◆ねこやしゃ
しょーすけさま作


一、懲りない中国妖怪、来訪


 それは木々も枯れ尽くし茶色の枝を並ばせ、乾いた冷たい風が町に流れる冬のある日のことだった。
コートを羽織った人々が背を少し丸めながら、白い息を吐いて歩いている。
ちょいとある店に入ろうと、戸のところまでは行くのだが、あいにく今日は臨時休業。仕方なく、ほかの宛を探す。
その店は、お好み焼き・うっちゃん。

「それでやなあ、自治会の方から今回は子供も参加できるイベントを考えて欲しいっちゅー話が来たんや。」
「だからなんでわたしと右京がセットになってるか。」
「自治会のおっちゃん等からすれば、同年代のうちらは気が合うように見えるんやろーて。」

この度は自治会の冬のイベントを計画して欲しいという依頼がお好み焼き・うっちゃんと猫飯店に回ってきた。そして猫飯店代表としてシャンプーが此処におもむいた次第である。

「おめーらもいろいろ大変なんだな〜。確かにあかねのおやじさんもそんな話してたけど」
シャンプーの横でイカ玉をほおばりながら話に入ってきたのは、学校帰りの早乙女乱馬である。
この男は、とりあえず腹が減ったらこのお好み焼き屋に足を向ける。帰り道にあるので寄りやすいというのはわかるが、休業の看板が出ていても一応なかを覗いて、いけそうだったら入るとゆーガメツい行動はウッちゃんの深い知り合いだからこそできることであろう。今回は来店時の相方こと天道あかねは先に家に帰っていた。

「まさかまたうちらに計画係が回ってくるやなんてなあ…」
「前ん時の評判が良かったんじゃねーの?」
「破恋洞は本当に別れたカップルが多すぎて、むしろ苦情が出たね。」
「どっちかってゆーとリベンジやな。」
前回、夏にこの二人が担当して実施した自治会慰安旅行の目玉は破恋洞であった。実際のところウケは良かったが結果が悲惨だったようだ。

そんなわけで右京、シャンプーの二人はそのリベンジ的計画の本題に入る。

「まず今回は冬のイベントやさかい、アウトドアより建物の中でやった方がお年寄りの体にやさしいっちゅーもんや。」
「温泉に行くには出費が高いあるしな。予算はどれくらいね?」
「んーと確かどこかの紙に書いてたはずや、ちょい待ち…」
そこで右京はいったん奥へと入り、階段を上って自分の部屋へ向かう。
「(…なんだけっこう気が合ってんじゃねーか?)」
やはり業者同士の立場となるといつもの関係とは違うものがあるのか、などと思いながらイカ玉フィニッシュの乱馬は次の注文を考えていた。まだ腹が寂しいらしい。
「…。」
シャンプーは両腕を組んで、何かを考えているようだった。隣の乱馬を意識しているのではないか、とも見れる。
「お水つぎますね。」
「お、せんきゅー」
先程から後ろでテーブルを拭いたり、掃除をしたりと雑用をこなしているのは「居候の代わりにただ働き」の小夏。今のところ昇格はしていない。
すぐに右京が紙を手に戻ってくる。
「あったで。これが今回の…」

りんっ

「……へっ?」
右京がふと音の鳴った方に目をやり、驚いた顔つきをした。
「ぁ、すみません。招き猫を磨いていただけで…」

「いや…小夏、後ろ…」

「?」
招き猫の鈴に手が当たって鳴っただけ、と思った小夏は何のことかと後ろを振り返って、戸の方を見た。乱馬が「ひぇっ!?」と一瞬、体中をひきつらせて叫んだ。
戸に映っているのはでかい人影。いや、人ではない。

