◇らんま1/2外伝 
 『幻の大陸からの使者』
 電柱ユーイチさま作




・・・辺りが暗くなってきた。そこいらで聞き入れた話によれば、九能ちゃんは夜になると現れる。となれば、そろそろ現れてもいい頃だけど。
それにしても小太刀はどうしたのかしら。あまりに遅すぎる。
まさかあの男にやられたなんてことは・・・。

「なびき様、いかがいたしました?」

「え、あ、ううん。大したことじゃないわ。ただ、小太刀はどうしたのかしらって思って。」

「・・・拙者もそれを考えておりました。小太刀様と空港で別れたのが昼過ぎ、いくらなんでも遅うございます。よもや小太刀様の身に何か・・・。」

「・・・。」

「そういえば、コッチィは我々がここにいるということを知っているのデスかー?」

まったく校長ったら、何を言い出すかと思えば。
行き先教えないで仲間を置き去りにすることなんてあるはずが・・・あ。

「そ、そういえば拙者たちがこの場所のことを知ったのは空港を出た後のタクシーにて!
小太刀様がこの場所のことを知っているはずありませぬ!」

「・・・ぬかったわ。」



「まったく・・・佐助とお姉様はいったいどこにいますの!
何の手がかりも無しに見つけ出せるわけがありませんわ!
きぃぃぃ、こんなことなら佐助の服に発信器でも取り付けておくんでしたわ!
佐助、覚えておきなさい・・・。無事再会したあかつきにはあなたの秘密をバラしにバラしてさしあげますわ。
人知れず地図の描かれた筵(むしろ)干し・・・オーホッホッホッホ!」



「とにかく、今は小太刀よりも九能ちゃんを優先させましょう。そろそろ現れるはずだし。」

「オゥ、ナッチィ!素晴らしい夫婦愛デース!ミーは、父親としてとても嬉しいデース!うっうっ・・・」

まったく、お父さんといい校長といい、どうしてこうも涙もろいのかしら。
涙なんてもんは滅多なことで流しちゃいけないのよ。
そういえば私が最後に泣いたのっていつかしら。・・・ま、どうでもいいか。

「・・・!なびき様!」

「ん?」

「・・・帯刀様が。」

佐助さんが指さす方を見ると、何かがピカッピカッと光るのが見えた。
暗いからそれ以上はよく見えない。

「あの、遠くで光ってるのが九能ちゃん?」

「御意。かの遠くにいながらこれほどの殺気を放てる人間などそうはおりませぬ。
あの光は、金属か何かを斬った際の火花でございましょう。」

火花ですって?冗談じゃないわ、なんで木刀なのに火花なんか出るのよ!
私の旦那はいったい何者なのよ!

「HAHAHA!さすが剣の道を極めたタッチィデース。」

「そんなのんきなこと言ってる場合?
私たちだけでどうやってあんなのに勝つっていうのよ。」

「おばば殿の話を思い出してくだされ。
『身近な人間の言葉こそが、当人の心の奥底に眠る意識に働きかけることができる』と、申しておったではありませぬか。力ではなく気持ちでございます!」

「・・・そ、そうね。」

なんてことを話しているうちにも九能ちゃんはどんどんと私たちの方に近づいてきた。
ちゃんと説得できるのかしら・・・。
そもそも、洗脳状態にある人間が説得なんて聞き入れるのかしら・・・。

「来たわ・・・。誰が行く?」

「え、あ、こ、ここはやはりなびき様が・・・。」

「馬鹿ね、私より佐助さんの方が九能ちゃんとのつき合いが長いでしょ。
つき合いが長い、ということは親しい、ということは説得成功確率が高いってことじゃない。」

「そ・・そんなぁ。第一、一介の御庭番である拙者よりも、妻であるなびき様の方が親しいのは誰が考えてもわかることで・・・。」

「私はか弱い女なの。」

「そんなムチャクチャな・・・」

「・・・ここはミーが行きまショー。タッチィはミーの息子デース。皆に迷惑かけるような息子はお尻ペンペンの刑デース。」

こ、校長・・・。私、少しあんたを見直したわ。
校長が九能ちゃんに向かっていく。私と佐助さんは物陰からそれを窺(うかが)う。
暗くて見えにくいのが難点だけど、近づきすぎると私たちも危ない。

「HEY!我が息子タッチィ!」

「・・・斬る。」

「話を聞いてくだサーイ。ミーはタッチィのダディデース。ほら、思い出しませんカ?」

「・・・斬る。」

九能ちゃんが校長の方へ・・・!

