◇KOMORI☆パニック! 前編
satsukiさま作
「くおらっっ!りゅーじ!待ちやがれっ!!!」
ダダダダダっとものすごい勢いで2つの突風がまた駆け抜けた。
それを私は呆れて目で追いながら、全くもうっと一緒になって見物してる小さな女の子に話しかける。
もう7・8回は首を左右に往復してしているかしら?
知能レベルが何とやら・・4歳の子供相手に本気になってる乱馬も乱馬だわ……
あっ!誤解しないでね!!
私達はこの子達の子守役。
疲れてるお母さんのために、一時的に代わりを務めているの。
まぁ、とにかく…始めから説明すると-----
コンコンっ
「お邪魔しまーす!」
「はぁ〜い!まぁ!いらっしゃい、和枝さん。こんにちわ、竜司君と雪葉ちゃんとそれから、暁実ちゃんだったかしら?。」
「大正解☆ほら2人共、ご挨拶は〜?」
「「こんにちわーっ!!」」
にっこりと玄関先で迎えたのはかすみお姉ちゃん。そのまま居間へと手招く。
「うっわーっ!和枝お姉ちゃん?お久しぶり!」
「こんにちわ、あかねちゃん。まぁー、随分見ない内に綺麗になっちゃって!」
「えーっ?そうかな?」
えへへと笑って席を空けた。すとんとそこに座って和枝お姉ちゃんも「ありがとう」と笑顔を向ける。
「・・あかね?この人は?」
私の隣であぐらをかいてジュースをすすっていた乱馬が疑問系でなげかける。
そっか、乱馬は初めて会う人だもんね。
「和枝お姉ちゃん。私達の父方の従姉妹なの。」
「ほぉ〜お〜。イトコね…」
納得顔で立て肘ついてその上に顎をのせる。・・本当に分かってるのかしら?
「なになにっ?あかねちゃんの彼氏?あっ!もしかして前言ってた許嫁兼居候君かな?かっこいいじゃなーい!」
「そうかなぁ〜?まぁかっこいいはおいといて……そう、こいつが許嫁なの。」
「お・いっ!!何だその言い方!かっわいくねぇな!」
「ふーーんだっ!」
「あははっ!仲いーのねー!」
「そー見える?」
からからと笑う表情が眩しい。
和枝お姉ちゃんはかすみお姉ちゃんより3つ上。つまり私と6つも離れてる。
昔からサッパリとした性格で、何事も前向き。
お母さんが亡くなった後も姉御肌で優しく、時に厳しく接してくれた人。
私にとってはかすみお姉ちゃんに続くお母さんみたいな存在。むしろ私の性格の半分は和枝お姉ちゃんゆずりかもしれない。
ちなみに今年で24歳。
結婚したのが早かったからか…子供を授かるのも早かった。
長男の竜司君は4歳。長女の雪葉ちゃんは3歳。そして次女の暁実ちゃんは今年生まれたから0歳。
3児の母ともなると、その落ち着いた物腰とかに見とれてしまうほど。
くんっと腕に抱いたまだ生まれたばかりの赤ちゃんをあやす姿もお手の物。
かすかに香る甘い匂いがくすぐったい。
「おー、和枝君。元気そうだな〜?」
そこへお父さんと早乙女のおじさまが入ってきた。
「早雲おじさまも、お変わりないですね〜。」
「はっはっは、健康がとりえだからね。」
「いきなりお邪魔してしまってすみません。近くまで来たので…最近顔出してなかったから・・」
「いやいや、何時だって大歓迎だよ。なぁ、竜司君。ほぉ〜ら〜、おヒゲすりすりすりすり。」
「うぎゃ〜〜〜……」
お父さん・・苦しんでるって、竜司君。
しかもすりすり通り越してじょりじょりだよ・・いたそーーっ……
唯一、その経験者の1人である乱馬を見ると、案の定、顔を引きつらせてる。
(お父さんには悪いけど……私、娘で良かったぁ・・)
なーんてあまりに嫌そーな顔してるものだから、しみじみ考えてしまった。
満足したのか、やっと解放された竜司君。
体中ぞくぞくさせながら和枝お姉ちゃんの影に隠れる。
・・お気の毒様でした・・・
「それでそれで?あかねちゃん、許嫁君の名前何て言うの?」
目をわくわくさせながら聞いてくる。
「乱馬よ。早乙女乱馬。」
「へぇー、乱馬君……よろしくね。紹介通り、あかねちゃんの従姉妹なの。」
「よろしく。」
差し出された手を乱馬がとる。
「あかねちゃんのお相手ってことは、君も格闘やってるのかな?」
「あぁ。こいつと同じ無差別格闘流だ。」
「成る程!兄妹流儀ね。・・体付きもがっちりしてるし、相当な使い手と見た!まぁ、あかねちゃんが選んだんだもん、当然か…」
「あん?」
「だって、昔っから『自分より強い奴じゃないと絶対結婚しないー!』って言いながら瓦割ってたもの。」
「///お姉ちゃん!!」
「あ〜ら、野暮なこと言っちゃったかしら?うふふ。」
「もうっ!」
正直、今の私の顔、真っ赤だと思う。
だってまるで『乱馬=結婚相手』な感じで言うんだもん。
まぁ……そうなってほしくないと言えばウソになるけど・・・
こそっと乱馬を盗み見ると、乱馬も視線を泳がせている。
照れてる・・のかな?
