旅行先の友人(後編)



三・撃退

フィクションの世界では、ヒロインが危機的状況に置かれ、絶体絶命という展開になると、必ずといっていいほどヒーローが彼女を助けに現れる。
現実には、そんなありがたい展開はなかなか訪れない。相当な偶然でも起きない限り、悲劇的な結末が訪れるものである……

餘部駅から下の集落へと降りていくのかと思ったが、あかねに銃を突きつける男は、駅を降りていく道の少し手前で曲がるように彼女に言った。さっき降りたときには気づかなかったが、男が示した場所に、駅がある地点からさらに高い場所へと上っていく階段が斜面に沿って作られていた。線路の枕木のような太い木を斜面に一つずつ置いていく形で作られた階段は、相当年月が過ぎているらしく、足を乗せる部分がもろくなってボロボロになっていた。
階段を踏み外しそうになりながらも、あかねは男に言われるままに階段を上りきった。そこは、ちょっとした広場のようになっていた。広場といってもそれほど面積はなく、もともとそういうスペースではなかった場所を、人々が踏みしだいた結果こうなったという感じで、そこは餘部鉄橋を見に観光に訪れた人が必ず足を運ぶ場所でもある。
観光用パンフレットなどで餘部鉄橋が写真で紹介される時に定番となっている、日本海とそれに面した山をバックに、奥手から列車が鉄橋を渡ってくるという構図と同じ光景がそこで見られるのである。餘部を訪れた人はまずまちがいなくこの場所から鉄橋を眺め、感嘆のため息をもらす。そこへ運よく列車が鉄橋を渡ろうものなら、誰もが思わずカメラのシャッターを切る。
事前調査の段階であかねはこの場所の存在を知っていたが、どう行けばいいか分からず、あとで探索しようとしていただけに、一瞬その場で足を止め、背後に見下ろす鉄橋の雄姿を目にしようとしたが、男に銃を突きつけられたこの状況では、そんな事をする余裕はなかった。
あかねは、男の指示で、展望スペースからさらに山の奥へと入っていった。

そのころ、乱馬たち二年Fクラス二班のメンバーは、餘部地区のいいところ探しよりも、桧明の正体について調べまわっていた。
聞けば聞くほど、あのエアガン少年の裏の顔とも言うべき部分が浮き彫りになり、彼らはいま、当初の予定を完全に忘れ、なかば探偵気分で餘部地区内を歩き回っていた。
「なあ乱馬、なんかヤバくないか?」
ドラマのような展開に、ひろしが乱馬に話し掛けたが、乱馬は返事を返してこなかった。
今までに、桧明に関して分かった事は、
隣町の高校に通う少年である。
二ヶ月前まで、同じ餘部に住む同級生の少女と恋愛関係にあった。
その二ヶ月前のある日、その恋人が暴漢に襲われ、心身共にひどい傷を負った。
警察は犯人が明ではないかと追求したが、被害者である恋人の証言から、容疑者からはずされる。
少女は、この事件がもとで餘部を離れてしまう。
明はこの事件に関して相当な怒りを内に秘めている。
趣味のエアガンを使っての射撃を練習するようになったのも、そのためだと思われる。
といったもので、駅で話した時に彼が見せていたようなおっとりとした表情からはとても想像がつかない面を持っている事が次々と分かったのである。
「あかね、大丈夫かなあ……」
誰ともなくつぶやいたゆかの言葉に、全員が顔をこわばらせた。
「人に襲い掛かるような危ない人じゃないとは思うけど、明くんの恋人って、あかねとそっくりなのよね……」
ゆかの言うとおり、明はあかねを目にした時"冬実"という名前を口にした。
それが例の恋人であろうことは、もはや言わなくても自然と分かることだった。
「もし、あのコが待合室で再会したあかねを見て気持ちのタガがはずれたりなんかしたら……」
そんなことあるワケが…と言おうとする者はいなかった。
乱馬に至っては、勘違いがきっかけでひどい目に遭った回数では一般の人間に比べると、相当な回数に昇る。
そのため、駅であかねと再会した明が、遠ざかってしまったかつての恋人を思うあまり、容姿が似ているあかねにせまる光景が簡単に思い浮かんでしまう。
彼と会った時からイヤな予感はしていたのだ。どうしてどこへ行ってもこのようなイザコザに巻き込まれなければならないのだろうか。
乱馬や他のメンバーの意見の満場一致で、彼らは全速力で餘部駅へと戻る事にした。
ところが、勘違いであかねにせまっているのは、乱馬たちが危惧していた桧明ではなかった。

