◇遠い約束、今の約束 
  【1】遠い記憶が蘇る瞬間(とき)

陽樹(宇宙)さま作


…何も考えられなかった。
心臓のドキドキが激し過ぎて… 
今は夜中。
乱馬と縁側に2人きり。
家には乱馬とあたしだけ。
あたしたちはお父さんたちにハメられて、3日間2人きりになることになってしまった。
お父さんたちが帰ってくるのはあさって。
お父さんたちのバカ…
でも、今はそれどころじゃなかった。
本当に何も考えられない…
乱馬は優しくあたしを見つめてくる。
あたしは、目をそらせることができない…
あたしと乱馬の距離が縮んで行く。
あたしは、自然に目を閉じていた。自分では何も考えてなかった。体が勝手に動いた。
乱馬の両手があたしの両方のほっぺに添えられた。
あたしと乱馬の距離はなくなった。
長いキス。でも、あたしには実際よりもものすごく長く感じた。
幸せの瞬間(とき)
一旦、乱馬は離れると、あたしを抱き寄せた。
そして、何度かキスをする。 
 
その夜、あたしは不思議な夢を見た。

あたしはいつもの町にいた。
そして、目の前には幼い女の子がいた。
あたしはハッとした。
(この子…あたしだ!)
その幼い女の子は幼少時のあかねだった。
幼いあたしは同じぐらいの年の男の子と話していた。
『乱くん、話ってなあに?』
『あ、あのさ…実は…僕…』
『どうしたの?乱くん。お顔が怖いよ?』
『実はね…僕…引っ越さなくちゃいけないんだ…』
『え?!いつ?!』
『このあとすぐに…』
『また、修行に出ちゃうの…?』
『うん…お父さんが、次の修行場見つけたって…』
『もう、会えないの?』
『ううん。僕が大きくなったら、中国に行くんだって。そして、また日本に帰ってくるんだって』
『また、会える…?』
『うん!』
『じゃあ…』
『これ、あげる』
幼いあたしは、おもちゃだけど、とっても綺麗なペンダントを差し出した。
『このペンダント…あかなが大切にしてたんじゃないの?』
(…あかな?)
あたしはちょっと疑問に思ったけど、聞き間違いと思って、全然気にしなかった。
『ううん。乱くんにあげる。また、会えるんでしょ?』
『じゃあ、今度会う時に返してあげる!』
『…うん!』
『ね、乱くん…ちょっと目、つぶってみて』
『?』
『いいから!』
『う、うん……』
すると、幼いあたしは男の子のほっぺに軽くキスをした。
『!?』
男の子はビックリして、目を見開いた。
『えへへv』
幼いあたしはいたずらっぽく笑った。
『…じゃあ…行くね』
そう言った男の子は、幼いあたしのほっぺに軽くキスした。
今度は幼いあたしが驚く番。
『さっきのお返しだよ♪また会おうね!』
『きっと…きっとだよ!!!』
そして、場面はクルクルと変わる。
その間、昔のあたしはずっと『乱くん』と言っていた。
でも、小学校にあがって数年たつと、その『乱くん』って言う昔のあたしの言葉はなくなってた。
昔のあたしは『乱くん』を忘れていた。
そしてあたしは、夢の世界から遠のいていった。?

「ん…?」
あたしは目が覚めた。
居所は乱馬の腕の中。
昨日の晩、乱馬もあたしもそのまま寝てしまったらしい。
あたしが動くと、乱馬も目を覚ました。
「おはよ」
「んー…はよ…」
あたしが声をかけると、乱馬も返してくれた。
「不思議な夢…みたんだ」
あたしは、夢の事を話し出した。
でもあたしは、なんとなく、幼いあたしの事を『女の子』としか説明しなかった。
そして話し終わると、乱馬はぽかんとした表情であたしを見下ろしてた。
「な…なに?」
「俺も、そんな夢見た」
「へ?!」
よーく話を聞いたら、乱馬もあたしと同じような夢を見てたみたい。
その時、あたしは少し不思議だな…と思っただけで全然気にしなかった。
きっと、ただのきまぐれ、と思って。
でも、乱馬は違った…
あたしが、『ただのきまぐれよ』って言っても、無言で難しい顔をしていた。?
朝ご飯を食べると、乱馬はすぐに自分の部屋に入ってあたしを近づけなかった。
あたしが、乱馬の部屋に入ろうとすると、
『あかねは入るな。大事な事やってるんだ』
って言って、ふすまを閉じる。
…なにやってるんだろ?
あたしが、首を傾げてる間の、あたしが知らない乱馬の行動…??

(※ここから少し乱馬視点)
「んー…確かここにしまったはず…」
俺は、汚い物置と化してしまった押入れをあさっていた。
あの夢で出てきた、ペンダントを探すために。
あれは、きまぐれなんかじゃない。
おそらく…本当…だ。
俺は記憶がある。かすかだけど。
誰か、女の子にペンダントを貰った記憶が。
その女の子が誰だかはわからないけど…
でも、少し覚えているのは…
俺がその子の事を『あかな』と呼んでいて、そのあかなは俺の事を『乱くん』と呼んでいた。
すると、指先にコツンと、堅いものが当たった。
俺は取り出してみる。
するとそれはまさしく、あのペンダントだった。
「……返さなきゃな…」
俺はペンダントをじっと見た。
「あかな…」
俺は呟いた。



  to be continued・・・ 




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