「た、タッチィ・・・」

「・・・斬る!」

「!! Oh,Nooooooo・・・!」

校長がやられた・・・!
木刀を横振り、剣道でいうところの「胴」のような太刀筋が校長をとらえた。
校長は3メートルくらい飛ばされたけど、大丈夫みたいね。なんとか動いてる。

「これは重度の洗脳状態みたいね。校長の声に耳もかさなかったわ。」

「あぁ・・・お父上・・・!」

ここはやっぱり、真に九能ちゃんの意識に訴えかけるようなものを・・・。
となれば、あれしかないわね、持ってきて良かったわ。

「佐助さん、例のあれを出して。」

「帯刀様・・・よもやこの佐助のことも・・・。」

「佐助さんっ!」

「え・・あ、はい!」

「スイカ!持ってきたでしょ、出して!」

九能ちゃんといえばスイカ、スイカといえば九能ちゃん・・・。
スイカなら絶対に九能ちゃんは反応するはず。
少し悔しいけど、私が出て行くよりも効果がありそうな気がするし。

「さぁ、佐助さん。そのスイカを持って行ってらっしゃい。」

「や、やっぱり拙者が持って行くんでごじゃりますか・・・。
しかし、これ以外に手段らしい手段がないのも事実。
猿隠佐助、この大役引き受けましょうぞ!どりぁあああ・・!」

別にそんなに勢いよく走っていく必要はないと思うけど。
ま、佐助さんの勢いに一瞬でもひるんでくれれば儲けもんだわね。
っていうか、もしスイカが効かなかったら、佐助さんもやられるわね。
・・・もう少し離れておこうかしら。

「帯刀様ぁ!」

「・・・斬る。」

「帯刀様、この・・このスイカをご覧くだされ!」

「・・・き・・・斬る。」

効いた!?

「佐助さん!もっとスイカをアピールして!」

「しょ、承知!(とはいえ、どうやって・・・)」

・・・あぁもう何してるのよ、佐助さん。
スイカ持ったまま九能ちゃんの周りをうろちょろしてても意味無いでしょ。
九能ちゃんがスイカに影響されて動けないからいいものの、普通なら校長の二の舞になってるわよ。しかたないわね・・・。

「スイカを九能ちゃんの頭に乗せるの!あわよくばズボッと被せるの!」

「はぁ〜?そんなこと出来るわけ・・・」

「さもなくば、帰国した後、九能家にあなたの居場所はないわよ。」

「ひぃえあ!?そんな・・・。わかりました、やればいいんでしょ、やれば・・・。」

やっぱり佐助さんは脅しに弱いわね。これからも適宜使っていこうっと。
さて、佐助さんはしっかりやってくれるかしら。

・・・九能ちゃんって昔、スイカ島で修行して、記憶喪失&スイカを見ると条件反射で斬ってしまうようになっちゃって、スイカを頭に乗せられた時にそれを叩いて自滅したのよねぇ。
でも、そのショックで記憶が戻った。今回も同じ方法でいけるはず。
現に九能ちゃん、スイカにおじけづいてる・・・!

「走るのよ、佐助さん!御庭番の意地を見せて!」

「・・・帯刀様ぁ!ご免っ!」

バコッという音と共に、スイカが九能ちゃんの顔を覆い尽くした。
九能ちゃんったら、まるでハロウィンのパンプキンお化けみたい。

九能ちゃんはしばらく動かなかった。
ホント、窒息でもしてるんじゃないかってくらいに動じることがなかった。
さすがにやばいと思ったと同時、九能ちゃんが震えだした。
そして木刀を持つ腕が動いて自らが被っているスイカ目がけ・・・。

顔面スイカ割り
・・・うーん、これだと顔面でスイカを割るようなニュアンスだわねぇ・・・って、別に呼び方なんてどうでもいいんだけど、九能ちゃんは自らスイカを割って倒れ込んだ。
顔の周りにはスイカの破片が飛び散ってるし、あんまり見てて気持ちいいものじゃないわね。
今のところは気を失ってるみたいだけど、目が覚めた時に洗脳が解けてるかどうか、目を覚ますまでわからないってのが少し恐い。

「な、なびき様、どうしましょう?」

「どうもこうも、とりあえずは目を覚ますまで待つしかないでしょ。
やるだけのことはやったわ。」

「・・・やったのは拙者なんですけども。」

「そうね、ありがとう佐助さん。これからも御庭番としてよろしくね。」

「はぁ、良かった。路頭に迷わなくて済む・・・。」

そんな会話をしていると、九能ちゃんが少し動いた。
すかさず私は後ずさり、佐助さんは戦闘態勢になる。そして、九能ちゃんが口を開いた。

「・・・僕は」

「九能ちゃん・・・?」

「・・・なびきか、僕は・・・いったい・・・。」

戻った!九能ちゃん、元の九能ちゃんに戻ってる!
スイカ作戦大成功だわ、洗脳が解けた!