鉄橋を最高の位置で見下ろせるあの場所からどれだけ山の中へ分け入っただろうか。辺りに見えるのは、木や自分の背と同じくらいの高さまで生えた草しかない。
不意にあかねの背中に押し当てられていた銃口が離れた。
直後に、あかねはその銃で後頭部を強い力で殴られた。目の前が一瞬真っ白になり、気がつけば彼女は地面に倒れていた。
体にまったく力が入らなかった。
男はうつぶせになったあかねの肩をつかみ、仰向けにした。
鋭く出っ張った八重歯を見せながら、男はひきつった笑みを見せた。

「乱馬!俺たちはもうだめだ。お前だけでも、早く……」
まるで映画のようなセリフを大輔が口にしたのは、餘部駅へと上る道の半分ほどの高さまで来た時だった。乱馬はすでに二班のメンバーのはるか前方を走っている。やはり体力の差が歴然としているのか、明らかにペースの違う彼らを気にしながら乱馬が昇っていくのに気がついた大輔が気を利かせたのだった。
大輔の言葉を聞いて、乱馬は「すまねえ」とひとこと言って、今まで以上の速さで坂道を駆け上っていった。

男の荒々しい息が顔の近くで聞こえ、あかねは、男の顔に思い切り頭突きを喰らわせてやろうかと思ったが、先ほどの男の一撃が相当こたえたのか、まだ意識が朦朧としていた。
「お前、転校してたのか」
不意に男が、あかねが着ている風林館高校の制服を見てそうつぶやいた。
「しかし、偶然だよなぁ…二ヶ月前に俺がお前をモノにしたこの場所で、またお前と愛し合うことができるなんてな……」
偶然、二ヶ月前、ここでこの男と……
あかねに理解できない言葉が次々と男の口から発せられた。男があかねのことを誰かと間違えていることは明確だったが、あかねはいまだハッキリしない意識が邪魔をして、冷静にものを考える事ができなかった。
「大好きだ…愛してるよ……冬実……」

「あかねぇーっ、どこだぁーっ」
誰もいない餘部駅に、乱馬の声が響き渡った。
しかし、彼の呼びかけに応答するものは何もなく、ただ小鳥のあまりにもかよわいさえずりが聞こえてくるだけだった。
やはり遅かったか。
乱馬はもはや、あかねが明に襲われたと信じ込んでいた。襲われたといえば語弊があるが、ともかくあかねに危機がせまりつつあるのは明白だった。一刻も早くあかねを探さなければ……
しかし、いったいどこを探せばいいのだろうか。
適当な場所が思い浮かばず、乱馬はとりあえずぐるっと辺りを見回してみた。
一本しかないホームの下が空洞のようになっていたが、そこにはいないようだ。
駅の待合室はどうか。いや、人がいる気配は感じられない。
となると、明がエアガンで標的を次々と撃ち落していたあの裏手はどうか。希望を持ちつつ待合室の裏手へとまわってみたが、そこにもあかねの姿はおろか、ここにいるはずの明の姿もない。
これで乱馬はますます確信を深めていった。
理由はどうあれ、明があかねを拉致同然で連れ去ったのは紛れもない事実だ。こうなったら、何としてでも明をとっ捕まえて横っ面にパンチの一つでも――いや二つ三つでも足りないが――おみまいするまで東京には帰れない。
そこへ、ひろしを先頭に、二班のメンバーが次々と乱馬のもとへと到着した。
「ねえ乱馬くん、あかねは……?」
最後に到着したさゆりの問いかけに、乱馬は黙って首を横に振った。
最悪の展開に、全員が黙り込んだその時だった。

パンパンパンパンパーン……

二班のメンバー全員が顔を見合わせた。
明らかに火薬がたて続けに破裂する音だった。
こんな真昼間から花火をしないわけでもないが、どう考えても今は花火をする季節ではない。しかも、その音が聞こえてきたのは、山の中だった。
言いようのない不安に襲われ、彼らはしばらくその場を動くことができなかった。

