◇心に映る情景  前編
satsukiさま作


 「いってきまーす・・」
  決闘当日。乱馬とあかねはお互いにすっきりしないまま、玄関へ向かった。
 「なに?あんた達こんな真昼間からデート?あついわねぇ〜・・」
  片手に缶ジュース、そしてもう片方の手に持ったうちわでパタパタ空を仰ぎながら、本人曰く‘見送り’のつもりで
  2人の前に次女:なびきが現れた。
 「そんなんじゃねーよ!だっ・・だいたいこんな色気のねー女とデ・・デートだなんて冗談じゃねぇ!」
  乱馬達2人が‘熱い’のか純粋に‘暑い’のかどうか定かではないが、乱馬は近頃のイライラをぶつけるが如く
  なびきに食って掛かった。・・そのわりには動揺していたが・・
  なびきは「ふ〜ん・・」と乱馬の言葉の矢をすんなりかわし、ちらりと妹を見た。
 (おかしいわね。いつもならさっきの乱馬君の言葉に1発は入るのに・・今日はやけに大人しいじゃない・・)
  よく注意して見てみれば、服装からしてデートと言うには相応しくなく、スポーツをするような動きの取りやすいT−シャツと
  半ズボンだった。
  そして彼女の表情は‘放心’の一歩手前な感じで、なびきが言った言葉など耳にも入っていないようだ。
  ただ静かに、乱馬が出てくるのを玄関の数メートル先で待っていた。
 (こりゃあ、なんかあったわね・・)
  観察力は人並以上に鋭いが、長い間一緒に住んでいれば心情の方も見抜けるものだ。
  ただ単に、あかねが分かりやすい性格だという事もあるが・・
 (たくっ・・本当にハプニングが絶えないわね・・・)
  呆れ半分に姉としての心配を+したようなため息を心中で1つつくと、少しは元気で何やらグチグチ言っている妹の許婚の服を
  ひっぱって、耳元でつぶやいた。
 「何があったかはともかく、あかねから目を離さない方がいいかもよ。」
  何を根拠に言ったのかは分からないが、いつも妙に説得力のあるなびきのアドバイス?に「何か知ってんのか?」といい返そうと
  したが、時間の関係上、乱馬はその言葉を飲み込んだ。
  ・・しかし、乱馬自身の心にはなぜかそれに共鳴する何かがあった・・

「みんなそろたよろしな?(珍しくちゃんと良牙もいるし)時間になた。そろそろ始めるね。」
   女傑族用、戦闘服に身をくるんだシャンプーが決闘への第一声をあげた。
   時刻は11時ジャスト。
   梅雨真っ盛りで真夏の手前。久しぶりにスカっと顔を出した太陽が眩しいくらいで、決闘にはもってこいの快晴日和。
   ルール無用の一本勝負。見つかったら即負けを宣告される。
   元は鬼ごっこなので、最初は隠れる事から始まる。
 
  「では、乱馬、30分待つよろし。その間に皆隠れる。11時半なたら、探し始める。よろしな?」
  「でぇ〜〜!30分も待つのかよ!この暑い中!」
   とりあえず言い出したシャンプーがその場を仕切る形になったが、普段念入りに体を動かしている乱馬にとって30分もの間、
   じっとしているのは、彼の‘格闘家’としての血が黙っていられない。
   ブツブツ文句を言ったが、結局シャンプーに強く押し留められてしまった。(元々、女性の押しに弱いのだ・・)
   そのシャンプーの様子にいかにも焦ったような感じを受けたが、乱馬はたいして気に求めないでいた。
   ・・・それが後々自分に、そしてあかねに関わって来るとも知らずに・・・
 
「けっ・・しょーがねーなー・・・。30分もどうしてろってんだ。たくっ。・・・天気もいーし、日陰で昼寝でもすっか。
   ・・問題は起きられるかだよな。熟睡しちまった時・・」
   乱馬はしばし、ふ〜〜む・・と唸ってから、(数秒後)ぽんっ!と手を打った。
  「(そ〜だ!)おい、ムース!」
   隠れるだけの鬼ごっこに、何に使うのか不明な暗器をすぐ横で磨いているムースに乱馬は声をかけた。
  「なんじゃ、乱馬。おらは今忙しいんじゃ。用は後にしてくれ!」
   ムースはさも面倒くさそうに返答したが、そんなこと始めからお構い無しの乱馬は気にせず言葉を続ける。
  「なぁ、お前、なんか目覚まし時計みたいなもん持ってねぇーか?」
  「目覚まし?何に使うんじゃ?そんな物?あいにく、そんな物持っとらんが・・ただのタイマーならあるぞ。」
   どっから出したのか、ムースの手には10センチほどのタイマーが乗っていた。
  「お〜、それでいいや、ちょっと借りるぜ。」
   乱馬はひょいっとそれを受け取るとさっさと校舎近くのやや大きめの木の木陰に寝転んだ。(もちろんセットしてから)