・・・だったらちょっと嬉しかったりする。
「あーあ、もう、熱いわねぇ。」
「いつもこんな感じなの?なびきちゃん。」
「それはもう!あとで写真みせてあげるわ。お姉ちゃん。」
「わーっ!楽しみ!」
そんな和枝お姉ちゃんとなびきお姉ちゃんのひそひそ声には都合良く無視を決め込んだ。
でも、あまり変な写真、見せないでね。なびきお姉ちゃん。
「お昼ご飯ですよーっ!」
辺りにかすみお姉ちゃんの声が響く。居間へやって来てお箸やらお皿やらを並べながら、和枝お姉ちゃんを見てにこっと笑う。
「和枝さんもまだでしたら一緒にどうぞ。竜司君達も。」
「やったーっ!俺、腹減って死にそー。」
「はいはい、すぐ持ってきますからね。」
「ごめんね、かすみちゃん。何の手伝いもしないで。」
「いいえ、ゆっくりしてて下さいな。」
そう言ってまた台所に行って、再び戻ってくる時には手の大きなボウルを抱えていた。
今日のお昼はそうめんみたい。
「いっただきまーす!」
スパパパパっ
いつもの如く乱馬とおじさまの一騎打ちが始まる。この親子、修行中によっぽど飢えた思いをしてのか…それは分からないけど、
『食』に対する欲がとにかく強い。とにかく凄い。
片手でカップを持ってまだすすってるのに、箸はすでにボウルの中。
で、2人で取り合い。
ある意味器用だけど…正確に言えば行儀が悪い。
まだ沢山あるのに、仲良く同じ束を突っついては目をぎらつかせてカカカっと空中合戦。
「親父!それは俺が先に取ったんだぞ!」
「黙れ!ばか息子!潔く父にゆずらんか!」
「ぬかせっ!そう何度も取られてたまるか!」
とまぁ、こんな感じ。
でも2人とも……箸と箸をぶつけ合うのはちょっと不作法よ。
ましてや今日は小さな子供達がいる。
(あまり良いことじゃないわよね・・・)
ふぅっと和枝お姉ちゃんに小さく謝罪。
バカな許嫁でごめんなさい。
そう思って和枝お姉ちゃんを見ると、そっちはそっちで戦争だった。
「こら、竜司!よそ見しないでちゃんと口に運んで!」
「雪葉、箸はもっとしっかり持ちなさい!」
「あーっ!ほら、つゆこぼして……かすみちゃん、悪いけど台布巾とってくれる…ありがとう。」
注意しながら竜司君がこぼしたつゆをふき取り、鞄から濡れティッシュを取り出して2人の口を拭い、
そうこうしている内に暁実ちゃんも泣き出して…あやしながらおしゃぶりを与えて-----
まー、次から次に・・・
自分が食べる時間を裂いて子供達に食べさせる。
実際に目の前で見てると、本当に大変そう。
かすみお姉ちゃんが気をつかせてそうめんを5束ほど取って脇に置いた。
このまま行けば、みんな乱馬達の餌食だもんね。
さっすが!お姉ちゃん、ナイス!