二分ほど経っただろうか、彼らの背後で草がこすれる音がして、全員が体をひきつらせた。
ゆっくりと音のした方に顔を向けると、そこには草むらをかき分けて現れた、うつらな表情のあかねと、彼女を支える桧明の姿があった。
乱馬をはじめ、二班のメンバーは金縛りにあったかのように、体を硬直させた。
明の表情が、尋常でなかったのである。
駅で話したときの、あのおっとりとした温和なイメージはかけらもなく、薄く開いた瞳は冷たさに満ちている。そして、彼の手には、見覚えのない銃が握られていた。
「あかねさんをお願いします」
「「へっ?」」
いきなり明がそう切り出してきたため、全員が拍子抜けした声を出した。
ぐったりとしたあかねが、明から乱馬の手にゆだねられた。
「それじゃ」
軽く会釈して、明は再び草むらの中へと戻ろうとした。
「お、おい、明」
草むらの中へ姿を消そうとした明を、乱馬がかろうじて声を出して呼び止めた。
明はそれに振り向く。
「お前、あかねにいったい何を……」
乱馬の質問に、明は自分のとった行動がどういう解釈をされたか理解した。
「それに関しては、あかねさんにお聞きください。彼女の言うことが真実ですから……」
明の言葉は、あまりにも自身を持った言い分だったが、それは聞きようによっては、あかねの言うことに対して異論はない、つまりあかねが「明に襲われた」と言えば、明もそれを認めるということになる。
その事を乱馬たちが突っ込もうとしたが、明はすでに草むらの中へと姿を消していた。
こうなったら、あかねに事の顛末を聞くしかなかった。

「あかね、あかねってば」
さゆりがあかねを介抱していたが、あかねはまだボーっとしたまま正気を取り戻さない。どうやら相当な目に遭ったようだ。いつも強気な性格がウリでもある彼女が、これほどまで魂の抜けたような状態になるのは、そうある事ではない。
あかねの名を呼び続けるさゆりとゆかの声に、あかねが反応を見せた。
「あかね?」
「……さゆり…?…と、ゆか……」
「あかね、明くんに何されたの?」
「……へ?…」
「だから、明くんに何をされたのって聞いてるの」
「……」
「もしかして、私たちにも言えない事されたの?」
さゆりとゆかに問い詰められながら、あかねの脳裏には、数分前の出来事がよみがえっていた。