   その様子を少し離れた場所でひっそり観察していた3人・・言うまでも無くシャンプー・右京・小太刀はにやりとそれぞれ不敵な
  笑みを浮かべた。
 「よっしゃ!作戦開始や。」と右京。
  「あまり気は進みませんけど、勝利のため。ここは協力して差し上げますわ!お〜〜ほっほっほっほっ!」と小太刀。
「しっ!声が大きいね!小太刀!・・それよりちゃんと例の物用意したか?」とシャンプー。
   シャンプーの問いに答える前に小太刀は懐から怪しげな色をさせた布を取り出した。
   それを合図に3人の作戦会議には熱が入り出した。  
  「もちろんですわ!さぁ、さっさと天道あかねを片付けてしまいましょう!話はそれからですわ。」
  「あかね、一番の邪魔者ね。ここで私らより先、見つかる。乱馬と縁切れる。最高的計画ね。」
  「せやな。あんま、気ぃ進まへんけど、うちかて乱ちゃんの許婚や。ここらでハッキリせぇへんとな。」
  「言とくけど、終わるまで抜け駆けしない。よろしな?」
  「お互いにな。」  
  「よろしいですわ。」
この微妙なチームワークが時に恐ろしい事態を招く・・・。なびきの予想、そしてあかねの予感はまさにドンピシャと言えよう。

  「・・どこに隠れよう・・。毎日学校来てるけど、細かい所って見てないからな・・。これじゃ、乱馬にすぐ見つかっちゃうじゃない」
   あかねにとっては実に短い30分という時間をいかに活用して、どれだけ実践出来るか不安を抱きながらも、必死に
なって駆けずり回った。
  ‘もし、最後に残るのが自分でなかったら’
  (嫌だ!それだけは絶対に・・・ぜったいに・・)
   ぶんぶん頭を振って、あかねは不安をなぎ払おうとした。
   勝負に負ける事も当然嫌だが、認め始めた許婚の存在・・乱馬をこんな形で失う事だけはしたくなかった。
   しかしどうあがいても、もう始まってしまったこの勝負。
   焦りだけが体中を支配し、近寄ってくる気配にあかねは気づく事は・・出来なかった。

 「うぐっ・・・!!」
  突然背後から口を押さえられた。と同時に血の循環の止まったようなしびれと目眩、そして眠気が3つ一気に押し寄せてきた。
  薄れていく意識の中、あかねは形ばかりの抵抗を取りながらもその背後にいる人物達の笑みをハッキリと見た。
 「小・・太刀・・シャ・・ン・・プー・・右・・きょ・う・・あんた・・たち・・」
 (はめられたっ!!!)
  激しい怒りが湧いてくる前にあかねは地に伏した。
  
 「あいやぁ。小太刀の薬、よく効くね・・」
 「ほんまに・・。すぐ効果出てきおったわ・・・」
 「当然ですわっ!お〜ほっほっほっほっ!」 
すぐ横で高笑いしている小太刀を見て、シャンプーと右京は‘こいつだけは敵に回したくない・・’と思った。
「・・ところで、右京。あかね、どこに置いとくか考えといたか?」
「もちろんな!そこら辺、置いといたら流石の乱ちゃんも疑うもんなぁ〜。でっ、これを使うんや。」
右京は腰に巻いておいた直径3センチほどのなかなか太い4・5mほどのロープをほどいた。
 「何に使うんですの?そんな物?」
  小太刀の疑問にシャンプーもこくこく頷いて共感した。
  右京はふふんっ!と得意げに笑って、ある一点を指差した。
 「あかねちゃんをあそこに縛りつけるんや!」
  右京の指した矛先は校舎表面上にでんとついている大きな時計台。
 「ええっ!」
  2人は驚きの声を上げた。(←当然だろう)
  高さはゆうにビル3階分の約50〜70m。
  いくらあかねが武道家といえども、もし落ちたらただ事ではすまない。
 「大丈夫やて。あそこにいるのは数十分。すぐ乱ちゃんに見つかるさかいね。それにな・・・」
  右京は自信に溢れた胸をどんっとたたいてから、話を続けた。
 「それにな、このロープの先端を時計の針にしっかり結びつけるんや。命綱にもなるし、今の針の状態からしてちょうどええんや。」
 「どういう意味ね?」
  シャンプーの問いに右京は答えずに小太刀に問い掛けた。
 「小太刀。あかねちゃんはあとどれくらいで目ぇ、覚めるん?」
  小太刀は少し考える姿勢をとってから、やがてキッパリ答えた。
 「調合量からして、あの時計で言えば・・ちょうど、11:50分頃ですわ。」
 「それが、何ね?右京。」
  右京はふふっ・・と微笑んでから、説明し始めた。
 「つまり、今繋げれば、あかねちゃんの姿はあの塀に隠れて見えんちゅうことや。でも、50分になるとどうなる?」
  右京が地面を棒で引っかきながら絵を書いていくのを、じっと見つめていたシャンプーがやがて声をあげた。
 「分かたね!針の動きによてあかねの体も上に上がて、姿が丸見えになるよろしな?」
 「ご名答や!」
 「なるほど・・。上手くいけば、45分にでも見つかるということですわね。私達には有り余る時間ですわ!お〜ほっほっほっ!」
 「そうと分かたら、急いでやるね。乱馬動き出すまで、もう10分しかない。」
 「乱ちゃんに念押ししておいたのは、正解やったな。」
  
