◇修学旅行・韓国へ行こう   その1
しょーすけさま作


ときは五月の中ごろのこと。風林館高校において唯一、ゆいいつマトモと思われる行事の時節がやって来た。
ばんっ!
「えー、皆さん!修学旅行まであと一週間と迫ってきていますが、ようやくしおりが完成しました!」
2年F組クラス担任、二の宮ひな子センセイが勢いよく大机に手をついて言う。…椅子の上でひざを付きながら。
「いえ〜い!」
「今年もウチの高校はソウルへ行くんだってよ」
「韓国かぁ〜オレ海外は初めてなんだ」
「はやく行きたーい」
「ねえねえ、遊び道具は何持ってく?」
教室中に歓喜の声が飛び交う。そして旅行のプランが記されたしおりが生徒に配られていく。風林館高校は代々、修学旅行に関しては全て運営委員に立候補した生徒たちが計画して行うことになっており、つまり校長の悪巧みは一切なし!ということなのだ。教師陣はいわば保護者的な役として、運営委員と共に現地で引率をするだけ。というわけで誰も余計な心配をしないで済んでいる。
「うわー誰だよこの表紙描いたの」
表紙絵は校長'sスマイルの正面アップ……こうして見ると、なぜかディ〇ニーのキャラクターのようにも思えてしまう。口元が何かを連想させるのだろうか?何となくムームーにも似たような…。
「あかね、心の準備はできてるんでしょうね?」
「え?」
クラスメイトのゆかとさゆりが、ずいっとあかねの席の両横に立ちはだかる。その表情はずいぶんと楽しそう。
「だって修学旅行よ?そりゃあもう一生思い出に残る大大大イベントじゃない!」
「そうよ、こんな時まで乱馬くんと仲たがいなんてしないわよねーあかねさぁん?」
それはもう、お二人さんのおアツいところをじっくり見させていただきますと言っているようなもの。無論、乱馬とあかね両人の動向が気になっているのはゆかとさゆりだけではない。これはもはやクラス中、否学年じゅうの話題である。風林館高校きってのプリンスとプリンセスが、間もなく一大イベントに臨まんとしているのだから。
「ば、ばかねそんな…あたしと乱馬じゃ何も起きやしないってば。」
民衆の期待を退けるように言うあかね。しかしその顔はほのかに赤面気味…。ちら、と左方向乱馬の席へ目を向けてみる。当の乱馬もまたひろしと大介に囲まれて同じような会話を繰り広げているようであった。後頭部に手を組み、大きくのけぞるようにして座っている。
「どわぁぁ〜れがあんな色気のねぇ女なんかと!」
突如大きな声をあげる乱馬。その言葉はさわがしい教室の中でも、はっきりとあかねの耳にも飛び込んできた。
「…なんですってぇ?」
やや小声で呟くあかね。目がむすっとした五角形になっている。しかし話に盛り上がっている周りにブロックされて身動きがとれない。
「(まだ言うようなら一発入れてやらなきゃだわ…)」
そう案じた矢先に、乱馬がガタリと席を立ち大声をあげた。
「俺は誓う!かわいくねぇ色気もねぇ女にゃ絶っ対手のひとつも触れねえかんな!無差別格闘早乙女流の名に賭けてもいいぜ!」
「でいっ!!」
ごりゅっっ
周りの防壁を突っきって、あかねのハンマー攻撃が彼の脳天を直撃する。
「どーいう会話をしてんのよあんたわっ!」
「ま、まあ聞いてのとおりだ。問題ねーだろあかね?」
胸ぐらを掴まれながらも前言を撤回しようとしない乱馬。
「どうせかわいくも色気もない女ってあたしの事でしょうが!」
「いや、だから…」
「乱馬のばかっ!!」
「おま、ちょっとは話を、ぐぇっっ」
正拳突き。みぞおちにもろに入ったらしく、しばらく涙目で咳き込む乱馬。そんなに強く殴らなかったとしても、みぞおちを打たれると結構痛いものである。とその時、
「ぁあ〜〜〜〜!!」
唐突にひな子センセイの驚き声が響きわたる。しおりの内容を確認しているさ中であった。
「なんで!?なんでお菓子は持って行っちゃ駄目なの!?」
「あのー…先生…それは向こうで買えるから持参しなくていいという事なんですけど…」
ザ・修学旅行運営委員のひとり、五寸釘光が説明する。だが存在感のない男ゆえひな子センセイには聞こえていないようだ。
「なんでなんでなんでなんでなーんでえー!??」
「ダダこね女かおまいは。」
回復した乱馬を始め、クラス全員ひな子センセイに呆れ状態。この辺でクラス会は終わり、下校することに。

