◇燈籠流 ・1 始章。〜哀しみの中へ〜
凛子さま作


「許婚、終わりにしましょう・・・。乱馬」


二人を別れへ導いたのは、ついさっきの出来事だった。
延長戦から幾つも経たないようなその日、二人はいつものように家路についていた。あかねはフェンスの上を歩く乱馬に話しかける。
「ねえ、乱馬ったら!今日はあたしの稽古つけてくれるんでしょ!?約束したじゃない!聞いてんのあんた。・・・も、知らないっ!!」
あかねはスタスタと先を急ぐ。
きのう、パフェをおごってもらった代わりに、あかねに約束を取り付けられてしまったのだ。
それにしても、人の話しを何だと思って聞いているのだろうかこの男。
「お、おう・・・(んな約束したか?あっ!あんとき・・・か?)」
「おいっ あかね待てよー」

「「ただいまー」」
「あ。おかえり乱馬くんあかね。いいときに帰ってきたわねぇ。」
次女なびきが声をかける。そう、いつもと変わりはない、のどかな時間。

「あら。おかえりなさい。もうお稽古?あかね。茶の間にケーキが置いてあるから先に食べていったら?おばさまのお土産よ。」
台所の前を横切ると、かすみがあかねに語りかける。もう夕餉の支度は半分済んでいるようだ。
「おっ ケーキ!!」乱馬が目を輝かせる。しかしあかねの反応はというと
「いい。夕ごはんが終わったらにする。ね、乱馬」
「う゛・・・。」
「そう?」
あかねのこの一言で、この場は決定してしまった。その他の面々は美味しそうにケーキをほおばっている。

「わーい ケーキじゃー。」八宝斉
「ほお、これは絶品だね早乙女くん」早雲
「あぽっ」パンダ(玄馬)
「ほーんと。らーんま君が好きそうな味よね」なびき
「喜んでもらえて、よかったわ。」のどか
「今お茶がはいりますからねー。」かすみ

乱馬は仕方ないと半ばあきらめ、道場へ足を運んだ。


「はっ!!はっ!!せや――っ!!」
乱馬にはからかわれるみたいにヒョイヒョイとよけられてしまう。それに、真面目にやる気はさらさらなさそうなチャイナ服姿。
「乱馬っ!道着に着替えるくらいしてくれてもいいでしょっ!?」
「やだね」
あかねに対して超失礼な奴である。あかねの怒りは、最高潮に達しそうだ。
「っはあ―――っ!!!」

チカッ!!
『!!?なんだ?空が・・・?』
みしっ・・・

渾身の一撃が決まり、あかねは上機嫌な顔をしている。でも乱馬のよそ見は見逃さなかった。
「どうしたのよ乱馬。外なんか見たりして」
あかねは道場の戸口へ歩んでいく。やっと身を起こした乱馬が一言を発する。
「・・・空が・・・」
「え?」
もうとっぷり日が暮れてもおかしくない時間な事は、時計のない道場でも、あかねの汗ばんだ体を見ればよく見て取れた。・・・でも空は・・・
「っ眩しっ・・・!?」
西の空が昼よりも明るく輝いている。と、次の瞬間、

―――グラッ!

強い揺れが二人を襲う。地震。
立つこともままならないような強い揺れに感じた。乱馬は無意識的にあかねをかばう格好で、道場の真ん中でうずくまっていた。あかねの小さな体は、確かに、震えている。

「とま・・・った?」
二人の触れ合った体は瞬時に離れる。どぎまぎした二人だったが、一気に我に帰る。
「っ・・・お父さん・・・っお姉ちゃんたち・・・!!」
あかねが急に取り乱す。そんなに激しい揺れではなかったのか、母屋は外観から見て、特に変わった様子はなかった。
急いで道場から飛び出すと、周りの家々もそんなに激しく変わったところは見受けられない。
「大丈夫よね?乱馬ぁ・・・」
「ああ。大丈夫だ。親父やおじさんだって武道家だ。心配・・・ねーよ!それにだな。家は壊れてねーんだから。」
そんなことを言った乱馬だったが、やはり何かおかしいと感じていた。

母屋へ続く渡り廊下を駆けて、あかねが扉に手を置く。
ガタタッ―・・・。
「開かな・・・い」あかねの目には涙が浮かんでいる。
「大丈夫だ!!かせ!」
ドガッ!!!―・・・ガラララ・・・
引き戸は開いたものの、二人は暫し固まってしまった。家の中から生気が感じられない。
「お父さん!かすみお姉ちゃん!なびきお姉ちゃんっ!!」
あかねが堪らず中へ駆け込む。その後ろに、乱馬もつづいた。

ガラッ 茶の間のふすまを開けて、あかねと乱馬は愕然とした。
「っ親父っ!!?おふくろ!おじさんっ?」
「おじいちゃんっ!かすみお姉ちゃぁんっ!」
「おい なびき!!」
二人の前には、信じ難い情景が広がっていた。




  to be continued・・・




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