◆ある伝説の行方
satsukiさま作
「伝説のフナぁ〜?」
教室内に乱馬とあかねの声が響く。
その後遅れて「な〜に、それ?」とあかねは聞き返した。
どうも‘伝説’という名の物には、いつも振り回されていい思い出はない。顔が引きつっている。
「な〜に、あかね、知らないの?こーゆー関係の話に本当、鈍いわね〜」
「そうよ、もう学校中のウワサよ」
とあかねの親友のゆかとさゆりが口を揃えて言った。
「そーゆー点じゃ、乱馬も同類だよな。」
「そーそー、流石に許婚同士。そっくりだぜ。」
乱馬の悪友のひろしと大介も口を出す。
この口を挟み込めない絶妙なコンビネーションの4人に最初唖然としていたが、最後の大介の言葉にしっかり反論した。
「な〜に言ってやがる!誰がこんな凶暴、不器用、しかも寸胴女と俺が似てんだよ!」
「どーして、こんな無神経の変態で、おまけにくされ外道な奴と私が似てるのよ!」
と同時に言ってから、はっ・・として「誰が寸胴だ!」「俺は変態じゃねー!!」と今度は痴話喧嘩を始めた。
それを、やれやれと言った表情で見てから、
「まぁ、話を聞きなさいよ。‘伝説のフナ’の話をしてあげるから・・・」
とゆかが2人を制した。
乱馬とあかねはまだ言い足りなさそうだったが、素直にその言葉に従った。
ウワサまで立っていると言われれば、知らないと気になるものだ・・・
「とどのつまり、その‘伝説のフナ’って奴を見つけて食えば、自分の中で今一番願っていることがかなうってことか?」
乱馬の言葉に4人はこっくり頷いた。
「でも、どこにいるか分からないのよね・・・」とさゆり。
「実際、見たって人も曖昧だし・・・本当に願い事かなうのかしら・・・」とゆか。
「だいたい、赤い斑模様のフナだぜ。品種改良じゃあるまいし・・・」とひろし。
「そーそー。俺だったら、気持ち悪くて食うに食えないと思うぜ。」と大介。
乱馬もあかねの4人のそれぞれの意見に「あ〜・・」とか「そうね。」とか相槌を打っていた。
ーーーその帰り道ーーー
「天道あかねぇ〜〜〜」
木刀を振り回しながら、お馴染みの九能帯刀・17歳があかねに向かって飛び込んで来た。
みしっ・・・
あかねは手持ちカバンを九能の顔面に思いっきりぶつけ、乱馬はひょい・・と飛んで背中に蹴りをヒットさせた。
前後からの攻撃?に九能はバタっと倒れたのは言うまでも無い。
「たくっ、毎度毎度うっとおしい!!」
と、通り過ぎて帰ろうとした時、後ろから叫び声が聞こえた。
「天道あかねぇ〜、君を早乙女の毒牙から守るために、僕は‘伝説のフナ’を食べてやるぞ!!必ずな。それまで待っていたまえ!
はーっはっはっはっは・・・」
乱馬とあかねは振り向いたものの、無視を決め込んだ。
どぎゅる・・みしっ・・・
変な効果音と共にシャンプーが自転車に乗ってやって来た。・・・出前の帰りらしい・・・
「っ・・てぇ〜な!シャンプー、この登場の仕方止めろよな!!」
後頭部を押さえながら乱馬は叫んだ。
「やはり、乱馬と私、繋がてるね。会いたい思てたら本当に会えた。大歓喜vv」
そんなこと一向に気にしないシャンプーは話の続けざまに乱馬に抱きついた
「ちょっと、シャンプー離れなさいよ!!」
シャンプーはふふん・・と鼻で返してからあかねに向き合って勝気な口調で言い返した。
「あかね、乱馬と一緒にいる、もうすぐ終わるね。私‘伝説のフナ’食べて乱馬と永遠に結ばれる。今のうちにせいぜい楽しでおく
よろし。じゃ、私、フナ探さなければならない。再見!!」
と言うだけ言って、嵐のように去っていった。
それから同じ事を帰り際に、右京と小太刀に言われただただ呆然と言葉を返すことしか出来なかった。
ーーーその後ーーー
いつも通りにあかねは路地を、乱馬はフェンスの上を器用に歩いていた。
さっきまでのこともあって、無言のまま時が過ぎていったが、沈黙を乱馬が破った。
「なぁ。」
「なに?」
「‘伝説のフナ’ってホントにいると思うか?」
乱馬の問いに、あかねは今まであった変な事を思い出し、う〜〜ん・・と首を傾げながら、結局「分からない。」と答えた。
「乱馬は?」
同じ質問を返されて、乱馬もしばらく黙ってから返答した。
「さぁ〜な。でもそーゆー姿形の魚も、いるんじゃねーか?」
「それも、そうね・・・」
再び沈黙。
それを、破ったのも乱馬の方だった。
「な〜、あかね、もし本当にいたら、おめーだったら、何願う?」
考えていなかったことなので、あかねはそのまま返した。
「いきなり聞かれても考えつかないや。乱馬は?やっぱ、変身体質治す事?」
「あ〜。そ〜なるかもな。」
「かも・・ってあんた本気でその体質治したいって思ってるの?」
「あったりめ〜だ!!」
と言って、フェンスから下りた。
目指す天道道場まであと少し。公園を過ぎればすぐそこだ。
さっさと帰って飯が食いたい!と思った矢先、公園内から子供達の歓声が聞こえてきた。
ふと目を向けてみる、その手に握っているのは・・・