ガラガラガラッ

「わしを呼ぶのは誰かにゃーん。」

「出たぁあぁ化け猫〜っ!!」
「魔猫鈴(マォモーリン)!」
乱馬とシャンプーがほぼ同時に声を上げた。
「んにゃっ?おおシャンプーでにゃ〜か!わしの嫁になる気になったにゃかっ?」
「誰もおまえ呼んでないね。」
鈴の音に反応して、突如現れた化け猫さん。右京と小夏はあっけにとられている。
「つれないにゃ〜ん。ならばそこの早乙女乱馬をやっつけて、今度こそシャンプーを嫁にするにゃ〜。」
「シャンプーに手出しをする奴はおらが許さねえだ。」
ムース。
「シャンプーを嫁に」の言葉に反応して、突如どこからともなく現れた。袖から暗器の刃をのぞかせ、化け猫の正面に立ちはだかる。

「…シャンプー、こんなのに追っかけされとるん?」
口をぽかーんと開けていた右京だったが、とりあえず疑問になったことを言葉に出してみた。
「それは見てのとおりある。それと右京も、コイツには一度会ってるはずね。」
「…あ〜っ。いつぞやの砂浜ミス・ビーチサイドコンテストで、うちの屋台までぶっ壊してきよった不逞の輩やな。覚えてるわ。」
紙を手元に置き、化け猫の方を半開きの目で見る右京。「(そんなこともあったのですか…)」とまだ口を開いている小夏。
「…シャ、シャンプーはわしの嫁、」
「おらが許さねえだ。」
まだ押し合いをしている猫とムース。とはいえ元来、気の弱い猫である。ムースに完全に負けている。
「わしの嫁…」
「この刃の餌食になりたいだかっ?」
「…じゃその右京を嫁にするにゃ〜っ。」
「ええっ!?」
突然の視点変更、焦ったのは小夏である。
右京は標的にされて、とっさに乱馬の方を振り返ったが、当の乱馬は椅子の上であっちを向いて三角座り、すっかり怯えて縮みあがってしまっていた。
「く、来るなら来い、物の怪っ!私が相手になりますっ!」
「にゃにゃ?こっちもおなごだにゃ〜っ。嫁になれ〜〜!」
着物姿に長い髪、くの一でもある小夏は女と間違われて当然のところ。
「わ、わたくし男ですうっ!」
「んにゃ、…ならば敵にゃ〜!」
「はっ、このっ!ていっ盆返し!」
「ホコリ霞っ!」
「おしぼり百本乱打!」
今度は化け猫と小夏の、押すや退くやの攻防戦が始まった。
「…わたしこの辺で失礼するね〜。」
どたばたとして、もはや自治会の計画の話は続行不可能だった。
この猫とも関わりたかないしと、シャンプーは店を後にした。ムースも同じくシャンプーについて猫飯店へと戻っていく。
「あ、まいど有難う御座いました〜。」
「スキありにゃー!」
小夏が反射的にお客に挨拶をすると、その隙に化け猫は小夏の下げた頭上を越えて右京の方へと跳んだ。が、

ガンンッ

右京は得意の大型フライ返しを盾にし、猫の激突を避けた。
ついでにそのまま猫は鉄板の上に落下し、「あぢゃ〜〜〜!!」と声をあげてとび退いた。
「ぅにゃ〜〜最近の女の子はガードが固いにゃ〜。」
「うちには乱ちゃんとゆー、れっきとした許婚がおんねん!」
自分の方に親指を立て、びしっと台詞を決める右京。
が〜〜〜ん と打ちのめされるは化け猫。
「にゃ〜んん右京はわしの嫁にゃ〜ん嫁じゃなきゃや〜にゃ〜ん」
しまいには駄駄をこね始めた。
「斬りますっ!」
「あ゛〜〜!!わかったにゃー刀降ろしてっ!」
ひと思いに斬り捨ててやろうかと上段に構える小夏。必死にストップをかける猫。
「…じゃあ、その乱ちゃんとかゆー男をやっつければいいんだにゃ〜?」
「んでまた俺に回ってくんのかよっ!」
「にゃにゃ!?お前きゃーぁ!乱ちゃんてのは早乙女乱馬のことだったのにゃ!?」
「だぁぁこっち来んなーっ!」
「つくづく許せないヤツにゃ〜あかねちゃんにシャンプーに、まだ他にもおなごがいるとはっっ!」
この早乙女乱馬という男の事情を知れば、誰でも呆れたような顔になってしまう。
化け猫はのっしのっしと乱馬に近付き、両手を上にあげて大きく息を吸った。
「くらえ〜っ!新・必殺猫妖術〜〜〜〜!!」
「なにっ!?」
でろでろでろでろでろっっっっと化け猫の手の間から紫の煙が立ち、その煙は乱馬の全身を覆った。
防御をするようにして煙に覆われた乱馬だったが、数秒すると、何もなかったように煙はさぁっと消えた。