自分のことを冬実と呼ばれ、あかねはますますワケが分からなくなった。しかし、冬実という名には聞き覚えがあった。
どこで聞いたか…確か……
思い出す間もなく、あかねが着る水色の制服に男の手がかかった。
男の荒い息づかいがさらに顔の近くで聞こえ、その息があかねの首筋に届くほどだった。
ボーっとする頭ながら、彼女は明らかに悲劇的な結末を予想していた。
その一方で、乱馬が助けに来てくれるかも……という望みを捨てきってもいなかった。
今まで、自分が危機的状況に置かれ、絶体絶命という時になると、まるで物語のクライマックスのように、乱馬が助けに現れた。
もしかしたら今回も、乱馬がこの場に駆けつけ、自分を手にかけようとしているこの男を叩きのめしてくれるかもと淡い期待を持っていたのである。
だが、そんな期待とは裏腹に男の手に力が入り、あかねの制服が剥ぎ取られ…ようとした。
突然制服を掴む男の手から力が抜け、男の呼吸が止まったように静かになった。
それに気づいたあかねが男に視線を向けると、驚くほど目の前で、男は凍りついたような表情で止まっていた。
その男の頬のあたりに、黒光りする金属の細い直方体のようなものが当てられていた。
銃だった。
その銃を持つ手を目で追うと、男よりも背が低い、あかねと同じくらいの背の高さの少年の姿があった。
背格好は紛れもなく桧明だったが、その顔は驚くほどの怒りに満ちており、その怒りは明らかにあかねの目の前で硬直する男に向けられていた。
「立つんだ」
静かに言い放つ明の表情はまったく変わらない。それが、この男に対する内なる怒りと、この男を許す余地がないことを示しているようでもあった。
「立つんだ」
再度命じる明の口調に、言いようのない戦慄を感じたのか、男はあかねに覆い被せていた体をゆっくりと離し、ため息をつきながら明少年と向き合った。
「どこかで会ったか?」
余裕のある口調で男は明に言った。
「俺はお前に見覚えはないが……」
「二ヶ月前に、お前が俺の恋人に一生消えることのない傷を負わせた。まさか戻ってくるとは思わなかったよ」
明が自分のことを"俺"と呼んだ。駅で話した時は、確かに彼は自分のことを"僕"と呼んでいたのに……
「お前がこの場所で……」
「はて、なんだったか覚えがないが?」
不適な笑みを浮かべる男に、明は手にする銃の撃鉄を起こした。射撃の準備が一瞬で完了し、即座に男を打つことができる態勢である。
「北村冬実という名前だ」
つとめて冷静な口調で明は問い詰めたが、その表情から、感情が爆発するのが近い事が容易に見てとれた。
「冬実…?ああ、あのコか……俺が二ヶ月前にモノにした」
その言葉に、明の顔色がサッと変わった。
「でも、あのコもあのコだよなぁ……」
まるで演技でもするかのように男は語りだした。
「お互い同意のうえでやったことなのに、いきなり自分が乱暴されたなんて騒ぎ出しちまって…おかげでこっちはいい迷惑だぜ。相手が俺だってことがバレなかったからいいものの、しばらく住み慣れたこの村を離れなければならなかったんだからな」
男はあたかも自分が被害者のような言い分を展開したが、実際はそうではなかった。
二ヶ月前、男は餘部の海岸で偶然であった明の恋人の冬実に声をかけ、旅行者を装って餘部駅までの道のりを彼女に尋ねた。ありがたいことに彼女は、どうせだから自分が一緒について案内してあげると言い、男を餘部駅まで先導した。
餘部駅に到着したその時、男はあかねを林の中に強引に連れ込んだのとまったく同じ方法で冬実を誘導し、そこで彼女に暴行をくわえた。
冬実は、最初会った時の男の優しそうな笑顔が一転して、鋭くとがった八重歯が出っ張ったひきつった笑いを浮かべる危険人物へと変貌したことのショックから、その後の警察の事情聴取に対しても、特徴のあるあの八重歯くらいしか犯人の手がかりを提供することができなかった。
それからすぐに、冬実は餘部を、そして明からも離れていった。
高校をも中退した。その理由は"一身上の都合により"という高校生らしからぬものだったが、それがこの事件で負った傷であるということは明白だった。
「俺は、暴行を受けた冬実の姿を見た最初の人間だった」
男の演説が終わってからしばらくして、今度は明が口を開いた。
「冬実の目はうつろで、どこを見ているのか分からなかった。俺が目の前にいるのに、それに気づいていないようだった。
服は裂け、髪は寝癖のようにところどころがはね上がり、靴すら履いていなかった。
冬実がどんなひどい目にあったかすぐに、そしてよく分かった……
それが、お互い同意の上でやったことの結果だと……」
冷静だった口調が序々に感情的になってきたのが、寝転んだまま二人の会話を聞いていたあかねにも分かった。
「だから言っただろ?彼女は俺が頼んだらいいよって……」
男の言葉は最後まで続かなかった。
耳をつんざくような数発の破裂音と共に、男が身をよじり、地面に尻餅をついた。
明がついに引き金を引いたのだった。そしてその音は、餘部駅であかねの行方を探していた二班のメンバーの耳にも届いた。
「なにビビってるんだ、撃たれたわけでもねえのに」
しばらくして明は口を開いた。その言葉に、男も体を起こした。
「たかがモデルガンぐらいで尻餅をつくとは、お前も大した男じゃないようだな」
この一言で、男の頭に血が上った。どうやら相当プライドが高い性格のようだ。
意味不明な叫びを上げながら、男は明に向かって突進していった。
あかねは、意識がはっきりしかけていたにもかかわらず、再び意識が朦朧としてきた。今度は殴られたからではなく、安心感からくる睡魔だった。その安心感がどこから湧き上がったのかは分からない。しかし、もう大丈夫だと脳よりも体がそう認識し、あかねのまぶたはどんどん重くなっていった。
眠りそうになるあかねが覚えていたのは、突進の勢いを逆手に取り、男のアゴに嘗底を叩き込む明の姿だった。


翌日、JR城崎駅。
先日と同じく晴れ渡った修学旅行最終日。何とか二泊三日の全行程を無事に終え、風林館高校第二学年修学旅行団はこれからバスに乗り込み、また飛行機に乗るため大阪国際空港へと向かおうとしていた。
二年Fクラス二班のメンバーも、昨日の大事件のことを忘れてしまったかのような楽しそうな表情を浮かべている。
荷物をバスに積み込み、乗り込もうとしていた時に、二班のメンバーは、餘部から列車を使って城崎へ姿を現した明少年と再会した。
正気を取り戻したあかねの言葉により、彼らの明への疑いはすっかり取り払われ、逆に彼は、彼女の窮地を救ったヒーローとしておだてあげられ、昨夜から学年中の有名人となっていた。
「昨日はどうも……とんだ事件に巻き込んでしまって」
「ううん、大丈夫よ。私の方もだいぶ落ち着いたし……」
昨日の事件のあと、明に一発で倒された男は、あかねの証言と共に餘部の駐在所に突き出され現行犯逮捕ということになり、同時に二ヶ月前の少女暴行事件の犯人であることも確認され、さらなる余罪がないか警察で事情聴取が進んでいる。
事情聴取によると、男は二ヶ月前に北村冬実を暴行し、逮捕されることなく餘部を離れていたが、二、三日前に再び姿を現し、偶然見かけたあかねを冬実だと勘違いし、二ヶ月前と同じ方法で彼女に再び暴行をくわえようとしたという。
明はあれから事件の時のような表情を見せることはなかった。恋人の仇をとることができたことからの安心感からかもしれない。
「なあ、明」
乱馬が口を開いた。
「結局、きのう明が紹介してくれた餘部の名所に行けなかったから、今度来た時に、いろいろ案内してくれよな」
乱馬の申し出に、明は満面の笑みを浮かべてうなずいた。
「ありがとう……」

