線 香 花 火


−来年も一緒に見ようね…
なんて約束したのに、その肝心の約束の相手はいない。

どーーん!
遠くから花火の音が、鳴り響いている。

今日は花火大会。
家族達はそれぞれ約束をして、出かけて行った。
あかねは家にたった一人取り残され、縁側に座って音だけを聞いている。
『きょ、去年約束しただろ?行こうぜ。』
『うん!!』
テレながらも昨日そう言って誘ってくれた乱馬。その乱馬と行くはずだった。

どーん!!どどーん!!!
花火はクライマックスなのか、益々派手に打ち上げられる。
何十連発もの音がして、しばらくすると止んだ。

「…もしかして、終わった…?」
待てども花火の音は消え、辺りはすっかり静かになった。
「はぁ…乱馬のバカ…もう、終わっちゃたわよ…。」
もしかしたら、もうすぐ帰ってくるかもしれないからと待っていたが、期待も虚しく、折角着せてもらった浴衣も無駄に終わってしまった。

「浴衣も着たのに…ばかみたい……」
"色気がない"と言う乱馬を見返すべく着た浴衣も、見せる相手がいない。
ため息交じりで空を見上げる。
先程まで形は見えなくとも、上がるたび空が明るく輝いていたが、今はもう星の明るさ以外には何も無い。
こうしていても、花火も終わり、乱馬も帰ってくる様子もない。

「もう着替えよう…」
立ち上がり、そう呟くと同時に待ち人は帰ってきた。
「あかねっ!!わりぃ…!ホントに…!」
息も切れ切れに、ぼろぼろで戻って来た乱馬の姿は、事の大変さを物語っていた
。が、乱馬はあかねの艶やかな姿を目にして、自分が大変だった事を忘れ、今日を台無しにした事を改めて悔やんだ。

「約束やぶって悪かった…」
「謝られても、もう花火終わっちゃたわよ!全く…。楽しんだんでしょ?あたしがこうして待っている間も、シャンプー達と!!」

相変わらず、乱馬を狙う3人娘達は、乱馬の都合等お構いなしに、"花火大会へ一緒に行く権利"などと乱馬を巻き込んで、今まですったもんだしていた。
3人娘に追いかけられている、とあかねは解っているだけに、不安いっぱいだったが、"行こう"と言ってくれたのは乱馬だから、ここで待つ事が出来たのだった。
乱馬は乱馬で何としてでも帰ろうと必死に頑張ったが、攻防虚しく、ようやく開放された(逃げられた)のはもう花火大会も終盤を迎える頃だった。

「別に楽しんでたわけじゃねーよ!撒くの大変だったんだ!」
「逃げるのにこんなに時間かかるわけ?どーせ花火でも見ていたんじゃないの?もう知らないっ!」
追いかけられてそれどころでは無かったのは百も承知だが、怒りに任せて出てしまった言葉。
一人待っている時は寂しさが勝っていたが、乱馬の顔を見ると怒りが湧いてきた。
「見てねーよ。それどころじゃなかった!!今日はいつも以上にしつこかったんだよ!大体…」
「だらしないんだからっ!」
これ以上ここにこうしていても、怒りがおさまるわけではない。
益々ヒートアップしそうなので、あかねは乱馬にふいっと背を向け、部屋に戻ろうとした。
「お、おい、待てよ!悪かったって!ほらっ…」
そう言って、あかねの前に立ちはだかり、差し出したビニール袋。
覗いてみると中には線香花火がたくさん入っていた。
線香花火しか入っていない。
「何これ…こんなので…。それに何で線香花火しか…」
「行くぞ!」
言い終える前に、腕を引かれ、されるがままに外へ出た。
「…ちょっと!どこへ…?」
「それ、花火しに行こうぜ…。行けなかった変わりに…。」
「これで機嫌とろうなんて…」
「うるせぇ。」
なかば強引に連れ出され、そうは言うものの、2人で花火をしようと線香花火を買って来てくれた事は、内心嬉しかった。

着いた場所は昨年見つけた特等席。
人も少なく、邪魔される事無く、静かに見られる場所。
本当なら今日もここから花火を眺めるハズだった。
しかし今年は線香花火のみ持ってやって来る事となった。

「ほらっ」
乱馬は線香花火をあかねに渡すとマッチで、そっと花火の先へ火をつけてやった。
「どっちが長持ちさせられるか競争しよーぜ!」
寄り添って線香花火をしていたら、普通なら雰囲気も出るはずだが、ムードよりも勝負。
元々乱馬にムード等求めていなかったあかねも、元来の負けず嫌いさで
「負けないわよ!」
ついムキになり、結局ムードも何も無く、いつしか戦っていた。

