◇燈籠流 ・ 7 終章。 〜やくそく〜
凛子さま作


「乱馬。また・・・夕方迎えに来てくれるかしら。そのときまでに仕度をしておくから。神主様にもお礼を言わなくちゃ」
「そうか。そうだな。わかった、また・・・夕方にな。あかね。」
「ありがとう・・・。」
笑顔をかわして夕方の再会を誓い、乱馬はその辺でぶらぶらしていると言い残して石段を降りていった。
「・・・・・・。乱馬。」

訳を告げたら、神主様もおばさまも快く送り出してくれた。寂しそうな顔も、してくれた。


「お世話に。なりました。」
深く深く頭を下げて、感謝の意を伝えた。表にはもう、乱馬が来ている頃だ
「たまには遊びに来てね」おばさまが何度も何度も言ってくれた言葉は、娘同然に暮らしてきたあかねへの餞別だった・・・。


トン・・・っトン・・・っトン・・・
一段ずつ、石段を降りていく。日の光は赤を含み始めていた。風が、頬を通り過ぎていく・・・。

すぐ先に、迎えが見えた。
「あか・・・ね?」
「・・・・・・へへっ髪、切ったの。懐かしい?」
あの頃の面影を取り戻した、あかねのショートカットは風にゆれている。とてもやさしく、艶やかな短毛が彼女の顔をくすぐっていた。照れたようにはにかむ笑顔が、かわいかった。
幾年か前、家を出たときのような大きな荷物はなく、新しく買った手提げのカバンを膝の前に両手でそっと提げていた。あかねの洋服に似合う、涼しげな色をしていた。
二人はゆっくり、ゆっくり歩き出す。

「な・・・なんで髪・・・切ったんだ?・・・」
「え?うん。未練があるから・・・なんて。これも言い訳よね。乱馬、あんたが短い方が好きって言ったんじゃない」
「!」
突然横を向いても、あかねはやっぱり笑っていた。
乱馬はなんだかぎくしゃくしてきた。
「他に・・・荷物はいらなかったのか・・・」
「ええ。」


空が藍を強めた頃、やっと二人は“懐かしい新居”にたどり着いた。
昨日閉めた扉を開き、玄関のカギも解く。

そして二人は、昨日開けることの出来なかった扉の前に立った。
「開けるわよ。乱馬。」
「ああ。」
もう、あかねの心に、迷いは感じられなかった・・・。

――ガラッ・・・

「えっ!?これは・・・?」
「片付けといてやったんだよ。昨日と今日で。だから・・・・・・迎えに行ったんだ。」
きちんと元通りにされた部屋は、あの頃と全く同じ空気を放っていた。テレビ台の上は、花が生けてある。
「乱馬が?・・・」
これ以上、何を言ったらいいか分からなかった。ありがとうでも、ごめんなさいでもない気持ちは、言葉になずに涙となってしまった。

「っ座ってろよ。お茶飲もうぜ。買っといたんだ。ランプは花瓶の隣で・・・マッチも傍にある」
乱馬はてきぱきととしていて、欲しいこと思うことを口に出す前に、的確な説明をくれた。
あかねは、『急に』彼が頼もしくなった錯覚に襲われた。でも、決して急なことではない。あれから幾年も経ってしまっているのだから・・・。

―――愛しい・・・貴方・・・・・・。

急須から湯飲みに注がれる香り高い緑茶。さっきから押し黙ったままのあかねが口を開いた。
「お葬式・・・しましょう。だって家族は」
顔を上げたあかねは、不意に乱馬と目が合った・・・。何かを悟ったように乱馬はこう付け加えた。
「俺たちだけだもんな・・・。」
通じ合う心は、二人に少しだけ幸を与えた。

二人は昨日と同じ場所で眠り、朝を向えた。驚くほど静かな晩だった。そしてその日は、あちこちを歩き回り、“手続き”をし、葬式の準備を整えた・・・。


「ずいぶん 遅くなってしまったわ。お父さんたちを見送るの。」
「まぁ、許してくれるだろ。」
そうね。胸の中に渦巻く感情は己でも把握できない気がした。明日、別れを告げる。参列者は二人。それで充分だった。
それから一週間が経ち、二人は早乙女家の墓参りを済ませ、今 天道家の墓へ花を手向けていた。

「お父さん、安心してくれたかしら。私たちが結婚するって言って。」
「あったりめーだろ。親同士が決めた許婚なんだぜ?俺たちは。」
あかねは笑みをこぼした。
「そうね。 お母さん、お父さんをよろしくね・・・。」


やっと真実を正面から見つめることが出来た二人。この日やっと、晴れて夫婦となった。一つの悲しみを二人で乗り越えるために・・・



「結婚しよう。あかね」
「ええ。乱馬」


Fin...☆



作者さまより

こんにちわ。凛子です。
長らくお待ちいただいた燈籠流が完成いたしましたことを、ここに感謝いたします。
なにぶん、のんびりした性格なもので。本当に
長期間お待ち頂いてしまって。本当にありがとうございました。


STAY(百千鳥様管理)から「呪泉洞」へ引き継いで完結させていただきました。
何だか感無量です。
人の死を乗り越えることは並大抵のことではないと思います。
この二人の先に幸多きことを願わずにはいられませんでした。
次回作も期待しております♪
(一之瀬けいこ)


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