翌 日


「よう!いよいよ年貢の納め時かと思ったんだがなぁ。」
 腕組みしながらしみじみ言うひろし。
「いやぁ残念だったな!お前も周りをしっかり片づけかないから…。まぁ次は失敗しない様にな!」
 笑いながら肩を叩く大介。
「ねぇねぇそれよりプロポーズの言葉なんだったのよ!結婚するからにはもちろんあったんでしょ?」
 目を輝かせ興味津々と言った様子であかねの腕を小突くさゆり。
「まったく〜驚かせるんだから〜!ねぇ!!」
 さゆりに同意を求めきゃぁきゃぁ騒ぐゆか。

 祝言騒動翌日、2人揃って教室へ入ると皆の冷やかしが待っていた。
「ち、ち、違う。これには深い事情があって……!!!」
「そ、そーよ!勘違いしないでよ!!」
 必死に反論する2人だが、どんな経緯があろうとも、祝言挙げかけた事実は変わらない<。しかも招待状までちゃっかり用意されていた。クラスメートにしたらこうして詰め寄るのは当然の行動である。
 クラスメートは2人の様子から、なんだかんだ言っても、いつか結婚するだろうと信じて疑わない。が、いつか…という想いを通り越して、高校1年の今、結婚しようとしたのだから、かなり衝撃的なニュースであった。

「ちょっと聞いた?深い事情なんだって〜何なのかしらねぇ」
「結婚しようとした位だから、さぞかし深いんだろうなぁ〜。なぁ乱馬!」
「おいっ!何か誤解してねぇか?」
「「誤解ってどんな〜?」」
 ニヤつきながら、執拗に大介とさゆりが聞こうとする。
「と、とにかく、お父さん達が勝手にやった事なんだから!!」
「否定すればするほど怪しいわよねぇ。さぁ白状しなさい!!」
「そうだぞ楽になれ。さ、乱馬!あかね!」
 4人は完全に面白がって勝手に盛り上がっている。呪泉洞での戦い後、すぐ祝言騒動。おまけに潰された後、片付けを徹夜でやらされて2人は少々疲れていた。
「つきあってられねぇぜ!」
 そう言って机へ逃げようとした乱馬の肩をひろし、大介が掴んだ。
「「待て…」」
「あん?」
「言えない…となると…。乱馬、おまえ…まさか…」
「何だよ。」
 大介、ひろしは顔を見合わせ頷く。
「おまえ…結婚しなければならない様な既成事実をあかねと……!!!」
 大介と、ひろしは顔を抑えながら、泣くマネをして言う。悪友の衝撃的な言葉に乱馬とあかねは固まった。そして真っ赤な顔で猛反論する。
「なっっっ、何を考えてんだ!!!!こんな色気のない女と!!」
「なんですってぇ!それはこっちのセリフよ!!こっちだってこんな変態なんかと!」
 大介とひろしへの反論は、いつも通りの喧嘩になった。乱馬とあかねは顔を見合わせると、お互いを睨みつけて、一言。
「誰が変態だ!かわいくねぇっ!」
「言うまでもないでしょ!?」
「なんだよ!」「なによ!」
「「ふん!」」
 そう言うと別々に席へつく2人。と言っても隣同士だが。

"あ〜ぁ。今更強がっても結婚しようとしていたくせに…素直じゃないんだから……"
 4人プラスクラスメートは思っている。



 ………こいつら…こっちの気も知らずに……
 席についた乱馬はため息をついた。
 あかねを失いかけて、改めて彼女への気持ちの強さを再確認していた。多分今後この気持ちは変わらない、いや益々想いは膨らんで行くに違いないのではないかと思う。あの時人形になっても、尚も自分を助けようとしたあかね。あの時の微笑みを思い出すと彼女を愛しいと思う。"愛しい"何て言葉をまさか、自分が使うとは思えなかったが、あれ以来いつも以上に彼女の姿を愛しいと感じていた。何度も可愛いと思った事はあったが…。
 あかねはどうだろう……?
 片づけを徹夜で2人でやらされたが祝言についての事は余り触れなかった。無言のまま黙々と仕事に徹していた。何を話していいか解らない…色々な気持ちが交錯した結果、無言となってしまった。
しかし、男溺泉の為だと脅されても、生涯の伴侶をそれだけの理由で受け入れるだろうか?いやお人好しはそれだけの為でもやりかねない。しかし『あたしの事好きなんでしょ?』と言った表情に結婚への、そして自分自身への拒否を感じられなかった。『後悔してもしらないわよ』そんな拗ねた姿も思い出される。

