◇KOMORI☆パニック!  後編
satsukiさま作


 一方乱馬&竜司君は-----
「ふっふっふ、捕まえたぞっ!」
「わーーっ!離せーーっ!」
 とうとう乱馬が一勝あげたらしい。
 体の大きさと、普段の鍛えようからいって断然乱馬が有利なのは間違いないから、それから考えれば竜司君はよく逃げ回ったものだ。
「さぁ〜て、どーしてやろっかなぁ〜。」
 18の男が4歳児の子供に言う台詞がそれか?
 含み笑いをもらす乱馬は本当に嬉しそう……思わず頭を抱えた。 
「ちょっと、乱馬…大人げないわよ!」
 背中の雪葉ちゃんを一度おぶり直してから乱馬に近寄った。
 竜司君の腰の辺りをがしっと掴んだまま、乱馬はこっちに顔を向ける。
「るっせーっ!これは男と男の問題でぃ!」
「4歳の子供にふっかける問題でもないでしょーが!」
「何言ってやがるっ!それこそ問題外だ!男に年なんて関係な・・い"ーーっ○×△□☆!!?」
 私との言い合いに夢中になってた乱馬へ、またしても竜司君のヒット打撃☆
 ぶらぶらしてた足を、勢いつけて股間(…失礼っ)へ。
(なかなかやるわ、この子……)
 あまりの痛さに弛んだ腕の中から、竜司君はするりと抜けだし、私の後ろへと走り寄る。
「て・・めぇ〜〜っ……おん、なの、後ろに、隠れる、なんざ、卑怯、だぞっ!」
 涙腺弱めながらとぎれとぎれに言っても、全然おっかなくないわよ。
 この時ばかりは、少しだけ、乱馬に同情してしまった(笑)
「へへーんだ!悔しかったら、トランプでしょーぶだ!」
「おーっ!受けてたってやろーじゃねぇか!」
「わーっ!雪葉もやる〜っ!!」
「よーし、特別まぜてやる。」
 乱馬がにっと笑って言うと、雪葉ちゃんは「きゃーっ!」と両手をあげて喜んだ。
「あかね、お前もやるか?」
 側まで来て竜司君を手早く捕まえて持ち上げると、くるりと振り返って私に聞いてきた。
「そうね、1人くらいまともに強い人がいた方がいいでしょ?」
「どーいう意味だっ!」
 私はさぁ?って感じで肩を一度上下させてあえて答えなかった。
 乱馬がむっとしたような表情を向けているけど、気にしない。
 悪いけど、そのまんまの意味よ。
 だってあんた…小学生並に博打関係全く弱いの、直ってないもの。

「にーちゃん、にーちゃんっ!」
「何だよ。」
 少しだけ不服げな口調の乱馬を臆することなく、竜司君は腕に抱かれながらごにょごにょって耳元で何かを言った。
「…ったく、しょーがねぇな。」
 今度はめんどくさそうに言うと、「よいせっ」っと竜司君をもっと高く上げて肩に乗せた。
 肩車だ。
 今度は竜司君が「きゃーっ」と子供らしく歓声をあげる。
 さっきまで文句言ってすごい顔で追いかけて、私のちょっとした一言で不満そーだったくせに、今はなかなか楽しそうに笑ってる。
 ・・・何だ、案外子守り上手いじゃない。
 意外な一面を見て、正直、ちょっとだけ乱馬を見直した。


「わぁ〜い!僕、上がり〜。」
「私も、私もっ!!」
 
 4歳の竜司君はともかく、3歳の雪葉ちゃんはまだババ抜きしか出来ないらしいからあっけなく何をやるかは決まった。
 ・・のだけど、これで10戦目。乱馬の成績、10戦10敗。
 たまたま今日の運勢最悪とか、調子が悪いとかの類ではない……筋金入りの弱さ。
 竜司君達は1回戦が終わった時から、すでに乱馬の表情を伺うようになっていた。
 しかも演技が上手い。
 うーーん…と難しそうに考える振りをしながら、そっと乱馬の顔色を伺うものだから、絶対にババを引かない。
 竜司君を見て、雪葉ちゃんも同じように可愛らしい瞳を一生懸命ちらちらと動かしながらやっている。
(うーん・・恐るべし、兄妹・・・)
 私はその2人の様子と、ババとそうでないとで顔が思いっきりかわる乱馬を交互に見ながら面白可笑しく見物してた。
 これは・・前言撤回しないと・・
 『小学生並』じゃなくて『保育園児以下』ね。
「ちっくしょーっ!!何で勝てねーんだ。」
 パラパラとやり終わったカードを切り、配りながら乱馬が悔しそうに呟く。
 だから、表情で分かるのよ!表情でっ!!
 ぜんっぜん直そうとしないんだから。これじゃー、一生……自分の子供にもバカにされるがオチだわね。
 って・・何考えてるんだろ・・私。
 一瞬、頭に浮かんだ自分と乱馬と、その子供達との風景をぶんぶんとイメージの内から吹き飛ばす。
 そして再び熱を持ち出しそうになる顔を必死になって押さえた。
「はい、おねーちゃんから。」
「あっ、うん。」
 雪葉ちゃんの手持ちのカードから急いで一枚引き抜く。
 11回戦目スタート。