紛れも無い‘赤い斑模様の魚’だった。
子供達は「変な色〜」とか「気持ち悪〜い」とか、一通り騒いでから、ぽいっと池に投げ捨てた。・・どうたら飽きたようだ・・
「おいっ、あれ、まさか・・・」
「でも、変な色だったわ・・。見たこと無い・・。」
信じて無くても先に立つのは好奇心。 結局2人は公園の池へ向かった。
その池の中で、悠々と泳いでいたのは話通りに赤い斑模様をしていたが、想像とはかなり違う印象を受けた。
色を正せば確かにただのフナ。だが光加減によって微妙に変わる全身、それをより一層沸き立たせる真紅の斑は、
見るものを釘付けのする神々しさを持っていた。
「・・・・・。」
言葉を失い、2人はしばし見とれた。
「これ・・やっぱり本物、だよね・・。」
「あ〜。たぶんな。こんな魚初めて見るぜ。」
「どうする?」
「どーするたって・・。」
あかねはしばらく考えてから乱馬に言った。
「乱馬が決めなさいよ。私は特に願い事なんてないし。」
「・・・なんか気が進まねーんだよ。」
「変な色だから?」
「いや、そうじゃなくて、なんとなくな。よ〜、あかね。おめーだって願いの1つや2つあるんだろ。例えば、不器用・寸胴治したいとか、色気がほしいとか(その他もろもろ・・・)」
「乱馬ぁ〜〜〜(怒)あんた、喧嘩売ってんの?」
あかねが拳をぎゅっと握って力を入れるのを見て、乱馬は慌てて言葉を繋げた。
「いやっ、待て!落ち着け!違う、俺が言いたいのはそーじゃなくって・・・」
「なら、始めから本題を言わんか〜〜い!!!」
どかぁ〜〜〜ん
↑乱馬、あかねの一撃を受ける。
「んで、そうじゃなければ、何が言いたかったのよ?」
「いや、だからね、こいつすぐ食うわけじゃねーし、ゆっくり考えてからでも遅くねーだろ?でも、おめーさ、一度も‘食べる’なんて言ってねーだろ?なんでだ?」
乱馬の素朴な質問にあかねはあっさり答えた。
「だって、願い事かなうのは嬉しいけど、それは自分で努力しなければ本当の喜びには繋がんないわ。かないようの無い・・つまり病気とかね、そーいうことなら‘神頼み’ってのも分かるけど、私の場合自分で頑張ればきっとどうにかなる事ばかりだもの。それにこの魚って証拠はないし、この子だってそーいう運命で生まれてきたわけじゃないでしょ?私がその立場だったら、嫌だから。だから、食べない。」
乱馬はあかねの‘答え’に(同感だな)と思い、ひょいとその手に魚を持ち上げた。
「乱馬?それ、どうするの?食べるの?」
あかねが少し寂しげに聞いてきたのに対して、乱馬は一喝した。
「あほっ!見くびるんじゃねぇ〜や。」
と。そして来た道を逆流し始めた。
「乱馬?」
しばらく行く末を見つめていたが、あかねは黙ってついて行った。乱馬がどこに行くのかが分かったからだ。
乱馬はいつも乗っかっているフェンスの所まで来ると、魚を間の川の中へ投げ込んだ。
「もう、捕まるんじゃねーぞ!」
と付け加えて。
それをしっかり見届けてから、あかねは「ありがとう。」と乱馬に言った。
極上の微笑みを浮かべて。
乱馬はぼっ・・と顔を赤らめて、そっぽを向いた。「たいした事じゃねーよ」と言って。
あのシャンプー・右京・小太刀の3人や、九能帯刀が隣にいたならば、きっとその場ででも調理して食らいつくだろう。
しかし今、実際に隣にいる「あかね」はそうしなかった。
・・・しっかり自分と立ち向かう強い気と心を持っている・・・
綺麗なのは容姿だけではない。
(だから、俺はこいつを好きになったんだ・・・)
乱馬はそう思うとあかねの許婚であること、そしてあかねが許婚であることに改めて誇りと自信を持ったような気がした。
「・・・たいした収穫じゃねーか・・・」
そっとつぶやく乱馬を怪訝そうに見つめて、あかねは聞き返した。
「何か言った?」
「いや、なんでもねー。」
「もう、なによ!言いなさいよ!」
「やなこった。」
と言って、走り出す乱馬をあかねは追いかける。
2人の‘本当の願い’がかなう前に、今はまだこのままでいたいから・・・
もうすっかり影法師も長くなった夕暮れ。
1つの伝説が終わった・・・
完
作者さまより
初投稿で、なおかつ私自身、理系の人間なのでつたない文章だと思いますが、最後までお付き合い願えたら嬉しく思います。
いろいろな面でご迷惑をおかけする時もあるかと思いますが、これからもらんまの世界を書いていきたいので、どうぞよろしくお願いします。
呪泉洞初投稿作品です。
あかねちゃんにぞっこんな乱馬が思い浮かびます・・・。
乱馬のことになると一所懸命な彼女も微笑ましいです。
鮒寿司というのが滋賀県の名産にありますが・・・なんとも不思議な味のする代物だそうです。
クサヤにも負けず劣らない、物凄い発酵臭が病みつきになるのだそうで…。私は食べた事が無いですが。
(一之瀬けいこ)
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