◇遠い約束、今の約束
  【6】今の再会

陽樹(宇宙)さま作


呆然としていたあたし。
目の前には知らない女の子と乱馬。
とっても可愛い、中国人の女の子。
中国語で会話をしている。
楽しそう…
『あかね』
突然乱馬に呼ばれたあたし。
『そういうことだから』
ボーっとしていて話を聞いていなかったあたし。
『え…な、なにが?』
『だから俺、こいつと結婚するから』
『え…?』
乱馬の後ろで女の子はニコニコ笑っている。
ちょっと得意げな顔で。
『じゃあな、あかね』
そして、乱馬と女の子は手を繋いで去ってゆく。
『らっ…乱馬ぁぁぁぁぁっ!!!』
あたしは叫んだ。
でも、乱馬は振り向かない。
どうして…どうして…?



「!!!!」
あたしはガバッと起きた。
あたりを見回すといつもの自分の部屋。
「夢…か」
ホッとした。
夢とわかっていても、乱馬の言葉が耳にこびりつく。
『じゃあな、あかね』
あの時、目の前が真っ暗になった。
暗い、闇の底に突き落とされたような感覚だった。
あたしは、『気にしない』と自分に言い聞かせ、朝稽古に向かった。



「はぁっ…はぁっ…」
あたしは、朝稽古のランニングをしていた。
そして、十字路についた。
ちょっと立ち止まって横を向いてみる。
「!!」
見たことのある顔があった。
あっちはこちらに気付いてないみたい。
でも、あたしにはどうでもよかった。
ただ、彼がそこにいるのが信じられなかったから。
乱馬が、乱馬がいた。
乱馬がこちらを向く気配がした。
あたしは、走り出した。
さっきまで、足がすくんでいたのに。
ただ、びっくりして、恥ずかしくて…



…なんだ?今の。
誰かいたような気がするからその方向を向くと、人が走り去っていた。
なんじゃいな。
ま、いいか。
とりあえず、腹ごしらえに行こう。
腹減った。
「!…」
いつもの様にうっちゃんの店に行きかけた俺。
でも、足がすくむ。
なんだか気が引け、ファミレスに入った。



(…本当にさっきのは乱馬?)
あたしは、自分の部屋に戻って疑問がわいた。
後悔した。
彼の所にいって、確かめればよかった。
でも、きっと今のあたしにはムリ。
…会いたい。
人間違いかもしれないけど、会いたい。
乱馬かもしれないから。
ううん。あれは乱馬よ。
黒髪のおさげ。あんまり見たことないけど、水色のチャイナ服。
そして、修行に行く時に必ずもってゆく、おっきなリュック。
あれは、絶対に乱馬だった。



「ぷぎー」
あかねさん…悲しそうだが、どこか嬉しそうだった。
俺はまた天道道場に戻ってきてしまった。
乱馬が帰ってきたらしい。
でも、なかなか乱馬は天道道場に現れない。
乱馬の帰る場所はここしかないはずなのに――
俺はいても経ってもいられず、天道道場を飛び出した。



「はぁ…いくじなし」
俺は俺に呟いた。
天道道場の門の前までは来るものの、なかなかそこから踏み出せない。
たまに親父がひょこっと、でてきそうなもんだから俺は慌てて電柱に隠れる。
それの繰り返し。
すると後ろから聞きなれた声。
親友【ライバル】の声。
「乱馬ぁぁっ!!」
…良牙。
俺は振り向いた。
「いた…乱馬」
こいつ…珍しい。
かすり傷一つもなく俺のところへたどり着いてる。
「よ、よぉ。久しぶりだな、良牙」
びっくりして、声がどもった。
途端に顔を殴られた。
「なにすんだよっ、良牙!!」
良牙はものすごい形相だった。
「ど、どうしたんだよ」
「どうもこうもねえっ!!!早くあかねさんに会うんだ!!!」
「は?」
突然の良牙の言葉に俺はマヌケな返事をした。
「『は?』じゃねえっ!!あかねさんに早く会うんだ!あかねさん、ずーーっと待ってたんだぞ!」
「なんで、お前がそんなこというんだよ。おまえ、俺がいないほうが都合がいいだろ?」
そうだ。なんで、良牙は俺とあかねをくっつけるような事を言うんだ?
「あかねさんの心にはなぁ、お前しかいねえんだよ!!!」
「え…?」
「俺があかねさんの心に入るなんて何年かかっても、何十億年かかっても無理なんだよ!!」
良牙は本心から言っていた。俺にはわかった。
「でも、お前がいなくなってあかねさんの心にはでっけえ穴があいてる。そのデカい穴にさえ俺は入れねえんだ!」
良牙は俺を睨んだ。憎しみではない睨みだった。
「わかるか?!その穴にはお前しか入れねえんだよ!!!」
風が、吹き抜けた。
「…お前はいいのか?」
俺は聞く。
言葉は少ないが、良牙にはわかった。今のあかねと俺を引き合わせてもいいのか…?
「ったりめえだろ。俺は一生お前には勝てねえんだ。さっさと行ってこいよ」
良牙らしい応援だった。


俺は黙って、今までためらっていた天道道場の門をくぐった。
そして、戸をあけた。
「早乙女乱馬只今、天道道場へと戻りました!!!!!」
そう叫んだ瞬間、ドタドタドタドタと足音がした。
「「「「乱馬君!!!!」」」」
「「乱馬!!」」
あかね以外の人たちがいた。
あかね…以外。
そして、瞬時に歓迎会と化した。


『早乙女乱馬只今、天道道場へと戻りました!!!!!』
かすかに、いや、はっきりと聞こえた。
ずっと待っていた。あの声を。
愛しい、許婚の声を。
下に行きたい。
あたしの足は自然に居間へと向かっていた。


そーっと居間を覗いてみる。
…乱馬がいた。
楽しそうに会話をしている。
でも、入れなかった。
入りたかったけど、本心がそれを拒んでいた。
あたしは、そっと立ち去った。




コンコン

「はい」
あたしの部屋のドアにノックの音が。
『あかね?』
…乱馬
『入ってもいいか?』
悩んだ。
でも、彼を拒めない。
結局あたしは彼を招きいれた。
乱馬は部屋に入ってくるものの、だまりこくる。
「……」
「……」
乱馬が口を開いた。
「…久しぶりだな」
「…うん…」
「元気だったか?」
「…うん…乱馬は?」
「あ、ああ…元気だったよ」
「そう…」
―――会話終了。
乱馬は立ち上がった。
その途端、乱馬の服のポケットから何かが落ちた。
「じゃあな」
乱馬は気付かず、出て行ってしまった。
「…?」
あたしは拾い上げる。乱馬が落としたそれを。
「あ…!」
――ペンダントだった。
あの、夢に出てきたペンダント。
…じゃあ、あの夢の男の子は…



  to be continued・・・




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