「乱馬よ。もうすぐ修学旅行があるそうだな……」
天道家、食卓。もはや定番となったかすみとのどか共作の晩ご飯を、家族と居候全員で囲いながら食している時だった。乱馬の父玄馬が言を呈した。
「おお、韓国はソウルへ3泊4日だと。」
「さようか…」
「どーしたんだ親父?なんか意を決したかのような顔して。」
深刻げな表情をしつつ、茶をすする玄馬。そして。
「頼んだぞ乱馬!大陸に渡るからには、中国は呪泉郷まで足を伸ばし見事男溺泉を手に入れて帰って来てくれるよな!?な乱馬!?」
「あんのな、んな事3泊4日の間にできるわけねーだろ!取り残されて帰れなくなっちまうじゃねえか。」
気持ちは分かる。微かにでも望みがあれば手を伸ばしたくなるのが人の情。しかし、今回はあまりにも無謀というもの。
「おじさま、今回は見逃してあげた方がいいんじゃない?ねえお姉ちゃん。」
なびきがまず口をはさむ。
「そうねぇ。大切な行事ですものね。」
そしてかすみがそう言うと、乱馬・あかねの方に視線が集まる。
「ん?」
「ちょっ、何いってんのよお姉ちゃん達まで。」
「そうかあ。なはは。よろしい!ゆっくりしてきなさいあかね、乱馬くん!君たち二人の絆をより深めるための旅だ!」
「そんなんじゃないもん!もお…」
「のう乱馬、あかねちゃんと二人きりで好きなことやりたい放題じゃのう。のう。」
「……。」
「高校生なんだから清く正しい付き合いをするのよ乱馬。でも、ちゃんと男らしくあかねちゃんの手を引いてあげないとね。」
「そのとおり!やんややんや。かわいい子達にゃ早乙女くん、」
「足袋をはかせりゃ天道くん、」
「あ二人仲良くお師匠さま、」
「ただよう空気はスウィートな香り〜!だははははは…」
にぎやかな晩であった。乱馬だけはつんとして黙って食をすすめていたが。 そうして夜は滔々と更けていった。三日月を越え少し太みを帯びた月が、天道家の瓦葺きの屋根を照らしていた。

