◇T think she is …  後編
しょーすけさま作


「あかねと良牙くんなら、さっきデートに出掛けていったわよ。」
「…そっか。ありがとうかすみさん。それじゃっ。」
「あ、乱馬くん。……はい、これ。なびきちゃんから。」
「?」
天道家を訪ねてみれば、あのふたりはデ―――トに出かけてるときた。それでかすみさんがおれに渡してくれたのは、一通の封筒だった。

「…これは…」

あかねと良牙の、仲良くいちゃついてるところの写真が5枚…

…しばらく声が出なかった。まるで心臓をどくりとえぐられるような感覚と、自分の見ていない所で進んでいる事態への焦りが襲ってきた。

「写真代はいらないって言ってたわ。ただ、見て欲しかっただけだって。」

あのなびきが?どういうつもりで…。 それにしてもこの写真、どれもあかねが焦点になっているような。

「あかねちゃん、何でか知らないけど、嬉しそうな顔してるのよね。」
「……。」
「でも、それっておかしいんじゃない?って、なびきちゃんと話してたのよ。ほら、おとうさんも早乙女家の人達に申し訳が立たないって悩んでるのに…」
人一倍正義感の強いあかねが、いきなりすべてを放り出して良牙に乗り換えたりするだろうか、と。

そりゃそうだ。これはお守りの効力のせいで、あかねの意思じゃねえ。…ここに写っているのは、あかねじゃねえ。

「おれ、あかねを戻してくる。これにはわけがあるんだ。」
「え…?」
「すぐに元通りにしてみせるさ。待っててくれ。」
そう言っておれは天道家の門を出た。…そうか、天道家の皆は、あかねのことが心配なんだな…。

「あ、どこに行ったか聞くの忘れてたっ。」
まあ良牙のことだからどっかを彷徨ってるのかもしれねーけど。とりあえず手当たり次第ひとに尋ねてみることにした。

「すみませーん、赤い服のカップル見ませんでしたぁ〜?」
「え〜いや、知らないなあ。」
「見てないわねえ。」
「赤い靴のカップルなら見たけど」
「さあ〜。」
「キミみたいな赤い髪のコかい?」
「覚えとらんのぉ〜。」
「知らないよ。」
「おさげの女ぁ〜〜〜〜〜!」

げしっっ

「どっからわいて出た!」
いきなり飛びついてくるなってのにっっ。
「赤いカップルか。それはまさしく、」
だきっ
「この僕らのことであろうっ!うん、愛しいぞぉ〜おさげの女〜。」

ドコッ パロロロン!!

「とっとと青袴取り寄せてこいーっ!!」

赤袴の九能、滅びたり。
そいで公園をしばらく探索していると、今度はうちのクラスの女子に会った。

「あかねなら、さっき良牙くんと猫飯店に行くって言ってたわよ。」
「え。」
「なんだか妙に仲良さそーにしてたけど、乱馬くんまた何かやったの?」
「お、おれのせいじゃねえやいっ。とにかく、行ってくらあっ。」


どうやら入れ違いになっていたらしい。おれは急いでもと来た道を引き返した。

「ん?本日貸切?」
戸を開けてびっくり。
「祝・名カップル誕生!!」
思いっきり祝いモードの店内、パーティーでもやってるのかと思う派手派手しさだった。

「うん、このペキンダックの火のとおり加減、完璧だぜっ。」
「こっちの青椒肉絲もいい炒め具合よっ。」

「なにが名カップルだおいっっ!」
「婿どの、快く祝ってやれ。」
「乱馬、何しに来たのよ?」
「負け犬がなんの用だ。」
負け犬だとぉ!?いや、それよりとにかくあかねを連れて天道家に帰らねーと。
「あかね、気を確かに持つんだ。おめーは今お守りのせいで…」
「乱馬っ!」