 そしてそのまま、トランプやったりピラミッド作ったり、腕相撲やったり、お絵かきしたりして時間を過ごし、
 私が麦茶のお代わりに台所へ行き、同時に乱馬がトイレに立って部屋に帰ってみると、2人は床の上ですやすやと眠っていた。
「ったく、ガキのくせにこんなにはしゃぐからだ…。」
「乱馬だって、じゅーぶん、はしゃいでたわよ。」
「……付き合ってやってただけでぃ。」 
 図星なのか、深くは言い返して来なかった。あんまり可愛かったからぷくくっと吹き出すのを堪えてあげた。
 それに気がつかずに乱馬は2人を軽々持ち上げると、
「おめーのベット、ちっと借りるぞ。」
 って言って2人を横たえた。
「あっ…ちょっと待ってて。」
 私はタンスの引き出しからタオルケットを出して、その上にかけてあげた。
「2人はもう飲まないかな?乱馬は、飲む?麦茶。」
「おー、貰う。」
「そう?はい。」
「サンキュー。」
 差し出した麦茶を一気に喉に流し込む。
そうね、今日も暑かったもんね。私もついつい冷たい飲み物に手が伸びる。
 そして乱馬と2人、竜司君と雪葉ちゃんを見てる。
 ・・・何か変な感じ・・・
「小さい子って可愛いよね・・」
 ぽつんと私は口に出した。
「そうか?」
 そっけないけど、ちゃんと話は聞いてくれてるみたい。私は構わず続けた。
「うん。まず始めに目につくのがやっぱり瞳かな?」
「瞳?」
「うん。すっごく綺麗。きらきらって、本物の黒真珠なんかより、ずっと輝いてるの。」
 そう、瞳の輝き。
 何も知らない、まだ悪い事を知っていない子供達の瞳は真っ直ぐで、美しい。
 だからこそ小さな事に感動して、大声あげて喜べるわけだけど、その時々でくるくる変わる表情の中でも、その瞳の輝きは決して
 失せることはない。
「ほぉ・・」
「あとね、子供って私達より少しだけ体温が高いでしょ?だからかな、抱き上げたときの暖かさがすごく気持ちいい・・
 あー…生きてるんだぁ〜って……」
「よけー暑くなるじゃねぇか。」
「それがいいんじゃない。」
「分っからねーな・・」
 ベットの端に手を組んで顎を乗せながら、2人を見ている乱馬も何だか今にも眠りそう。
「もうっ!」
 人の話、本当にちゃんと聞いてるのかしら?
「でも、ま…可愛くねぇって言ったら、ウソになるかな・・・」
「えっ?」
「ガキなんてよ、わめくとうるせーし、甲高い声あげるし、やたらめったらくっついてきやがるし、うざってーって正直、始め
 苦手だったけどよ・・」
 乱馬は半分目を閉じながら言った。
「何をやるにも一生懸命ってな。良い事じゃねぇか・・・」
「…そうね。」
 らしかなぬ乱馬の台詞。でもその言葉には賛同した。

「あかね・・・」
「うん?」
 一拍おいて、乱馬が私を呼んだ。
 顔を私から見て反対側に動かしてあったから、そのまま後ろ頭を見ながら返答した。
「お前、子供ほしいのか?」
「はぁ?何よいきなり…そりゃ、まぁ……かわいいとは思うけど…」
 どんな返答していいのか困る。それに一体乱馬はどんな答えを聞き出そうとしてるのかしら…? 
「協力してやろっか?」
「は……??ってええっ・・!!?」
 えっ?えっ?えっ?
 今、何て言った……何て言った・・?
 きょうりょくって・・ちょっと・・まさか・・
「な・・何言ってんのよ!!」
「へへっ、じょーだんだよ、冗談……」
「ちょっと・・冗談って!乱馬っ!?乱、馬?あれ・・寝てる-----」
 勢いよく立ち上がって乱馬の顔を覗きこんだら、すでに目を閉じて、す〜っと寝息をたてていた。
「もう・・変な事言わないでよ・・」
 本当に冗談だったのか、寝ぼけた頭での本気だったのか・・・
 確かめる術はないけれど、心の奥で、『本気だったらいいな』って不謹慎にも思ってしまった。

