ビ デ オ


ついに手に入れてしまった……。
私は居間を見渡し、皆がいない事を確認すると、誰も帰って来ません様に…そう祈りながら、カシャン…と1本のビデオテープを入れた。
何だかイケナイビデオを見る様な気分でドキドキする。

"presented by NABIKI"

バックミュージックと共に、テロップがでかでかと表示され、それらがフェードアウトすると同時に、居間で追いかけっこしている二人の姿が映し出された。

『乱馬〜っ待ちなさい!』
『へへーんだ。捕まえてみやがれっ!』
『あんたって人はーーーっ!!』
『あかねみてーな鈍いヤツになんざ捕まらねーよっ!!』
『誰が鈍いですってーーーっ!?』

竹刀を振り回しながら追いかけるショートカットの女の子に、逃げるおさげ髪の男の子。二人は居間にあるテーブルの周りをくるくると追いかけっこしている。
たったそれだけの映像なのに、私の胸はときめき始めた。
話にはよく聞いていた二人の姿が、イメージではなく、今まさに目の前で繰り広げられていたのだから。
それにしても、こんな映像、格闘家の二人によく気がつかずに隠し撮りなんか出来たものだわ…と感心する。

「ううん。なびき叔母さんだから侮れないんだったっけ?」

私は一人でそう呟くと、ビデオを見る事に没頭した。


私が今見ているのは秘蔵のビデオ…高校生時代の二人。お父さんとお母さんの姿だ。
何でこんな物を見ているのかと言うと、私は身内や、両親の友達からいっぱい聞かされた高校生時代に、素直じゃないと言われた二人の恋愛模様にスゴク興味があったから。だって素直じゃない性格は、私にも受け継がれていているから。
で、前に昔の二人を見てみたかったなぁ…なんて話していたら、なびき叔母さんがこっそりその映像、譲ってあげるて言ってくれた。確かに譲って貰ったんだけど…タダじゃなかった。
今日、ビデオを取りにがてら、久能家に遊びに行ったのだけど、行ってみればお手伝い賃としてあげるという条件つきだった。全く…身内というのに、なびき叔母さん、昔から容赦ない。
それにしても叔母さんからは、"昔の隠し撮りだから、くれぐれもお父さんやお母さんに見つからない様にね"なんて言われたけど、隠し撮りだなんて……なびき叔母さんこんな事してどうしてたのかな?



そんな事考えながら、画面を見ていると、お父さんがあっかんべーをし、そんなお父さんをお母さんが捕まえようとするシーンが映し出されていた。
本当に子供みたいに居間でどたばた騒ぐ二人。
喧嘩から何か発展するのかと期待していたけど、繰り返される追いかけっこのシーン。
このビデオ、喧嘩だけじゃない……そう思いながらも、若い二人が珍しくて目が離せない。


『ったく!二人の時位、素直になれよなぁ!!かわいくねぇっ!』
『かわいくなくて結構よ!変態っ!!』
『んだとーっ!!』
『何よっ!!!』
ときめきながら眺めていたけど、エスカレートする言い合いに、私は段々ハラハラし始めた。これが皆の言う心配だったのね……なんて思ったその時、
『きゃっ!』
お母さんがつまずいて転びそうになった。
私も思わず「あっ」と声を上げ身を乗り出した。
すると
『あかねっ。』
そう呼んだと同時に、テーブルを挟んだ反対側にいたハズのお父さんは、あっと言う間にお母さんの傍に移動すると、前のめりになっていたお母さんを抱きとめた。
お父さんの見事な身のこなしのお陰で、ヘタしたらテーブルに激突っていう危機を避けた。
画面の中の二人も、私もほっとする。
『ったく、気を付けろよな。』
『ご、ごめんなさい。』
そう言うと、お父さんの胸に頭をうずめていたお母さんが顔を上げた。
二人の視線が合うと、至近距離にいる二人の表情は、さっきとうって変わった。
『…もういいだろ?』
優しく笑いながら、お父さんはそう言う。しかしお母さんは、
『ううん。許さない。』
ぷくっと頬を膨らますと、視線を反らした。
その行動は、我が母ながら、すんごく可愛い!!
『なー。もう機嫌直せよ。』
『イ・ヤ』
何をしたのか知らないけれど、お母さんが一向に許そうとしない姿勢に、お父さんはしばらく困った顔をしていた。が、何か思いついたという表情をすると、再び口を開いた。
『…じゃーおめーが行きたいって言ってた店に付き合うから、な?』
『本当!?』
余程そのお父さんの一言が効いたのか、スゴク嬉しそうな笑顔で、お父さんの方へ振り向くお母さん。その姿にお父さんは吹き出すと、
『ゲンキンなヤツ。』
そう言って優しそうに笑うと、お母さんの頭をくしゃくしゃに撫でた。
お母さんは照れくさそうで、でも嬉しそうにしている。
それにしても、さっきの喧嘩の勢いはどこへ行ったのか。
何で喧嘩していたのか判らない位…イヤ私は何で喧嘩してたのか判らないんだけど、これがきっかけで急に仲良しモード。

「し、信じられない。」

この展開の早さに呆然と見ていたら、二人は見つめあったまま、動かなくなった。
映像だけなのに、二人の気持ちが伝わって来る様な感覚にみまわれ、何だか体が熱くなって来た。
も、もしかして…ラブシーン!?ど、どうしよう……。
見たいような、恥ずかしいようなと、画面から顔を反らしたが、いつの間にか視線は、TVの方へ向いていた。

ごくり…

縮む距離に、自分の事じゃないのに、うるさい位高鳴る鼓動。
(キャーッ!!!!!)
興奮状態で事を見届けようとしていたその瞬間、








"続く!!"