傘を突き出して、おれに牽制する良牙。近付くことができない。
「貴様のような負け犬っころが、あかねさんと付き合う資格などない!」

負け犬……負け犬………

へへっ、言ってくれるじゃねえか。

お守りなんぞに頼ってる奴が、

おれのこと負け犬だとよ…


「…てんめぇの化け皮いますぐ剥がしてやらぁーー!!」

許すまじアホ良牙!調子にのりやがって、意地でもコテンパンにしてくれるっ!
お守りは着けた時から効果が出だしたんだ。ならばひっぺがしちまえば…!
「もらったぁっ!」

っどこぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんんんん

「ぃ、ぃたぃのぉ〜〜…」
「ふ…無駄だぜ、乱馬。」
つかもうとするだけで、勝手に炎が発生して邪魔しやがる。

「乱馬っ。あんたの力じゃ、決して良牙くんには敵わないのよ。尻尾巻いて逃げるのがいいわ。」
「ほっほっ。婿どのと天道家の縁も、これで切れそうじゃの。」
「切れてたまるか!許婚の件は、解消になったわけじゃねえ!」
なんだこの関係…?
「口約束よ。」

ん゛?んん!?

「今なんつった、あかね?」
「所詮はおとうさん達が口頭で勝手に決めたことじゃないっ。今のあたし達は…」
「運命の赤いお守りで結ばれているんだ。」
なんじゃそら…誰が、だれがんなモン認めるかっ!
「あきらめてたまるかぁ!」
「炎の鉄拳!」

…どこぉぉぉぉおぉぉぉぉおぉぉぉぉんんん

今度は場外まで吹っ飛ばされちまった。

勝てねぇな〜〜〜。



「…ぅっ……ちくしょお……」

家の屋根の上に不時着し、おれはぼろぼろの状態で動けないでいた。
「こんなの、ありかよ…くそっ。」
勝てない…あかねの口から聞きたくねぇ言葉まで、聞いちまった気がする。
「…ふー。」

なぜか肩に力が入らない。士気ゼロってとこだ。

いつもなら、まだいけるって、死の境いをみるまで戦ってたはずだ。なのに…

むなしい…。

おれはどうなっちまうんだろう。天道家を追い出されて…。

「あかね…。」

なびきがよこした写真を、懐から出して見た。
みたことのないあかねがいた。
ずっと見ても、変わるはずはなかった。これが今のあかねで…



「そんなに赤い服が欲しいのか。ならばこの僕がいくらでも買ってあげ…」
「屋根の上までのぼって来んじゃねえよ!」
しかもひとの写真を横から見るなっ。顔面めり込みパンチをくらわせてやったが、九能はまだもちこたえていた。
「おさげの女。君子の交わりは淡きこと水の如しという言葉を知っているか。」
「なんだ薮から棒に。」
「ふむ。君子の交際は水のように淡く、いつも変わることはないという意味だ。僕とおまえはまさに君子だ。」
「淡い以前に交際してねえっ。」
「嗚呼なんたる誉まれしい話だろうか!何度つき放そうとも、愛があるかぎり僕らは君子の交際として認められるのだ。」
「どォこが君子だ、このド変態ぃーーー!」

ドコッ パロロロン!!!

「これも愛なんだろぉ〜〜〜〜〜〜〜ぉ」
思い込みも大概にしゃーがれっ。ったく。

「……思い込み、か。」

そこで脳みそは止まったままになった。イライラ熱もいくらか冷めて、あかねの顔を思い浮かべようとした瞬間、いっきに気が沈んだ。…おれは新居、早乙女家に戻った。


「ただいまぁ。」
慣れない、誰の思い入れもまだない真新しい家。壁がきれいだった。玄関には生け花が置かれた。靴はかぞえる程しかない。

「おかえり乱馬。夕ご飯できてますよ。」
「おふくろ…。」
士気さがりっぱなしの、女の体のおれは、おふくろの目にはさぞかし情けなく映っただろう。
「…また転んだのね。しようのない子。怪我ばっかりして…」

………えっ?