 様々な思いを抱えながら、乱馬は、あかねをちらっと横目で見た。いつもと変わらないあかね。が、ふと目が合ってあっかんべーされた。
 …か、かわいくねぇっ!!…あん時きゃ可愛かったのにな…。
 乱馬は、再び深いため息をつくと、授業をそっちのけで、眠りについた。



 …皆して、こっちの気も知らないで……
 中国へ渡ってからの乱馬が心配で、何をしていても半分上の空であった。自分の隣が空白で寂しい。こんなに乱馬の事を心配しているのに、想っているのに…乱馬は一体どう自分の事を想っているのか…いない寂しさから自問自答し続ける毎日。答えは出る事はないのに…。しかし思わぬところ…呪泉洞で彼の本心を感じた気がした。この出来事で、憎まれ口ばかりお互い吐いていたが、これからは自分も頑張れば変われるかもしれない…そう思っていた。が、現実そうは上手く行かない。素直になろうと思っても、今までが意地っ張り過ぎた為にすぐには無理な話。
 …ゆっくりいけばいいよね…
 自分たちのペースで…そう思っていた矢先に祝言騒動。素直には言わないが、心の中では今更乱馬との結婚式に異存はない。しかしそこには乱馬の意思はない。男溺泉を盾に結婚式を承諾させられたのだから。父早雲にとって男溺泉はかっこうの道具になっていた。本人にとっては大事なものなのに…。全くの意思疎通なしじゃ嫌だったから『あたしの事好きなんでしょ?』…あたしはあなたが…という気持ちも込めて、返事を待ったが、あの鈍感には気づいていなかった。
 結局潰れて、更に乱馬と後片付けまでさせられ、散々だったけど、これで良かったのかもしれない、少々残念だったけど、お互いの意思で決めた結論ならば、もっと嬉しい。そう思っていた。

 複雑な思いをしているのに、呑気そうに、ぼーっとしている乱馬を横目で見た。と、向こうもこちらを見ていた。目が合い、今考えてた事を思うと恥ずかしくて、思わずあっかんべーをしてしまった。
 ……表情から"かわいくねぇ"と聞こえてきそう……
 あかねも、深いため息をつくと、授業に戻った。



 こんな色々交錯する、2人の想いを余所に、授業が終わる毎、最悪の場合、授業を受け持つ先生からも、ひっきりなし質問攻めになっていた。そんな状況に、乱馬もあかねも疲れ果てていた。
 そっとしておいて欲しい…そんな思いは誰に届く訳も無い。
 昼休み、パンを買いに行くと言ったまま乱馬は消え、あかねもまた、先生に呼ばれたと言うウソで逃げる様に教室から出て行った。



「…あかね。」「…乱馬」
「考える事は同じだったみてーだな。」
「そうね。だって皆、勘違いして言いたい放題なんだもん。静かになりたくて…。」
 2人は、揃って屋上に逃げ場を求めていた。昨日の祝言騒動に、今日の質問攻め。何も聞かれたくないので、人気(ひとけ)の無い場所をと思っていた。
「だ、大体、祝言は勝手に親父達が仕組んだ事だぜ…ったく冗談じゃねーよな!」
「そ、そーよねっ!だってあたし達、親が勝手に決めただけの許婚だもんね。」
 照れ隠しなのか、相変わらずの言葉が飛ぶ。どちらかが、一歩でも歩み寄れば、上手く行くのに、呪泉洞での出来事があっても、まだ乱馬とあかねは距離があった。
 お互いの距離を置く様な言葉が、沈黙を作る。気まずい空気が、2人の間に流れる。
 そんな時

 ぐぅぅぅぅ〜…
 それを破る様に、見事お腹の虫が鳴いた。

「ご、ごめん…だってご飯食べずに教室出たから…。」
 真っ赤な顔のあかねが、言った。
「ったく、おめぇは、やっぱり色気ねぇな。」
「お腹なるのに、色気も何もないでしょ?」
 あかねが軽く睨みながら、そう言うと、再び