と大きなテロップが出た。

「へ?」

突然の続くの文字に、固まる私。

「つ……続く!?」

折角見届けようと思ったのに……。
ラブシーンの矢先にプツンと切られた映像。

「な、なびき叔母さーん!それはないんじゃないのぉぉ〜!?」

私は思わずそう叫んでしまった。







"続く"のテロップを目にしながらしばらく固まっていた私。しかし、最後まで行ったのか、ビデオは自動的に巻き戻しを始めるとその音で我に返った。
そして"はぁ…"と一つ溜息が出ていた。


ビデオに納められていた二人の姿は、話しに聞いていた通りのものだった。喧嘩だけは。
物心ついた頃から周りが教えてくれた二人の馴れ初め。
十六歳の若さで婚約者を決められ、何かにつけてはいっつも反発しまくっていた二人。でもいつの間にか惹かれあい、お父さんもお母さんも互いを守り合う時だけは、臆面もなく素直な想いをぶつけ合っていたらしい。傍から見れば完全な両思いだと判りながらも、しかし普段の生活の中で恋人としての行動が全く見えなかったので、結婚すると二人できちんと言ってくれるまで、本当にこの二人、上手く行くのか…と心配させていたみたい。
ビデオを見れば何の心配も感じないけど…そっか当時は周囲にはビデオのあの喧嘩のシーンしか、見せつけず、でも二人の時だけは素直な心を開いたのかもしれない。
いつも傍にいて、本音でぶつかりながら支えあって来た二人。そんな恋が出来たなんて、羨ましい。

私なんて……

私は昨日、彼氏と喧嘩してしまった事を思い出した。本音を曝け出すなんて恥ずかしくて私にはムリ。それで素直になれずに喧嘩してしまった。
本当はお母さんにも相談したいけど……相手が良牙おじさんとこの………そう思うとこれも恥ずかしくて中々口に出せなかった。お父さん達の良く知った相手だし。
そんな事考えながら、一人居間でもじもじしていたら、
『乱馬〜っ待ちなさい!』
『へへーんだ。捕まえてみやがれっ!』
ビデオは最初に戻って動き出していた。



"いいな……"
視界に入る二人の仲の良い姿。見ているうちに羨ましい気持ちで一杯になって来た。
どうしたらいいのか本当は判っている。ただ行動に起こせないだけ。
『ったく!二人の時位素直になれよなぁ!!』
画面の中のお父さんの言葉が胸に響く。
……私も、もう少し素直になろう…かな……。
私はそう呟いたと同時に、ビデオを止め部屋に走り出した。



興味本位で見ていた両親のビデオは私に思わぬ形で働いた。
あのビデオの二人の様に素直にはまだまだなれないだろうけど、ちょっと素直になったら、彼氏とは上手く仲直りが出来た。
ありがとう…お父さんお母さん。私は心の中でそう呟き、それと同時に、今後の為にも…そしてなにより興味本位で、もうちょっとビデオを見てみたい気にかられた。
でも、この続きを見るにはまた頑張ってなびき叔母さんのお手伝いしなきゃダメなのかな?両親のラブシーンを見るが為にって……な、なんかバカみたい……カナ?

そう思いつつも気になって仕方ない私は、またなびき叔母さん家へ遊びに行こうと決意するのであった。
恋愛勉強、恋愛勉強と言いきかせながら……。






おまけ
その夜、ビデオの事がお父さんやお母さんにバレて、しっかり絞られた。
何故ならドンクサイ事に、ビデオを抜き忘れ、ひょんなきっかけで再生してしまったから。
お兄ちゃんは、私がなびき叔母さんに借りに行く事言った時『そんなビデオの何がおもしれーんだ?』と言ってたくせに、大爆笑で最後まで見ていた。続き借りて来いよ〜って言ってたけど…お父さん達のあの剣幕ではムリかも……。
でも私はお父さんの娘。手に入れるには手段を選ばないのよ!……多分。




娘の視点。
 両親のラブシーンて、私は出来たら見たくない…。
 "愛してるよー!"、"私もvv"なんて子供の目の前で言う、ラブアホ夫婦を見飽きとりますのでこれ以上は(笑)
 けど、乱馬とあかねの子供ならすんごく興味あるかも(笑
 因みに私の中の乱×あ家族は息子に娘の兄妹なイメージなのであしからず。

 それにしても何かこんな中身すっからかんネタしか浮かばないんだけど…。いや元々中身あるもん書いてないか(笑
2003.4.13




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