◇らんま1/2外伝 
 『幻の大陸からの使者』
 電柱ユーイチさま作




「くっ・・・結構やりますわね、あなた。」

「お前もな。だが、この俺を倒すほどではなかったようだ。
仲間を逃がすために自ら戦いを申し出たことは見事だが、これまでだ。」

悔しい・・・。かつては格闘新体操の女王と呼ばれたこの私がこのような男に・・・!
第一こんなところで負けるようでは乱馬様との約束が果たせない・・・。

「俺らの仕事のカタがつくまで休んでなっ!」

「待てーい!」

「何者だっ!」

誰・・・?このような異国の地で私を助けてくれる人間などいないはず。
いえ、日本でもほとんどいないでしょうけど。
声がした方に目をやると、そこには空港に似つかわしくない、レオタードを身にまとった殿方の姿。昔どこかで会ったような・・・。

「まったく、か弱き女性をそのように痛めつけるとは。男の風上にも置けんやつだな、お前は。」

「いったい貴様は何者だ。邪魔をするというのならお前もまとめてぶちのめすぞ!」

「フッ、僕か?僕は格闘新体操男組隊長、大徳寺公康だ!旧友である九能小太刀に助太刀する!」

大徳寺・・・あっ、高校時代に格闘新体操・三種の神器を奪い合ったあの大徳寺・・・!
どうしてあの方がこんなところに・・・。それはいいとして、私は別にあの方と旧友でも何でもないですわ。でも・・・。

「す・・助太刀・・感謝いたします・・わ。」

「君は休んでいたまえ。その体では無理だ。」

「でも、この私がやられるほどの・・相手・・・。あなた一人ではとても・・!」

「高校時代と同じように見られては困る。僕もあれからトレーニングを積んだ。まぁ見てろ。」

トレーニングを積んだのは私だって同じ。けど勝てなかった。
いくらあなたが強くなったからといってこの敵には・・・。

「感動の再会は終わったか?ならば遠慮なく続けさせてもらう!」

敵がこっちに向かってくる・・!
つまり、まずは私を仕留めてから大徳寺と戦うということ・・・なんて卑怯な!

「おい、お前の相手は僕だと・・・言ったはずだ!」

大徳寺がリボンを操っている。すごい。まるでリボンがひとつの生き物のように動いて・・・。
私でさえまだあれだけ器用に使いこなすことはできないというのに。
あの男、いったいどれほどのトレーニングを積んだというのです・・・!
あ、リボンが敵の足に巻き付いたわっ。

「くっ!こんなおもちゃで何ができるってんだ!」

「神聖なる新体操用具をおもちゃ呼ばわり、ますます許すわけにはいかないな。フンッ!」

大徳寺がリボンを引っ張る。敵は・・・あ、倒れてますわ、当然ですわね。
それにしても顔面から倒れるなんて・・・ろくに受け身もできませんの?
でも大徳寺、あれだけの巨体をリボン一本でいとも簡単に・・・。

「いたたたた・・・。は、鼻血!貴様ぁ許さんぞ!」

「そうだ、それでいい。十年にわたるアメリカ武者修行の成果、お前で試させてもらう!」

敵が大徳寺に向かっていく。とはいえ、足にはまだリボンが絡まったまま。
怒りで我を忘れているのね、愚かな。
あんな状態で走っては余計に足がもつれるというもの・・・あ、ほら、やっぱり。
・・・もう完全に大徳寺のペースですわね。

「他愛ない・・・。小太刀くん、奴の実力はこんなものなのかい?」

なんという実力差・・・。
私が苦戦した敵を相手にしてあそこまで余裕でいられるなんて・・・。
それはすなわち私と大徳寺の実力もまた、高校時代とは比べものにならないほど広がっているということ。
これが、男と女の決定的な差なのかしら・・。

「た、確かに今はあなたが優勢ですが、この私が苦戦した相手です。
油断するとすぐ形勢が逆転しますことよっ。」

「フフッ、わかった。心得ておこう。」

今はまだ、単に敵がヘマを続けて自滅しているだけ・・・。
あの敵がこのまま終わるとは思えない。
けど、敵が本気になったところで大徳寺にかなうとも思えない。
・・・なんだか、安心して見ていられますわ。

「俺を無視して喋ってんじゃねえ!
このへんちくりんなヒモさえほどけば、てめぇなんか・・・!」

「・・・ほどけるか?」

「なんだと・・・?な、どういう絡まり方してんだこれは!えっと、これがこうなって・・・」

一瞬のうちに敵の足にリボンを複雑に巻き付ける、もはや常人の域を超えている・・・。
十年間のアメリカ武者修行で大徳寺はいったいどんなトレーニングを・・・。

「簡単にほどけるようなら初めから巻き付けたりはしないさ。
リボンで相手の動きを封じるのは格闘新体操の基本だからね。
それに、封じるのは足だけじゃないぞ!」

敵は足に絡まったリボンを必死でほどこうとしている。
大徳寺は・・・え、大徳寺はどこですの?さっきまでそこにいたのに・・・あ、上っ!

「足ばかりに気を取られて、相手に対し無防備になるとは・・・もう少し楽しませてくれると思っていたんだがな。」

いつの間に敵の頭上に・・・!あ、リボンが敵の全身に巻き付いていきますわ!