「…で、いったい何が起きたってんだにゃーん(・∀・)」
「あぁ!?乱ちゃん!」



二、ねこみみ乱馬


「乱馬さま、頭に耳が!」
「な、なに?頭に耳って…あぁぁぁーー!!なんじゃこりゃーー!!(○■○)」

 △ △
(−∀−)...▲ ←おさげ
| 乱 |

「猫化しとる…」
「にゃはははっはぁ!今回の妖術は世にも恐ろしい、猫化の術にゃ〜。これより3日後に、早乙女乱馬は完全に身も心もただの猫になってしまうにゃ〜。」
得意げに化け猫は言い放ち、我勝ったなりと乱馬の方に指(手?)を指す。
「にゃ…にゃろう、とっとと解きやがれにゃーん!(>∀<)」
「にゃ〜〜!殴らにゃあでー!」
かかってきた乱馬(ねこみみ)にビビりながらも、手をじたばたさせて応戦。
「ぎゃあああああ!!(○■○)」
爪でひっ掻かれた乱馬は、後ろにひいて腰を抜かしてしまった。
「ふ…ふふん、この妖術はかけられた者が自力でわしを倒さないと解けはしないにゃー。そしておまえは猫に弱いにゃ、つまり術を解くことは不可能ということだにゃ〜!」
汗をかきながらも、再び我勝ったなりと指をさす化け猫。
「右京はわしの嫁になる準備して待ってるにゃ〜。さらばにゃ〜」
「や、やろ〜今回は勘弁してやるにゃーん…(≠∀≠)」
ダウンし、体をぴくつかせながらの捨て台詞。
「乱馬さまは化け猫が苦手だったんですねえ。」
「猫が苦手なんや。」
「でも、御安心くださいっ。乱馬さまに代わってわたくしが右京さまをあの化け猫からお守りしてみせますっ!」
「あ、あぁそれはええけど乱ちゃん…」
ねこのみみが頭に生えた乱馬。右京にしてみれば、自分よりもこちらの方が心配であった。
「乱ちゃん、………」
乱馬の倒れている横にかがむ。
「ウッちゃん…ふっ、心配すんなよ。なんとかしてみせるさ。(ー∀ー)」
「その耳、さわっていい?」
「………( ̄∀ ̄)」




「そんなわけで、3日以内にあの化け猫を倒さねーと、俺は完全な猫になっちまうって話だにゃーん( ̄∀ ̄)」
「って、なに能天気な顔つきしてんのよ。」
「これでも俺は真面目だにゃーんっ( ̄∀ ̄)」

天道家、夕飯前。
茶の間の隣で早雲、玄馬が将棋を打ち、八宝斉はお出かけ中。のどかが料理を進め、かすみは茶の間の食卓に皿を並べている。乱馬、あかね、なびきはその食卓を囲み、「頭のみみ」について話し合っていた。
「あぁぁアヒルやブタならともかく猫にだけはなりたくね〜よぉぉぉ(−∀−)」
「でも乱馬くん、今のところは人間としての理性はあるんでしょ?」
「猫拳の状態とは違うようね。」
「ったくチョーシに乗って変ちくりんな術つかいやがってにゃろめ〜。てやんでバロチキショ」
「乱馬くん、それは違うわよ。」
思わず赤塚不二夫キャラになってしまうところを、かすみが引きとめた。
「ははは…それだけ向こうも必死ってことよね。それよりこの耳、何とかしないと…」
「何とかって?(∀ヽ)」
「こんな状態で外を歩いてたら、あんたまるで妖怪みたいじゃない。」
「………(∀ヽし)」
「耳曲げてもだめっ。帽子かなにかで隠さないと。」
曲げた耳が隠れるように、緑の民間帽をむんずと被せた。
「む、どうした乱馬。家の中で帽子なんぞかぶって。」
「話に入ってくんのおせーぜ親父…( ̄∀ ̄)」