 一週間が過ぎた。来たるべき時がついに到来した。空港にて8時30分までに集合とのことだったので、早くに家を出る必要があり皆あくびが耐えない。乱馬もまた、あかねに手を引っぱられながら大あくびをこいて集合場所へとやって来る始末。ちなみに特別な行事だからと、服は白のノースリーブをチョイス。皆制服だというのに、この男だけは相変わらずカンフー着なのであった。
「しっかりしなさいよ乱馬。ぼーっとしてると迷子になっちゃうわよ!」
「だぁいじょうぶだって良牙じゃねぇんだから。」
「あんたラッシュ慣れしてないでしょ。下手すると本当に迷子に…ん?」
集合場所に辿り着いたらしく、ふとあかねが前を見た人群れの中に右京がいた。いつもどおりの男子用ガクラン姿。右手には何やら箸を入れるような、黒い小箱を持っている。
「おはようさ〜ん乱ちゃん、あかねちゃん!」
元気のよい笑顔で二人にあいさつを飛ばす。
「よーウッちゃん。相変わらずフライ返しは持ってくるのな。」
「もちろんや。韓国にもお好み焼きを広めたろか思て。それよりあかねちゃん、はいこれ。渡すように頼まれたんよ。」
「っ?」
黒い箱をあかねに手渡す右京。箱の蓋には赤バラと黒バラのマーク…。まぁ開けてみ、と催促をされ、いやな予感はしつつもあかねは言われるままに蓋を開けてみた。
「右京、これひょっとして…きゃっ!?」
中身を見て思わず箱を落とし、一歩後づさるあかね。その箱の中身とは。
「むぐっむごごっっんぐぅ」
ぎっちりと箱に詰まりながら、苦しそうにうごめく物体。
「生き物か?いや、何かのケツのような…はっまさか!」
乱馬が箱を持ち上げ、物体に向かって思いっきり蹴りをいれる。
どこっ! ずぽっ! どてっ!
箱の底部がぬけ、その中から出てきたのは、なんらかの術を使って小さくなった佐助であった。地面に激突するとぽんっと音を立て元のサイズに戻る。
「いやぁ〜間違えて顔面から入ってしまったでござるよ。乱馬殿かたじけない。」
「ほぇー、突拍子のない登場の仕方するやっちゃな…」
「んで、何の用なんだ?また九能から預かりもんか?」
用件はだいたい予測がつく。話を進めてとっととお帰り頂こうと考える乱馬。
「さよう、帯刀さま小太刀さまから。これを!」
さっと懐から2輪の赤、黒のバラを取り出す佐助。それを両方ともあかねに差し出す。
「え、…小太刀もあたしに?」
首を傾げながらそれを受け取る。するとまず赤バラの茎に取り付けられた超小型スピーカーから、聞き慣れた声が。
『はぁ〜っはっはっは!天道あかねもついに修学旅行を経験するときが来たのだな。うむ、修学旅行は楽しいぞお〜。異国での素晴らしい出会い、言葉の障壁を乗り越えて行うコッミュニケィション。なんともロマンチックな事ばかりだ。できれば僕ももう一度行きたいぞぉ。しかしそうはいかんので、代わりにこの『九能・万能・語り薔薇くん』を授けよう!僕の声で1024通りの受け答えができるようプログラムされている。しばらく会えなくて寂しいであろうが、これを僕だと思って心ゆくまで話すのだぞ。』
「誰が話しますか!」
思わずバラにツッコむあかね。すると。
『はっはっは照れ屋さんめ。はっはっは照れ屋さんめ。』
しっかりと返事がかえってくる。これもプログラムされているというのか。そしてもうひとつのバラ、黒バラからも声が発せられる。
『ぉお〜〜〜っほっほっほっほ!!天道あかね、ワタクシの乱馬様に手出しをすることはこの九能小太刀が許しませんくてよ。……』
「あ、あかね。ちょっとそれ貸しな…」
小太刀の言伝の最中だが、乱馬はもしやと思い、とっさにそれを上に放り投げた。
っぱぁん!
宙で破裂する黒バラ。花びらがあたりに乱れ散り、花粉、否しびれ薬がはらはらと舞う。
「…危ない物をよこしてくれるわね小太刀も。」
近くにあった柱に身をかくすことで四人共に惨事を避けることはできたが、ここは人の行き来が多い空港である。
「ぐわっ。し、痺れる…」
「あぁ、しっかりして海老男さん!」
「大丈夫かい蟹子さん!」
「どうなさったの雲丹彦さん!」
被害者、続出。
「う〜むウチまで巻き添え喰らうとこやったやないか小太刀のやつ…」
「え?右京いま何か言った?」
「いやっ何でもないんよあかねちゃん。はは…」
しくじったと言わんばかりの右京。小太刀と手を組んで計画したのであろうが、乱ちゃんこと乱馬の手によって防がれてしまったというわけで。
「(ふ…今日の俺は冴えてるぜ。今ので眠気も吹っ飛んだし。)」
いける!と言わんばかりに心でガッツポーズの乱馬。
「(この先、大丈夫なのかな?)」
不安になるあかね。
「それでは拙者はこれにて。」
さる佐助。 そして時計の針は8時30分を指した。

「HAHAHAHA〜HA!グッドモーニン、マイ・スチューデンツ!それではミーの方から注意事項・ワーニング・アテンションプリーズお、よ、び、学習課題・スタディーワーク・ディスティネーションを読み上げマース!」
「ん?これって運営委員の仕事じゃないのか?」
隣にいたひろしが乱馬に話しかける。校長め、また何か企んでいるらしい。そう生徒達が気付き始める中で、校長は話を続けた。
「ワン、飛行機に乗るには全員丸坊主アンドおかっぱでなければいけませ〜ん。ゲートで引っかかってしまいマース。トゥー、現地に着いたら一人1000グラムずつ地元家庭のお手製のキムチを買いとって校長であるミーに献上しなサ〜イ。できなかった者は進級させませーん。スリー、……」
みしっ・・・
校長の顔に乱馬の‘踏み’が入る。そう、こういう時に悪の校長を撃退するのが、学校での乱馬の仕事なのかも知れない。
「デタラメぬかすんじゃねぇ、修学旅行は生徒が全部計画するもんだろーが?あん?」
「OH!ばれてしまっては仕方がアーリませ〜ん。それではユーには特別に、このKorea産チョコレートをプレゼントね〜。」
「ん?せ、せんきゅー。」
勢いに押されてノリで一粒食べてしまう乱馬。一瞬遅れてからしまった!と思ったが時すでに遅し。
「…辛ぇ〜〜〜!!」
中には唐辛子が練り込まれた、唐辛子チョコだったのだ。
「OOOOH!!Mr.サオトメ・ランマ、ユーにはチョコレートが辛く感じるのデスかー!?これはきっと重大な病気に違いないデース!ここはとっても優しいミーが、病院から救急車を呼んできてあげマース!」
しゅたたたた…………
「あ、逃げた。」
舌をヒリヒリさせながらぢぐしょ〜と唸る乱馬。ここで運営委員のなおとがきり出す。
「災難だったな乱馬。さてみんな、バカ校長はほっといて行こうぜ!」
「お〜!!」
「うーん、本当に大丈夫なのかなぁ?」
呟くあかね。それに反応し、
『心配するでない天道あかね。いざとなったらこの僕が飛んで行ってあげよーぅ。』
語り薔薇が返事をよこす。捨てるの忘れてた、とばかりに少し戸惑うあかね。そして何かを思いついたらしく、とある人物の姿を探す。
「あ、いたいた。五寸釘くーん。」
「あ、あかねさん?」
「はいこれ。こういうの好きそうだから、あげるね。」
そう言ってバラを手渡し、これで一段落と軽くため息をついた。
「あ…あかねさんがこのボクに真っ赤なバラを…」
こうして一同は飛行機に搭乗し、韓国へ向けて東京を発ったのであった。
「(乱馬…この修学旅行のこと、どう思ってるのかなあ。)」

