理 由 (わ け)


「天道さん、お嬢さん方、相変わらず美人ねぇ。」
「いやぁ。そんな事ないですよ。」
「特にあかねちゃん、日に日に奇麗になって…お父さんとして心配ねっ!おほほ〜」
玄関先には、回覧板を持って来た、近所の奥さんがいる。
たまたま私が出たのだが、捕まえられてしばしの世間話に付き合わされた。

"いやぁ。そんな事ないですよ。"
と言うのは建前で、本音は
"いやぁ私と母さんの娘だからねー。"
等と、思うのは親バカであろうか?娘の事を誉められると、それは嬉しくなってしまう。
それにしても、あかねはそんなに変わっただろうか?




「なぁに、お父さん?あたしの顔何かついてる?」
「へ?あ…い、いや、あはははっ!」
夕食中、近所の奥さんの言葉を思いだし、私は思わずあかねを観察していた。
あかねは、訳の判らないといった表情を浮かべこっちを見ている。
何故見ていたのか…理由は、言えない。

「い、いやー。乱馬くんいなくて寂しくないかと思って。」
私は誤魔化す様に、今修行でいない彼の事について聞いてみた。これもまぁ、気になる訳で…。近所の奥さんの話が無ければ、それが一番気になるのは確かなのだ。
この2人、相変わらず喧嘩ばかりで、最近益々将来が心配で溜らなかった。世間で言う「バカップル」を少しは見習って欲しい……なんて思っている位である。そう感じる私は重症だろうか?

「何であたしが、寂しがるのよっ!ごちそうさまっ!」

誤魔化すつもりであったのに、あかねを怒らす話題であった事を、言ってしまってから気が付いた。
あかねはそれに触れられたくないかの様に、箸を置いて、自分の使用した食器を流しに持って行った。

あぁ…しまった……。

最近、乱馬くんの話をすると、すぐに、はぐらかす様に消えようとするあかね。…イヤ乱馬くんもそうだが。
2人共、照れ隠しである事を私は祈りたい。
溜息を付きながら、箸を動かし始めると、なびきが口を開いた。

「お父さん、昼間近所のおばさんに言われた事、思い出してるんじゃないの?」
「えっ?なびき聞いてたのか?」
なびきの言葉に思わず箸が止まった。
「それで、あかねの事観察でもしてたんでしょーー。」
さらっと、私がしていた事を言い当てる次女なびき。誰に似たのか、相変わらずするどい。

「何、それ?」
あかねは部屋に戻ろうと、廊下に出かけていたが、その発言に歩みを止めた。
「途中からしか聞いてないけど、何かねぇ……最近あかねが益々キレイになった…とか何とか…。近所のおばさんが言ってたのよ。」
「えっ!?」
その言葉に、あかねが呆然としている。
「そうね。あかねちゃん前から可愛かったけど、最近、キレイになったって感じよね。乱馬は幸せ者よね。」
のどかさんは、近所のおばさんの発言に同調する様に、にっこり笑って言う。
のどかさんまでも、そう言ってくれる。母の様に慕うあかねと、実の娘の様に可愛がってくれるのどかさん。あかねは将来、嫁姑問題とは無縁だと思うと、私はそれだけでも、安心である。
まぁ……2人が結婚してくれればの話だが。
そんな事を思っていると、なびきが気になる事を言った。

「それって、きっと誰かさんのせいよね。ねぇ、あかね?いつもなら隣にい…」
「な、何の事よっ!!そ、そんな事ないもんっ!!」
しかし、肝心のなびきの言葉が言い終わる前に、あかねはそう言って顔を赤くすると、走って逃げてしまった。

「なびき、からかちゃダメよ。」
「はーいお姉ちゃん。でも、我が妹ながら、可愛いんだから。」
「そういう所も、好きなんじゃないかしら。」
そう言うと、女性3人、笑いが起こった。
判らない…と顔をしたのは私と早乙女くんだった。


3人の会話が何を示すのか……
「なびき!今の話って…」
私は、必死になって聞いた。
「え?何?」
「今の話はどういう事かね!?」
「わ、判らなかったの!?」
そう言いながら、なびきは呆れた顔をした。
「だから、教えなさい!!」
「いいけど……」
そして、そう言うと同時に手を出した。
「500円!」
「「えっ!!」」
「聞きたいなら………ね。」
なびきは、不敵な笑みを浮かべた。
気が付けば、かすみものどかさんも、もう台所で片付けを始め、なびきの行動が見えていない。ちゃっかり、そんな所でも稼ごうとする娘。
情けない…そう思いながらも500円を払う私。

「毎度〜。」
「で?」
私は急かす様になびきの方へ体を乗り出す。
「あのね、恋をすると、綺麗になるっていうでしょ?自然にキレイになるのが女なのよ。それも恋愛が順調であればある程ね!まぁ誰かさんと両思いになって益々磨きかかったみたいね。」
「その誰かさんて……」
「誰さんって乱馬くんに決まってるでしょ?」
「ほ、ほんとうかねっ!!」
「お父さん見てて判らないの!?呆れた…。」
「そうは言うがなびきくん、2人は喧嘩ばかりで…」
私の気持ちを代弁する様に、親友早乙女くんは聞いた。
「お、おじ様まで……」
「そんな素振りは、全く見えないじゃないかっ。」
そう言うと、またもなびきは呆れた表情をする。
「そんなの、人前でイチャついたり出来る2人じゃないでしょ?でも2人きりだと、違うのよね〜。」
なびきはそう言うと、ニヤっと笑った。
その表情に、我が娘であるのに、うっかりした行動を取らない様、気を付けないと…と気にしてしまった自分が悲しい。

イヤイヤそれより、
「どう違うのかね?なびき。」
それを聞かなくては。
「まぁ、あの2人の名誉もあるし、これ以上は言えないわ。けれど、確実に前に進んでる事は間違いないわよ。聞きたければ本人に聞けば?じゃね〜。」
そう言うと、去って行った。
それだけの情報…500円じゃ高すぎる。結局2人は恋人同士。それを信じれば良いのか?事実なら、私にとって、嬉しい限り。
それにしても、2人きりならいつもとどう違うのか等と、自分で聞くのは無理な話。それこそ素直に話す訳が無い。
私は腕組するとしばらく考えた。

いやっ、いつまでも、2人の関係がはっきり判らないのも、家長として…許婚を決めた本人として、いかん!
乱馬くんが帰って来たら、はっきり聞いてみよう!よしっ!!

私はそう決意すると、乱馬くんの帰りを待った。




後日……
「あかね、乱馬くん、君達はどこまで進んでいるのかね?」
早乙女君と並んで、2人に向かって真剣に問い掛けた。


どかんっ!!

気が付けば私は、あかねに彼方に飛ばされた。
並んで早乙女君も飛ばされている。






「早雲さんったら……その聞き方じゃ…ねぇなびきちゃん。」
「本当ね。おば様……まぁったく、怒らせる様なもんじゃない。その質問。」
「お父さん達ーー早く帰って来てねー。」

3人がそんな会話をしているとも知らず、

何故だ?あかね?私は真摯に聞いているのに…。

私はどう聞けば良かったのかと、飛ばされながら悩んでいた。



 
書いたまま放っていたのを思い出したので、ちょっと手直し。
 でも、なんだろう…これ…。こんな話だったけ?
 何が書きたかったのかイマイチ…(汗
2003.2




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