「元気出してね。さみしいかも知れないけれど…。」
「あ……ごめん、おふくろ。おれのせいで、こんな事になっちまって。」
「あやまることはないわ。…おかあさんはね、いえ、おとうさんも、我が子が大きく育つことだけを切に願っているものなのよ。」
「…………」
「あなたの思ったとおりにやりなさい。おかあさん応援してる。」



おれは風呂場へ走った。
湯は沸いてなかったからシャワーを浴びた。
何度も頭からかぶった。

「…ちくしょー。」


____その翌日、おれは大きな決断に迫られていた。

「結婚式の招待状、だと。式は明日の夕方からだ。」
「なにぃーー!?乱馬っ!このままではわしらの明るい未来がー!!」
「これはおれの問題でえっ!おやじの出る幕じゃねー!」
「しかし無差別格闘流はどうなる!?」
「たしかに、天道流との合併はなくなるが、それですべてが終わるわけじゃねえ。両方の流儀が受け継がれていって、いつかひとつになるってのもいい考えじゃねえか。」
「きさま、何ということを…」
「…それが、乱馬の決心なの?」
「いや、まだ決めたわけじゃねえさ。天道家とひとつになるか、それともまたの代にするのか…」

さあどうしようか…。

そうだ…本当は、相手が良牙だけに、よけいに認めたくなかったんだ。あいつにだけは負けたくねえ、その気持ちがいつもどこかにあったはずだ。どんな時でも。だから…そう思うと、いますぐにでも戦いをもっぺん挑みたい気分になってきた。
「…やっぱり決着つけてくらぁっ!」
おれは茶の間を飛び出した。


式会場は、天道家道場・天武館。結婚式の客としてではなく、良牙と戦うために、おれはやって来た。わざわざこの服まで引っ張り出して着たんだ。赤地に龍の刺繍が入った…。

会場の中に入った。戸を開ければ、早雲おじさんとなびきと八宝斉のじーさんが、式の準備を進めていた…。

「良牙ぁ、出て来い!!早乙女家の命運かけてのおでましだぁっ!!」

「ら、乱馬くん…。」
「あんたって人は…。」
「久しぶりじゃのお乱馬。」

ここに来てひとつ、忘れてた事があったのに気付いた。おれは、あかねを元に戻すってかすみさんに約束したんだっけか。天道家も、この結婚は腑に落ちないまま了承してたのかもな…さっきまでのおれみたいな考え方して。

「良牙はどこだっ。」
「…あかねに聞けば?」
軽い溜め息まじりになびきがそう言うと、おじさんがわざわざ気を利かせてあかねを呼びに行ってくれた。あかねは部屋に居たらしく、間もなくおじさんに連れられてやって来た。…やっぱり赤かった。
「あの人なら精神統一がしたいからって、山に行ったわ。明日までには帰ってくるって言ってたけれど…」
あの人、ねぇ〜。
「あ、…いけない!帰り道が分からなくて迷ってるわ!おむかえに行かなきゃっ。」
ほー、良牙の様子がはなれてても分かるのか。虫の知らせもここまでくりゃ神業…。
そして門を出て走りだすあかね。おれも後を追う。
「ついて来ないでよっ!」
「おれも良牙に用があるんだよっ!」

「山の奥に向かってるわ!」
「ああ、地中に潜っちゃったみたい!」
「駅に出たのね!いけない、乗ろうとしてるわ!」

「っでぇぇ〜〜い!いつになったら良牙に追いつくんだよ!?」
「そんなこと言ったって、しょうがないじゃない!」
見えてこない迷い子に引きずり回されること数時間。すでに日が傾きかけている。
「このままじゃ埒が明かねーぜ。」
「あぁ、あの人はすぐその辺にいるのに〜。」
…そうか、ちょっと試してみよう。