 ぐぅぅぅぅ〜…
 あかねのお腹の虫に答える様に、乱馬も鳴った。

「何よ…人の事…言えないじゃない…。」
 そう言って見た乱馬の顔は、赤くなっていた。
「お、俺だって、飯買う余裕なんか無かったんだ!」
 お互いの顔を見合わせる。
「「………ぷっ」」
 さっきの空気を払う様に、笑顔が戻った。
「なぁ……今日はこのまま、サボッちまおうぜ?」
「え!?」
「腹が減っては、戦は出来ぬだぜ。こんな状態じゃ、授業受ける間、ずっと腹鳴りっぱなしになるぜ?集中出来ないだろ?」
「どーせ授業聞いてないくせに。」
 そう言うとあかねは笑った。
「ったりめーだろ!」
「あのね、威張る所じゃないんだけど?」
「うるせーなっ!で、どうするんだ!?俺は行くぞ。」
 サボる事に抵抗はあったが、あかねは教室に戻っても、また質問攻めに…それも1人で合う事を思うと、決心した。
「あたしも行く。」


 乱馬とあかねは、学校近くのファーストフードでお持ち帰りをすると、公園へ向かった。まだ、昼休み中なので、買う時に特に疑われはしなかった。ベンチに腰掛けて、黙々と食す2人。食べ終わっても、取り留めの無い話をしているだけであった。一通り話して一番お互い、聞きたい事はあった。"自分の事、どう想っているのか"だ。しかし、切り出す事は出来ず、沈黙のまま時間は経っていく。

「なぁ…」「ねぇ…」
 沈黙に我慢できず、思わず2人は口を開いたが、同時だった。
「乱馬、先どーぞ。」
「あかねこそ…何だよ。」
「あたしは…大した事じゃ…。」
「俺も…。」
「「……」」
 再び沈黙が訪れた。


「なぁ…」「ねぇ…」
 2人はその繰り返しをしていた。
 そのうちに、あっという間に、下校時間になっていた。公園の前を同じ制服の生徒が通りがかる。結局、何もせず時間だけが、流れたのであった。
「学校、終ったのか…家…帰る…か?」
「…そうね……あ、かばんっ!」
 2人は昼休みに抜け出した為、カバンを学校に置き忘れていた。
「取りに行かなくちゃ!」
「え?明日でいいじゃねーか。」
「あんた…今日宿題出てたのよ?」
「……」
「忘れてたんでしょ。ね、取りに行こう?」
「ちぇっ仕方ねー…。」
 実際、サボった事もあり、お互い戻りづらい所もあったが、学校へ戻ろうと、重い腰を上げた。


「あいやーーっ!乱馬っ!何してるね!」
 公園を出ようとしたその時、シャンプーが自転車で通りがかり、乱馬に飛びついてきた。
「げっ!!」
 あからさまに嫌がる乱馬を余所に、べったり抱きついているのはいつもの事。
「偶然あるね…やはり私と赤い糸、繋がてるね!あかねとの結婚は間違いね。」
 ぶち壊した張本人であるのに、何も悪びれた様子が無い所が恐ろしい。
 そして横にはあかねがいるのを知っていて、こんな事を言う。
「おや、あかねいたのか?」
 乱馬は渡さない…そういった闘志を燃やす、シャンプーの姿。しかし、あかねは
「先に学校行ってるわよ。」
冷たくそう言うと、すたすた道を歩き出した。
「お、おいっあかね!」
 乱馬はシャンプーをやっとの思いで剥がすと、あかねを追いかけた。
「乱馬、待つね!」
 昨日、祝言未遂があった為、シャンプーもこれで引く訳もない。
「乱馬ぁ…。」
 あかねに追いついた乱馬の横に、シャンプーは腕を絡め、ぴたっとくっついて離れない。

「乱ちゃん!」
 今度はそこへ今度は右京が現れた。
「うっちゃん…」
 この2人が揃うとなると次は…
「乱馬様っ!!」
 小太刀も現れた。
 いつもながらの見事な、コンビネーションに、乱馬も本当に真っ青になった。