線香花火の音だけが響くなか静かに戦う二人。

「ったくおめーは相変わらず不器用だな!線香花火もできねぇのか?」
しばらくすると乱馬が急に声をかけてきた。
余りに早いペースであかねが線香花火を消耗していくのに、痺れを切らしたのだ。
「ちっとは丁寧にだな…気持ちを込めて…」
「な、何よ。うるさいわね!何の気持ちよ。大体何で線香花火しか…」
派手な花火の中にある、線香花火であるからこそ、引き立つ美しさ。
しかし乱馬の持っている花火は、本当に見事に線香花火だけ。
「うるせー。それよりおめー、上の方持ち過ぎるから、揺れてスグ落ちちまうんだよ。
この辺を持ってだなー。ま、見ときな。」
そう言って火をつける。
じじじ…とノスタルジックな音をさせながら、火の玉がだんだんと大きくなる。
あかねはふと、乱馬の顔を見た。
花火という遊びをしているだけなのに真剣な眼差しで、火の玉を落とさない様に、優しく扱っている。
何の気持ちを込めているのか、火に照らされたその表情がいつになく優しい。
表情に吸い込まれ、あかねは乱馬以外に目が入っていない自分がいる事に気がついた。

「あぁーっと!惜しい!!新記録が…っておめー見てたか?」
「へ?」
花火よりも乱馬を見ていたあかね。『乱馬を見てました…』等言える訳もなく、「ご、ごめんなさい。」
素直に謝る。
「まぁ…いいけど?ほら続けるぜ!」
そう言って花火を受け取ると再び じじじ… と没頭した。

じじじ…
じじじ…
「線香花火って何だかはかないわよね。キレイだけど寂しい。」
2人で花火は嬉しい。が、音も、花火の開き方も静かな線香花火。
すればするほど寂しく感じたあかねが、突然口を開く。
(はかない…花火だけでなくあたし達の約束みたい…。)

「なぁ…」
と、乱馬が口を開く。
「線香花火って
『この線香がなくなるまではお前と相手をしよう』
って由来があるんだぜ。」
「へぇ…そうなの。」
「そう。」
そう言ってそれ以上何も言わず黙る。
口を開いたと思えば、由来の話。
「で?」
「で?って……。」
「何?」
「何って…ニブイな。」
「誰がニブイのよ!」
「考えろよ…。」
「……。」
しばらく考えるが、わからないあかね。
「ねぇ…何よ。わからないわよ。」
「じゃーいい。」
再び線香花火に没頭する乱馬。
「気になる!」
「もういい。」
「良くない!何なの。」
あかねは乱馬の襟元を掴んで、首を振っている。
「く、苦しい。わ、わかった!!
だ、だから、線香花火だけだったのは、花火が続く間は、由来の通り…そう言う事だってんだ。」
むせながらそう言うと、乱馬はぷいと顔をそむける。
「…それって線香花火がある間だけは相手してやるって事?」
何だか偉そうな発言に少々むっとするあかね。
「…ちげー……!あかねの線香花火が続く限りは俺はおまえと …俺のが続く間は…ってもう少し考えろよ…」

本来なら誰にも邪魔されず見られたはずの花火大会。
それに変わった2人だけの時間が欲しかった。等と言葉では素直に言えないので、
前に知った線香花火の由来をちょっとひねった事で意思疎通を図ろうと企てた。
が、由来あの一言では、ニブイあかねに限らずさすがに通じず、結局説明する乱馬。
通じなかっただけに、余計に恥ずかしくなり、ガラにも無い事したと思っているのか、火のせいだけではなく、顔が真っ赤になっているようだった。

「へーそれで、長く続きます様にって気持ち込めてくれたんだ…。でもちょっと強引じゃない?」
あかねは約束をやぶられた仕返しに、笑いながらちょっと意地悪を言う。
「るせー。…粋なはからいが、わからねーやつだな…」

「…ねぇ、線香花火の間しか相手してくれないの?」
「へ?」
「線香花火が終わったら、こういう時間はないの?」
(線香花火が続いている間はあなたはあたしだけの、あたしはあなただけの相手…。
お互いがお互いの専属…。そういうことなんだよね…。
ねぇ…でも線香花火がなくても、そうあって欲しいんだけどな…)
そういった気持ちが素直に言葉として出た。

「…それはだな、つまり、きっかけであって…別に線香花火が終わったら、最後というわけではなく…」
充分恥ずかしい行動に出ておきながら、いざ言葉で表現しようとする方が難しい乱馬。
そんな乱馬にあかねは
「嬉しいよ。ねぇ、続きしよっ。…気持ちこめながら。」
そう言いながら、乱馬に線香花火を渡す。
まだまだあかねの方が素直な関係。
真っ赤になりながらも、嬉しそうに受け取る乱馬。
「お、おう…。」
乱馬の意図を知る事で、ゲンキンだが、あかねは先程より慈しむように火の玉を扱う。
(今だけは誰にも邪魔されない…、あたしだけの専属。長く一緒にいられる様に…)

(また、誰にも邪魔されたく無いときの為に、線香花火置いておこうかな。2人だけしかわからない合図…になるよね…。)

線香花火…夏の大切な思い出の一品となる。



 期間限定、暑中お見舞いサイト用に作ったものです。なのであっと言う間に消えるはずでした。
 が、な、なんとひなたぼっこの清華様が貰って下さって、期間限定サイト消えても生きてました…感謝vv
 夏なのでやっぱ花火ネタを入れたい!そう思った時に、線香花火の由来の事思い出して…。
 厳密に言うとちょっとニュアンスが違うので、少々強引ですが…(汗
 数少ないしんみりものですが、どうでしょうか…?
2002.8.3

「ひなたぼっこ」は閉鎖となりました。
復活されるときは一之瀬までご一報ください。




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