高 校 3 年 生 ・ 夏
前 編


高校3年生夏…この頃には皆、進路を決め、必死に勉強や、就職活動やらへの追い込みを掛け始めている。
進路の話になると、いつも周りから言われる、決まった言葉。


「あかねはいいよね〜。もう旦那も決まってるし、何も考えなくていいから。」


この台詞は、あたしの気持ちに突き刺さる。


…何も考えなくていい…。


まるで親に引かれたレールにそのまま乗れば楽よね…とあたしには聞こえる。
人形の様に、流されているつもりはないし、流される気はない。
あたしは、あたしの気持ち誠実に動いているつもり。
そしてあたしだって、受験生。
もちろん道場は継ぐつもりではいるけれど、与えられた環境だけを引き継ぐだけでは、今以上の発展にはならない。
あたしが継いだ時に、格闘だけでなく、他の面で少しでも役に立つ様な"何か"をプラス?として持っていたいから、料理が好きなあたしは、栄養学を学びたいと思っている。
格闘以外の面でも、自分の好きな事で、サポート出来る。
今横に居る、将来のパートナーとなるかも……あくまで"かも"しれない彼の事を。
自分の為にそして…パートナーの為に大学という道を選んだ。
しかし、その彼の肝心の気持ちが良くわからない。
相変わらず、はっきりしない関係のあたし達。

あたしだって考える事は山とあるし、悩みもある。
必死で頑張って いる勉強も、他人から見れば気楽に見えるみたい。
"許婚"と"道場"と言う保険があたしにはあると言う。
最近、この台詞を聞く度に、少々ナーバスになる。



「はぁ……。」
思わず深い溜息が出てしまった。
「どうしたんだよ?何か元気ねぇな…。」
「乱馬…。」
学校からの帰り道。あたしと乱馬は肩を並べて歩いていた。
「何か悪いものでも食ったか?」

-めりっ!-

心配そうな表情をしてくれたと思ったら、何よ!その発想!
あたしは気がついていたら、乱馬をカバンで殴ってしまっていた。

「何すんだっ!」
「あ、あんたがデリカシーの無い事言うからでしょ?全く!!」
「デリカシーって何だよ!ったく人が心配してやってるってのに、かわいくねぇっ!」

乱馬は痛そうに顔をさすってる。
かわいくねぇ…その言葉にいつもなら言い返すけど、ナーバスな気持ちが抜けられないないのか、言葉が出ない。
乱馬は…どうするんだろう…将来。
あたしは乱馬の現在(いま)の気持ちだけでなく、乱馬の将来の道の事もわかっていなかった。

乱馬は様々な大学から推薦が来ている。
社会人からも引き抜きがある。
もちろんスポーツ関係。
乱馬のずば抜けた運動神経は、世間がほっとく訳がなかった。
しかしどうするのか、一切言ってくれない乱馬。
そして聞けないあたし。
聞けないあたしは、このどちらの選択もせず、卒業したら中国へ修行へ行くんじゃないかと、勝手に思っている。
あくまで推測でしかないけれど。
あたしから離れて行くんじゃないか…という不安な気持ちが、聞く事へ歯止めをかけていた。


「な、何だよ。何かついてるのか?」
乱馬はふと立ち止まって言った。
気が付いたらあたしは、ぶすっと歩いていた乱馬の横顔を見つめていた。
「べ、別にっ!」
「お、益々かわいくねぇな〜。見とれてたなら素直に言えよ〜。」
ぷいっと顔をそむけたら、乱馬は意地悪っぽく笑うと、そう言ってからかった。
「あ、あんたねぇ〜…」
睨みつけて、今度こそは言い返そうとしたその瞬間…

「乱馬ぁ〜!!」
甘い声、中国語訛りの、いつもの彼女がやって来た。
勢いよく抱きついたかと思うと、いつもの様に迫っている。
「偶然あるね!私、出前の帰り。デートするよろし!」
「お、おい!こらっ!!離せシャンプー!!」
抱きつかれる事を、嫌がって見せてはいるものの、相変わらずはっきり断れない乱馬。
いつまで経っても、見慣れるハズの無い光景…いつもながら、我慢出来ない。

『触らないで!乱馬はあたしの許婚なのよ!』

そう言えたらどんなに楽か。
でも、実行できないあたしは、気の無いフリしていつも去る様にしていた。
恥ずかしいというのもあるけど、何より、この台詞を言った時、乱馬がどういう反応をするか…それを恐れていた。
それにしても、3年間もこんな風にされて、これからもこの調子だと思うとやりきれない。
見たくない現実に、見えない未来……不安で押し潰されそう…。


「あ、あかね!?」
びっくりした様な顔をしている乱馬を見て気が付いた。

「え?」

頬に伝わる熱いものを感じる。

あたし……泣いている。

「お、おいっあかね!?」

何これ……どうして!?

勝手に流れ落ちる涙を止められない。
気持ちが高ぶっているのか、何なのか解らない。
こんな姿を見せたくない!そう思ったら、走り出していた。

「おいっ!待てよあかね!!ちょ、シャンプー離せ!!」
「離さないね!」
「あかねっ!!」

遠くで乱馬とシャンプーの声が聞こえる。
見られたくないあたしは必死に走る。



乱馬は追って来なかった。




 何となく途中で切ってしまいました。否、長いからか…。
 別に一気に載せても良かったんだけどね…(汗

 それにしても、春だと言うのに、一足先に夏!だよー。
 まぁ本来今年の夏にUPさせようと作ってたんだけど……。

 それはさておき、これは大学編の伏線…あかねの受験問題です。
 私自身の想いも、ほんの少々入った所があるこの作品。
 人の環境を羨むばかりの人って、その人の本当の辛さや悩みなんか見えないんだろな…
 とムカツイていた時に、乱×あにその気持ち載せて書いてました(笑

2003.3.4




Copyright c 2002-2004 SEAside All Rights Reserved