 翌日の学校でも、乱馬は帽子を被ったままでいた。
この日は雪がしんしんと降っていた。乱馬はクラスメートには「寒いからだ」と言って帽子のことをごまかし通したが、一日中みみを曲げっぱなしというのはけっこう、みみが凝るらしい。
猫飯店でどたっとテーブルに寄りかかり、帽子を外してぴんとみみを立てる乱馬であった。
「はぁ〜どうすればあの化け猫を倒せるのやらにゃーん( ̄∀ ̄)」
「ほほぅ無様な格好じゃのう乱馬。」
「なんだとうっ(∀ ̄怒)」
てめーなんかグラフィックにしたら〈◎◆◎〉クワーッ! だろがっなどと思ってみる乱馬。
「きさまにあの化け猫は倒せん。ということはもはや猫になりゆくしか道はねえだ…ふっ。シャンプー、いくらおまえも半分猫じゃからとゆうて本物の猫を婿にはできんじゃろう?」
丸眼鏡を外してうれしそうな面を浮かべ、シャンプーの方ならぬおばばの方を向きながら話しかける。どうもこの男はノリで眼鏡を外してしまいがちなのである。
「乱馬ならきっと、あの化け猫を倒す方法を思いつくねっ。」
「そうだにゃーん…( ̄∀ ̄)」
「まぁ3日あれば充分いい考えが浮かんでくるじゃろ。ほれ婿どの、猫飯店特製のスタミナラーメンじゃ。」
どんっ
「おぉっ(☆∀☆)」
「乱馬、いくらでも好きなの注文するよろし。今日はおごりね。」
「ぇやぁわりいな〜(〓∀〓)」
「ふふふシャンプー、3日後にはおら達の祝言じゃあ!」
約一名、どうやら考えが違う方向に向かっているようだ。
「どこ見とる。」
「ん?………猿の干物。」
ぼこっ
おばばに杖でどつかれ、「だれが干物じゃ!」とツッコまれる。
「ムースは黙っとくねっ。」
そいでもって水をかけられ、アヒルにされてしまうのであった。
「へへっ、おめーもじゅーぶん無様なんじゃにゃーか?(⌒∀⌒)」
「クワーー!!クワーーッ!!クワッ〈◎◆◎〉」
「やかましいっ!」
しまいにおばばからの玉じゃくしの一撃。


「右京はわしのもんにゃ〜〜〜」
「なりませぬうっ!」
一方のお好み焼き・うっちゃんでは化け猫がまた顔を出して、店を騒がせていた。
驚いて逃げ回る客人たち。必死で猫を押さえる小夏。
日も暮れていい時間帯になってきたというのに、これでは店にお客が寄りつかない。
「まったく、こんなのがおったんじゃ商売あがったりやな〜。小夏、しばらく外で相手しててんか。」
「あ、相手ですか!?」
わたくしが右京さまをあの化け猫からお守りしてみせますっ!と宣言した小夏であったが、右京を守るというよりは…