「シャンプー、乱ちゃんから離れ!あんたのもんちゃうねんで!」
「右京、おまえに関係ないね!」
「口でわからんなら…」
「腕ずくで…か。」
「臨む所ですわっ!」
 3人が険悪になる中、乱馬は止めに入った。
「お…おい…。」
 そこに渦巻く、乱馬争奪戦の嵐、それを見ていたあかねは
「ばかばかしい…。」
 そう溜息をつくと、一緒にされたくないので、早足で先を進む。
「ちょお待ちぃ、あかねちゃん!逃げるなんてそうはさせへんで!」
 右京に思わぬ事を言われ、あかねは立ち止まった。
「逃げるなんて、聞き捨てならないわね。あたしには関係ない事よ。」
「いや、一つ聞きたい事あるねん。お昼から、乱ちゃんと学校から消えて、何してたんや?」
「別に何もしてねーよ…。」
 まるで学校にいる時と同じ様な質問に、乱馬がうんざりしながら答えた。
「乱ちゃんに聞いてへん!」
 右京のその言葉に、小太刀は叫ぶ。
「な、何ですって!?乱馬様と、天道あかねがエスケープ!?」
「あかねっ!何、乱馬たぶらかしてるか!?」
 今まで、乱馬争奪戦になりそうな雰囲気であったのに、いつの間にかターゲットはあかねに変わった。
「人聞き悪いわねっ!誰が乱馬なんかたぶらかすのよっ!」
「何言うてるか!昨日結婚しようとしていたのは、ヘンなクスリで乱馬をたぶらかしたからある。」
「あんたねぇ…。」
 あかねはシャンプーの、言い掛かりに段々怒りを覚えてきた。
「そうですわっ!でないと、乱馬様が祝言など、するはずございません!」
 小太刀までこの言い草。
「お、おいっ!」
「乱ちゃんは黙っとき!」
「そうね!これは女の問題ね!」
「決着をつけるべきですわ!」
 乱馬を余所に、話がどんどん怪しくなってくる。

「誰が相応しいか…勝負で決めるね!」
「ええで!」
「わかりましたわ!それに異存ございません。正々堂々やりましょう。」
「乱馬の嫁は、強くなくちゃ認められないね。だからあかね、おまえでは納得いかない。」
「何ですってーーっ!」
 言いたい放題のシャンプーに、ついにあかねは切れた。
「言わせておけば…いいわ!あたしも勝負するわ!」
「あ、あかねっ!?」
 あかねの大胆な発言に思わず乱馬は驚く。しかし、あかねからすぐに否定的な言葉を聞く。
「言っておきますけどね、乱馬。あんたの為じゃなくて、あたしのプライドの為の勝負だからね!」
 あかねはいつも以上に熱くなっていた。激しくプライドを傷つけられたのだから。
「あたしをあんな弱者呼ばわりするなんて、天道家の娘として許されないわ!」
「お、おい、でも大丈夫なのか?」
「大丈夫に決まってるでしょ!」
「あかね逃げるなら今のうちね。」
「誰が逃げるのよっ!失礼ね!」
「覚悟出来てるなら…」
 そう言うと同時に、シャンプーはあかねめがけて、蹴りを入れようとした。突然のシャンプーの攻撃に驚き、あかねは寸で避けた。
「何よ!いきなり!」
「もう勝負は始まってるね!」
 そう言うとジャンプーは、息も付かせぬ攻撃をあかねに仕掛けて来た。そして、それに便乗する様に、小太刀も、隠していたリボンを手に持ち、あかね目掛けて打って来た。
「天道あかね、覚悟っ!!」
「悪いなあかねちゃん!」
 右京までが、抱えていた巨大ヘラを取り出すと、あかねへ突進してきた。

「おいっおめーら汚ねーじゃねーか!あかね1人にっ…」
 あかねの置かれている状況…3対1の状態に、乱馬は思わず口を挟む。
「一番の邪魔者消す、当たり前ね。乱馬黙るね!」
「そや!邪魔しんといてや!!」

