学 習


「ちっくしょう!親父のヤツ、また風呂に入んなきゃなんねーじゃねーか!…えっぶしゅ〜。さっみ〜〜!!」
相変わらずのパンダ(玄馬)との喧嘩で池に落ち、乱馬はずぶ濡れ状態である。
春が近付いてるとはいえ、行水するほどまだまだ暖かくはない。
「あらあら乱馬君、びしょぬれじゃない。タオルとって来るからちょっと待っ…」
池に落ちる音を聞きつけたかすみが声をかけるが、最後まで言わないうちに
「寒いんでこのまま風呂に行きます。」
そう言って乱馬は、ずぶ濡れの姿のまま庭から廊下へ上がった。
「あ、でも今あかねちゃんが…」
「え〜っぶしゅん!」
豪快なくしゃみと共にお風呂場へ向かう乱馬。
かすみの"あかねが入浴中"と続けた言葉は乱馬の中で消し飛ばされていた。


丁度お風呂が沸いていたのか暖かい風がドアの隙間から流れてくる。
乱馬はその暖かさを求め脱衣所に来て即座に上着を脱ごうと服に手にかける。
が、その時お風呂場から
「あっ!もう…」
とあかねの声がした。
「あかね?アブネー。危うく入る所だったぜ…んだよ〜いたのかよ。気付かなかった…風呂は無理か…」
とにかく体を温めたかったが、無念、あかねの姿がお風呂場にある。
このまま入っていれば恐ろしい目にあう事は必至、色んな意味で入りたくとも、もちろんそんな勇気もない。
誰も聞いてないのに入りかけた言い訳を一人でし、とりあえず体だけでもを拭こうと、タオルを取ろうとした。
「乱馬?………覗かないでよ。」
ブツクサ言う声と気配を感じたあかねから念押しの声がドア越しにする。
「…何だよそれ。風呂に入ろうと思ったらおめーがたまたま居ただけじゃねぇか!誰が色気のない女の入浴なんか覗くかよ!」
お風呂に入れず寒さをガマンしている所に"覗かないで"ときたもんだからムッとする。
「なんですって!だったら早くあっち行ってよ!大体…」
「…はぁっくしゅん!!」
相変わらずの喧嘩が始まるかと思った瞬間、乱馬の大きなくしゃみが響いた。
「……またずぶ濡れなのね。」
経緯が想像のつくあかねは呆れた様に言葉を発す。
「気配で気付けよ、当たり前だろ鈍いな。」
寒さに震えながらも憎まれ口は健在だ。
「誰が鈍いのよ!一言余計よ!!まったく!!…早く向こういってよ!」
"鈍い"の一言でまたまたヒートアップしそうになる。
言い返そうとしたその時
「はっくしょん!!はぁっくしゅん!!えーーーーっぶしゅん!!!」
再び喧嘩の仲裁様に乱馬のくしゃみが出た。
あまりの豪快なくしゃみ3連発に、あかねは思わず怒りを忘れ、ふきだしてしまった。
「ぷっ。…全くすごいくしゃみ。……はぁ、こんな事してる場合じゃないみたいね。」
「そ、そうだな。喧嘩してる場合じゃなかった。…タオル、取らせて貰うからな。」
そろそろ濡れたままで居るのも限界なので、脱衣所でタオルを取ろうとした。
「タオル取るだけよ。これ以上来ないでね!」
ふきだした事で険悪さは抜けたのだが、一応ここはキツク断りを入れる。
「当たり前だ!!」
わざわざキツイ断りを入れるので逆に"入って来て欲しいのかよ"と突っ込みたくなったが、また喧嘩になるのは目に見えているのでやめる。
だが悔しいので一応
「かわいくねぇ」
と呟き、
「邪魔したな」
そう言って立ち去ろうとした。

「あ、待って!!」
「な、何だよ。」
突然あかねに呼び止められ驚く。
(まさかやっぱり一緒に…?)
一瞬、期待をしてしまうがすぐにそれは消える。
「丁度良かったわ。石鹸無くなっちゃってるの。詰め替え用の取ってから戻って頂戴。たまには役に立ってよね!」
(…なんて…そ……そうだよな。)
ありえない期待をした自分に恥ずかしく、一人で赤くなり、それを消す様に詰め替え用石鹸を探し出す。