「た・・帯刀様ぁぁぁ!!うわぁぁあ!この佐助、どれだけ心配したことか・・!」

「お、おい、佐助。何だというんだ、いったい・・・。」

「九能ちゃん、良かった・・・。」

「えぇい、状況を説明してくれぇ〜!」



とりあえず、校長を保護した後、九能ちゃんに事情を説明。
校長はお腹を強打されたみたいだけど、意識はハッキリしてるし、なんとか歩けるみたい。
でもやっぱりあとで病院に行った方がいいわね。
まがいなりにも九能ちゃんの一発を食らったわけだし。

「なんということだ・・・。僕は1週間近く、このアメリカで通り魔として人々を・・・。
さらには我が父である悪の変態校長までをも・・・。」

「そんな気にすることないわよ、九能ちゃん。自分の意志でやってたわけじゃないし・・・。」

「しかし、剣道は心身の鍛練たる武道・・・。そんな剣道を利用して僕は・・・」

「だから、それは洗脳されてたから・・・」

「洗脳されてしまうような、心に隙があった自分が情けないのだ!
なにが日本一の剣豪だ・・・なにが剣に関しては世界で右に出るもの無しだ・・・!」

「た、帯刀様・・・。」

「・・・ねぇ、九能ちゃん。1週間前のあの晩、中庭でいったい何があったの?」

「・・・すまん。あの時から今までの記憶が全く無いのだ・・・。
素振りをしていたあたりまでは覚えているんだが・・・。」

「ハッ、だったら俺から説明してやろうか。」

上の方から誰かの声がした。4人が一斉に見上げるけど、なにぶん暗くてよく見えない。
ただでさえ周りは廃墟だらけでろくに街灯も無いってのに。

「Oh!あそこに人影ガ!」

校長、サングラスしてるのによく見えるわね。いったいどういう視力してんのかしら・・・。
なんてことを考えてる余裕はなく、私たちは校長の指さす方を見た。
確かに廃墟の屋上、月明かりに照らされた1人のシルエットが浮かび上がっていた。
あれが声の主?だとしたらあいつは・・・。

「まさかスイカで洗脳が解かれるとは思わなかったよ。
自分の洗脳術に関してはいささか自信があっただけに、ショックだな。よっと・・・」

ちょ、ちょっと、あの高さから飛び降りる気?4階建てくらいあるわよ、この建物。
・・・ま、格闘家という輩に常人の常識は通用しないものだわね。

「っと。・・・これはこれは九能家ご一行様、お揃いで。」

正確には小太刀がまだ到着してないんだけどね、と言いたいところだけど、そんな余裕は無いわね。

「あなたが九能ちゃんを誘拐して洗脳した張本人ね。」

「いかにも。日本一の剣豪と聞いていたからどれほどの腕かと思っていたが、意外にあっさり捕まってくれたよ。」

「おのれ貴様っ・・・!」

「九能ちゃん待って!・・・あなた、ムー人の末裔よね?
世紀末の儀式とやらのために九能ちゃんを利用したの?」

「こりゃ驚いた、情報が早いじゃないか。ならば話は早い。
俺は確かにムー人の末裔だ。ゴーキョーカ族・四天王の1人、コク様よ。」

「ゴーキョーカ族のコク・・・。」

「我々の儀式を成功させるためには、いろんな下準備が必要でねぇ。
我ら四天王が手分けしてそれにあたってるのさ。」

「その準備とやらのために、僕は洗脳され、ここで暴れさせられていたというのかっ!」

「ま、そういうことだな。
もっとも、こんなに早く洗脳が解けてしまっては、もう使い物にならんがな。」

「貴様・・・・・!許さんっ!」

「ちょっとくの・・」

「止めるな、なびき!僕はもうこの男を叩きのめさねば気が済まん!」

もうちょっと何か聞きたかったけど、とりあえず最低限聞きたいことは聞けたし、いいか。
怒り心頭の九能ちゃんは誰にも止められないし、私も旦那が「使い物にならん」扱いされて腹立たしいし。

「この俺を叩きのめすだと?笑わせてくれる!
俺に手も足も出ずに洗脳されたのはどこのどい・・」

「はぁああああ!突き突き突き突きぃ!」

「がはっ・・!」

はい、九能ちゃんの連続突き炸裂ー。また派手に吹っ飛んだわねぇ。

「く・・くそ!」

あら、立ち上がった。へぇ、少しはやるみたいね。

「貴様たちが何を企んでいるのか知らんが、
この九能帯刀をコケにしてただで済むと思うな・・・。とりぁあ!」

うわ、九能ちゃんマジで怒ってるわ・・・。
あんな九能ちゃん、久しぶりに見たかも。もう一方的ね。
ってか、コクって本当に四天王なのかしら。そんなに強いようには見えないけど・・・。