「(わたくしこの化け猫の面倒見の役なのでしょうか…)」

とはいえこのまま店にでっかい猫に居座られても確かに困る。招き猫の代わりにもなりはしない。
そこで小夏はこのでっかい猫を店の外に押して出し、店の営業の邪魔にならないよう工事現場の所まで移動した。ここで小夏は化け猫に説得を試みた。
「よ、よろしいですか?あなたは右京さまの横恋慕を企んでいるようですが…」
「横恋慕じゃないにゃー堂々とストレ〜トに交際を申し込んでるにゃー。」
「で、ですからっ、右京さまにはもともと…」
「おみゃーはどう思うにゃ?」
「…へ?」
唐突に自分に話がふりかかってきて、どきっとしてしまう小夏。化け猫は続ける。
「右京とずっと一緒に居て、いいにゃあ〜とは思わないのかにゃ?」
「それは…その…」
「おいらはこれでも女を見る目はある方だにゃ。右京はきっとええ嫁になってくれるにゃ!一目見ればわかるにゃ〜。」
果たしてこの猫に女を見る目があるのかはわかり難いところだが、小夏は共感しているような様子であった。
「そ…そうですね…」
少し、小夏の顔が緩んだように見えた。
「そう、おいらのこの気持ちがわかるんにゃら、この場は譲ってくれんかにゃー。」
「な?だっ…なりませぬうっ!」

「やい化け猫!勝負にゃっ!( ̄∀ ̄)」
化け猫の背後から、真面目なんだけど少々気の抜ける声が。

「あ、乱馬さま…」
再び帽子を被り、頭のみみを隠している。
「おめーなんざ一撃で倒してやるぜっ!(>∀<)」
猫が大の苦手な乱馬だが、いつになく強気で喰ってかかっていた。



三、さよなら人類 〜猫にはなりたくない!〜


「にゃ、来たかにゃ。返り討ちにしてくれるにゃ。」
「要は相手に触れなきゃいいんだっ。くらえ!猛虎高飛車!(>∀<)」
「にゃにゃ〜〜〜〜〜〜!」
「…ひいいいいいい!!(〇■〇)」


「…で、駄目だったわけ。」
強気で挑んだはいいが、猛虎高飛車は弱気になるとその威力も弱まる。結局は猫に丸めこまれてしまったのだった。
「ちくしょ〜けっこう上手くいくと思ったのににゃー。( ̄∀ ̄)」
「思ったより苦戦してるのねー乱馬くん。」
「化け猫さんは強敵なのねぇ。」
「情けないぞ乱馬っ!あの化け猫の一匹に敵わぬとはっ…!」

魔猫鈴の化け猫を知る天道家全体としては、そんなに強くないはずなんだけどなぁという意見で一致している。とにかく乱馬だけがダメなのである。
「もともとは親父のせいだろがにゃーん!( ̄∀ ̄)」
「あああ情けないっ!そんな間抜けな顔までしおって!」
「間抜けって言うなーー!( ̄∀ ̄)」
「それにしても、乱馬くん自らの手で倒さねばならんとなると、我々が加勢するわけにもいかんしなぁ。」
「根性よ乱馬っ。根性っ。」
乱馬の弱勢ぶりに周りも手を焼いている中、あかねがある物を取り出した。
「しょーがないわねー。あたしも考えてみたの。はいこれっ。」
「何だ?(∀ ̄)」
それはどこかの空き地で採ってきたとみえる草。冬の雪降る日に探しだすのは少々手間がかかるであろうものだが。
「ねこじゃらしよ。これで相手が気をとられている隙に…」
「ほぉ…。(∀ ̄)」


