶺が勇壮と遥か彼方に浮かび上がっていた。
 二人の間に、争う言葉も悪態もなく、ただ、美しい風景への憧憬があるだけだった。乱馬はふとあかねの顔を盗み見た。夕日の照り返しに輝く顔が、煌びやかに見えた。犯し難い澄んだ瞳の輝き。靡いてくる風は、冷たかったが、とても清らかに感じた。
 やもすれば、風に吹き飛びそうな果かない美しさをそのままその場に留めたくて、乱馬は只黙ったまま、夕日に魅入るあかねを静かに見詰めた。あかねは自分を見詰める優しい瞳に気付いて顔を上げた。
 柔らかい優しさが降り注ぐような乱馬の瞳。
 観覧車は頂上に差しかかった。

「あの…。」
「あの…。」
 
 二人は同時に言葉を滑らせていた。
 
「なあに…」
「なんだよ…」

 会話はそこで途切れた。
 真っ赤になって二人同時に俯く。無垢な純愛を貫き通す不器用なカップル。
 
「さっきはありがと…。助けてくれて…。」
 ちょっとだけ素直になったあかねがやっとのことで口を開いた。
「いいんだ…そんなこと。でも、良くわかったな…。その、俺の測ったタイミング…。」
 乱馬はバツが悪そうに横を向いて答えた。照れていたのである。
「わかるよ…乱馬の瞳を見ていたら…。何を言いたいかってことくらい…。あの時、真剣に私を守ろうとしてくれてたもの…。」
「おまえを守れるのは俺一人だけだからな…。」 
 乱馬は視線を合わせないでボソッと言った。
「どうして?」 
「だって、おまえは俺のかけがえのない…大切な…許婚・・だから…。」
 乱馬の愛の言葉は、吹きぬける風にのって途切れ途切れに響いてきた。
「ん…。」
 あかねはそっと頷いて答えた。そして、何も言わずにそっと見詰め合った。抱き寄せることも、胸に飛び込むこともしない不器用な関係。それは今日も変わらなかったけれど、二人はそれで満足していた。


 
 二人の静かな幸福の時間は、観覧車のゴンドラの扉が開かれるとともに消え去った。
 そう、地面に降り立った二人の前に、立ちふさがるお邪魔虫たち。
「やっと見つけたぞ…乱馬ぁ…。」
「早乙女…っ!」
「乱馬っ!」
「乱馬さま!」
「乱ちゃんっ!」

 良牙、九能、シャンプー、小太刀、右京…。
 こぞって乱馬達の帰着を待ち侘びていたのだった。
 
「げ…。みんな…。」
 
 乱馬の驚きの声と共に、罵声が響き、乱馬は彼ら彼女らにまた、追い回される身の上になった。
 
「い、行くぜっ!あかねっ!」
 
 乱馬はあかねの手を取ると、一目散に、走り始めた。

「待て―っ貴様、あかねさんと何してた!」
「許さんっ!あかねくんと二人っきりになりよって!」
「観覧車の中で何してたねっ!」
「聴かせていただきますわっ!」
「乱ちゃんっ!説明しいやっ!」

 夕闇の遊園地。
 二人の受難は、まだまだ続くだろう。
 お互いの気持ちが素直になっても、周りが認めない限り…。いつまでも、どこまでも…。



 完




一之瀬的戯言
観覧車が好きです。なかなか乗る機会には恵まれませんが、高いところへあがっていくワクワク観と上に行くほどに広がる遠景が好きです。
しかし…ベタすぎるなあ…。
今読み返しても、掘り下げが足らない作品ですな…。ま、良いや、初期作品だから…。

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