◇遠い約束、今の約束
  【2】衝撃そして沈黙

陽樹(宇宙)さま作


乱馬がおかしい。
今日はずーっと、上の空。
乱馬らしくない。寝ぼけてるのかしら?
背中をつついたのに、全然気付かないの。
何考えてるのかしら?
「ねーっ、乱馬ー?」
私は、乱馬の体を揺さぶった。
「…………んっ?……わわっ!あかね?!」
乱馬は、至近距離のあたしの顔にビックリして、後ろへ飛びのいた。
「なによーっ。心配してあげてんのに」
「は?」
「今日ずーっとあんた、上の空よ?何考えてるのよ」
乱馬はごまかそうとする口調で言った。
「なっ、何も考えてね−よ。ほっとけ」
「ウソ。何か隠してるでしょ」
あたしは、乱馬が苦手だというのがわかってて、乱馬の顔に近づいた。
すると乱馬は、正座をしてるあたしの肩を掴んだ。
そして、持ち上げて丁度良い距離の位置にあたしを降ろした。
そのあと、その場から逃げ去った。
「ちょっ、ちょっと……乱馬!!!」
あたしは縁側に、取り残された。
「…なによ」


…パタン
ふーっ…あぶねぇ…
ったく、あかねのヤツいつもは鈍いくせに…
こういうときは鋭いんだよなぁ…
「……言えるわきゃねーだろ」
あかね以外の女の事を考えてたなんて…
ましてやそいつが俺の初恋だもんなぁ……
バレたらどうなることか……うーん…こりゃ地獄絵…だな…
「はぁ…あかな…か」
思い出せそうで思い出せねぇ…苗字がわかれば、何ぼか楽なのによ…
ついてね−ぜ


次の日
「乱馬ー、まだ寝てるの?!」
あたしは、乱馬の部屋のふすまをガラッと開けた。
するとそこには、包む人を失った布団。
「? 起きてるみたい」
あたしは、居間へと向かった。
するとそこにはいつのまにか乱馬がいた。
「乱馬、おはよ」
「ん?あ、あぁ…はよ」
ふぅん…今日は考え事ないみたいね。
そして、あたしと乱馬はかすみお姉ちゃんが用意していてくれた、朝食を食べると学校に向かった。


乱馬はいつもと変わらなかった。
相変わらず授業中は居眠り。
また、あたしがノート貸してあげる羽目になるのよ。
そして、先生からのチョーク攻撃。
それでも乱馬は起きない。
昨日…ちゃんと寝たのかしら?
そして、お昼は傷まないものをメニューにした、かすみお姉ちゃん、作りおきのお弁当。
乱馬は購買部でほとんどのメニューのパンを購入。
正確には、奪った…だけど。

いつもと変わらない一日…と思ったけど、あたしが間違ってた。

清掃時間。
なかなか掃除場所に現れない乱馬。
あたしは、よく乱馬が行く屋上に足を運んだ。
手にはこらしめる為のモップ。
案の定、乱馬は屋上にいた。
乱馬はまた考え事をしていた。
またあたしの存在に気がつかない。
あたしは、乱馬の傍に行った。
すると、乱馬は呟いた。
「…あかな…」
―――――――――――――――――――!?
あたしは、モップを手から落とした。
でも、拾わない。
拾えなかったから…衝撃で…
(…乱馬…?)
乱馬が口にしたのは、あたしではない、女の子の名前。
あたしの知らない…女の子の…
どこかで聞いた事のあるような名前。でも、わからない。
それよりも…ショックだった。
もっとショックだったのは、『あかな』と言った乱馬の顔がとっても優しかったから…
あたしにも滅多に見せてくれない表情。
抱きしめて、キスをしてくれる時ぐらいしか見せてくれない表情…
今まであたしにしか見せない乱馬の表情…と思っていて、嬉しかった。
強い、でも優しく抱きしめてくれる乱馬。
静かに、そっとキスしてくれる乱馬。
あたしだけが知ってると思った…
なのに、乱馬はあたし以外の女の子の事を考え、その表情をした…
あたしは、感付いた。
『あかな』はきっと、乱馬の好きな人だったんだ…って…
あたしは、もう何も考えられなくなった。