 飛行機に乗る、というのは早乙女乱馬この方初めてのことである。勝手がまるで分かっていない。指定されたシートを見つけることもできず、しばらくキョロキョロとしていた。
「ちょっと乱馬くん、後ろつっかえてるんだから早く座ってよね。」
クラスの女子から苦情が出始めたのを見て、後方から右京が割って出てきた。あかねより先に乱馬をつかまえ、二人で行動しようという魂胆。そして乱馬の左腕をしっかと捉え、機内の案内を始めた。
「洗面所は前の方にあるさかいなーそれで乱ちゃんの席は…ここの窓側やな。うわぁ〜滑走路がきれいに見渡せるやんか〜。」
「お、おおセンキューなウッちゃん。それじゃ…」
「なに言うてんねん、ウチは乱ちゃんの隣や。」
「へ?」
右京に助けられ、シートに就いたのはよかった。しかしまさか隣同士になるとは…乱馬の脳裏に、あかねのぶすっとした顔が浮かび上がる。あちゃ〜と小さく一声出すと、右京のさらに横からすさまじい殺気が!
「ら〜ん〜ま〜」
「でぇ!?あああかね、落ち着け!俺のせいじゃねーだろ!」
「何いってんのよ!わざと右京を隣に呼び寄せたりなんかして!あんたの隣は大介くんでしょ!?規則違反よ!」
「な、何?」
右京の方を伺う。すると右京は穏やかな顔つきで、
「あら〜残念やわ。せっかく大介と席交換してもらおう思てたのに。規則違反とまで言われたんじゃしゃーないなあ乱ちゃん。それじゃまた飛行機降りたらな。」
そう言い残すとさっそうと自席に移動する。…事は一応、これで解決した。しかしあかねの気はおさまっていなかった。
「いい?団体行動をする時は、勝手な行為は絶っ対に許されないんだからね!わかってんでしょうね!?」
「わーってるって!だから今のはウッちゃんが…」
「聞く耳もたん!!」
「あー、かわいくねえ!」
「開き直らないの!」
一方的に檄を飛ばすあかね。どうやら乱馬が右京を誘いこんだように彼女の目には映ったらしい。というより彼女の中に存在する不安が、そういう見方しかできないようにしているのかも知れない。これだけ長い時間を共にしてきたのに、未だ相手を信頼しきることができない。しょっちゅう自分の前から姿を消しては、他の人物と仲良くしている…。このまま誰かの所へ行ってしまうのではないか。そう思い始めると胸の中に嫌なわだかまりが渦巻き、文字通り聞く耳をもてなくなってしまうのだった。
「しっかりしなさいよ…バカ。」
その言葉を最後にあかねもその場を離れ、自分の席につくことにした。間もなく大介がやって来て乱馬の左に腰をおろし、飛行機は動きだした。
「俺は規則違反なんかしてねぇっての…」
「……まるで姉さん女房に説教されてるみたいですな、乱馬。」
乱馬の独り言が大介の耳に入り、それから数秒おいて大介が口を開いた。
「どおいう意味だ?」
「なんつーか、精神年齢がね…あかねに負けてる。」
「???」
大介の言っていることが全く把握できない男。確かに勢い負けはしていたかもだが、精神年齢とは?理解できない悔しさ紛れに、大介に問うてみた。
「いつからそんな謎めいた事言えるようになったんだおめ?」
「お二人さんを眺めるようになってから。」