「そうね、考えといてあげるわ。」

 愛する人と結ばれて、子供を生んで、育てる。
 女の子にとったら、最高の夢じゃない・・・
 私にとって、愛する人と言ったら、もう1人しかいない。
 その乱馬だったら…そう…考えてもいいかもしれない。
「でもその前に、ちゃんとハッキリけじめつけて頂戴。」
 1つ目は女になる体質との決着。
 2つ目はシャンプー達との決着。
 それが今、私から乱馬にかせた最大の壁。
 さっき言った事が本気ならば、この壁を飛び越えて来なさい。
 私を手に入れたいのなら・・・
 私と、結ばれたいのなら・・・
「私は、ずっと待ってるわ……。」
 でももし、辛かったら…私も一緒に登ってあげる。
 しょーがないけど・・それでもあんたと一緒に生きたいのよ。
 私は。
 ふっと笑って乱馬の頬にそっとキスをして、私も乱馬の背に自分の背を預けて目をつぶった。
 
 開け放ってある窓からの風が頬をかする。
 縁側に置いてある風鈴の揺れる音を子守歌に、私は、深いまどろみの中に落ちていった-----

 
「お世話になりました〜っ!」

 夕方、太陽が沈んで、今日は泊まっていったら?という案が出たときに、和枝お姉ちゃんの旦那さんが車でお迎えに来た。
 結果、一緒にお夕飯を食べた後、お姉ちゃん達は家に帰ることになった。
 
 ぺこりと明るく輝く月光の下で和枝お姉ちゃんとその旦那さんが頭を下げた。 
「また、いらして下さいね。」
 かすみお姉ちゃんの言葉ににっこりと笑い返した後に「また眠りに来るわ。」と悪戯っぽくウインクした。
「よー、竜司。またトランプしに来いよ。」
 乱馬が竜司君の頭をぐりぐりしながら言った。
「やだーっ!にーちゃん弱っちぃんだもん!!」
「何だとーーっ!!」
 今度は軽くこづく。
「見てろっ!絶対に今度は勝ってやる!」
「ふーんだっ!絶対負けないもんなー!」
「おーし、言ったな。目にもの見せてやるっ!!」
「望むところだ!!」
 これじゃー、どっちが子供だか……分からないわよね・・・
 だから・・くどいようだけど、4歳児の挑発に乗ってどうするのよ。
 くすくすと笑ってると、ふわっと手が温かくなった。
「んっ?」
 下を向くと雪葉ちゃんが握っていた。
「なぁに?雪葉ちゃん。」
「あのね、おねーちゃんもまた一緒に遊んでね。雪葉、今日、すっごく楽しかったよ。」
 じーんときた。
 嬉しい。すっごくすっごく嬉しい!
「勿論!いつでもいらっしゃいな。」
「うんっ!!」
 真っ直ぐに見つめられる瞳。
 あぁ、この輝きだ・・
 真っ暗な、月明かりの中でも・・何て綺麗何だろう・・・
 
 車に乗って出発した1つの家族を見えなくなるまで見送りながら、思った。
 どうか、あの輝きが消えませんように。
 どうか、そのままで……元気に育ちますように・・
「また、ね。」
 -----そして、今度会うときもまた、あの素敵な笑顔に会えますように-----
 そう思うと、とたんに楽しみになった。
 また会うその時を。

 
 子供の相手もいいかもしれない。
 -----例えば、いつか……愛する人の・・乱馬との子供をこの身に授かったとき、いっぱいいっぱい、愛してあげられる母親に、
 私もなりたいから-----

 従姉妹の子守りをするのも、たまにはいいかもしれない。








 怒涛の子育ては一応のこと終了しておりますが、幼児を相手にするのは、本当に大変です。
 母親はお腹に居る時から子供の面倒をみているようなものなので、ある程度「慣れ」はあるものです。子供は大人の顔色を見るのがとても上手なので、他所様へ行くと、途端ハメが外れやすいものです。やんちゃくれ、お転婆相手に相当、乱馬もあかねも疲れたのではないでしょうか?
(一之瀬けいこ)

 

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