呆れたことにまだ続いてる餌取合戦。殴ってでも止めようかと思ったけど止めた。
和枝お姉ちゃんの姿を目で追うことに私も精一杯だったから。
だって和枝お姉ちゃんのお母さんとしての姿が、すごく神々しくみえたんだもん。
「ごっちそーさまっ!」
5束を除いて完食。まさにとっておいて正解。
和枝お姉ちゃんも一段落ついたらしく、かすみお姉ちゃんにお礼を言ってから自分もやっとすすりだした。
ホント、お母さんって大変ね・・
竜司君と雪葉ちゃんはすでにそこら辺をかけずり回っている。
子供のパワーも凄い。
(何か、お手伝い出来ないかな?)
そう自然に頭に浮かんだんだ。
ところ変わって道場。
乱馬は部屋は暑いと言って、よく風通りのよい道場でうたた寝をする。
前に「食べた後、すぐに寝るとトドになるわよ。」って言ったら「おめーじゃねぇからだいじょーぶだよ。」と返ってきた。
私がトドになるとでも言いたいのっ!!?
勿論、すぐにハンマーでつぶしてあげたけど、その後に「消化だよ、消化。寝た方が俺の場合早いんだよ。」と言い訳がましく
言ってきた。
どーだか?
その内、本当にそうなったって知らないんだから!
っとまぁ、この話おいといて、和枝お姉ちゃんがやっと一息つける時くらい、せめて子供2人の面倒はみなきゃと思って立ち上がって
相手をしていたわけだけど、2人を連れて道場に行くと……すでにそこには乱馬が陣取って昼寝をしていた。
「アトミック・ボンバーーーっ!!!」
「ぐはぁっ!!?」
竜司君が飛び上がって寝ていた乱馬の腹側を見事にヒット☆
技名?よろしく結構なお手前で・・。
よくやったっ!!……じゃなくて、流石にあれだけ食べた後の腹蹴りはきついかも……
しかも、アトミック(原子)・ボンバー(爆弾)って・・一体どこで覚えたのかしら?
そう言えば、それは8月に落ちたわけだからテレビでやってたのを偶然頭に入れちゃったのかな?
「乱馬、大丈夫?」
とりあえず声をかける。
起きあがってお腹を押さえてかすかに震えてる。
そんなに痛かった?
あっ、でもそうめん(鼻からとか…?)出してなくて良かった。
ってそんなことどうでもいっか。
それに心配する事もなかったみたい。
元々頑丈な奴だし、たとえ寝てたとしても子供1人に油断をみせる乱馬も悪い。
ここは、五分五分ってところかな?
「なにしやがるっ!」
「食べた後、すぐに寝ると体に悪いってかーちゃんが言ってたぞ!」
うんうん、その通り。
「うっせーな、消化してんだからほっとけ。」
そんな説明が通じますか!
「しょーか?あ、しょーか…」
えっ?今のって世間で言うダジャレ?乱馬も目をパチクリさせている。
でも4歳児にまで注意されてつっこまれて・・自業自得なんだけど・・やっぱり乱馬の気が荒れてきてる・・・
「おめぇ、バカにしてんのか?」
「おめーじゃないよ、竜司だい!」
「ほほーう。で、どーなんだ?」
「うーん。よく分からないけど、たぶんそう。」
そう言ってもう一発乱馬のお腹に、今度はぼすっと拳で打ち込んだ。
流石天道家の血を引く男児!
なかなか力強いことで・・。
って、竜司君、もしかして乱馬を怒らすこと楽しんでる?