 女傑族の強いシャンプーに、男勝りの強さを持った右京。極めつけは卑怯では右に出ない小太刀。こんなメンバーが、あかねを襲うとなると、とてもじゃないが、太刀打ちなど出来るはずもない。
 必死で、3人の攻防を避けるあかね。侮辱された言葉に、表には出さなかったが、乱馬への想いに…とそれらが、あかねを奮い立たせていた。しばらくは何とか互角に闘っていた。だが、段々動きの切れがなくなって来る。
「…?か、体が…!?」
 あかねはそう言うと、そのまま倒れこんだ。意識はあるが、立てない様子。
「ようやく効いて参りましたわね!私のしびれ薬が。」
 小太刀はピンとリボンを張ると、液体を染み込ませていた。
「トドメさすね!」
 シャンプーがそう言った時、乱馬は今まで黙って見ていたが、我慢できなくなったのか、あかねの前に立った。
「おめーら…何が正々堂々だ!3人で束になって、あかねを痛めつけてるだけじゃねーかっ!」
「何を言うか、1人ずつ消していく、それの何処が、卑怯か!?」
「そや、乱ちゃんの為の勝負や、乱ちゃんの口出しはあかん。」
「おめーら、勝手にしておきながら…。」
 乱馬の怒りがピークに来た時、あかねが立ち上がった。
「これはあたし達の問題よ!乱馬は…ひっこんでいて…っ!」
 そう言って乱馬を押しのけ、フラフラの状態で前に出た。
 その時、
「スキあり!ですわっ!」
 小太刀はボンであかねを巻きつけると、木の枝にひょいと登ってあかねを吊り上げた。そしてそのまま、地面に叩きつける勢いをつける為、振り子の様にあかねを振ると、乱馬のいる場所とは正反対の方角へ、あかねを放り投げた。その方角は神社の境内の方。境内は、この公園を越えた、遥か下にある。このままでは、ビルの3階から、受身も出来ないまま、落ちるも同然の形になった。
「きゃーーーーっ!!!!!」
 体が痺れて、動かないあかねは、真下に見える境内へそのまま落ちる事となった。
「あかねっ!」
 乱馬は慌ててあかねを追った。


 どーーーん!!
 激しい音が、境内に鳴り響いた。
 もうダメっ!!そうあかねは思ったが、気がついたら、全然衝撃を受けていなかった。
「…あれ?」
 ゆっくり目を開けると、乱馬が下敷きになっていた。着地する体勢には間に合わなかったが、あかねを守るように腕を絡ませ身体を包み込んでくれていた。
「ら、乱馬!?……っ大丈夫!?」
 自分の下敷きになっているので慌てて離れようとするが、ぎゅっと強く抱きしめられた形になっていて、この力から逃れられなかった。
「ちょ、ちょっと乱馬?ど、どうしたの?」
 普段なら照れて、こういう体制からすぐ身を起し離れるのだが、いつもと様子が違う為、恥ずかしくて思わず声が上ずる。体温もどんどん上がっていく。しばらくすると、あかねの肩を持ち、乱馬は、あかねを支えながらゆっくり身体を起こした。しかし何も言わない乱馬に恥ずかしさから一転して不安になる。
「あ、ありがとう。……ご、ごめん。」
 あかねがそう言うと、乱馬はため息をついた。

 "邪魔しないで"何て言っておきながら、助けてもらって気まずい思いになるあかね。乱馬のため息が、自分への呆れかと思ってしまう。

「あの…」

 そう言いかけて乱馬が呟いた。
「良かった…。」
「え?」
「頼むから、無茶すんなよ。もうあんな想い…嫌だからな。」
 呆れた為、黙っていたのかと思っていたら意外な言葉。見た事のない辛そうな顔に責任を感じる。
「…ごめんなさい……」

 呪泉洞で泣いている乱馬をみた。自分の為に泣いている…負けず嫌いでどんな時も絶対涙を見せないであろう彼が。乱馬の言葉が、涙が、気持ちが自分の心へ流れ込んで来た。その姿から自分は彼に必要とされている、そう初めて感じた。尤もその本心は聞く事はなかったし、今日の様に3人娘へ意思表示をした訳でもなく、乱馬自体も優柔不断だった為、その時の自信はすぐになくなってしまったが。
 しかし鈍感なりにも以前感じた乱馬にとっての自分への気持ちが、この一言によって自信を持っていいような気がした。何も言ってくれなくて解らない気持ちにモヤモヤしていたが、自分だって何も行動をしていない。そして、今日折角起こした行動も、こういう結果になってしまった。
 …勝負で決めるなら、3人娘の強引さと変わらない。言葉でいわなくちゃ…