「にゃるほどー、右京はうっちゃんと呼ばれているから、この店の名前はそっから取ってきたんだにゃーん。」
「は、はい…おそらく。」
「おそらくぅぅ?おみゃーはそんな事も聞かずに下働きばかりしているにゃーか?それではいつまでたってもただの下働きにゃ。」
「…おおきなお世話です。」
小夏の力不足か、化け猫にうまく言い丸められて結局は店の中に居座らせてしまった。最初は他の客も驚いていたが、ずっと居座っているでかい猫を見ているうちに、徐々に客の方が慣れていった。
「居座ってるついでや、これ付けとき。」
そう言って右京が化け猫に渡したのは「大サービス!今週限りもんじゃ焼き2割引」の看板。紅白の縄が付いていて首から提げるようにしてある。
「にゃーんなかなかちゃっかりしてるにゃー。」
言われたとおりに看板を首から提げる化け猫。これでいくらか招き猫っぽくなるというものである。
さて閉店時間もそろそろ近づいてきた頃になって、二人の客が入って来た。
「あ、いらっしゃいませ〜。」
「乱ちゃん、あかねちゃん。いらっしゃい。」
「もっぺん勝負だ!( ̄∀ ̄)」
「にゃ〜ん何度来ても同じにゃーん。」
大サービスもんじゃ焼き2割引の看板をぶら提げながら、のっそりと化け猫が椅子から立ち上がる。
「これで、どうにゃ!( ̄∀ ̄)¥」
「にゃ…にゃにゃ!?」
「( ̄∀ ̄)¥」
「(あ、あれはまさしく猫じゃらし…!いかん、わしはアレを見ると吸い寄せられてしまうにゃ…)」
「¥( ̄∀ ̄)¥」
「(2本!?くっ、卑怯にゃ。あぁぁ触りたくにゃってきた…)」
「¥( ̄∀ ̄)¥」
「…にゃにゃ〜〜〜〜!!」
「へっ!?ぎゃあーーー来るなあーーーー!!(○■○)」
「ちょ、ちょっと乱馬だから今のうちに…!」
「ねこやだねこぉぉぉーーーー!!(≧■≦)」
早乙女乱馬、やって来て早々、敢えなく退散。


「くっそ〜どおーすればいいんにゃー(>∀<)」
お好み焼き・うっちゃんから100mの地点で立ち止まり、頭をかかえてしゃがみこむ乱馬。すると、しゅるしゅるっと虎目の尻尾が。
「ああ、しっぽが!いけない、このままじゃ…」
みみ、しっぽとくれば次はひげと手だろうか。人間から半分猫に、そして日が経てば完全に乱馬は猫化してしまう。
「ほ…ほんとに猫になっちまうのか俺…(○∀○)」
「な、なに弱気なこと言ってんのよばかっ!しっかりしなさいってばっ。」
もはや気がどこかへ行ってしまっている彼を、慌ててもとの世界に戻そうとあたふたするあかね。
「だははははは!乱馬、きさまはずっとこそこそ逃げ回って猫になってしまうのがお似合いじゃあ!」
「なんだとー!!?…そーかっ!(◎∀◎)」
「そしておらはついにシャンプーと結ばれる時がやって来るだ!春じゃ!春じゃー!んがぁっ!!」
すっかり浮かれているムースの脳天を、背後からシャンプーの自転車が襲った。ぼてんっと前に倒れ、その上に自転車が乗っかっている。
「乱馬、いま何かひらめいた顔したね。いい手が浮かんだあるかっ?」
「思い付いたぜ!とっておきの秘策にゃーん!(>∀ー)」
今度こそ自信たっぷりの表情で、乱馬は答えた。隣でよかった、と安堵の相をみせるあかねだった。


 翌日、土曜の午前方に乱馬は三たび挑戦すべくうっちゃんを訪ねた。予想通り化け猫が居座っており、もんじゃ焼きにプラスしてサイドメニューの焼きそばも2割引の看板を首にぶら提げていた。
「俺と勝負しやがれっ!( ̄∀ ̄)」
この時点で、乱馬は術をかけられて2日が経過している。
「まーったく懲りない男だにゃー。」
懲りない中国妖怪が懲りない男に向かって呼びかけた。
「空き地で勝負にゃーん!(>∀<)」
場所をかえるべく、乱馬は化け猫を外の空き地に連れ出した。

工事現場の隣に残されたスペース、いくらか広さのある空き地にて乱馬と化け猫は対峙していた。昨日の雪は少しだけ積もったあとがあるが、だいたいは溶けて湿った土に還っていた。
いったん営業を中断して右京、小夏が追いつき、それからあかね、シャンプー、ムースがやって来て見守る。その中で 半猫乱馬VS化け猫 の真剣勝負が今まさに始まろうとしていた。
「やい化け猫っ。おめーを倒して、この体は元に戻してもらうぜっ。( ̄∀ ̄)」
「わしが倒れたらその時点で勝手に治るにゃ。しかしそーは言っても、おみゃーに勝ち目はないのにゃ〜〜。」
化け猫の方もずいぶん自信づいて、頬を引っぱってべろべろばぁと乱馬を挑発している。