っっどっこぉぉぉぉぉぉぉぉぉんん

「だめかぁぁ〜〜〜〜〜ぁ」
「?なにやってんだろ乱馬…」
別に良牙のじゃなくても、あかねのお守りを取り外しちまえば同じことだと思ったんだがな〜。

吹っ飛ばされて落ちてきたのは、どっかの山ん中だった。車通りの少ない道路に、おれは顔面で着地した。
どげんっっ
「ぃ痛って!」
ついでに軽トラックにはねられた。ゆっくり走ってたようなのでダメージは無かったが(実際はゆっくりでも充分危険です)、止まったトラックの後ろから、探していた奴の声が、聞こえてきた。
「ん?乱馬っ。」
「…良牙!」
ノラネコ運送。天道家の式で使うセットを、運んでいたところだった。良牙も都合よく遭遇したんで後ろに乗っけてもらってたってトコだろう。おれも乗るぜっ。
「やぁっと見つけたぜ…やい良牙、おれと勝負しろ!」
「なんできさまと勝負せにゃならんのだ?」
「なにおうっ?そんなの決まってんじゃねーか、そりゃ…」
あかねを取り戻すためだ!
「おまえをライバルと見込んでだ!」

「ライバルか。そーゆーことは…」
ぼぅっ
「もっと腕っぷしをつけてから言うんだな!」
炎をまとった右腕。確かに、こんなの相手に生身の身体で挑んだんじゃあ、かないゃしないだろう。
「ぜやぁっ!」
「おわっ、危ね…!」
やばい、喰らったら燃えちまう!山火事にもならんように注意ってとこだ。
「どうした乱馬!打ってこい!」
「くっ…」
炎があるので組みあうこともできねえっ。しかも走ってる軽トラの後ろで、段ボールやら良牙の手荷物やらで足場が悪い。どうすれば…
「見つけたわ!あなた〜!」
「あなた?」
「あ、あかね〜!」
ぉ、このやろ何時からそんな呼び方する関係になった!?さっきもあかねが「あの人」よばわりしてたが…くっそ〜。
「もう、ずいぶん探したんだからっ。」
「すまない。方向感覚がないもんで…」
「それにしてもゆっくり走るトラックねえ。足で追いついちゃった。」
「あかねの運動神経が良すぎたのさ…。」
「まあ、あなたったら〜。」
「くぉらっ!」
つつき合いしてんじゃねえっっ!
「勝負の最中だってことを忘れんな良牙っ!」
「乱馬、まだ懲りずに勝負してるわけ?」
あかね…確かにおれはしつこい野郎さ。だがなー、これは本当のおめーに戻すためなんだっ。本当のおまえは…本当は…
「てやっ!」
「はっ!」
ちっ。今は勝負中だ。あかねを巻き込むわけにもいかねえな…。
「しゃあねぇ…許せっ。」
「えっ?きゃっ!」
あかねの足を手刀で払い、トラックから降ろした。んで運転手にゆっくり走るように頼む。あかねを見失ってもいけねーから。
「おっちゃん、ゆっくり走ってくれ!」
「もとよりゆっくりだでよ。」
さて、それじゃ再開といくかっ!
「きさま、おれのあかねに乱暴な真似を…」
「……あかねはおれの…」
「…」
「許婚だ!!」

…どぉぉぉぉぉぉぉんん

「何度やっても同じだぜ。」
「…くっ…」
トラックの前方向に吹っ飛ばされたため、背面部に激突しただけで下に落ちずにすんだ。
しかしこっからどうする?火を封じない限り、良牙の身に触れることもできねえし…そうだっ!
「神火炎舞!!」
「その火、利用させてもらうぜ! 飛竜衝突破!」

びょおおっおおおぉぉぉぉぉ

冷の一撃を、良牙の唐傘が生む炎の渦にぶち込んでやった。これなら相手に触れなくとも、飛竜昇天破の水平打ちで攻撃ができる!
「ぬ…おおっ!」
竜巻の勢いにも負けず踏ん張る良牙。車はトンネル内に入った。と、そこへ…。

っどぉん!

