◇幻影
  【1】神隠し



AM10:32.船上。

「きゃぁ〜♪すごぉい!」
澄んだ蒼い海、カラフルな珊瑚礁、雲ひとつ無い空。
東京では決して見ることの出来ない光景にあかねが叫ぶ
「あんまり騒ぐなよ。カナヅチのおまえが落ちたらどーすん…ぐえ。」
らんまの言葉にカチンと来たあかねの鉄拳が顔に飛ぶ
もっともその言葉にも一理あるのだが…

天道一家、そしてそのほか数名は、以前の桃源郷での出来事のため出来なかった旅行に来ている。九能の所有しているという無人島に向かっている途中なのだが、話を聞いたシャンプー達までまたついてきてしまったのである。以前と同じメンバーだ。
何か嫌な予感はするのだが、まだ猛暑が続いている東京にはあまりにも「海」という言葉は魅力的だった。
もちろんだが乱馬は女として参加している。色々意味はあるのだが、九能が招待したのが女の方だからと言うのが一番の理由であった。

風を切ってクルーザーが海を進む。


PM13:21.砂浜

「あいやぁ!とても綺麗なとこね!」
「ほんま、来て良かったわぁ。」
「沖縄みたいね!」
キャアキャアと騒ぐ女子達。うってかわって男達+らんまは早くも荷物の整理を始める。
宿泊場が無いため、船内にあるそれぞれの部屋に泊まることになっているが、残念な事に乱馬とあかねは別々になっている。
二人の親としては同じ部屋にしたかったのだが当の本人達が大反対したということは言うまでもない。

ひとまず落ち着き、一同は一番やりたかったことを実行に移す。
地上数メートルの崖から飛び込む者、少し沖の珊瑚礁で魚と戯れる者、優しく麦茶を差し出す者、変身体質を隠すため砂浜でぼーっとしている者それぞれいるが、らんまとあかねはいつも通り、泳ぐ練習をしていた。
「おめー相変わらずだめだなぁ。口開けながら泳いでどうすんだよ。」
あきれた口調で話すらんま。
「だばっでぇ…ガボガボ…(だって…)」
ひょいっと手を離すと沈んでいくあかね。あと数年は泳げないであろう。
手取り足取り教えている姿は、恋人のようにも見えた。
数メートル先でシャンプー達が闘気をみなぎらせているのには気づかず。
砂浜で一人の男がだばだばと涙を流しているのにも気づかず。
そして遙か先でなびきと久能がカメラを握っているのにも気づかず。

それぞれ作戦を立てていたりしなかったりするが、割と楽しげな一日目がおわる。
−はずたった。


PM5:16.砂浜

「みんなー、ご飯だよーっ。」
一家の主早雲が砂浜の一同に呼びかける。
全員そろったか確認するが、一人いない。
「ひいふうみい…あれ?かすみサンは?」
水着の上にシャツを着たらんまが言った。同じような格好のあかねも同じように確認するがやはりかすみがいない。
「おっかしーな。さっきまでそこで料理作ってたのに…(早雲)」
船内などを探してみてもいないので、みんなで手分けして探すことになった。

〔らんま・良牙・九能〕〔あかね・ムース・なびき〕〔シャンプー・右京・玄馬・早雲〕

このような組み分けだ。以前のこともあって、女だけのチームにするのは駄目、というあかねの提案もあったのでこうなる。

「それでは、30分後にここな。」
「わかった。」
それぞれ集合場所の確認をし、散っていった。

「かすみぃ〜」
「かすみおねーちゃーん」
「かすみさーん…」

PM5:49.砂浜・集合場所

「あとは親父たちか…」
「お姉ちゃん…見つかったかな。。」
すでに戻ってきた2組が会話をしていると、ガサガサと草をかき分けて玄馬たちが出てきた。
「大変だ!右京君たちが…いなくなった!」
「「なんだって?!」」
既に暗くなり始めている砂浜に驚きの声が響き渡った

「説明しろ!親父!」
「じつは…シャンプーと右京が『乱馬と一緒に行動するね!』『うちが乱ちゃんと一緒にいくんや!』とか言って…喧嘩をしながら森の奥へ…途中から見失った…!」
一同愕然…
「神隠しかよ…(らんま)」
「(この状態…以前どっかで…)」


PM11:01.船内.大広間

結局その後探しても見つからなかったため、今日はひとまず船内で寝ることになった。
「なにか裏がありそうだ。こんな時間になっても戻ってこねぇって事は…また…」
考え込むらんま、隣であかねが泣いている。
「…かすみおねえちゃん…っく…大丈夫かなぁ…ひっく」
「だいじょぶだって。あかね。まだ一日目じゃねぇか…」
内心、かすみ・しゃんぷー・右京が無事か確信はなかったが、ひとまずあかねを安心させようと声を掛ける。

「おいらんま。今日はみんなかたまって寝る方がいいんじゃねーか。消えてるのは女だしな。おまえはともかく、あかねさんやなびきさんが危ない。(良牙)」
「そうじゃ。シャンプーにもしものことがあったら…オラはどうすればいいだぁ〜!(ムース)」
「ちょっとぉ、少しは静かに出来ないのぉ?あんた達…。(なびき)」
「じゃぁ…誰がどこで寝るの?(あかね)」
「うーん。ひとまず出来るだけ男と女は離した方がいいかもな。九能もいるし。(らんま)」
男と女が近くで寝る、ということを一番拒否するこの年頃。難しい問題だ。
そして…
「だったら、みんなで円になって放射状に寝れば良いんじゃないか?(玄馬)」
という玄馬の提案に、反対が一人いた。
「僕はおさげの女と添い寝したいぞぉ〜!」
その通り。九能帯刀十七歳である。彼は『おさげの女』の鉄拳でいち早く眠りについた。

「じゃ…おやすみ」
「「おやすみなさい…」」

「(まだ始まったばかりのような気がする…)」


11:53.就寝



  to be continued・・・




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