「ねえ、乱馬」
「ん?」
帰りのバスの車内で、あかねは小声で乱馬に話し掛けた。
「あの時、私が襲われそうになった時、明くんが助けてくれてなかったら、乱馬はどうしたと思う?」
「……どういう意味だ…?」
あかねの質問の意味が分からず、乱馬は聞き返した。
「だから、明くんと同じような境遇に置かれたらってことよ」
「ああ、なるほど……」
「やっぱり、明くんみたいに、なんとしてでも犯人を捕まえて叩きのめしてやる、みたいな感覚になる?」
あかねの質問に、乱馬はしばしの間黙り込んだ。
そして、考えがまとまったのか、あかねに向き直り口を開いた。
「たぶん、俺が明と同じ立場になったら、まずお前の心の傷を癒すことから始めるかもな……」
「え?」
意外な答えに、あかねは目を丸くした。
「それから、犯人を探し出すと思う」
「乱馬……」
「明も、もし最初に犯人を探し出そうとせずに、あの冬実って女の子を慰めることに力を注いでいたら、彼女が餘部を離れてしまうなんてことにはならなかったのかもしれねえな……」
意外にも、心の面から明の破局の分析をしていた乱馬の洞察力に、あかねはまた新たな彼の一面を見た気がした。
「すまねえ、あの時俺が一緒について行ってれば、こんなことには……」
やはり彼なりの罪悪感があったのか、今になって乱馬はあかねに謝った。それが嬉しかったのか、あかねはそれをやんわりと許した。
「ありがとう、乱馬……」
あかねは乱馬の手に自分の手を重ねた。
二人の視線も絡み合う。
そんな二人の様子を、クラスの連中が見逃すはずがなかった。
乱馬とあかねの二人は、それから十分ほどの時間、ずっと冷やかされることになった。

旅先でできる友人というものは、必ずしもいい人とは限らない。
たとえいい人であっても、その内側に見た目の印象とはまったく別の顔が覗いていることを忘れてはならない。
皆様も、旅行先の友人にはどうぞ御用心を……




作者による懺悔的いいわけコメント・なんか、期待してたのと違う……と思われた方、申し訳ございません。本当は僕自身、餘部を訪れた乱馬やあかねが、明くんと一緒に餘部めぐりをして、あかねに惚れた明が告白するも、みごと玉砕するといった感じのラブコメにするつもりだったのですが、どうもラブコメを書く自信がなかったことと、餘部という場所が"めぐる"というほど広くないのに気づいたことで、結局、明くんの復讐劇に偶然乱馬とあかねが巻き込まれるという、乱あとはまったくかけ離れたものになってしまいました。
それに伴い、明くんのキャラも当然どんどん変わってしまい、ガンマニアの二重人格的性格という複雑なものになり、手におえなくなりました。
とりあえず最後に救いはあるものの、なかば確信犯的に従来のらんま小説の法則をへし折るようなストーリー展開に腹が立った方もおられると思います。
深くお詫びすると共に、ここまで読んでくださった方に深くお礼を申し上げて、懺悔を終わらせていただきます。
最後にひとつ…餘部には作中に出てくるような犯罪者はいません。自然に囲まれたとても平和な村です。皆様も一度おとずれてはいかがでしょうか。


海の匂いを微かに嗅ぎながら読んでみたい小説です。
日本海の荒波が見えそうです・・・
某所で某バイオレンスを読んでから是非、投稿作が欲しいと思っていた作家さんの一人なので凄く嬉しいです!
アップが遅くなってしまい申し訳ありませんでした。


(C) Jyusendo