◆Spring−Rain
凛子さま作


ザーーーー
「もう雨降ってるのか・・・・」
 天気予報ではの予想では雨は六時頃から降りだすと言っていた。しかし、予定が早まって四時には降り始めてしまったらしい。道場で稽古をしていた乱馬は手を止めて窓を見た。葉っぱにはぽつぽつ雫が滴っている。あっという間に水たまりもできていた。
「そういえばあかねのやつ、四時半頃には帰るって言ってたよな。スポーツドリンク買うついでに迎えにいってやるか。」
乱馬はそう言うと道場から出ていった。そして、部屋に行き赤いチャイナ服の上に黒い上着をはおり、玄関であかねの赤色の傘と自分の紺色の傘を持った。
 あかねは今日、ゆかとさゆりと買い物に出掛けたのだ。そして4時半までには帰るからと言って、天気予報を信じ、傘を持っていかなかったのだ。しかし、天気予報ははずれてしまった。
「だからあれほど傘を持ってけって言ったのによ・・・」
ガラララララ・・・・
「さぶい・・・」
 春といってもまだ寒い日はある。雨が降ればなおさら気温は低くなって、ドアを開けた瞬間に冷たい風が乱馬の顔に突きつけた。傘を開くと雨が傘にあたり、ぽつぽつと音がなった。
「あーあ。女にならないように気をつけなくちゃな。こんな日に水でもかぶったら風邪引いちまうぜ。」
乱馬は警戒しながら、道路を歩いた。車のしぶきも当たりそうになったが、とっさの反射神経で回避することができた。いつものようにフェンスに上がるということも考えたが、滑って落ちたり、金具が外れることもありえる。迎えにいった者が水に濡れて、風邪を引くのはみっともない。
そう考えて乱馬は無難に歩いたのだ。

 乱馬が歩いていると駅から傘をもたずに、ハンカチや鞄をのせて急いで走ってくる人を多く見かける。しかし、雨の勢いも強くなってきたので、あっという間にずぶ濡れである。予報が外れるととんでもないことだ。乱馬が時計を見ると四時十六分を指していた。
「ちょうどいい時間だな・・・。」
(駅についたらあかね、すぐ来るかも・・・。)
と、思った瞬間。

「あれ?乱馬!!!」

聞きなれた声がした。顔をあげると目の前には雨でずぶ濡れになったあかねがいる。
「お、お前こそ、なんでこんなに早いんだ??」
「早い?四時半頃には帰るって言っていったじゃない。」
「まだ四時半前じゃねーか。それにどうして帰るとき電話しなかったんだよ」
「電話したわよ。でも、誰もでなかったから走って帰ってきたの。」
(家に親父がいなかったけ?寝てたな。と、いうことは行き違いか・・・。)
「ま、いいや。ちょっと遅かったけど・・・」
乱馬はあかねに傘を私、傘が開くまで濡れないようにあかねの頭に傘をかかげた。
「ありがとう。」
乱馬はちょっと紅くなって、目を反らした。そんな乱馬を見てあかねは軽く微笑んだ。
「わざわざ迎えにきてくれたんだ。」
ドキッ
「ち、ちがわい。た、ただスポーツドリンク買うついでだ。ついで!!」
「へー。」
(あ・・・。)
乱馬が目線を下に降ろすとあかねは軽く震えていて、顔も手も真っ赤だった。
「ちょっと持ってろ。」
「ん?」
あかねに傘をあずけて、着ている上着をあかねの肩に掛けた。無言で傘を受け取り、乱馬はそのまま歩き出した。あかねは服を掛けてもらったのに、さらに紅くなりながら上着を手に通した。そして先に歩いている乱馬のもとに走って行き、乱馬の傘に入ると自分の傘を閉じた。
「な、なんだよ。」
「べつにい〜。」
そっと乱馬の手を握ると、乱馬はがちっと固まってしまった。
「乱馬の手ってあたたかいね。」
「お、おおおお前が、つ、冷たすぎんだよ。」
無意識に乱馬は、あかねの手を強く握っている。あかねも負け時と握り返した。
「ところで乱馬、スポーツドリンク買うんじゃなかったの?」
「雨のせいで喉が渇かなくなったからいらなくなったんだよ!!」
「ふーん。」

寒くても、季節は春・・・・・・。


END



STAY掲載〜2002年8月「呪泉洞」移転作品

短き言葉の中にも柔らかな二人の風景。
乱馬の不器用な優しさが傘の中に・・・。
(一之瀬けいこ)

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