面 接


教師生活10数年。
幾度も面接官を経験してきたが、今年ほど大変な年はない。
なんせ我校の志望率が、今までにない数字を見せたのだから。
嬉しい悲鳴だが、一体何が…不思議でならなかった。
しかしそれは面接を始め、数人の意見であっという間に解決を見せた。

また次のヤツも、同じ事を言うんだろうな。
俺は繰り返し続けられる、同じ様な返答を聞くが為に次の受験生を呼んだ。

「次の方どうぞ。」
「失礼します。」

礼儀正しく入って来た男子生徒は、目をキラキラさせながら俺達面接官の前に来た。

「かけて下さい。」
「はいっ。失礼します。」

丁寧に一礼をすると、姿勢正しく座る。
それを確認し、やっぱりこれからだな…そう思い最初の質問を投げかける。
といっても返って来る答えは大体判っている。

「えーではまず、我、風林館高校を志望した訳を聞かせて下さい。」
「はい。貴校は自由な校風でありますので、その中で色々な事を考え、チャレンジ出来れば良いと思っております。」

まぁそうだな…。皆そう言うんだよな。それと、

「又、卒業した先輩から伺ったのですが、貴校では世間では余り無いような、貴重な体験が様々出来るという事にも魅力を感じました。」

出た……これだ。
今年の中学の担任は、面接練習の時この発言を止めないのだろうか。
学生によって色々言い方は違うが、どうやら皆これを楽しみにしているらしい。
その為に来たいというのが、言葉に出なくてもほとんどが表情に滲み出ている。
貴重な体験……。

「例えばどんな事かな?」
「イベントが多く、特に格闘の大会が模様されるのを聞き、僕も格闘をしていたので参加したいと思っています。」

今までも色々聞いたが……おいおい…格闘大会って……一体どんな伝わり方しているんだ?
たった一人が…いやそれを取り巻く人間が勝手にここに集まって暴れているだけなんだがな…。
全くあの生徒が来てから、校舎が幾つあっても足りない位、破壊されてる。
あいつより強いなら、止めて欲しい位だ…あの早乙女乱馬を。

「スポーツも盛んで、又不思議な生き物にも出会えるチャンスがあると伺いました。」

これも聞く文句だな。
助っ人ばかりして、スポーツを盛り上げてくれたのは確かに早乙女だ。
まぁ余り色々と出すぎると、協会で問題になるから、今はコーチ的な役割を果たしているが、教え方が良いのかそのクラブは成長を遂げているらしい。
その裏で天道なびきが早乙女のマネージャーをしながら、稼いでいるという噂も聞いたが。あくまで噂だが。あの生徒だけは敵に回したくないな。
あぁそういえば、あの久能も剣道部を強くしていたな。変態だが。あ…関係ないか。
それにしても不思議な生き物…まさかあの早乙女の変身の事、言ってるのか?
確かに俺が生きてきた中での一番の衝撃があれだったな……。
いや、あいつを取り巻く連中も、不思議生き物もいたような気がするな…。
1頭身しかないじーさんとか、パンスト巻いたヤツとか…あと……。


俺は生徒の質疑応答を繰り返す度、今まであった騒動を頭に巡らせていた。
来る生徒、来る生徒が同じ点に興味を持っている。
この歳で学校を明確に選び、目標を持っている人間は一握りだから、仕方ないとはいえ、面白みがない。
結局、決めてはどんな人間か、何をしてきたか、何がしたいか…そこ以外で見る場所はないが、皆きちんと表現出来る訳ではない。
そういった点では、問題児とはいえ早乙女は"格闘を極める"としっかり目標を持ち、己を鍛えている姿は中々立派だと思う。




そんなこんな質疑応答が、何時間も何百人と繰り返され、開放された時にはすっかり日が落ちていた。
終ってみれば、いつも以上の志望率の裏に隠されたのが、全て早乙女存在だったなんて、先生方と"複雑だ…"なんて疲れながらも笑いあった。
とりあえず職員室にでも戻ろうと、他の先生方と面接室から一歩出たその時、

「乱馬〜っ!!待ちなさい!!」
「鈍いおめーになんざ捕まらないぜっ!!」
「誰が鈍いのよっ!」
「たった今、俺を追いかけてるヤツ以外いねーだろ?」
「ぬわんですってーーーっ!!」