「おわっ!?」
突然の横入りに、互いの手がゆるんだ。今おれたちを襲ったのは、火の玉……

「あたしも援護するわ!」
「おお、あかね!」
「げ、あかね。」
厄介なことになってきた。あかねが、後方から走りながら援護射撃を開始しやがったんだ。それも火の力なら、良牙にはさしたる問題はないときた。
「乱馬、覚悟っ!火玉投弾、通称ファイヤーボール!!」

どかん! どかん! どかん!

「だあぁぁぁっおっちゃん、やっぱスピード上げてくれぇ!」
「これ以上は速く走れんでよ。」
なんでだぁっ!この状況はさすがに不利っ…!
「決着つけてやるぜ、乱馬!」
「はっ!」
良牙の炎拳が空を切り裂く。それをかわすことはできるが、あかねの援撃もあって全部かわすのがやっとだった。防戦一方がしばらく続いた。

「くっ、これじゃ飛竜昇天破を出す暇もねえっ!」
「無駄だ乱馬!きさまの技は既に見切っている!」
「何っ!?」
「飛竜昇天破は高い温度の「渦」を必要とする…ならば、傘を使わねえで直接攻撃すりゃいいってこった!それにトラックで移動しているから、熱気がたちこめることもない!」
…確かに、トラックの荷台の上で螺旋のステップを踏むなんてさらに無理なことだしな。
やばいな…この状況をくつがえす方法は…
「でいっ!」
どぉん!
「どわっ!やべぇ荷物に火が…!」
「…はぁっ、はぁっ…もう駄目っ、あなた〜、あとはお願いね〜!」
あ、バテたか。
その辺で休んどけよ!ったく。

しかし荷物にまで火が回りだした以上、足場も減っていってしまう。
、そうか!結婚式の準備物なら、アレがあるはずだ!
ひとつ思いつくと、連鎖的に突破口が見つかる。荷物を利用しちまうということ、…これで良牙にも、勝てる!
「これでどうだっ良牙ぁ!」
「何を…!」

っっどかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんんんん

酒樽だ。盾代わりにして引火、爆発させれば、その勢いで相手は一瞬ひるむ。こっから決定打を撃つまでに、おれには一瞬で充分だった。

「…火中天津、灼熱甘栗拳!!」


「……ぐっ、はぁっ…!」
どたっ
良牙、敗れたり…。お守りは破らせてもらうぜ…。

最後は本当に一瞬だった。酒樽が大爆発を起こした瞬間に、おれは良牙の手荷物からある物を探した。
あかりちゃんへ渡すための、もうひとつのお守り…。もしやと思ったが、本当にあった。それをおれが装着、火の力を得たところで対等に戦って打ち勝ったってわけだ。

「止めてくれ、おっちゃん。」
お守りを破られた良牙は元のカラーに戻り、荷台でのびている。荷物についた火はなんとか手で払って消した。火に触っても大丈夫だから何とかなるもんだ。あとは、あかねを連れて来ないとな…。

ん…?まてよ…

もしおれが、この赤い状態のまま、あかねに会ったら…

お守りの効果で結ばれ…

「冗談じゃねぇーーーっっ!!」
だめ!それはだめ!!だからそれじゃ意味がねーんだってば!
おれはこんな物に頼らなくたっていつか自分で…そんなわけでこれは破ぁ〜〜〜〜〜!!
ビリビリビリっ
滅却っ!