「お姉様、今『本当に四天王?』と思いましたね?」

「うわっ、小太刀!あんたいつの間に・・・神出鬼没ね・・・。」

「お姉様は素人だからわからないかもしれませんが、あのコクとかいう男、四天王と称されてもおかしくないほど結構な使い手ですわ。
ただ、お兄様の実力がそれをも遥かに凌駕しているので、素人目には大したことないように見えるのです。」

「へぇ、そういうもんなのね。」

その後、九能ちゃんは完膚無きまでにコクを叩きのめして、ようやく気が済んだみたい。
・・・九能ちゃんと夫婦喧嘩はしない方がいいわね。

「ふぅ・・・。ん、そこにいるのは変態妹。」

「再会早々ご挨拶ですわね、お兄様。わざわざ日本から来て差し上げたというのに。」

「ふん。お前のことだ、どうせ早乙女乱馬の口車にでも乗せられたんだろう。」

(さすが帯刀様、するどい!佐助びっくりでごじゃります!)

「理由はどうあれ、まずは礼の1つでもおっしゃったらどうですの!?」

せっかく敵を倒したってのに、この兄妹は・・・。
放っておくと面倒なことになりそうだし、ひとまず仲裁しておきましょうかね。

「九能ちゃん、私たち、小太刀にずいぶん助けられたわ。だからこそ九能ちゃんの洗脳も解けたのよ?」

「む、むぅ・・・。小太刀、とりあえず礼を言っておく。」

「初めから素直にそう言えばいいのです、オーホッホッホ!」

はぁ・・・疲れる。
異国の地でも兄妹喧嘩の仲裁をするハメになるなんて思いもしなかったわ。
九能家に嫁いだ者の宿命かしら・・・。

「皆々様、コクの持ち物の中にこのような物が!」

佐助さん、どこに行ったかと思ったら敵の持ち物をあさってたのね。
こういったところはさすがに御庭番らしいわ。

「何があったの?佐助さん。」

「はは、これに・・・。」

「これは・・・巻物?またずいぶんと古いものねぇ。」

「あくまで拙者の勘でござりますが、この巻物、例の世紀末の儀式とやらの手がかりとなるのではないかと。」

確かに、ムー暦における世紀は千年単位。
儀式に関して記した書物は、かなり古いものと推測するのが普通よね・・・。

「いいわ、とりあえず持ってきましょ。こういうのは猫飯店のお婆さんに渡せばいいわ。」

「なびきよ、それでは泥棒ではないか。」

「こういう場合はやむを得ない措置よ。
さ、また変なのが出てこないうちに日本へ帰りましょ!」



帰りの飛行機に乗ることがこんなに嬉しいなんて、まぁいろいろあったもんねぇ。
もうちょっと楽に解決できるかと思ってたのになぁ。

「そういえば小太刀、よくあの場所がわかったわね。」

「道行く者に、通り魔が現れる場所をたずねると、あそこだと言われましたの。
そしたら案の定お姉様たちがいてホッとしましたわ。」

「さすが小太刀様!」

「・・・佐助、ああいう状況下においても、何とかして行き先を伝えておくのが御庭番であるお前の仕事でしょう!
おかげで散々でしたわ!」

「あ、いやはや、もうしわけ・・・」

「人知れず地図の描かれた筵干し〜」

「こ、小太刀さまぁぁ!?」

「オーホッホッホ!人知れず地図の描かれた・・」

「勘弁してくだされぇぇえ・・・!」

 ・・・ゆっくり休めるのは日本に着いてからだわね。



つづく?




 この先、続いていくのか、ひとまずここで置かれるのか、すいません。まだ確認できておりません(汗

 なお、電撃ユーイチさまとわたくし、一之瀬けいこは「関西るーみっく連合」のオフ会にて何度かご一緒させていただいた周知の間柄であります。
 また、「らんま1/2外伝」はユーイチさまが自サイトで展開されていたのを連載当初から読ませていただいておりました。
 そんなご縁もありましたので、今回の呪泉洞への転載を引き受けさせていただきました。
 こちらの作品も、今後続くのであれば、呪泉洞にて届き次第掲載させていただきますので、第二章以降もご期待ください。(と、さりげなく、ユーイチくんにも続きに向けてのプレッシャーをかけておこうっと…笑)
(一之瀬けいこ)


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