「いくぜっ!(>∀<)」
「むふぅ、いくらでも相手してやるにゃ〜〜〜〜〜〜!」

化け猫が大きく腕を上げて跳びかかる。威勢よく前に踏み込んだ乱馬は、しかし向きを変えてじたばたと逃走のポーズを取りだした。
「ひいいいいいいいいいっ!!(≧■≦)」
後ろから追いかける化け猫。ぐるぐると空き地内を逃走する乱馬。

「なんじゃやっぱり逃げ回るだけではないだか。」
「ああっ!あの乱馬のステップ…」
あかねがその動きの狙いに気付いた。そう、回って逃げるということは、すなわち螺旋(らせん)を描いているということ。
乱馬の逃げ回るルートの輪はだんだん小さくなり、ついに螺旋の中心に達した。

「ひ、飛竜昇天破ぁ〜〜〜〜!!(@∀@)」
必死の思いで、目前に迫る化け猫に拳をあげた。

ごおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ

「にゃにゃーーーーーーーーーー!?」
竜巻に巻き込まれて体が浮き上がる化け猫。ここで乱馬はいっきに決めの一手を打ち出した。

「とどめにゃーー!!海千拳応用・猫夜叉探海包〜〜〜〜〜〜〜!!(>■<)」

宙に浮かんだ化け猫を、ごみゅっ!と上から踏みつける。
するとでかい図体が、竜巻によってできた真空を包み込み、地盤が吸い込まれるように押し上げられ化け猫に覆いかかった。

「そうだわっ。ただでさえ湿ってゆるくなっている地面が、飛竜昇天破の衝撃で…」
「その土で化け猫を埋め立てる、すごい連続技ねっ!」
そして見る見るうちに土は化け猫の上に覆いかぶさり、見事に猫入りの小山が出来上がった。

「乱ちゃんの勝ちや〜っ!」
わぁっと歓喜の声が揚がる。
小山のてっぺんから乱馬があわてふためいて降りて来た。
「ねこっ!ねこふんじゃった…!」
「おちついて乱馬っ!」
見ればもう猫のみみもしっぽもない。無事、事なきを得たのであった。
「むう、しぶとい奴じゃあ…せっかくのおらの好機がっ。………シャンプ〜!」
「ていっ。」

どがっ

密かに化け猫を応援していたムースもまた、シャンプーに蹴りを入れられて倒れてしまうのであった。






「はーい皆さん、これが今回の目玉、大猫の玉乗りでっせ〜。」
「にゃんでわしがこんな事せにゃならんのにゃ〜〜〜〜〜〜っ。」
「おとなしく観念するよろしっ。」

今回の自治会のイベントは、公民館の多目的ホール貸し切りで「大きな猫のかくし芸ショー」に決まった。あわれ化け猫は見世物となり、大人も子供も楽しんで見物できる注目の的とされてしまったのであった。
「ふ…親父も対抗したらうけるんじゃねーか?」
「パホ。(ワシは乗るより上で転がす方)」
この日化け猫はたっぷり働かされた後、子供たちに手を振られながら嬉しいんだかなんだかよく分からないまま去っていった。
「嫁がほしいにゃあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜んんっ!」








作者さまより

珍しくいっきに書き上がりました、顔文字なんぞを遣った馬鹿話でございます。話を通してセリフが多いのは、この作者がまずセリフだけで話を作り上げてから説明を付け足すとゆー手法をとったからで…これが書きやすいんですよ、自分的には。ってなわけで、読むのがめんどい場合はセリフだけ見るってのでもじゅーぶん…いけるかと思いますヨ。どうでしょそーゆーの?


思わず笑い転げてしまいました。
顔文字を使うと言うアイデアがなんともWEB作品の醍醐味を出しています。
化け猫仕様の乱馬くんかあ・・・イラストに描いたら可愛いだろうなあ。
(一之瀬けいこ)

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