◇らんま1/2外伝
『幻の大陸からの使者』
電柱ユーイチさま作
四
空港に着いたのはいいけれど、本当に私たち三人だけで大丈夫かしら。
聞いたら小太刀も佐助さんもアメリカに行ったことないみたいだしもちろん私も今回が初めてなのよねぇ。
向こうに行ったところでちゃんと九能ちゃんのところまでたどり着けるのかしら・・・。
「どうかなさいましたか?なびき様。」
「あ、いや、いよいよだなって思って。」
「我々の責務は重大にございます。しかしまぁ、そんなに固くならずに。」
「ありがとう、佐助さん。」
そういえば小太刀はどこ行ったのかしら。
さっさと搭乗手続き済ませないと乗り遅れるってのに。
「お姉様ー、遅くなりましたー。」
「もう、何やってたのよ。」
「ちょっと空港内を調べてまいりましたの。」
初めて空港に来た子供じゃあるまいし、空港なんて珍しいもんじゃないと思うけど。
それとも九能家のことだから飛行機に乗る際はプライベートジェットでも使うのかしら。
嫁いでから飛行機に乗る機会なんてなかったから知らないけど。
「あんた子供?そんなにはしゃぐほどのもんじゃないでしょ。」
「違います、お姉様!例えばお姉様がムー人だとしましょう。
お兄様をアメリカで暴れさせている、当然私たちはいずれそれに気づく、となれば奪還するため渡米することは必至・・・。お姉様ならどうします?」
「・・・渡米の玄関口、空港に見張り役を潜り込ませて監視、
九能ちゃんの仲間が渡米しようものなら力ずくでも止めようとするでしょうね。なるほど、そういうこと。で、それらしい奴はいたの?」
「隅々まで調べてわけじゃありませんが、とりあえずはいませんでしたわ。
・・・それにしても佐助!」
「えっ、あ、はい!」
「こういうことは本来御庭番であるお前が率先して行うものでしょう!
乱馬様やお兄様が結婚してからというもの、少々平和ボケがすぎるんじゃありませんこと?」
「も、申し訳ございませぬ。」
佐助さんは昔から間が抜けてたように思うけどね。でも、小太刀はさすがに格闘家ね。
私ともあろう者が、言われるまで監視の目なんかちっとも考えてなかったわ。
「とりあえず、見張り役はいなかったみたいだし、出発時間も迫ってるわ。
早いとこ乗り込みましょ。」
「いやぁ、これがアメリカでございますかぁ。
予想はしておりましたが、どこもかしこもアメリカ人だらけでございますなぁ。」
「・・・当たり前でしょ。」
ここまではなんとか無事に着けた。ひとまず安心ってところね。
とりあえず空港を出て、新聞やらニュースやらで九能ちゃんのことを調べなきゃ。
たぶんこっちでも話題になってるはずだから、探すのにそれほど苦労はしないはず・・・。
「・・・佐助、お姉様をお守りして。」
「はっ!」
な、何。どうしたのよ、二人とも。私を守れってことは・・・まさか。
「女二人にチビ一匹か。我々もずいぶんと甘くみられたもんだな。
そんな簡単に九能と接触できると思うてか。」
しまった、見張りは日本じゃなくてアメリカに置かれてたのね。
日本を出発してすっかり油断しているであろう時に現れる、敵ながら見事な作戦だわ。
「佐助、お姉様を連れて行きなさい!ここは私が引き受けます!」
「そんな無茶です、小太刀様!拙者も一緒に・・」
「お前まで戦闘に参加したら誰がお姉様を守るのです!?・・・いいから早く行きなさい!」
「小太刀様・・・」
「小太刀!・・・さっさと私たちの後を追ってきなさいよ。」
「・・・もちろんですわ。」
「なびき様、さぁこちらに!」
小太刀、任せたわよ。
九能ちゃんは私たちが必ず連れ戻すから、今はとにかくそいつの足止めを。
「おいおい、このままあっさり見逃すとでも思っているのか?ふざけんじゃねえぞ!」
まずい、あいつ足が速い。佐助さんだけならまだしも、私なんかすぐ追いつかれる!