 一方乱馬は、自分がはっきりさせない為、あかねをまたもや危険にさらした事へ、自己嫌悪に陥っていた。たまたま境内に落ちるあかねを、捕らえる事が出来たが、あとちょっとでも遅ければ、あかねを地面に叩きつける事となった。
 …あかねの気持ちがどうであろうと、俺がはっきりしないからこんな事に…。
 自分があかねを守って来たという気持ちもあったが、実際、あかねに守られている部分も大いにある事は気付いている。それを存分に知らされたのは呪泉洞での事だった。あかねを守る為にも、あの時湧き上がった気持ちをあかねに言う事で、無茶をしないで欲しい事を伝えようと思った。そして3人娘にも判らせなくては…。

 お互いの気持ちが整理出来たのか、黙って顔を上げる。とお互いが、真っ直ぐ見つめあう形になっていた。今までこんな風に正面で向かい合えた事はない。お互いが相手のその瞳に吸い込まれる様に魅入ってしまっていた。見つめればみつめるほど気持ちが熱くなる。
 …この想いを受け止めて欲しい!!……
 決意し口を開く。
「あかね…あの…俺、あかねの事…」「乱馬…あ、あのね、あたし……あ、あたしね。乱馬の事…」


「乱ちゃん!あかねちゃんと何しとるんや!」
「あかね!乱馬から離れるよろし!」
「まぁ乱馬様!天道あかねなど、ほっとけばよろしいじゃございません?ささ、わたくしと一緒に参りましょう!」
 言いかけたその時、いつの間にか、境内へ降りてきた3人が、乱馬とあかねを見下ろしていた。先程の勝負はどうしたのか、その事についておくびにも出さず、相変わらず乱馬争奪戦を勝手に始めていた。折角の乱馬とあかねの告白の決心を見事打ち破ってくれたのは、3人娘。本当に見事な邪魔しっぷりだ。

「…あいつら……」
 呆れてモノも言えない状態の乱馬。しかし、そんな事3人娘は知る由も無い。乱馬のそばへ、あっという間に近寄る。
「私と来るよろし!」
「うちとお好み焼き食べよう!」
「わたくしと2人きりになりたいと乱馬様は言ってますわ!」
 言いたい放題の3人にあかねは溜息をついた。

「勘弁してくれ!!」
 先程、はっきりさせる…そう決意しておきながら、乱馬は逃げていた。言うスキ等与えない、最強の3人娘。その言葉は何処へやら…。
 逃げる乱馬に、追う3人娘。
「全く…しょうがないんだから…!!」
 先程の告白が出来ていれば、そこへ介入していたのかもしれない。あかねはそう思うと、笑いが出てしまった。

「まだ、これからよ……」

 そう言うと、少々痺れが残るが、ゆっくり立ち上がった。と、同時に急に体が軽くなる。
「しっかり捕まれよ!」
 気が付くと、あかねは乱馬に抱きかかえられていた。
「ら、乱馬っ!?」
「な、何だよ。しょーがねーだろ?おめー体に痺れ残ってんだろ?」
 そう言って赤くなりながら、そっぽ向く乱馬。その行動に嬉しくなったあかねは
「ありがとう…」
そう呟くと、肩をきゅっと持った。

 3人娘を撒く様にして帰る乱馬とあかね。
 延長戦は始まったばかり。
 まだまだ勝負はこれからである。



 おまけ
 結局かばんを取りに戻れず、宿題が出来ないまま、翌日を迎えた2人。
 そして乱馬、あかね揃って昼休みから消えた事への、質問攻めに合う事は、言うまでも無い。



 えっと…公園と境内の位置関係とか色々…判り難いですよね…。スイマセン

 スゴイ昔に書いて、ほったらかしになってたものです。
 祝言翌日に、騒動が無い訳がないと思って、学校のシーンだけが書きたかったのに…。へなちょこ格闘してます。
 そして乱馬、3人娘に弱すぎ!ダメダメだわ…。

 ここで告白させたくなかったので、強引に終らせた私…ははっ…(汗
 心理も、原作の台詞も勝手に私の解釈で書いてます。
2002.12.15




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