  ・・・そして、3人の計画は動き始めた・・・

  さて、ひょんなことから始まった‘格闘鬼ごっこ’
  女性陣(あかね・シャンプー・右京・小太刀)はともかく男性陣(良牙・ムース・九能・八宝斎・パンスト太郎)
  をつかまえるのは、意外と簡単だった。
  ーーパンスト太郎の場合ーーー
 「ったく・・なんで俺がこんなことやんなきゃなんねーんだよ!!」
  先ほど鳴ったタイマーで乱馬は憂鬱そうに起きだし、ぶつくさ言いながら足元の石を蹴っ飛ばした。
 「けっ・・こーなったら、意地でも全員探し出してやる!まずは・・・」
  乱馬は不敵な笑顔?を作ってから、思い切り息を吸い込み、そして・・
 「パンスト太郎ぉ〜〜〜〜」
  と叫んだ。
  し〜〜〜〜〜ん・・・
 「あれっ?いつもなら、何処にいよーが出てくんのに・・ちぇっ、面白くねぇ!」
  一方、本人・パンスト太郎の方もイライラしながらも耐えていた。
 (こんな罠にひっかかってたまるもんか!)
  そう思っていたが・・その直後・・
 「パンスト太郎!お〜い、パンスト太郎!どこにいるんだよ!パ・ン・ス・ト・太・郎ってば〜〜」
  名前の所を妙に強調した言い方を、乱馬は繰り返し始めたのだ。
  ぷっつん・・・
  50回・・いや100回は言われただろうか・・・ついにパンスト太郎の堪忍袋の尾がぶち切れた・・
  ばきっ!・・・ 
 「その名を呼ぶな!!オカマ野郎!」
  みしっ・・
  突っ込んできたパンスト太郎に乱馬も1発ぶち込んた。
 「へっ、一丁上がり!おめぇ〜、ちゃんとここにいろよな!」
  乱馬の一声にパンスト太郎はふと、自我を取り戻した。
 「しっ・・・しまったぁぁぁぁ〜〜〜」
  そしてその数秒後、場中にパンスト太郎の声が響きわたった。