「あったぞ。」
乱馬の言葉に、あかねは覗くなと言った事を忘れて、無防備にドアの隙間から顔を出し、手を伸ばす。
「たまにはって…おめーも一言余計だっつーの!ったく確認くらいして入れよな!しょうがねぇな!…ほらっ。」
そう言ってさっさと渡し、
「エヘヘ♪ありがとうvv」
あかねがそう言ってドアを締め切ると同時に、乱馬は振り返った。


その瞬間……


「乱馬君!!あかね!!良くやった!!!」
「ぱふぉ〜!」
「立派よ!乱馬。」
「まぁ〜仲良しね」
「本当。子供の顔を見る日も近いんじゃない?」
居間に居たはずの両家は、嬉しそうに総出で洗面所に顔を出す。


あかね入浴中、乱馬もお風呂へ…というそんな甘美なシチュエーションに何か起こるかと、洗面所前にて相変わらず、こっそり見ていた皆の衆。
この二人のやり取りに両家の気持ちは一致した。
(やはり……)
そう思うが早いか飛び出していたのだ。

戻ろうとした乱馬の視界に突然入ってきたテンションの高い両家。
寒さで無防備だった乱馬は、まさか全員が待機しているとは気付かず、
「なんなんだっ!?」
と慌てる。
そして外の状況がサッパリわからないだけに本当に
「なんなの??」
状態のあかね。
うっとうしい位のテンションで一気に捲くし立てる両家に訳もわからないと言った感じの二人。
そこへ天道家最強(凶)のなびきからの有り難いお言葉。

「ふっ。相変わらずニブイわねぇ」
「な、何がだよ!」
睨みつける乱馬に
「やることやってても、いや、やってるだけにカシラ?」
となびきは不適な笑みを浮かべ、意味ありげに言う。
「や、やる事やってる!?ななな何言ってんだ!?」
思いがけない言葉に動揺し、更に慌てる乱馬。
「え!?そ、そーよ!"やる事"って、みょっ妙な事言わないでよ!何で私がこんなヤツと!!」
見えない姉の今の表情が、怖いくらい浮かぶあかねも、動揺し強く否定する。
「なによ」「なんだよ」
と通常ならここで喧嘩に発展する所だが、そうはさせまいと、すかさずなびきは言う。
「…あんたたち、…普通年頃の若い男女が、このシュチュエーションで『石鹸とって』『はいどーぞ』って今のやり取りを、照れもせず自然になんて出来ないわよ?アンタ達みたいなタイプは余計にね!そんなアンタ達が出来るってのは………まvvそういうカ・ン・ケ・イ…って証拠ね〜。」
とカンケイを必要以上に強調しながら笑う。


言われて気付いても遅い。
二人の必死の否定もままならず、早雲、パンダが今日は宴会だと泣き騒ぐのを筆頭に、皆満足げに先程までいた居間へ戻る。
「あそうそう、あかねのヌードならお父さんやおじ様にはちゃんと見えないようにしてたから安心してね。乱馬君vv」
そう言って一層の笑いをしながら去るなびき。

そんな中……残された一人は風呂場で、一人は脱衣所でで黙りこくったまま固まり続けていた。
乱馬の足元には水溜りが出来ている。

たかが石鹸の手渡し、されど………。
自然に出来る行動の中にも二人の親密度が現れると学んだ日…。

因みに明日はこの二人を除く、全員が突然泊りがけの用事が出来る事になる。
誰が何を期待しているのかそれは言うまでもなく、全員一致であろう。


 こちらはBULBの一宮レイ様に贈らせて頂きましたvv
 処女作です。めっっちゃ緊張してメールしたのを覚えています(笑
 お風呂場で、ドア越しに会話していた時に思いつき、一気につらつら書けたモノだったような…。
 大した行動じゃないけど、初期の二人の関係だったら、これはカナリ難しいものではないかと思いつつ…。
 何気ない行動に気を付けましょうという意味でつけた学習。学習になってんのかな?(笑)

 次回作、また読んで頂ければ幸いです。
2002.5.9
「BULB」は閉鎖となりました。
復活の際は一之瀬までご連絡ください。




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