「・・・あなたの相手は私だと、申したはずですわよっ!」
新体操のリボンを奴の足に巻き付け即座に引っ張る。
一瞬で相手を倒れ込ませるなんて、相変わらず格闘新体操の腕は鈍ってないみたいね。
でもね小太刀、「あなたの相手は私」って、今初めて伝えたことよ。事前に申してないわ。
「ぐっ、この女、おかしな技を・・・!」
「なびき様、あそこにタクシーが!」
「お兄様を頼みましたわよ、お姉様・・・。」
とりあえずタクシーに乗ったはいいけど、いったいどこに行けばいいのかしら。
「ペラペーラ」
微妙にしかわかんない。こんなことなら英会話習っとくんだったなぁ。
どうもわざわざお金払ってまで習うって気になれないのよねぇ。
「な、なびき様。運転手が何か申しておりますぞ、早く行き先を・・・。」
「どこに行けばいいのよ。」
「え、えっと、それは・・・。」
「とにかくここを離れましょう。小太刀が足止めしてる間に。
運転手さん、とりあえずゴーよ、ゴー。」
行き先はとりあえず走りながら考えればいいでしょ。
・・・っていうか、運転手に九能ちゃんのこと聞けばいいんじゃないのさ。
「し、知らなかったー。なびき様がここまで英語が不得手だったとは・・・。」
「失礼ね。行き先が思いつかなかったからとりあえず車を出してもらっただけよ。」
このまま佐助さんに誤解されたままってのも癪(しゃく)だし、さっと運転手に九能ちゃんのことを・・・。
「ねえ、運転手さん。最近アメリカで話題になってる通り魔、知ってるでしょ?」
「そりゃもちろん知ってるさ。
最近はこの近くにも現れるようになってね。気が休まる暇もないよ。」
もう少しゆっくり話してくれりゃいいのに。これだからネイティブは・・・。
でも「近くに現れる」って確かに言ったわね。
「近くにいるの?私たち、その通り魔を捜して日本から来たんだけど・・・。」
「やめときな、関わるとただじゃすまねえぜ。」
「そうも言ってられないのよ。あの通り魔は・・・私の夫なんだから。」
そう、九能ちゃんは私の夫。その夫が通り魔としてアメリカで幾多の人を傷つけてる。
どう考えても見過ごすわけにはいかないの。
「なんだって?夫?そりゃ本当かい、あんたもまたずいぶん悪い男と結婚したもんだなぁ。
まぁいいや、そういうことなら案内してやるよ。」
十分くらい走って、着いた所は町はずれのダウンタウン。
九能ちゃんは最近、夜になるとよくここに現れるみたい。
なるほど、ここなら人通りもほとんどないし、通り魔には最適ね。
「いやぁなびき様、見事な英会話でございました。
もうアメリカ人も真っ青なペラペラぶりございましたねぇ。」
手のひらを返したかのような態度ね。最初は「英語が不得手」だとか言ってたくせに。
まぁ、それくらいじゃないと九能家の御庭番なんか務まらないんでしょうけど。
「オウ、そこにいるのはも・し・や!我が娘ナッチィと御庭番・佐助デスかー?」
高校時代よく聞いた声。卒業してからはもう聞くことがないだろうと思ってた声。
でも九能ちゃんと結婚して、私の義父となった人物の声・・・。
「お、お父上ではありませぬか。どうしてここに。
確かハワイで教育に関する会議に出席してるはず。」
「HAHAHAー。息子の一大事と会議、どちらが大切なのかは明らかデース。
それにしてもナッチィや佐助もここにいるとは。
私、久しぶりの再会で涙がちょちょぎれマース、ウッウッ。」
「ホント、久しぶりね。校長。」
この人は、私が通っていた風林館高校の校長。
長いこと留守にしてたみたいだけど、私が二年生の時にふらりと戻っていて以降「男子は丸坊主 女子はおかっぱ」みたいなとんでもない校則を連発して全校生徒を敵に回した、いわゆる変態校長。
それと同時に、九能ちゃんや小太刀の父親、つまり今となっては私の義父。
アロハシャツにサングラス、色黒の肌、なぜか頭に生えているヤシの木。
トレードマークは当時のままみたい。
昔は乱馬くんや九能ちゃんとしょっちゅういざこざを起こしてたわねぇ。
私が九能ちゃんと結婚して以後、再び教育活動でアメリカに渡ってたから、顔を合わせることはほとんどなかった。
義父となった今でも、なぜこの人が教育者として居られるのかがよくわからない。
「オゥ、ナッチィ。いつまでそのような他人行儀な呼び方をするのデスか。
遠慮しないでダディと呼んでくだサーイ。」
呼べるわけないでしょ。九能ちゃんでさえほとんどダディなんて呼ばないわよ。
「呼び方のことだけど、ナッチィっての、なんとかならない?」
「オゥ、なぜデースか。
帯刀はタッチィ、小太刀はコッチィ、そしてなびきはナッチィ。当然じゃないデスか。」
確かに統一性はあるけど、そのあだ名の付け方をどうにかしてほしいのよね・・・。
幼少期の子供じゃないんだから普通に呼んでくれないかしら。
「まぁいいわ。校長もニュースで今回のことを知って、いろいろ調べてここに来たのね。」
「そうデース。自分の息子ですからネー。
ニュースでは正体不明などと言ってマシタが、私にはわかりましたー。」
このへんはさすがに父親ね。でもまぁ、この期に及んで仲間が増えたのは好都合ね。
小太刀がいなくなって、少し不安だったから。
「そういえば小太刀、大丈夫かしら。」
「確かに、小太刀様・・・。」
「ホワット、コッチィも来ているのデスかー?それでコッチィはどこに?」
「お父上、実は・・・。」
佐助さんが校長に空港での一件を説明すると、校長は動揺を隠せない感じ。
そりゃそうよね、娘が一人で敵の刺客と戦ってるんだもん。
「コッチィが・・・そんな危険なことを・・・。」
「だからこそ我々は小太刀様の意志を継ぎ、
全力をあげて帯刀様を元に戻さねばなりませぬ!」
佐助さん、それだとまるで小太刀が死んじゃったみたいよ。
「とにかく、九能ちゃんが現れるのは夜みたいだから、とりあえずそれまで待ちましょ。」
つづく
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