  ーー良牙の場合ーーー
 「けっ、口ほどにでもねぇ。おい、パンスト太郎!おめーはここで、じっとしてろよ。あ〜あ・・かったりぃーな・・。
  なんで、俺がこんなこと・・・んっ?」
  乱馬は手の平でパタパタ風を送りながら、次誰をどう探そうか思考していたが、途中でぷっつりとぎれた。
  見慣れた校庭に見慣れない大穴・・・
 (これは・・良牙の爆砕点穴・・・あんにゃろー、どこ行きやがった!)
  そう思うと同時に乱馬の全身にかすかな悪寒が走った。
 (良牙は方向音痴・・しかも単純だ・・・。きっと今ごろは後先考えねーで穴掘り続けてるぜ・・・。 やべぇーな・・
  ・・いくら俺でも良牙がどこ言ったかまでは予想できねーぞ・・くそっ・・)
 ‘優勝者(最後に見つかった者)の言う事を1つ、必ず聞く’
  言うだけなら簡単なことだが、実際、このメンバーで言われる事は分かりきっている。
  シャンプー達3人がいい例だが、良牙も例外ではない。
  乱馬はようやく事の重大さに気づき、焦燥にかられた。
 (くっそぉーー、ぜってーに見つけ出してやる!あいつらの思い通りになってたまるもんか!)
  乱馬は(良牙が掘ったと思われる)残穴の中へ足を踏み入れようとしたその時・・
  どぉぉ〜〜〜〜ん・・・ずどぉぉ〜〜〜〜〜〜ん・・・・
  近からずも遠からず・・・その音はどんどん大きくなる・・・
 「・・・・・まさか・・な・・・」
  乱馬はははっ・・と小さく笑い、その音をもっとよく聞くためそっと耳をすませた。・・・少しの期待を抱いて・・・
  乱馬の予想は見事に的中した・・ 
  ふと、その音が頂点に達すると、乱馬の真下よりちょっと離れたところがいきなりボコッとふくらんだかと思うと、
  みるみるうちに亀裂が入り・・・
  どかぁぁ〜〜〜ん・・・
 「どうわっ・・・」
 「ここは、どこだぁ〜〜!!」
  乱馬がふっ飛ばされると同時に良牙が姿を現した。
 「ふっ、流石の乱馬もここまでは追ってこれまい!この勝負俺の勝ちだな!はぁっはっはっは・・
  ・・しかし、ここはどこかで、見たふうけ・・い″っ・・・」
  どぎゅる・・・
  良牙が勝利宣言?していた真上から乱馬が飛び込んで(落ちて)きた。
 「妙なとこから出てくんじゃねー!この方向音痴!」 
 「いてぇじゃねーか! んっ・・乱・・馬?じゃあ、ここは・・・」
 「グランドでいっ!ご丁寧に戻ってきてくれて、助かったぜ。良牙。」
 「こっ・・こんなはずでは・・・」
  良牙が膝をつく姿を、呆れ顔で乱馬は見つめた。
  正直言って、内心ほっとしているのは言うまでも無いが・・・。

  ーームースの場合ーーー
 「たくっ・・付き合いきれねーぜ・・。んっ・・?なんだ?この熱い気は・・?」
  頭に両手を組み、やる気なさげにつぶやいていた乱馬だったが、ふと周囲に薄く張り巡らされた微妙な気を肌で敏感にキャッチ
  して、身構えた。
 (さっき捕まえた2人じゃねーよな。とすると九能・・は完璧に気配消せるほど出来てねぇ。じじぃ・・は丸出しにするほど
  バカじゃねーか・・。となると・・ムースか・・?何考えてんだか・・・。)
  乱馬は構えるのもバカバカしいと思い、体勢を楽に立て直した。
  一方、乱馬の予想通り、ムースは隠れて気配を消すまでは、彼も武道家。完璧だったのだが・・・
 (これに勝てば・・これに勝てば・・おらはシャンプーと幸せに・・あ〜んなことや・・こ〜んなこと・・・ふふふっ・・)
  この実現とはほど遠い想像がいけなかった・・。
  知らぬ間に我を忘れ、気配は消えたままだが制御しきれないほどの熱気が無意識に発生してしまったのだった・・・。
  近くに乱馬がいるとは知らずに・・。

 (めんどくせーな・・。まっ、探す手間が省けたってとこか・・?さて、ど〜すっかな・・)
  ふぅ・・と息をつき、頭を人差し指でポリポリかきながら思案した結果・・
 「ぅわっ!シャンプー!くっつくんじゃねぇ!こら離れろ!抱きつくなっ!」
  ブチッ!!ブチブチっ!!!    
  かなりの大声を張り上げて言ったため当然聞こえたわけだが、今までそのシャンプーと自分が2人きりで・・・
  なんていう甘い夢?を見ていたムースは、言葉とその主に己の血管の何本かがぶち切れるのを感じ・・その瞬後・・・
 「乱馬ぁ!貴様とゆー奴は、おらの夢を壊しおって・・しかもどさくさにまぎれてシャンプーといちゃ・・・つき・・んっ・・?」
  ムースは乱馬の胸ぐらをつかんで思いっきり揺らしていたが、言葉の途中でハッとして辺りを見回した。
  その様子をにやにや笑いながら、乱馬はムースが求めている解を言い放った。
 「よっ!ムース。おめーこんなところで何やってるんだ?シャンプーなんてどっこにもいねーぞ?」
  わざとらしくキョロキョロ辺りを見回す乱馬を睨んだが驚きと放心で自由に体の動かせなくなったムースはやっと声を出した。
 「乱馬・・貴様・・騙しおったな!!卑怯もんめが!!」
 「うるせーな、騙されたおめーが悪いんだろ?俺のせーじゃねーな。とにかく、ムース。おめーは失格だかんな?」
 「・・・うぐっ・・そんなこと・・分かっとる!」
  ふんっとそっぽを向いて、その場を去っていくムースを目だけで追いながら‘グッバーイ’とばかりに乱馬は手を振った。