「ふっ、我ながら純情だぜ…。」
おれはもと来た道を引き返した。酒樽を引っぱり出したあたりで、トンネルを抜けていたらしい。周りはもう夜で、すっかり暗くなっていた。
「あ、あかねっ。」
トンネル内に戻って少し行った所に、あかねは居た。疲れているのかお守りの効力が尽きたのか、ぺたんと歩道に座り込んで呆けていた。
「ていっ。」
その隙におれはあかねのお守りを腰からはずし、破って捨てた。あ、お守りを触ることができたってことは、やっぱり良牙との接点が切れて効力が弱まってたんだな。さっきは自動的に火ぃ吹いたくせに。

これで あかねも元通りに戻った。

「ぅ…乱馬…?」
「気ぃ付いたか、あかね。」
「あ………」
おんぶして家の中まで運ぼうとしてた時に、あかねは目を覚ました。
「疲れてるだろ?部屋までおぶってやるよ。」
「………うん。」
家中に入ると、皆がおれの帰りを待ってくれていた。おれはひとまず、あかねを部屋に送るべく階段を、ゆっくりと上がった。
「…ねぇ乱馬。」
「ん?」
「あたし、何やってたのかしら…?」
「なんだ覚えてねーのか。」
「学校の帰りに良牙くんに会ったところまでは…」
「ま、気にすることはねえさ。元に戻ったんだから。」
見た目も元に戻っちまったわけだが、

ん〜…

やっぱりこっちのがいいっ。

「ありがと…ちょっと寝たら下に行くから。」
「おう。あ、晩飯ができたら起こしに来よっか?」
「ん…じゃあ、おねがいね。」
「ああ…。」

よし、かわいい。



…さて、良牙もそろそろ目ェ覚ましてるころかな。
「乱馬くーん、良牙くんさっきまでの事なんにも覚えてないんだってー。」
なびきがなにやらラジカセを取り出し始めた。
「い、いやぁ…自分がなんでこんなボロボロなのかも、全く…」
「それじゃあ、こーんなこと口走ってたことも?」
「?」

『嗚呼、わが愛しのあかねあかねあかね〜♪きみのハートが手に入るなら〜、ぼくは何処までも飛んでゆけるさ〜火の神の吹く風にのってぇえ〜♪』

「うっそぉっ!?」
まず一番驚いたのは良牙だろう。なんだこの聞くに耐えかねる歌は、と。
「良牙くん、一人でいる時はずっとこんな感じで歌ってたのよ〜。」
意地悪げのなびき。おれも便乗する。
「おー、これあかねが聞くとどう思うだろうなー。」
「やめてくれぇっ!」
「ふふっ。顔から火が出るくらい恥ずかしいってか。」
「なびき、その辺にしときなさいよ。はい良牙くんお茶をどうぞ。」

翌日、おふくろとおやじも天道家に戻ってくることになって、全ては解決となった。
さあ、新しい一日の始まりだ。
「ふっ。おれの強さも神の領域に達したかな…。なははははは!」
「それはあんたの思い込みよ。」
「天道あかねぇ〜!この僕をおいて結婚など…」
「しません!」

見れば九能の道着の色も元に戻っていた。








作者さまより

ひねくれた話ばかり思いつく自分の中では割と正統派な話…ですなコレ。タイトルの「...」の続きにくる言葉は、好きに想像してください。僕としては某日本のロックアーティストの某曲名が入るのですが…その曲からビジョンを膨らませて書いた話ですゆえ。今回、あえて乱馬視点で書きましたが、客観視点みたいに言葉を足して(行間を読んで?)読んでいただければ、奥深いものになるかと思います。
九能のいう「君子の交わり…」ですが、交際ってまずそーゆー意味じゃないだろっ!とツッコんでくれた人は正解だと思います。人付き合い、ってことですよね。あと火の神とインドの関わりについてですが………直感です!専門知識はまったくないので。まぁ阿修羅などの類かと考えてインドになっちゃったんですな。あまり深く考えないでやって下さい。


乱馬の焦りと良牙の高笑い聞えてそうな作品でした。
 元の鞘に納まってよかったね・・・乱馬君。ご苦労様。とねぎらうのを忘れない私は、乱馬至上主義者(笑
 勝つまでやめない乱馬の性格。あかねが絡むと強いんだね。
 インドは神仏習合の元みたいなところですから、いろいろな神様が居そうですね。
(一之瀬けいこ)

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