 風林館高校二年の御一行は、日本列島を後にし海の上を飛んでいた。五月の雲は大きくまとまったものが多く、窓から見られる景色は時折青い海から白い海に変じたりした。天道あかね、乱馬のかけがえのない許婚。この海を初めて越えたのはいつだったか。とある神話のような一団に連れ去られそうになったとき?あの時は確か、自分が誰かの嫁になるとかで…乱馬は後を追って来てくれたんだっけ。
「あたしも心配かけてるのかなぁ。」
「ん?何か言ったあかね?」
「え、いや別に…」
横に座っているのはスケート部のあさみ。ゆか、さゆり同様にあかねとしては腹を割って話し合える友人であった。しかし今は自分の考えている事を打ち明ける気にはなれない。もう少し、己の中で整えてから機会があったら話してみよう。そう思いとどまってまた窓の方へと顔を傾けた。…いつの間にか機内は静かになっていた。乱馬を含め、多くの生徒は心地よい眠りについていた。雲のかたまりがゆっくりと窓の外を流れる。そして何も起こらぬ時間と共に、後ろへと去ってゆく。

「はい皆さん、あと20分でソウルの空港です!着陸する時は多少ヒコーキが揺れることがありますから、シートベルトをしっかりとしておきましょう。それからヒコーキが完全に止まるまで、決して席を立たないように。あ、スチュワーデスさんジュースおかわり〜!」
ひな子センセイの声が行きわたり、やっと着いたかと目を覚ます生徒達。これからが修学旅行の本番というもの。

 機を降りて人々の通行の邪魔にならない所に集まる。韓国は日本と比較すると緯度が高いところにあるため幾分か気温は低いとセンセイに聞かされ心していたのだが、むしろ東京よりソウルの方が暖かく感じるくらいだった。暖流の関係?それとも今日だけたまたま?中途半端な知識で分かることではなかった。
「っくぅぅ〜〜よく寝たぜ!朝が早かったせいで七時間しか寝てなかったもんな〜。」
「七時間も寝てりゃ充分じゃないの…もしかして普段寝過ぎなんじゃない?」
「っせーなじっくり長時間寝かさねーと日ごろの疲れがとれねえんだよ。」
二人の会話は先よりもずっと明るくなっている。ちなみに一行はホテルに向かう前に、空港でしばしの待機中。辺りを見回すと、威厳に満ちた警官がしっかりと空港の安全を見守っていた。
「ここじゃ変に騒ぐことはできないわねー乱馬。」
「好きで騒いだ憶えはねえ。」
こきっこきっと首の骨を鳴らす乱馬。そして前言どおり、右京が何気に近づいてくる。
「乱ちゃんこのパンフ見てんか!韓国で一、二を競う大規模な遊園地ロッテワールドやて。ドームのような大型室内と、外にもまだアトラクションがあるみたいやで。二日目に行くとからしいけど、もちろん乱ちゃんはウチと一緒に行動するやんな〜?」
「へ?」
あかねの目の前で、半ば挑発的に誘いを入れる右京。むっとするあかね。乱馬が目でフォローを求めるが、
「勝手にすればっ。あたしは女子同士で行くから。」
と期待にそわぬ返答。
「お、おいおいそんなムキになるなって。そーだせっかくの修学旅行なんだからここは仲良く…」
「修学旅行だから言ってるんじゃないの!」
「そや。ここは譲るわけにはいかへん。あかねちゃんは乱ちゃんのおらんとこで平和に過ごしてりゃええねんで。」
「いやだから、三人でさ…」
「あんたね、どーしてそうのん気なことが言えるの!」
「俺は真面目だ!」
「………………………………」
乱馬の言葉が、あかねの動きを止めた。意思が通っていない。自分がどうしてこんなにいきりたっているのかも、判ってもらえていない。想いが伝わらない…
「ばかぁ!!」
ぱんっ、と頬を叩く音が響く。 それから数分後、一行はホテルへと動き出した。



つづく




えー当作品中に出てくる「唐辛子チョコ」は実在します。自分も後輩が修学旅行から帰ってきたときに食わされました(笑)。
最初は甘いんだけど後から…!興味がおありでしたら韓国へ行った際には探してみてくださいな♪


初投稿でございます。
最近は海外へ修学旅行へ出かける学校が多くなっていますね。
うちの兄貴もその予定でしたが「SAES禍」で上海行きがぱあに(苦笑)・・・北海道へ行きました。
私の行った学校は中高ともに修学旅行そのものがなかったもので・・・ちょっと羨ましいかも…。
波乱は必至ですね。
(一之瀬けいこ)


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