早乙女と天道あかねのやりとりが遠くから聞こえてきた。
いつも繰り返される2人の喧嘩。

「またやってますね…。」
「そうですね。」
「実際どうなんでしょうね。あの2人。一つ屋根の下に暮らしている訳ですし。」
「そうですな…あははははー。」

隣で他の先生方が、そう言って会話を始めた。
"あの2人はどうなってるんだ"なんて言うが、俺から言わせれば愛情溢れる喧嘩以外のなにものにも見えない。
ん?それにしても今日は休みなのに、何でこんな所にいるんだ?
近付きつつある、2人に俺は声をかけた。

「早乙女!天道!お前ら何してるんだ!?廊下で暴れるなよっ。」
「げっ先生!」
「先生…すみません。」

そう言って俺や他の先生方の前で、止まった2人。

「先生達こそ、こんな集まって何してるんだよ。」
「先生達は面接が終った所だ。ここ志望してる生徒のな。今年は多くてこんな時間になったがな。」
「ふーん。大変だな。」

人懐っこく笑う早乙女は、問題児だが何故か憎めない。

「お前達こそなにしてるんだ?今日は休みだぞ。」
「実はらん…早乙女くんとレポート用の資料を学校近くの図書館に見に来たのですけど…」
「俺、学校にレポート用の用紙忘れてしまって。」
「成る程、天道を付き合せてたわけか。」
「提出日まで、まだあるのに今日行かねーと、うるせーヤツがいるから…」
そう言って笑うと、天道の肘がボディに入った。
天道は顔に似合わず、元気な生徒だ。

「笑い事じゃないでしょ!全くあんたって人は勉強の事となると都合よく抜けてるんだからっ!」
「んだよ。殴るなよこの凶暴女っ!」
「凶暴言うのはこの口か〜!!」
「いひゃひゃ、いひゃい!」

天道が早乙女のほっぺたをぎゅーっと引っ張った。
再び始まった2人の愛の劇場。
天道からの仕置きを真っ直ぐに受ける早乙女。
早乙女から悪口言われながらも、楽しそうに向かって行く天道。
いつも見飽きた光景なのに、何故か今日は、その微笑ましさに笑ってしまった。

「ぷっわははは!」

その姿に先生方も、この2人もぽかんと見ていた。

「な、何ですか先生?」

天道は早乙女の口を引っ張ったまま、俺の方を向いた。

「いや、仲良しだなと思って。それにしても早乙女!お前どんなに強くても天道だけには勝てないんだな!」
「なっ!」

俺がからかってそう言うと、早乙女は頬をつまんでいた天道の手を振り払った。

「ま、将来結婚して、尻にしかれないようにな!」
「な、誰がこんなヤツと結婚するかっ!」
「そ、そうですよ先生!!何言ってるんですか!!」

そう言いながら、真っ赤になっている姿は本当に初々しいカップルそのものだ。

「あ、そうだ。お前らカップルに憧れているヤツも新入生にいるだろうから、見本になるように仲良くしろよな!」

あれだけこの学校の騒動が知られているのなら、学校の名物になっている2人の朝の風景を、新入生が聞いてないはずはない。
俺は2人に向かってそうからかうと、他の先生方と職員室に向かった。
後ろで、きっと更に真っ赤になって立ち竦んでいる2人を想像しながら。



明日もまた面接である。
今日散々、同じ面接文句を聞いていたが、実は俺自身もその騒動を楽しんでいる1人。
勿論部外者である限りは……。
この学校は変わっている。しかしそれを楽しんでいる俺も変わっているのかもしれない。



先生の視点。学校で働いてる訳じゃないから、実情はさっぱりなので適当(汗
 
 私だったら通ってみたい風林館高校。
 通うなら受験しなくちゃvv
 ↓
 受験には面接はつきもの(?)。
 ↓
 面接って"何言ってんだコイツ!!"とツッコミたくなるような人って必ず1人はいたなぁ…
 と思ってたら何となく思いついて、
 "こんな変わった先生もいるでしょう。"
 とムリに思い込みながら30分で書いちゃいました。

 悩んでたけど、やはし手を動かさずにはおれなかった……。
2003.3.28




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