『じゃあな、あかね。俺、行くよ』
知らない女の子の所に向かう、乱馬…
『待って!待って…いやっ…乱馬!!!!!!』
あたしは引き止めるけど、乱馬は振り向きもしてくれない。
『乱馬ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』


「ねっ?!かねっ!!あかねっ!!」
「…ん…?」
気がつくとそこは保健室。
そして横には乱馬とゆかとさおり。
「あたし…」
「お前、いきなりぶっ倒れたんだよ。俺が居たからよかったけどよー」
「……倒れた?」
「気がついたら、お前がぶっ倒れてたんだよ。ビックリさせんなよなー」
「そうよー。乱馬君があかねを抱えあげて教室来たからビックリしちゃった」
「そうそう!お姫様抱っこだったわよね〜vv」
ゆかは、乱馬の体をひじで突付いた。
乱馬は真っ赤になっていった。
「っ//!しょうがねーだろ!あれしか方法なかったんだよ!」
『照れちゃって〜、かーわいい〜』と言いながら、ゆかとさおりは立ち上がった。
「んじゃ、あたしたちは教室戻るわね」
「仲良くね〜」
ゆかとさおりは居なくなった。

「ら、乱馬…」
2人だけになった保健室。先生はどこかに行っている。
「ん?」
「そ、その…ありがと」
「いーよ 別に」
そっけない返事。でも、あたしは嬉しかった。ぶっきらぼうでも、その言葉には温かみがあったから…
ふと、あたしは乱馬の言葉を思い出した。
――――――――――――――『…あかな…』――――――――――――――――
(!!)
あたしは、目を見開いた。
乱馬は言った。
「どうした?」
あたしは、我に帰って笑顔を見せる。
「だ、大丈夫よ…」
「そうか?」
「う、うん。大丈夫」
乱馬はまだ納得してなかったけど、追求はやめてくれた。
「じゃ、帰るか。お前、平気か?」
「うん」
「ほら」
乱馬はあたしに、鞄を渡した。
そして、あたしと乱馬は無言のまま家路に着いた。
あたしは、乱馬があたしをじっと見てるのに気がつかなかった。

(あいつ…なにかあったな…)
俺は思った。
『大丈夫よ――』そう言ったあかねの笑顔は、どこか悲しそうだった。
(もうちょっと…俺に甘えてくれてもいいのによ…)

あたしと乱馬が家に帰ると、お父さんたちは帰ってきていた。
「あ、お父さん。お帰り。温泉はどうだった?」
「いや〜、最高だったよ〜ねぇ?早乙女君」
「パフォパフォ」(プラカード:そうだねー、天道君)
すると早乙女のおじ様は、ニヤリと笑うと新しいプラカードを出した。
【プラカード:乱馬、お前、あかねくんを襲ったりしなかったか〜?】
「あ、それ、僕も知りたい」
お父さんまで乗ってくる。
「ちょ、ちょっと2人とも!そんなことないわよ!」
あたしは真っ赤になって否定した。
「さあな」
すると乱馬はこれだけ言って、去っていった。
「「「……………」」」
(ちょ、ちょっと乱馬…否定ぐらいしなさいよ!!)
するとお父さんが口を開いた。
「ねえ、早乙女君、乱馬君…否定しなかったよね?」
おじさまは頷いた。
そして、お父さんは叫んだ。
「これで天道家は安泰だーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
あたしはそそくさとその場から自分の部屋に逃げ込んだ。

晩ご飯
食卓では、お父さんと早乙女のおじ様は大声で笑いながら杯を交わしている。
早乙女のおばさまは、かすみお姉ちゃんと話している。
なびきお姉ちゃんはご飯も食べ終わって、部屋で今日のお勘定をしてるみたい。
あたしと…乱馬はずっと言葉も交わさない。
『あかねと乱馬君…なにかあったのかしら…』
『あら、かすみちゃんもそう思う?』
『ええ…』
『最近やけに仲がいいと思ったら…また何かあったわね…』
『今は、そっとしておいてあげましょう。おばさま』
『そうね…』
かすみお姉ちゃんとおばさまがそんなことを話していることも気付かず、あたしはずっと考えてた。
『あかな』のことを。
(乱馬と…話しづらい…)
あたしの戸惑いは乱馬にも伝わったらしく、乱馬もあたしに話し掛けなくなった。


そしてあたしと乱馬の間では言葉が交わされなくなった。



  to be continued・・・




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