◇若奥様のお仕事
seaさま作


乱馬と付き合う様になって解った事がある。
お金に関してダラシナイかと、思っていたけど、意外としっかり管理している。
自分で稼ぐようになってから特に。

乱馬はバイトを始めてから、通帳を2つ作った。
1つはバイト代振込み用。1つは貯金用。

貯金…何の為に、いくら貯めているのかは、教えてくれないけど、貯金している事はあたしだけに教えてくれた。
まぁ、呪泉郷に行く為じゃないかと思うけど。

今日は乱馬のお給料日…あ、来た。目的はきっと…

「おーい!あかね〜悪いけど、給料日だからまた下ろしといてくれよ!」
そう言ってキャッシュカードを手渡すとすぐに立ち去ろうとする。
「ちょ、ちょっと〜いくら!?」
そう言うとピースマークをしてあっと言う間に去って行った。
忙しいのは解るけど、余りのそっけなさにがっかりする。
「もう!自分でやればいいのに…。ねぇ帰り銀行寄っていい?」
ぶつぶつと文句を言いながらも、横にいた親友さゆりと、ゆかへ銀行に寄ってとお願いする。
と、2人は唖然とこちらを見ていた。

あたしは今、久しぶりにさゆりとゆかとお茶をしていた。
それぞれ別々の学校に通う2人は、あたしの大学へ遊びに来ていた。
大学のオープンカフェでお茶していた所、乱馬が来たのだ。

あたし達は今、大学1年生。

「乱馬君、どうしてココにいるの?」
「乱馬の学校とウチは兄弟校じゃない。それで時々交流あるみたいよ。体育科同士で。」

そう、乱馬も大学1年生。

学力の全然足りない乱馬は、スポーツ推薦で体育科へ入学した。
本人は行く気が全く無かった様だが、大学はあの運動神経をほっとく訳が無かった。
引く手あまたの中から選んだその大学は、あたしの通う大学とは違った。
が、あたしの大学と兄弟校だったので、時々こうして、あたしの学校に来ては、乱馬のいる体育科とウチの体育科で交流を図っていた。
あたしは交流会がある日の、暇な時は常にオープンカフェにいる様にしていた。
そうすれば、見つけてくれるんじゃないかと思っていたから。
だから、今日この2人がいても、オープンカフェに来ずにはいられなかった。
でも用事がやっぱり”お金下ろしといて”だけだなんて!


「にしても…乱馬君カードだけ置いて…。」
2人はあたしの持つキャッシュカードに目が行っていた。
「…下ろす時間が遅くなると、手数料取られるからって、早く帰れるあたしに頼むの…。この銀行の場所遠いから面倒臭いのに。交流会で忙しいからって〜。…でもさゆりやゆかにも気がつかないなんてね…。」
用事だけ済ませ、さっさと消えた乱馬にまだ、唖然としているだろう2人へ、一応フォローを入れた。
2人は目を合わすと、何故か溜息をついた。
なによ〜…?
「…相変わらず鈍いわね…あかね。そんな事じゃなくて…」
「そう、普通のカップルなら出来ないわよ?そんな事。」
「え?べ、別にカップルなんかじゃ…」
あたし達は、付き合ってる事を隠している…。ので、否定をする。
「あんた…往生際までも相変わらず悪いわね…。どう見たって、あんた達カップルにしか見えないわよ。ねぇ!」
「本当!成長ないんだから。」
そう言うとゆかもさゆりも豪快に笑い始めた。
「な、何よ!」
「”お金下ろしといて〜!”なんてカードだけ置いて行くなんて、余程の信頼が無きゃ、出来ないわよ。暗証番号まで知ってるって事でしょ…?」
「もう立場上、”彼女”というより”妻”の位置まで達しているわね!乱馬君の財布まで牛耳って。」
「牛耳…って人聞き悪いわよ!管理してる訳じゃないし、アイツが下ろすの面倒臭がってるだけよ!あたしじゃなくてもっ…」
「じゃー聞くけど、もしあかねなら、誰にでも番号教えられる?誰になら教えられる?」
……確かに親友とはいえ、自分のお金の管理は頼まない。でも将来……となると…やっぱり…
「乱馬君が浮かんだでしょ!」
「ち、ちち違う!!」
否定はするが、顔が熱いのが解る…きっと真っ赤になってるんだ…!!
すぐに乱馬を思い浮かべたあたしはやっぱり、何だかんだ言っても乱馬を信頼してる…。
「うん。やっぱり2人はもう夫婦ね!」
「うわ〜!いいわよね〜。もう信頼し合える関係が、完っ全に築き上げられてるんだから〜。」
さゆりとゆかは手を握り合って楽しそうに笑っている。否定しても無駄だけど、せずにいられないのがあたしの昔からの性分。
「だから〜…」
「わかったわかった。さぁ!じゃー旦那様の為に、銀行でも行きましょうか!」
「旦那じゃないって…だから…」
「ほら、急がないと閉まるわよ!」
気が付けばもう、5:30をまわっていた。
あと30分しかないっ!こんな事してる場合じゃないっ!
「あ〜っ!早く行かなくちゃ!!」
「「若奥様!急いで!!」」
「も〜違うって!!」

終始2人にからかわれていたけど、2人のお陰でこの頼まれ事、彼女としては悪くない、そう思えた。
それに若奥様…響きも悪くない…。

お金を下ろしながらニヤけているあたしが、ATMのガラス部分に映っていた。







作者さまより

彼氏にキャッシュカードを渡していられるか…という議論で出来上がった、突発的な作品です。
突発的なだけに、…設定が…大学生になってるし、2人の付き合っている様子が、さっぱり出てきません…。が、ラブラブです(笑
若奥様じゃないし、お仕事…お金下ろすだけなんですけど(汗


 呪泉洞初投稿作品です・・・
 実は一之瀬、seaさまの作品はこれが初めてではなく・・・デビュー以前に読ませていただいておりました。で、熱いラブコールに応えていただいた作品です。
 この作品と対になる、「若旦那様のお仕事」も続けてどうぞ。
(一之瀬けいこ)


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