結構将来が見物だわ。
すぅっと立ち上がる乱馬に対面して、竜司君も距離をとる。
構えてる構えてる・・・(笑)
そしてつぎの瞬間、同時に動き出す。
乱馬は竜司君に向かっていき、そして竜司君は小さな体を有効に使ってするりとかわして母屋へと走り込む。
「くおらっっ!りゅーじ!待ちやがれっ!!!」
で、冒頭に戻ります。(長かった……)
2人。私と雪葉ちゃんがポツリと残された道場。
「ごめんね。おにーちゃん、ちょーはつして、追いかけっこさせるの得意なの。」
「あ・・はは、そうなの?」
「うん。」
これも3歳児の台詞にしたらどーよ?と思うくらいシッカリしてる。
でも一体どんな風に教育したらこんな言葉3歳で覚えるのか、知りたくもなった。
それに4歳児の挑発とやらに乗る乱馬もアホだ。
あっ、何か今日乱馬のことけなしてばかり……まぁ、いっか。乱馬が悪いんだもの。
ここで頭を切り換える。そう、今は雪葉ちゃんの相手をしなくっちゃ。
「どうしよっか?何かやりたいことある?」
「んーーっとねぇ・・おにーちゃん達けんぶつする!」
「じゃあ、あっちのお家に行こうか。」
「うん。」
そう言って戻ろうとした時、くいくいっと袖を引っ張られる。
「んっ?」
何か物足りなそうな…物欲しそうな真っ直ぐな瞳。
意図がつかめずに首を傾げて腰をおろすと、雪葉ちゃんが背におぶさってきた。
そっ…か、おんぶしてほしかったんだ……
肩につかまる手が小さくて、背中いっぱいに広がる雪葉ちゃんの体温が暖かくて、思わず、胸にきゅんときた。
(…かわいい)
心からそう思った。
そしてしっかり背中に、落ちないようにしょいあげると元気よく言った。
「ようっし、それじゃー行こうか!」
「うん!」
すぐ耳元で聞こえる高いキーの声が心地よい。
小さい子は好きな方だから、少しでも喜んであげられることをしてあげたい。
自分との血の繋がりがあるから本能的に尚更そう思ってしまうのはひいきだろうか?
全速力〜っとばかしに床を蹴り上げる私。ほんの小さな動きにも歓声を上げてくれる雪葉ちゃん。
本当にかわいい。
母屋に入ると、ドタドタする音は聞こえるのだけど、肝心の姿は見えない。
むしろ音が分散して響き渡ってるから、どこにいるのか特定出来ない。
仕様がないので、とりあえず居間へ行くことにした。
居間まで来ると、ちょうど廊下を乱馬と竜司君が通り過ぎた所だった。
「てめー、ちょこまかちょこまかと!」
「べーーっだ!悔しかったら捕まえてみろーっ!!」
まだ挑発されてる。
「全く、子供が増えてどーすんのよ。」
テーブルの上にスナック菓子と麦茶、そして『ドケチ技法〜8月号』なんて雑誌をぱらぱらめくりながらなびき
お姉ちゃんが呟いていた。
そんな変な雑誌売ってんだぁ……と内心苦笑しながら問いかけた。
「あれ?和枝お姉ちゃんは?」
「隣の部屋。暁実ちゃん寝かしつけてたら、一緒に寝ちゃったみたい。疲れてるみたいだから寝かせといてあげよ
うってかすみお姉ちゃんが言ってたわ。」
「そっか。うん、大変そうだったもんね・・」
お昼の時の状況を思い出して2度も3度も頷いてしまった。
「だから、しっかり子守りしてなさい。」
しゃくしゃくと口を動かしながらのなびきお姉ちゃんの言葉が妙に引っかかる。
「しっかりって……勿論よ。」
「そう、それは安心ね。」
「何が?」
「子守り体験。いー時期じゃない、お互いに。」
「んなっ!!////」
またかっと顔中が熱くなる。
「なっ、何バカなこと言ってるのよ!」
次のツッコミが入る前に、私は雪葉ちゃんを連れて逃げ出した。
「おねーちゃん、お顔真っ赤よ?」
心配そうに横から覗きこむ雪葉ちゃん。
あぁ、ゴメンね。心配しないでね・・・単に恥ずかしいだけだから・・・
この頭の良い子に、私は瞬間、情けないことに何て説明しようか・・思いっきり悩んでしまった。
「ふっ。まだまだウブちゃんね。2人とも。」
18歳。
もう乱馬君も結婚して所帯を持てる年。
そんなに遠い話ではないのにあの2人は・・
となびきお姉ちゃんが視線で私を追いながらふっと苦笑したことは、すでにそこにはいない私には分からなかったけど・・・
つづく
Copyright c Jyusendo 2000-2005. All rights
reserved.