  ーー八宝斎&九能の場合ーーー
 「あとは、じじぃと九脳とシャンプー達とあかねか・・・めんどくせー奴等ばっかが残ってるって感じだな・・。」
  そして再び考えモード・・
 (女の方はひとまず置いといてっと・・じじぃ達を捕まえるんなら、やっぱ、あれだよな・・・)
  乱馬は水道の方へ歩いていき、ザバッと水をかぶった。
  当然‘女’と化し、その場に座って・・・
 「ほほほほほほっ!」
  片足をあげて、(なぜか)パンストを履きだした。
 「パンストじゃー♪」
  どすっ!
  案の定、何処からともなくひょ〜いと沸いて出た八宝斎を、乱馬(らんま)はなんなく踏み潰した。
 「わはははははっ!愚かもん!」
 「うぬぅっ!罠であったか!しかし、乱馬よ。ちゃんととどめをささなかったのが貴様の運のつきよ。忘れたか。この勝負は
  ‘鬼ごっこ’であって‘隠れんぼ’ではない。すなわち、逃げれば勝負は続くというものよ!わははははっ!未熟者めが!」
  八宝斎はその小さな体系をいかし、らんまの呪縛からあっさり抜けると猛ダッシュで逃げ出した。
  らんまは八宝斎の言葉には確かに一理あるなと思ったが、そのまま逃すつもりはさらさら無かった。
  決闘に関しての頭の回転の速さは常人をはるかに越えている・・とでも言おうか。勝つためになら手段を選ばない。
 「ふっ・・確かにな!だがなっ、じじぃ!これで、どうだぁ〜〜!」
  らんまは最終かつ相手にとって最も効果的な技・・自らの胸をさらけ出した。
 「おぉ〜〜スウィ〜〜トぉ!!」
  1秒も刻まないうちに八宝斎は懐に飛び込んできた。
 「けっ、口ほどまでもねぇ!」
  らんまは今度こそ逃がすまいと、がしっと八宝斎を押さえつけた。
 「ひっかかったが、これはこれでいいんじゃぁ〜♪らんまちゅわ〜〜ん!!」
  その体勢を利用して、八宝斎は当然のように(いつもより激しく)すりすりし始めた。 
 「のわぁあぁぁ〜〜!!こんのぉ、エロじじぃ!成仏しろーい!!」
  どかっ!ばきぃ!どかぁ〜ん!!
 「ふっ・・終わったな。」
  八宝斎ははるか彼方に飛ばされていった。

 「さぁ〜てと・・。次は九能か。あいつも結構単純だからな・・」
  らんまはテクテク歩き、やがてぴたっと止まった。
 (ここら辺か・・。剣の腕はあっても、気配はバレバレだぜ・・。一応武道家だっつーのにだらしねぇ!まっ、一丁片付けるか)
  すうっと息を吸い込むと・・・
 「九能先輩はどこにいるのかしら・・私の愛しの先輩・・。一日でも会えないと・・この胸は・・張り裂けてしまいそうになるの
  ・・ああ、先輩に会いたい・・・」 
  ぶりぶりした口調で(いかにもわざとらしく)しかもつぅ・・と涙まで流しているのは流石といえよう。
  らんまがさめざめしていると、背後からざっ・・と何かが飛び出してきた。
 「おさげのおんなぁ〜〜〜!!そんなに僕の事を愛していてくれただなんて・・交際だぁぁ〜〜!」
 (ふっ!かかったな・・)
  らんまは心中でほくそ笑むと、くるりと振り向いて前半はかわいらしく。そして後半は・・低くドスのきいた声で言った。
 「きゃ〜〜!九能せんぱぁいvvお会い・・したかったわ〜〜〜!!!」
  ぐしゃ・・
  顔面に見事に蹴りを入れて九能はあえなくノックアウト。
  勝敗は決した。



つづく




作者さまより

なんか、あまりに乱馬君の思い通りに進んで決闘ではないような・・・と書き終わってから考えてしまいました。
本当に決闘らしいシーンが書けなくて申し訳ありません・・・。
次は、シャンプー・右京・小太刀達3人と、あかねちゃんの登場です。
なんとか上手くまとめられるよう頑張りたいです。

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