◇遠い約束、今の約束
  【5】記憶のかけら そして帰国

陽樹(宇宙)さま作


天道道場を出て4年
俺はもう20歳。あかねも20歳。
そして雪梅は19歳。
俺はやっと、まともな体になれた。
水をかぶっても女にならない。
やっぱり嬉しいもんだな。
しかし、俺はいまだに雪梅に追っかけられていた。
『待つね、乱馬――――――!!!!!』
『だぁから、俺は修行で忙しいんだよ!!!!!!』
雪梅をまいた後、俺は森林で樹を相手に蹴りを入れていた。
そういえば俺は最近、師と一緒に技を一つ編み出した。
"靜龍脚(セイリュウキャク)"
この技は龍のように相手の周りをものすごい速さで移動し、そして相手が混乱した所で懇親の蹴りを入れる。
(親父に教えてやんねえと…)
俺は考えてふと思った。親父に?ということは日本に俺は帰る。そしてあの天道道場に…
あかねがいる。
俺はポケットからペンダントを取り出した。
決着をつけなければならないのはあかねだけじゃない。もう1人、あかな。
俺はこれをあかなに返さなければならない。
しかし、あかなのことはなにもしらない。
(どーすりゃいいんだよ…俺は…)


天道道場
とうとうあたし、20歳になったよ…
でもやっぱり心の深い深い溝は埋まらない。
乱馬の存在があたしの中でこんなに大きくなっていたなんて。
淋しい。
乱馬の事を想うだけでも苦しいのに、それに『あかな』のことが重なる。

苦シイ。淋シイ。

(…どこにいっちゃったの?乱馬…)

アタシハズットアナタヲ待ッテイル。ズットアナタヲ信ジテイル。ナノニ帰ッテコナイ。ナンデ?

かすみお姉ちゃんは東風先生と結婚して家を出て行ったけど、ちょくちょく遊びに来る。
なびきおねーちゃんはいまだにお金を稼いでいる。楽しそう。
シャンプーはムースといい感じになっている。
でも、右京と小太刀はいまだに乱馬を諦めてない…と思う。
でも、みんな幸せそう。
だからあたしは孤立感を覚えた。
―乱馬に会いたい―
そう思うだけで涙がボロボロと出てきた。



俺は写真を見ていた。あかねの。
依然、なびきに無理やり持たされていた写真。かなりいいトコを撮っている写真。
満面の笑顔で笑っているあかねの写真。
そして、もう片方の手にはあのペンダント。
でも、今はあかねことで頭がいっぱいだった。
あかねは今幸せなんだろうか?
好きなやつと一緒に過ごせて幸せなんだろうか?
あかねは可愛いから…
もう、他のやつと結婚の約束などをしているんだろうか?
そう思うと頭が痛い。
俺の頭ん中はあかねのことだけでいっぱいいっぱいだった。



あたしは夢を見た。
ずーっと前に見たことのあるような夢。
懐かしい、夢。
今、あたしは幼いあたし。
周りのものがいつもと違うように見える。
目線が低いから。
すると、うしろから呼ばれたの。
本当は『あかな』と呼ばれていたのに、『あかね』と聴こえた。
だから、振り向いたの。
すると、あっちの方から黒髪の男の子が走ってきた。
あたしの傍に寄ってきてもなぜか、彼の顔がかすんで見えない。
見たいのに。彼の顔が。
懐かしい声がするから。
あたしの体はわたしの意識を無視して勝手に動いている。
あたしは、瞳からあふれてきたものを流さないようにしながら、首からペンダントを外した。
そして、彼に渡す。
『ありがとう。あかな』
彼はそう言った。
またあたしは『あかね』と聴こえた。
『また、帰ってくるから。その時に返すよ』
彼はそう言った。
そして、彼は走り去っていった。
取り残されたあたし。
すると今までこらえてきたものが一気にあふれ出てきた。
そして、わたしの意識は途切れた。


「…ん?」
あたしは目を覚ました。
気持ちのよい夏の朝。
今は夏休み。
夢。
あれは本当にあったこと。
今でも覚えている。
正確には、今思い出した。
あたしがペンダントを男の子に渡した。
ただ、それだけ。
なんだか昔を思い出せたのが嬉しかったけど…
やっぱり心にぽっかりとあいた穴は埋まらない。
さみしい。
それだけ。
信じてる。
それだけ。



『お世話になりました』
俺は、雪梅の家族に頭を下げた。
『乱馬、本当に帰るのか?ずっとここにいてもいいのに』
そう。俺は帰ることにした。あの、日本に。
あかなの決着もつけたい。もちろん、あかねの本心も聞きたい。
無理かも知れねえけど。
『いえ、日本は俺の母国だし…』
『そうだな…』
雪梅の親父は少し淋しそうだった。
そして、俺は雪梅の家を出て行った。

『乱馬―!』
後ろから雪梅の声がした。
俺は振り向いた。
『雪梅、どうしたんだよ』
『乱馬、好きな人いるらしいな。乱馬の師から聞いた』
『!?』
あんのクソひげめ…
『本当か?』
雪梅は俯いて言った。
『……』
自分に嘘はつけない。
俺はあかねが好きだ。
現実。
『ああ』
『可愛いのか?』
『…そうだな。あかねは、不器用で鈍感で料理下手だし…でも、可愛いよ』
俺は素直に言った。ちょっと気持ち悪いけど。
『あかね…と言うのか?乱馬の好きな人』
『あ、ああ…』
『乱馬、その人が好き。わかった。でも、あたし乱馬が好きだった。諦めない。わかったな?』
『はいはい』
俺は冗談だと思って流しといた。
『元気でやるんだな』
『そっちもな』
俺は、雪梅と別れて一歩一歩と踏み出した。

あかねいる日本へ――



  to be continued・・・



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