「な、な、なんだぁ!?うわぁぁぁ!」

封じるのは足だけではない・・・こういうことですの。
全身がリボンでグルグル巻き、まるで簀巻きかミノムシですわね。

「仕上げはこれだっ。炎のボール!!」

「・・・ガハッ!」

燃えさかるボールが敵めがけて一直線、お腹のあたりに直撃しましたわ・・・。
当分の間意識は戻らないでしょうね。それにしても大徳寺・・・。

「っと・・・。小太刀くん、怪我はないか?」

「ないことはないですけど、とりあえず大したことありませんわ。
あ、あの・・・ありがとうございました・・・。」

「なに、礼には及ばない。
共に格闘新体操を世に普及させるために切磋琢磨している同志じゃないか。」

「え、えぇ、そうですわね。
それにしてもあなた、この十年でいったいどういうトレーニングを?
高校時代は私とそれほど差は・・・。」

「特にこれといって特別なことはしていないよ。狭い日本を飛び出て、自由の国・アメリカで過ごしていただけさ。」

「過ごしていただけでそれだけの強さが身につくわけないでしょう!」

「困ったな・・。何とか話を・・・あ、そうだ。
小太刀くん、最近噂になっている通り魔のことなんだが、君がここにいるということはやはり・・・?」

通り魔・・・!そういえば私としたことが大徳寺と自分の差のことばっかり考えて、お兄様のことをすっかり忘れていましたわ!

「そう!私はお兄様を正気に戻すために・・・って、どうしてあなたがそれを?」

「やっぱりそうか。君のお兄さんのことはよく知ってるよ、有名人だしね。
通り魔の話を聞く度に、あんなことが出来るのは彼しかいないと思っていたんだ。
でも半信半疑だった。彼しかいないと思っていても、通り魔をするような人だとはどうしても思えなかったからね。」

「えぇ・・・実は・・・」


「そういうことだったのか・・・。
何か大変なことが起こっているみたいだね。何か僕に手伝えることはあるかい?」

「そんな、助けていただいたうえにこれ以上お手数をかけられませんわ。」

「遠慮はいらないさ。君たちの手伝いは格闘新体操の普及に役立ちそうだしね。」

この男、格闘新体操に掛ける情熱がホント人一倍ですわ。
だからこれだけの実力を手にすることが出来た、私が大徳寺に劣ってる部分はその点。
いいえ、それだけじゃない。私は昔から格闘新体操の女王と呼ばれ、少々舞い上がっていたのですわ。だからこそ自己向上のためのトレーニング、己の限界を超えるほどのことはしなかった・・・。でも恐らく大徳寺は・・・。

「小太刀くん、聞いてる?」

「え、あ、ごめんなさい・・・。あの、大徳寺・・・さん。
お兄様のことは私たち九能家の問題です。よって、この件に関してはやはり手出し無用です。」

「・・・そうか。ならばこれ以上の口出しはしないよ。身内で解決するのが一番いいんだろうしね。」

「せっかくの申し出を断る形で、非常に申し訳ありません。」

「いやいや、謝るのはこちらだ。変なこと言ってすまなかった。」

そんな話をして、私はお姉様たちと合流するため、大徳寺さんは帰国する前の最後の観光をするため、それぞれ空港を出た。

「それじゃ小太刀くん、くれぐれも気を付けて。今度も僕が助けられるとは限らないよ。」

「えぇ、本当にありがとうございました。
あなたがいなかったら今頃私どうなっていたことか・・・。」

大徳寺さんはタクシーに乗車。私は助けてもらった立場上、それを見送る立場。
・・・なんだか名残惜しいですわ。あらやだ、私ったら何を考えて・・・。
私には乱馬様という人が・・・。

「小太刀くーん!」

大徳寺さんがタクシーの窓から手を振っている。律儀というか何というか・・・。

「小太刀くーん!もし万が一今回のような事態がまた起こったとしたら、
その時は、身内として君と一緒にー!」

な・・・!み、身内としてってことは・・・つまり、その・・・。

「な、何馬鹿なことを言ってますのっ!
こんな事態がまた起こるだなんて、そんな縁起悪いこと言ってはいけませんことよ!
あなたなんか早く行ってしまいなさいっ・・・!」

「はっはっは、それじゃあまた会おう!」
(・・・ふう、小太刀くん、いつか一緒に格闘新体操を世に広めよう。パートナーは君じゃないと駄目なんだ。)

と、とんでもない男ですわ!私には乱馬様が・・・乱馬様が・・・。
でも乱馬様はすでに天道あかねと結婚・・・。
乱馬様が周囲の妨害を乗り越えて半ば無理矢理に天道あかねと婚姻したあの日、必ず天道あかねと離婚させて乱馬様を我がものにすると決意したはず・・・。
なのに何なんですの!この胸が高ぶる気持ちはっ!
乱馬様に出会った頃のような、乙女の気持ち・・・。
ああもう!今はそんなこと考えている時ではありませんわ、小太刀!
早くお姉様たちに合流しなくてはいけません!
事について考えるのは・・・その後にしましょう。






つづく




 作者注
 大徳寺公康はアニメオリジナルキャラ。ちなみに「公康」は勝手な当て字。





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